เข้าสู่ระบบそれは夕月園を離れてから、およそ半年後のことだった。
「いらっしゃいませ」
わたしは京都のとあるカフェで働いていた。 そこは町並みの中にあるカフェで、コーヒーが美味しいカフェだ。
夕月園を離れておよそ半年。 夕月園の全従業員が、退職した。わたしも夕月園を退職し、そのままカフェで働き出したのだった。
「お客様、お一人ですか?」と声をかけたその背の高い男性に、わたしはなんとなく見覚えがあった気がした。
あれ……?この人……って。「藤野透子、だな?」
わたしの顔を見るなり、そう告げてきたその男性。「……なぜ、わたしのことを?」
「君に話がある」
突然そう告げられたわたしは、不思議に思った。彼がどうしてわたしのことを知っているのか。
「……ここはカフェです。何も注文なさらないのなら、申し訳ありませんがお帰りください」
わたしはその男性にそう告げた。 だけどその男性は「では、アイスコーヒーを貰おうか」と言った。
「……かしこまりました」
わたしはアイスコーヒーの注文を取り、カウンターに注文表を置いた。
アイスコーヒーを用意したわたしは、その男性の前に「お待たせ致しました。アイスコーヒーです。お好みでミルクと砂糖をどうぞ」とテーブルに置いた。
「ありがとう。透子さん」
「……あなたは、なぜわたしのことをご存じなのですか?」
わたしはアイスコーヒーにストローを刺し、飲み始めたその男性にそう問いかけた。
「そりゃあ、あれだけキレイな若女将がいれば有名にもなるでしょう」
「……あなた、まさか」
わたしはその一言で悟った。
「僕は高城藍《あおい》と言います。お見知りおきを、藤野透子さん」
高城藍。やっぱりこの男は、高城ホールディングスの……御曹司だ。
高城明人の一人息子……。「高城ホールディングスの御曹司さんが、わたしに何のご用でしょうか」
わたしは高城というその男性にそう問いかけると、高城藍はわたしにこう言った。
「では単刀直入に言います。あなたをスカウトしに来ました」
「は?スカウト……?」
それ、どういう意味……?わたしをスカウト?
この人は何言ってるの……?
「あなたの若女将としての活躍は、以前から耳にしていました。ぜひうちでスカウトしたい」
「……お断りします」
買収された会社からのスカウトなんて、受ける訳がない。絶対にあり得ない。
「なぜ、ですか?」
「答える義務はありません。……それを飲んだら、お帰りください」
わたしはそう言って、高城藍を睨んだ。
「そんなに怖い顔しないでください、透子さん」
「あなた、何が目的ですか?」
「目的?そんなものはありませんよ。……ただ、あなたと一緒に仕事がしてみたいだけ、ですよ」
そんなこと言われても、信じられる訳がない。
「……お客様がお待ちなので、失礼します」
わたしはそう言って立ち去ろうとした。なのに……。
「藤野透子さん、今夜ここでお待ちしています。必ず来てください。……必ず、ですよ」
そう言って渡されたその紙は、わたしのサロンのポケットに忍ばせられた。
「……失礼します」
わたしはそのままカフェの中へと戻った。
「透子ちゃん、あの人知り合いなん?」「……いえ。知り合いではありません」
そう聞かれたわたしは、そう答えて厨房の中に入った。
「……今更、なんなのよ」
高城ホールディングスの御曹司がこんなところまで来て、スカウト?……ふざけないでほしい。
高城ホールディングスのせいでわたしたちは、職を失ったと言うのに……。
そっと取り出したサロンの中に入れられたその紙を見ると、そこににはご丁寧に日時指定でホテルの場所まで書かれていた。
「……絶対に行かないから」
わたしはその紙をグシャグシャに丸めてゴミ箱に捨てた。
「ここだよ、透子」車を走らせること約三十五分ほどで、温泉施設へと到着した。「みんな、お疲れ様」藍が施設の中に入っていくと、「お疲れ様です!」と元気な声が聞こえてくる。「副社長! お疲れ様です!」「みんな、オープン前の忙しい時に無理を言ってすまないな」「いえ、副社長に来て頂けるなんて光栄です」温泉施設をオープンするにあたり、尽力してくれているスタッフさんに、藍は「みんな、紹介する。妻の透子だ。これから、よろしく頼む」とわたしを紹介する。「皆様、いつも主人がお世話になっています。 妻の透子です」「奥様、こちらこそいつもお世話になっています。 それと……ご出産、おめでとうございます」施設のスタッフさんが出産祝いを渡してくれた。「ありがとうございます。 お気遣いに、感謝致します」藍はそんなわたしの肩を抱くと「知っている人もいるだろうが、透子はあの夕月園の元若女将なんだ」と紹介した。「え? あの、夕月園……ですか?」「はい。主人の会社に買収されましたけどね」これも今では、笑い話になるかな。「夕月園の元若女将さんなんて、すごいです! やはり副社長には、透子さんみたいな方がお似合いですね」「そうだろ?」いや、そこは否定しないのね……。「奥様、副社長のこと、これからもよろしくお願いいたします」「もちろんです」わたしが返事をすると、藍が隣で「月見沢、余計なことを言わなくていい」と言葉を放つ。「す、すみませんっ!」「冗談だ。 今日は妻と二人だけの時間を過ごさせてもらって、ありがとう」「いえ。 それではお部屋の方へ、ご案内します」藍とわたしはこの施設の支配人である月見沢さんの案内で、一番奥の部屋へと案内された。「今日はこちらのお部屋を思う存分お使いください。 何かございましたら、お気軽にお呼びください」月見沢さんがお部屋から出て行った後、藍が「アイツ、ニヤニヤしやがって……」と言葉にする。「まあまあ、いい人じゃない。 出産祝いまで用意してくださったんだから」「……まあ、アイツら仕事出来るからな」藍が認めた人たちなら、なおさらじゃない。「ここ、部屋に露天風呂が付いてるんだ」「露天風呂付いてるの? すごっ」確かにこの部屋、めっちゃ高そう……。「早速、一緒に露天風呂に入ろう」 藍に手を引かれ、露天風呂に連れて行かれる。「
結人を出産してから、四ヶ月が経った。初めての子育ては不安で戸惑うことばかりだけど、藍の両親が子育てに協力してくれるおかげもあって、わたしは子育てを楽しめている。藍も藍で子育てに協力的で、交代で藍のことを見てくれるし、オムツを変えてくれるし、夜泣きした結人のことをあやしてくれる。そんな藍のことを見ていると、わたし自身も頑張れる力をもらえる。「透子、身体とか、辛くないか?」「うん、大丈夫。ありがとう」ベッドに横になるわたしの髪の毛を撫でてくれる藍は、わたしの心配をしてくれる。「少し寝てろよ、あんまり寝てないんだろ?」「大丈夫だよ。 藍こそ、あんまり寝てないでしょ?」「俺はいいから、透子は少し寝ろよ」藍の優しいその言葉が子守唄のように聞こえてしまったわたしは、気付いたら眠ってしまっていた。✱ ✱ ✱「ん……? ん……っ」目が覚めると、藍が結人の隣で眠ってしまっているようだった。「藍……ありがとう」藍は父親として完璧になりそうだなと、思った。なんだか、久しぶりによく眠ってしまった気がする。「結人、よく眠ってるね」藍に毛布を掛けてあげると、藍は起きてしまったようで、「ん……透子……?」と目を覚ます。「ごめん、起こしちゃった……?」「いや……ちょっとは眠れたか?」「うん、久しぶりによく眠れた気がする。 ありがとう」藍は「それなら良かった」と微笑む。「結人、よく眠ってたみたいだな」「みたいだね」結人が起きたらミルクをあげようかな。 きっとお腹空いてると思うし。「藍、結人見てくれてありがとう」「気にするな。父親なんだし、このくらい当然だろ」わたしはやっぱり、優しい藍のことが好きだ。「あ、そうそう。今日はベビーシッターさんが来てくれることになってるらしい」「ベビーシッター?」わたし、そんなの頼んだ記憶がないけど……?「父さんが、ベビーシッター頼んでくれたみたいでさ」「お義父さんが……?」「父さんが、今日は二人だけの時間を過ごしなさいって言ってくれたんだよ」お義父さんが、そんなことを……?「意外。……そんなこと、言ってくれる人なんだね」もっと冷酷な人だと思ってたし、人は見かけによらないんだな。「もうすぐベビーシッター来るってさ」「そっか。わかった」藍に「今日は二人だけの時間を、楽しく過ごそう。言葉に甘えて
【番外編〜高城家のその後〜】「透子さん、出産本当におめでとう」「ありがとうございます、お義母様」結人が産まれてからしばらくして、わたしは藍と高城家を訪れていた。結人を出産したと報告したら、なぜか高城明人がたくさんのベビー用品を買い揃えてくれていた。 「これはわたしからの、出産祝いのプレゼントだ。使いなさい」「え?こんなに……ですか?」「ああ、そうだ。大切な孫のために用意したんだ。使いなさい」高城明人はいつもポーカーフェイスでなにを考えているのか分からない人だと思っていたけど……。 本当は藍と同じで優しい人、なんだな。「親父、別にそこまでしなくていいって言ったろ?」 藍が言うけど、高城明人は「なにを言ってる。お前がまだなにも用意してないって言うから、わたしが用意してやったんだろ?」と言い返していた。「そ、それは……」珍しく藍も、父親を前にすると言い返すことが出来ないようだ。「ありがとうございます、大切に使わせて頂きます。お義父様」「そうしてくれ。 にしても、結人は透子さんに似てキレイな顔立ちをしているな。こんなバカ息子に似なくて良かったよ」「おい、親父!」「まあ、お義父様ったら……」高城明人。……なかなか言うことがすごい。「なあ、俺にも似てるだろ?特に鼻とかさ」「分かった分かった。 まあお前に似て、バカでなければいいがな」「おいっ……!」でもこうやって見ていると、二人はなんだかんだ仲が良いのかも。やっぱり親子、だな……。 藍だって本当は大好きなんだよね、父親のことが。こうやって見てると、本当にそう思う。「お義父様、これからも何卒、よろしくお願い致します」「なにかあったら、遠慮なく言いなさい。わたしたちは家族なんだから」「はい。ありがとうございます」なんだかんだ高城明人は、わたしたちのことを考えてくれているようだ。 こうして高城明人が笑った顔を間近で見るのは、もしかしたら初めてかもしれない。「さ、念願の家族写真を撮ろう」「はい」今日は結人が産まれたので、約束していた家族写真を撮る日だ。 「藍、もっと笑いなさい」「は?笑ってるよ」 「もっと笑うんだ」「はいはい」こうして藍の両親と、藍とわたしと結人の四人で、家族写真を初めて撮った。 そういうのは今までなかったし、なんだか新鮮な気
藍のその表情は、まるで人形みたいにフリーズしていた。だけどその目は、嬉しそうに笑っているように、わたしには見えた。「……そうだよ。起きたんだよ、奇跡が」小さな命がわたしたちの宝物になり、産まれてきてくれた。 これはどう考えても奇跡としか、言いようがない。 奇跡以外に呼べるものは、きっとない。初めての出産は、とても大変で、とても痛くて、とても辛いものに感じた。頭が真っ白になりそうなくらいだった。 よく鼻からスイカ……というけれど、本当に切実にそう思った。 陣痛が来た時は早いなと思ったくらいだったし、正直本当に戸惑ったし、焦ったりもした。だけどその分だけ、幸せがやってきたことに変わりはないから……。こんな天使がやってきたら、その辛さなんて吹っ飛んでしまった。その後病室に戻ったわたしたちは、赤ちゃんの名前を決めることにした。藍が決めてくれた二つの候補の中から、選抜された名前を今日ここで聞けるんだな……。「藍、名前決まったんだよね? 教えてよ」早く知りたいな、この子の名前。「俺が付けたい名前は、結人《ゆいと》だ」「結人……?」「ああ、結ぶに人と書いて結人だ。 結人には、たくさんの出会いに感謝して、これから出会う人との繋がりを大事にしてほしいという願いを込めて、結人にした」結人……。素敵な名前。この子にとてもピッタリな名前だ。「いい……。すごくいい名前だよ、藍」わたしは藍がこんなにも素敵な名前を考えてくれるなんて思ってなかったから、ビックリした。 だけどすごく藍らしい、いい名前だ。……結人か。「本当か?いいか?」「いいよ、すごくいい。……最高の名前だよ、藍」高城結人。 今日から我が子の名前は、結人に決まった。これから出会うたくさんの人への感謝と、そして人との繋がりを大事にしてほしいという願いを込めて付けられた大切な名前。この子にとても相応しい名前だと思う。「透子もそう思うか?」「もちろんだよ。……いい名前考えてくれて、ありがとう、藍」結人……。わたしもすっかり気に入ってしまった。「結人……。いい響きだな」「うん。本当にいい響きだね」これからわたしたちの、家族になるための子育て生活が始まっていく。結人と三人での生活は、どんなことが待っているだろうか……?だけど楽しみな反面、不安もあるし、ワクワクした気持ちもある
藍が決めたその赤ちゃんの名前を、今からとても楽しみにしている。わたしも藍に名前を決めてほしいから、藍の決めた名前に賛成したい。「俺は、いい父親になれるかな」「……なれるよ、藍なら。絶対になるよ」藍はこの子にとっては、世界でたった一人だけのパパなんだから。この子が藍のことを世界一のパパと呼んでくれる日が、いつか来るかもしれないしね。わたしはその日まで、待つことにしようかな? この子の母として、見守っていく必要があるから。「この子にとって、自慢の父親にならないとな」藍がそう話すから、わたしも「それ言ったら、わたしも自慢の母にならないとだね」とお腹に手を乗せる。「透子はもう、自慢の母になってるだろ」「そうかな?」「俺にとっても、透子は自慢の妻になってるよ」藍がわたしの頬にちゅっとキスをする。「ありがとう、藍」わたしのことを自慢の妻と言ってくれる藍こそ、自慢の夫だと思う。「俺さ、透子のことが毎日愛おしくて仕方ないんだよ」「相当、わたしのこと好きなのね」「ああ、毎日愛している」こうして毎日愛を囁いてくれるのは、藍しかいない。「頼もしいわね、藍は」「父親になるんだし、頼もしくないとな?」藍はいつか、高城ホールディングスを継ぐ人間だけど、藍は夫ととしても父親としても、人間としてもとても立派な人だ。 藍ほどの人間は、見たことがない。 藍みたいなストイックな人が子供の父親だなんて、子供はきっと幸せに違いない。「頼りにしてるわね、藍」「任せておけ」藍の両親から、この間安産祈願のお守りを頂いたので、無事に産まれてくることを祈る。「藍、お昼蕎麦にしない?」「蕎麦?」そろそろお昼ご飯の時間だ。「なんか、蕎麦が食べたい気分なの」「いいね、蕎麦。 よし、じゃあ俺が蕎麦茹でるか」藍は気合が入っているのか、ソファから立ち上がる。「やってくれるの?」「ああ、透子は座ってていいからな」藍は腕まくりをすると、キッチンに立ちお蕎麦を茹でる用意をしている。「いいパパで良かったですね」赤ちゃんも元気に動いているので、毎日幸せを感じる。 「この子が幸せなら、嬉しいな」 わたしはこの子が出来て、嬉しいし……幸せだ。✱ ✱ ✱それからは出産まで、平和な毎日を過ごしていた。そしてニ週間後ーーー。「おめでとうございます、お母さん! 元気
「俺もなりたいよ。透子と、子供とみんなで幸せになりたい」「……わたしもだよ。これから先もずっとずっと」わたしたちは家族になって、これからも色んなことを学んでいく。家族になるのも、親になるのも、わたしたちはまだこれから一年目だし。だけどどんな時でも協力しあって、みんなで明るく楽しく生きていきたい。たくさん笑って、楽しい未来図を藍と共に作っていくんだ。「透子、いつもありがとう。……これからも、よろしくな」「こちらこそ、よろしくね。……まだまだ妻として足りないところもあるかもしれないけど、温かい目で見守っててね」わたしはそう言うと、藍の両手を握り締めた。「俺も、夫してまだ足りないところもあるかもしれないけど、温かい目で見守ってくれると嬉しいな」そんなのは当たり前だ。夫婦ってそういうものではないかと思っている。足りないところをお互いに補うことこそ、夫婦だと思う。「もちろんだよ。……二人で一緒に、明るい家庭を作っていこうね」わたしのその言葉に、藍は「もちろんだ。俺にはもう、透子だけだからな。 透子以外、何もいらないよ」そう言って唇を重ねてくる。「透子、これからもたくさん愛してやるからな。死ぬまでずっと。 だから、覚悟しとけよ?」 藍にそう言われたわたしは「もちろん。これからも藍にずっと愛してもらう覚悟なら、あるに決まってるでしょ? だって藍の妻になれる女は、わたししかいないんでしょ?」と返事を返した。「ご名答。よく出来ました」そう言ってはにかむような笑顔を向けた藍に、今度はわたしから藍の唇にキスをした。「珍しいじゃん、透子からキスしてくれるなんて」そう言いつつ、藍は嬉しそうに笑っている。「藍。浮気したら、即離婚だからね? 忘れないでよね」「バカだな。俺が浮気なんてする訳、ないだろ? 俺は透子一筋の男なんだからさ」「本当かな〜」なんて言いながらも、わたしは藍のことを信じている。藍だけが、わたしの全てだ。藍と出会って気づいた。大切な人はいつも、すぐそばにいることを。「あ、今動いてる」「どれどれ?」こうして父親になる嬉しさが、藍からたくさん伝わってくる。 藍はきっといい父親になる。 わたしはそう確信している。「赤ちゃん、産まれたら……わたし、なんだか泣いちゃいそうかも」きっと感動して、泣いてしまうに違いない。 「大丈夫だ