ログイン「仕方ないのよ……。夫が死んでから、わたしがここの責任者になったけれど、わたしは経営者としては半人前だったってことよ。……わたしじゃ、力不足だったのよ」
「そんな……。そんなことないですよ」
女将の旦那さんは、ガンで十年前に亡くなった。 その後は女将が経営者として、夕月園やわたしたちを守ってきてくれた。
従業員たちが働きやすいような環境を作るために、女将自ら従業員の要望を聞き入れ、やりやすいように工夫しながらここまでやってきたのに。
「そんなことないです。……女将は、女将は立派な人です。 女将はずっと、わたしの憧れの人です。わたしの目標です。女将の背中を見て働いてきたからこそ、そう思います」
わたしは必死で女将に語りかけた。なんとしても買収を阻止したくて……。
「ありがとう、透子。……でももう、限界みたいやね」
「え……?」
女将の限界とは、何なのだろうか……。「夕月園を運営する資金はもうないわ……。資金を援助してくれていた銀行にも、この前融資を断られてしもうたし……」
「……え?」
融資を断られた……!?そんな……。 なんで、なんで……!
「夕月園には、もう融資は出来ないってね。そう言われてしまったの」
「そんな……。じゃあ夕月園は……?」
やっぱりもう、おしまいってことなの……? このまま、買収されるしかないってこと……?
そんなの、絶対にイヤ……! 無くすなんて、イヤだよ……。 「……もう、無理みたいやね」「そんな……!」
不審に思ったわたしは、夕月園に融資を断った銀行を調べてみた。
するとその銀行は、高城ホールディングスの取引先の銀行だということが判明した。きっと高城明人が圧をかけたんだ……。夕月園には融資をするなって、もうそうとしか考えられない。
おかしいと思った、ずっと支援してくれていたのに。そうか、だから女将が融資を頼んでも断ったんだ。
高城明人が裏で手を引いている。 わたしたちをここから追い出すために……。「融資が受けられないんじゃ、経営の立て直しは無理やわ。……もう、何も出来ることはないわ」
「女将……」
女将はもう諦めていた。自分には何も出来ないことを悟ったんだ……。
「……実は言うと、以前から買収の噂はわたしも耳にしていたんよ。 だけど本当、やったね」
「どうして……。どうして教えてくれなかったんですか!?」
わたしがそう問い詰めると、女将は「まだ確証がなかったからよ。……変な噂を立ててお客様に影響したら大変だと思ったから、言わなかったのよ。あなたたちにも」と言った。
「……女将」
「ここが買収される前に、あなた達は退職しなさい。それが懸命な判断よ」
「ちょっと待ってください、女将! 退職なんて……!」
そんなこと出来る訳がない。 わたしは女将の背中をずっと見てきたから、そんな簡単に夕月園を捨てることなんて出来ない……。
「いい、透子。あなたはまだ若いんやから。……若女将なんて辞めて、普通の女の子らしく、生きていきなさい」「そんな……」
「そうしなさい。あなたのために言ってるのよ、透子」
「女将さん……」
それから二日後の十二月十七日、夕月園はまんまと高城ホールディングスにより買収されてしまった。
そして夕月園は、ついに百五十年という長い歴史に幕を下ろすこととなったーーー。「今度は凛花が行きたがってた遊園地にでも連れてってあげないとね」 凛花ももう三歳になったし、家族で遊園地も悪くない。 きっと楽しいだろうし。「陽人、よく寝てる」陽人の寝顔を見ながら幸せな気持ちに浸っていると、三人がお風呂から出てきた。「ママー!」凛花が元気にわたしの元へと走ってくる。「凛花、お風呂出たの?」「うんっ!」「パパとお兄ちゃんと遊んで楽しかった?」凛花はパパと結人と遊んでたのがよっぽど楽しかったのか、ニコニコと笑っていた。「うん!たのしかったっ!」「そっか。良かったね」凛花の髪の毛をタオルで拭きながら「凛花、髪の毛乾かすよー」と話しかける。「はーい」凛花は女の子だから、わたしにとってはとても嬉しいんだ。 たまに凛花とお揃いのコーデをしたり、お揃いの髪型をしたりするけど、とてもかわいい。親バカと言われてもいい。とにかく、うちの子どもたちはかわいい!世界一で一番、大切な宝物。世界一で一番、幸せな家族を持ったわたしは、幸せ者だ。凛花の髪の毛を乾かしていると、藍と結人もリビングへと歩いて来る。「透子、風呂出たぞ」「じゃあ結人の髪の毛乾かしてくれる?」藍にそう言ったら、藍は自慢気に「言われなくてもそのつもりだ」と言葉を返してくる。「ほら結人、髪の毛乾かすからこっちに来い」しかし結人はおもちゃで遊びたいみたいで「えーやだっ!」と駄々をこね始める。「結人、すぐ終わるから」「ええー」駄々をこねる結人を捕まえて抱きしめる藍に、結人は「パパー苦しいよー!」と逃げようとしている。「捕まえたぞ!乾かすまで逃さないからな」「えっ、やだー!」「ほら結人、言う事聞かないとママのご飯食べられないぞ」「やだっ!ごはん食べたいっ!」結人は観念したのか、藍に大人しくドライヤーをされていた。「ほら、終わったぞ。もういいぞ」「はーい!」結人はドライヤーが終わると、わたしのところへ歩いてくる。「ママー」「ん? どうしたの?結人」結人はわたしに「ジュースのみたい!」とニコニコと笑いかける。「冷蔵庫にリンゴジュースがあるよ」「リンゴジュース? やった!」「結人、凛花にもリンゴジュース飲ませてあげてね」「はーい!」冷蔵庫からリンゴジュースを取り出すと、結人に二つ手渡した。「藍、お風呂ありがとう」「ああ」藍はわたしに「
そしてママと呼んでくれた次の言葉はと言うと……。「パパ」ではなく「バナナ」であった。 バナナとちゃんと言えるわけではないが、バナナのことを「ナナナ」とかわいい発音をしていた。けどそれもまた、凛花の可愛いところだ。藍的には、パパも呼んでもらえなくて残念だったそうだけど。今ではすっかり「パパ」と呼んでもらっているから、ご機嫌な様子の藍であった。結人も凛花も最初の言葉は「ママ」だったので、陽人には必ず一番最初に「パパ」と呼んでもらうのだと、今から気合十分でいるようだ。「さ。ねんねしようね、陽人」眠そうにウトウトする陽人をベッドで寝かしつけ、わたしはお昼ご飯の用意を始めた。やはり三人目にもなると、子育てにも余裕が生まれている。一人目の時は何がなんだか分からないまま子育てが始まっていったけど、一人目の時の失敗などを含めるとニ人目の時は、学んだことを生かしながら子育てが出来るとわかった。三人目ともなると、かなり子育ての仕方に慣れが出てきたので、一人目や二人目よりも余裕が持てている。もちろん気持ちにも余裕が出ているので、戸惑うことも迷うことも少なくなった気がする。これはわたしたちにとっても、親としての成長だろう。 そして相変わらず藍は、わたしたちを毎日溺愛しているが、その溺愛っぷりは高城明人を驚かせるくらいのものであった。しかし藍のその溺愛っぷりは、想像以上かもしれない。わたしにも子供たちにも毎日「愛してる」と言ってくれるし、わたしにも愛情をたくさんくれる。✱ ✱ ✱みんなの分のお昼ご飯を作っている時、藍と結人と凛花が帰ってきた。「ただいま〜」「ママ、ただいま〜」「ママ〜、ただいまぁ」「おかえりなさーい。……って、結人泥だらけじゃないの!?どうしたの!?」公園に遊びに行って帰ってきた結人は、服が泥だらけであった。「パパとおいかけっこしてたら、ころんじゃったぁ。ね〜パパ?」「ははは。そうだな」 凛花まで、服が泥だらけになっている。「ちょっと、凛花まで泥だらけにして来たのね」「たのしかったよ、おいかけっこ!」凛花は藍の方に視線を向けながら言っていた。……って、藍もじゃない。アンタは子供か!「もう……。結人も凛花もパパも、すぐにお風呂入ってきなさい。服は洗濯機の中に入れてね!」「はぁーい、ママ」「ママ〜、はぁーい」「よし行
藍のパパぶりは、相変わらずすごい。でも、子供たちにとっても自慢のパパであることは、間違いない。わたしにとっても、自慢の夫であり、自慢のパパだから。「それと……今回はちょっと悪阻がやばそうなのよね」「そうなのか?」「うん」今回は食べづわりではなく、ちゃんとした悪阻のようだ。……結構、気持ち悪い。 前回は食べづわりで、食べてないと気持ち悪くなることが多かったから、今回の悪阻は気持ち悪くて食べられないかもしれないわね……。「大丈夫だ。俺がいるし、いつでも俺を頼れよ」「ありがとう、藍」今回も藍は頼りになりそうだと感じた。「早速なんだけど……お米を炊いてくれない?」「お安い御用ですよ、奥様」「頼りになります、旦那様」そんな日々はいつの間にか過ぎ去っていき、無事に第二子を出産した。 産まれた子は女の子だった。藍も初めての女の子にとても喜んでいたし、わたし自身も女の子が産まれてとても嬉しかった。第二子となる我が子には、凛花《りんか》と名付けた。 凛とした素敵な人になって欲しいという想いを込めている。結人もいつの間にか一歳を過ぎて、歩けるようになったり、言葉も少しずつ話せるようになってきたりと変化もしてきた。親としては、結人の成長もとても嬉しく思っている。 きっと藍は、結人のことを立派な大人に育ててくれるだろう。「結人、ほら。結人の妹だよ」結人には、藍みたいにちゃんと家族を大切にしてくれるような人になってほしいな。 妹のことを大切にしてほしい。「凛花、かわいいね」「ああ、透子に似て美人だな」こうして四人家族となったわたしたちは、さらに明るく楽しい生活になるだろう。藍の両親に凛花が産まれたことを報告したけど、お義父さんは女の子が産まれたことで、今まで以上に甘やかしてくる気がする。「これからもよろしく、藍」「おう。俺に任せておけよ」藍は女の子が産まれたことで、さらに子どもたちにデレデレになっていた。 あんな俺様な雰囲気の藍からは、想像出来ないくらいだった。でも藍は、立派な父親だ。子どもたちにとって、自慢のパパであることに間違いない。「凛花はきっと、透子に似て将来はモテそうだな」「モテるかもね。 美人だもの、凛花は」そういえばわたしも、若女将をしていた頃は何人かのお客様にナンパされたな。なんならどこかの企業のお偉いさんたちの
藍ってば、わたしとの子作りが出来るようになったかは嬉しいのかしらね……。「透子は、二人目欲しくないのか?」「もちろん、わたしだって二人目は欲しいよ? でもこればかりは、天からの授かりものだしね。出来たらいいなって感じかな」藍は「そうだな。 まあ、焦ることでもないもんな」とわたしの胸に手を伸ばしてくる。「ん……ちょっと……さっき、したじゃない」「いいだろ? 今日は透子のこと、たくさん感じたいんだよ」身体を藍の方に向かされ、啄むようにキスをされる。藍とのキスは、再びわたしの理性を奪ってくる。「透子、そんな目で見つめるとまた抱くぞ」 「ん……藍の方が、抱きたいくせに」「バレた?」「バレバレよ」藍は温泉から出ると、わたしの身体をバスタオルで拭いていく。 「ちょっと、気が早いって……」藍の身体をバスタオルで拭いていくと、藍は再びわたしの身体をベッドへと押し倒す。「透子……かわいい。俺だけの透子」「藍だって……わたしのものなんだからね」「わかってる」藍と何度もキスをしながら、わたしは藍の体温を肌で感じた。 「あっ……あお、い……んっ」「透子っ……」欲情した藍がわたしの中を動くたびに、わたしは幸せに満ちていく。 「はぁっ、あっ……あ、あんっ」どうしようもないくらい、わたしたちは何度も身体を繋ぎ合わせる。「透子、イキそう?」「ん……イッちゃう」「イッていいよ、透子。我慢するな」二人の身体の重みで、激しくベッドが揺れる。ベッドがギシギシと音を立てるたびに、わたしたちの行為のは激しくなる。「いやっ……っ、あぁっ」わたしは何度も藍の名前を呼んだ。 藍の背中にしがみついては、何度も藍との行為に溺れていく。「藍、また、イッちゃう……」「ん、イッていいから」藍とのセックスに、こんなに理性を奪われてしまうなんて……わたしの身体は正直だから、藍を素直に受け入れている。「透子……俺もイッてもいいか」「ん……」藍とこうして身体を重ね合わせる時のわたしは、わたしじゃないくらい壊れている。だけど藍は、そんなわたしのことをかわいいと言ってくれる。 「あっあっ……いやっ、ああっ」藍がわたしの中にその欲望をぶつけた時、藍は「透子……」と名前を呼んだ。「藍、大丈夫……?」ベッドに横になる藍に声を掛けると、藍は「大丈夫だ。透子は大丈夫
「ん……早く、来て……」わたしも、早く藍のことがほしい。 素直にそう思ってしまう。「ああっ……あんっ」素直なままの藍がわたしの中に、その理性を抑えきれない質量を押し付けてくると、耐えきれずにわたしは声が漏れる。「ん、やべっ……気持ちいい……」藍がわたしの両手をぎゅっと握りしめてくる。「いやっ、藍っ……っ、んっ」わたしの中が藍の中でいっぱいになるだけで、幸せな気持ちになる。「藍っ……大好き」「透子、俺もだ」藍から甘いキスをたくさんもらいながら、藍の背中に腕を回していく。「透子、ごめん……我慢出来ない」「いいよ……我慢、しないで……」わたしだって我慢出来ない。早く藍の全てがほしい。「あっあっ……あっ、やっ」藍がわたしの中を激しく動くたびに、わたしの中の快感の波が押し寄せてくる。「はあっ、あっ……あんっ」どうしよう、すごく気持ち良い……。「あ、あお、いっ……」「透子……やべえ。すごい、気持ちいい……」藍とこうして身体を重ねるのは、二回目だ。 でも夫婦になってからは、一度もなかった。あの日……藍と初めて身体を重ねた日とはまるで違う、その快感に頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。「ん、気持ちいっ……」あの日だって、藍とのセックスは確かに気持ち良かった。 でも今は、それ以上に気持ちいい。こんなに気持ちいいセックスを藍とする日が来るなんて、思ってもなかった。 「藍……キス、してっ……」藍にキスをせがむと、藍は激しく唇を重ね合わせてくる。「んんっ、んぁっ……ああっ」藍がわたしの身体をぎゅっと抱き締めると、藍はわたしの中を激しく動いていく。「待って、ダメッ……はあっ」藍の背中をぎゅっと掴むと、藍が「透子のイク姿、かわいすぎ」と言ってくる。「やだっ、恥ずかし……っ」そう思っているのに、藍とのセックスがあまりにも気持ち良すぎて何度もイッてしまった。「んんっ、あぁっ……イクッ」「ん……俺もイクッ」「っ……ん、ああっ……!」藍がわたしの中に欲望を激しくぶつけてくるから、わたしは思わず目を閉じて藍の全てを受け止めた。久しぶりに藍に抱かれた。 だけど、こんなにも気持ちいい藍とのセックスは、わたしの理性を簡単に奪っていった。「透子……ごめん、優しく出来なかった」「ううん、大丈夫」藍に初めて抱かれた時は、こんなにもセック
「ここだよ、透子」車を走らせること約三十五分ほどで、温泉施設へと到着した。「みんな、お疲れ様」藍が施設の中に入っていくと、「お疲れ様です!」と元気な声が聞こえてくる。「副社長! お疲れ様です!」「みんな、オープン前の忙しい時に無理を言ってすまないな」「いえ、副社長に来て頂けるなんて光栄です」温泉施設をオープンするにあたり、尽力してくれているスタッフさんに、藍は「みんな、紹介する。妻の透子だ。これから、よろしく頼む」とわたしを紹介する。「皆様、いつも主人がお世話になっています。 妻の透子です」「奥様、こちらこそいつもお世話になっています。 それと……ご出産、おめでとうございます」施設のスタッフさんが出産祝いを渡してくれた。「ありがとうございます。 お気遣いに、感謝致します」藍はそんなわたしの肩を抱くと「知っている人もいるだろうが、透子はあの夕月園の元若女将なんだ」と紹介した。「え? あの、夕月園……ですか?」「はい。主人の会社に買収されましたけどね」これも今では、笑い話になるかな。「夕月園の元若女将さんなんて、すごいです! やはり副社長には、透子さんみたいな方がお似合いですね」「そうだろ?」いや、そこは否定しないのね……。「奥様、副社長のこと、これからもよろしくお願いいたします」「もちろんです」わたしが返事をすると、藍が隣で「月見沢、余計なことを言わなくていい」と言葉を放つ。「す、すみませんっ!」「冗談だ。 今日は妻と二人だけの時間を過ごさせてもらって、ありがとう」「いえ。 それではお部屋の方へ、ご案内します」藍とわたしはこの施設の支配人である月見沢さんの案内で、一番奥の部屋へと案内された。「今日はこちらのお部屋を思う存分お使いください。 何かございましたら、お気軽にお呼びください」月見沢さんがお部屋から出て行った後、藍が「アイツ、ニヤニヤしやがって……」と言葉にする。「まあまあ、いい人じゃない。 出産祝いまで用意してくださったんだから」「……まあ、アイツら仕事出来るからな」藍が認めた人たちなら、なおさらじゃない。「ここ、部屋に露天風呂が付いてるんだ」「露天風呂付いてるの? すごっ」確かにこの部屋、めっちゃ高そう……。「早速、一緒に露天風呂に入ろう」 藍に手を引かれ、露天風呂に連れて行かれる。「
「そうなんか……。 アンタ一人で、育てるつもりなんか?」「……はい。そのつもりです」わたしはそう答えると、女将さんの方を見た。「そう……。アンタは、本当にそれでええの?」そう問いかけられたわたしは「え?」と返事をした。「一人で産む言うても……。子供を一人で育てるのは大変やろ?お金もかかる故、働きながら子供を育てるのは、容易じゃないんよ?」 女将さんからそう言われ、また現実に引き戻されてしまう。「……分かってます。だけど、あの人には……。高城ホールディングスには、頼りたくないんです」「透子……」「わたしはあの人たちを許したくない……。許せる訳、ないんです。 あの人たちは、わ
「……小さい。けど、ちゃんとわかる」 本当にわたし、赤ちゃんがいるんだ……。こんなにも小さいけど、ちゃんと赤ちゃんがいることが分かる。不思議だけど、なんだか愛おしい気持ちが湧いた。「お疲れ様でした。 じゃあ次の検診は、また一ヶ月後になりますね」「はい。わかりました」「ありがとうございました」一ヶ月後に再度診察の予約を入れて、会計を済ませたわたしたちは、そのまま病院を出た。 「赤ちゃん、小さかったな」「……そうだね」赤ちゃんを産みたい。さっきエコーした時、純粋にそんな気持ちが生まれた。それは今まで感じたことのない、感情でもあった。 「……わたし、赤ちゃん、産みたい」
「……本当にバカ」アイツのこと大嫌いなはずなのに、なぜかイヤだと思えない。それは、なぜなんだろうか……。✱ ✱ ✱それから一週間後の検診の日。「透子、お待たせ。迎えに来たよ」「……本当に、来たんだ」高級車の運転席から降りてきた高城藍は、わたしのそばにやってきた。 「当たり前だろ?俺たちの子供なんだから」俺たちの子供なんだからか……。そりゃそうだ。「さ、行こう。乗ってくれ」「いい。歩いていくから」「いいから、乗れって」「……分かったわよ」助手席に座ると、高城藍は車を走らせた。「そういや、透子」車を走らせながら彼は、わたしの方に視線だけを向けた。「……なに?」
わたしの心配をしてくれなんて、わたしは彼に頼んだ覚えはない。 この人が勝手に心配してるだけだ。「透子、君のお腹の子の父親は俺だ。俺には君たちを守る責任があるんだ。 だから無茶をして透子になにかあったら、困るんだよ」「なんで?なんでそこまでして……。バカじゃないの?」困るのよ、そういうの……。余計なお世話だ。「バカでもいい。俺は君とお腹の子を幸せにしたい。……ただ、それだけなんだよ」なぜだか分からないけど、そう言われたら何も言い返せなくなってしまった。「……なんなの。わたしにとってあなたは、特別な人でもなんでもないのに」変な人……。わたしにそこまでしてくれる理由が分からない。「







