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第179話

Author: 一匹の金魚
投稿の下には、さらに一枚の画像が添えてあった。

礼央は人混みの中央にどっしりと腰を据え、視線を落としてお酒を口にした。暗がりの灯に照らされる礼央の表情は、何を思っているのか窺い知れなかった。

礼央は相変わらずよそよそしく冷静で、喜怒の感情も表に出さない。誰にも礼央の考えていることは読み取れなかった。

同じベッドで5、6年一緒に寝た真衣でさえも、礼央を理解することはできなかった。

今、離婚届を出し終えた後、礼央はさぞかし喜んでいるはずだ。

「チェッ!気持ち悪い!」沙夜は投稿を見て言った。「何を祝ってるの?浮気相手が長年かけてようやく妻の座を奪えたことを?」

「厚かましいにも程があるわ」

安浩は携帯をしまい、深い眼差しで真衣を見た。

「君たち二人のことについてだが……」安浩は口を開いた。「君は千咲だけでいいのか?」

沙夜はそれを聞いて、ハッと何かに気付いたのか、すぐに真衣の方を見た。「そうよ、翔太だってあなたの実の息子なのに」

真衣は垂れた両手をわずかにぎゅっと握りしめた。いくつもの感情が層をなして広がっていき、骨の髄まで染みついた憎しみが、この瞬間、洪水のように溢れ出していた。

真衣は淡々と言った。「うん、翔太は礼央の方が好きだから」

翔太が自分の実の息子ではないことを、誰も知らない。ましてや翔太が萌寧の息子だということも、当然誰も知らない。

このことは、自分と礼央、そして萌寧の三人だけが知っている。

真衣は時折、礼央と萌寧が最初から計画していて、自分自身だけが無駄に礼央たちの息子を育てさせられているのではないかと思わずにはいられなかった。その間、萌寧は海外で学業に励んでいるというのに。

帰国後は礼央の支援もあり、萌寧の仕事もプライベートも順調だった。

そしてあの日に提出した離婚届にも、こんな一条があった。「翔太の身分を秘密にすること」と。

もし公にすれば、翔太は私生児となる。

沙夜は心を痛めたように真衣を見た。「大丈夫、あの人はどうせ男の子が好きなんだから、千咲をそばに置いておけばいいわ」

-

ラウンジバーにて。

真衣たちは予約した個室へと向かっていた途中、ドアの開いた個室の横を通り過ぎた。

「真衣さん、あなたたちも飲みに来たの?」

振り向くと、萌寧がお酒を持って真衣たちを見ながら淡く微笑んでいた。「一緒にいかがですか?
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