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2話

Author: 水沼早紀
last update Huling Na-update: 2025-12-22 14:00:04

「仕方ないのよ……。夫が死んでから、わたしがここの責任者になったけれど、わたしは経営者としては半人前だったってことよ。……わたしじゃ、力不足だったのよ」

「そんな……。そんなことないですよ」 

女将の旦那さんは、ガンで十年前に亡くなった。 その後は女将が経営者として、夕月園やわたしたちを守ってきてくれた。

従業員たちが働きやすいような環境を作るために、女将自ら従業員の要望を聞き入れ、やりやすいように工夫しながらここまでやってきたのに。

「そんなことないです。……女将は、女将は立派な人です。 女将はずっと、わたしの憧れの人です。わたしの目標です。女将の背中を見て働いてきたからこそ、そう思います」

わたしは必死で女将に語りかけた。なんとしても買収を阻止したくて……。

「ありがとう、透子。……でももう、限界みたいやね」

「え……?」

女将の限界とは、何なのだろうか……。

「夕月園を運営する資金はもうないわ……。資金を援助してくれていた銀行にも、この前融資を断られてしもうたし……」

「……え?」

融資を断られた……!?そんな……。 なんで、なんで……!

「夕月園には、もう融資は出来ないってね。そう言われてしまったの」

「そんな……。じゃあ夕月園は……?」

やっぱりもう、おしまいってことなの……? このまま、買収されるしかないってこと……?

そんなの、絶対にイヤ……! 無くすなんて、イヤだよ……。

「……もう、無理みたいやね」

「そんな……!」

不審に思ったわたしは、夕月園に融資を断った銀行を調べてみた。

するとその銀行は、高城ホールディングスの取引先の銀行だということが判明した。

きっと高城明人が圧をかけたんだ……。夕月園には融資をするなって、もうそうとしか考えられない。

おかしいと思った、ずっと支援してくれていたのに。 そうか、だから女将が融資を頼んでも断ったんだ。

高城明人が裏で手を引いている。 わたしたちをここから追い出すために……。

「融資が受けられないんじゃ、経営の立て直しは無理やわ。……もう、何も出来ることはないわ」

「女将……」

女将はもう諦めていた。自分には何も出来ないことを悟ったんだ……。

「……実は言うと、以前から買収の噂はわたしも耳にしていたんよ。 だけど本当、やったね」

「どうして……。どうして教えてくれなかったんですか!?」

わたしがそう問い詰めると、女将は「まだ確証がなかったからよ。……変な噂を立ててお客様に影響したら大変だと思ったから、言わなかったのよ。あなたたちにも」と言った。

「……女将」

「ここが買収される前に、あなた達は退職しなさい。それが懸命な判断よ」

「ちょっと待ってください、女将! 退職なんて……!」

そんなこと出来る訳がない。 わたしは女将の背中をずっと見てきたから、そんな簡単に夕月園を捨てることなんて出来ない……。

「いい、透子。あなたはまだ若いんやから。……若女将なんて辞めて、普通の女の子らしく、生きていきなさい」

「そんな……」

「そうしなさい。あなたのために言ってるのよ、透子」

「女将さん……」

それから二日後の十二月十七日、夕月園はまんまと高城ホールディングスにより買収されてしまった。

そして夕月園は、ついに百五十年という長い歴史に幕を下ろすこととなったーーー。

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