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狂愛の銃声、純白の私
狂愛の銃声、純白の私
作者: 思慕

第1話

作者: 思慕
「決めたわ。神代家のあの植物人間には、私が嫁ぐ」

瀬戸柚和(せと ゆわ)は瀬戸家本邸のドア枠に寄りかかり、唇に皮肉めいた笑みを浮かべた。

瀬戸宗一郎(せと そういちろう)の指から葉巻が滑り落ち、値打ちのつけられない絨毯を焦がしそうになった。彼は本革のチェアから勢いよく身を乗り出し、パッと相好を崩した。

「柚和、ようやく踏ん切りがついたか!よかった!神代家の方も急いでいてな、半月以内にはS市に嫁いでもらわなければならないんだ。ウェディングドレスはどんなデザインがいい?俺がすぐに手配させてやるから……」

「それだけ?」柚和は鼻で笑った。「あなたの大事な隠し子の身代わりになって嫁ぐっていうのに、少しは誠意を見せたらどう?」

リビングの空気が一瞬にして凍りつき、宗一郎は険しい顔つきになった。「親に向かってなんという言い草だ。隠し子などではない、お前の妹だろう」

「同じお腹から生まれてこそ、妹なのよ」彼女は軽く笑ったが、その瞳の奥には氷のような冷たさが宿っていた。「彼女はあなたの不倫の産物よ。死んでも認めない」

宗一郎はこめかみに青筋を立てたが、激昂する直前で無理やり怒りをねじ伏せた。

彼は深く息を吸い込んだ。葉巻の灰がパラパラと落ちる。「何が望みだ?」

「二千億円」彼女は言った。「それから、私が嫁いだ後は、蒼琉をあの隠し子の護衛に回してちょうだい」

宗一郎の表情が固まった。

狂人でも見るかのような目で柚和を睨みつける。「正気か?二千億円も出せば、うちの流動資金がすべて底をついてしまう!

それに蒼琉といえば、お前が一番気に入っていた人だろう。以前はあいつに嫁ぐと駄々をこねていたくせに、今さら置いて行くというのか?」

「条件を呑むのか、呑まないのか、それだけ答えて」柚和は苛立ちを見せ、きびすを返して立ち去ろうとした。

「わかった!」宗一郎は机を叩いて立ち上がった。「お前がS市へ嫁ぐ日、その二つの条件をすぐに履行してやろう」

彼は深く追及する気になれず、ただ一刻も早くこの件を片付けてしまいたかったのだ。

かつて神代家の独り子が世間の注目を一身に集めていた頃、彼は先手を打って両家の婚約を取り付けた。将来は瀬戸望愛(せと もあ)を嫁がせ、この下の娘にふさわしい居場所を用意してやるつもりだった。

ところが、不慮の事故によりその独り子は植物状態となってしまった。

望愛に苦労をさせたくない一心で、彼は柚和もまた自分の娘であったことを思い出したのである……

柚和は背を向けたまま手を振った。大理石の床を叩くハイヒールの足音は、まるで誰かの頬を平手打ちしているかのように、高く澄んだ音を響かせていた。

ドアノブに手を掛けた瞬間、背後から再び宗一郎の声がした。「金が必要な理由はわかる。だが、あれほど蒼琉に執着していたお前が、どうしてあいつを望愛に譲れるんだ?」

柚和の指が強張った。

振り返ることはなかったが、不意に目頭が熱くなった。

その名前は一本の棘のように、彼女の心の最も柔らかい部分に深く突き刺さっていた。

彼女は力任せにドアを押し開け、宗一郎と今の問いを一緒に背後へと閉め出した。

自宅に戻った時には、すでに深夜になっていた。

柚和がハイヒールを鳴らして階段を上がり、如月蒼琉(きさらぎ そうる)の部屋の前を通りかかった時、中から、何かを押し殺したような、艶めかしい声が漏れ聞こえてきた。

ドアは完全に閉まっておらず、ふと視線を向けると、室内の光景がこの上なく鮮明に目に飛び込んできた。

蒼琉はベッドのヘッドボードに寄りかかり、その細く長い指の間に一枚の写真を挟んでいた。

彼は目を閉じ、喉仏を激しく上下させながら、低く掠れた色気のある声を漏らしていた。「望愛……いい子だ……可愛い……」

それは望愛の写真だった。

去年の誕生日パーティーで撮られたもので、白いワンピースを纏った彼女が、いかにも純真無垢な様子で微笑んでいる。

柚和は高級ブランドバッグの持ち手に爪を食い込ませ、深い三日月型の跡を残しながら、ようやく心の中で宗一郎の問いに答えた。

――だって彼もあなたと同じで、望愛のことしか見ていないからよ。

その答えが胸の中で渦巻き、五臓六腑を焼き尽くすように痛んだ。

三年前、柚和が初めて蒼琉と出会ったのは、護衛を選別する日のことだった。

ずらりと並んだ大柄な男たちの中で、彼女は一目で彼に釘付けになった。

理由は単純明快だった。

彼が常軌を逸するほど美形だったからだ。

188センチの長身に、肩幅が広く引き締まった腰周り、精悍で彫りの深い顔立ち。とりわけその漆黒の瞳は、氷のように冷ややかに澄んでいた。

柚和は界隈でも名高い「小悪魔」であり、最初は彼をからかって遊んでやるつもりだった。しかし、この三年間――

彼女がわざと泥酔したふりをして彼の胸に倒れ込んでも、彼は片手で彼女の首根っこを掴み、まるで子猫を摘み上げるようにして、ソファーへと放り戻した。

真夜中にキャミソール姿で彼の部屋のドアを叩いても、彼は自分のジャケットで彼女の体をすっぽりと包み込み、あくまで慇懃に彼女の部屋へと送り届けた。

プールで溺れたふりをした時でさえ、彼は水に飛び込んで助け出しはしたものの、彼女の腰に触れることすらしなかった。

どれほど色仕掛けを用いても、彼は柚和に一切の興味を示さず、常に自制心を保って礼儀正しく「柚和様」と呼ぶだけだった。それなのに、柚和はあろうことか、そんな彼に心を奪われてしまった。

なぜ惹かれてしまったのか、自分でも分からなかった。

おそらく、母親を亡くして以来、あまりにも孤独な日々を生きてきたからだろう。

七歳の年、宗一郎は不倫の末に一人の隠し子を家に連れ込んだ。

その隠し子の名は望愛。柚和よりわずか三ヶ月年下だった。つまり、結婚生活十年のうち九年もの間、宗一郎は外で女を作っていたのだ。

その日、柚和が信じて疑わなかった幸せで穏やかな家庭は、音を立てて粉々に砕け散った。

当時、母親である瀬戸幸子(せと さちこ)のお腹には二人目の子供がいた。妊娠九ヶ月の臨月で、出産まであと数日という時期だった。

宗一郎を骨の髄まで愛していた幸子は、ヒステリックに彼を問い詰め、過呼吸になるほど泣き叫んだ。その晩、あまりのショックからお腹の子に障りが出て病院へと担ぎ込まれたが、手術室に入る間もなく母子ともに命を落とした。

それ以来、柚和は宗一郎を激しく憎み、望愛をも深く憎悪した。

彼女は瀬戸家本邸を出て、一人で学校に通い、一人で食事をし、一人で成長した。

あまりにも美しく育った彼女に対し、界隈の放蕩息子たちによる執拗な付きまといや嫌がらせが後を絶たなくなった。そんな連中にほとほと嫌気がさし、ようやく護衛を雇う決意を固めたのだ。

蒼琉は、彼女にとって初めての護衛だった。

その日から、彼女は一人ではなくなった。何をするにも蒼琉がそばにいてくれた。

最初は彼への感心、次にからかうような誘惑、そして最後には……いつしか芽生えた本気の恋心。しかし、三年という千日以上の月日が流れても、彼が彼女のために情を動かしたことなど、一度もなかった。

生まれつき感情の欠落した、冷徹な男なのだと思っていた。あの日、彼が望愛の写真を見つめながら自涜に耽り、果てた直後に一本の電話に出るまでは。

「若旦那様、この護衛ごっこはいつまでお続けになるおつもりですか?あなたはN市を牛耳る如月家の跡取りでいらっしゃいます。女など、それこそより取り見取りでしょうに。

望愛様に一目惚れなさったのでしたら、力ずくで手に入れてしまえばよろしいものを。まさか、あの方がこれほどまでに純情な真似をなさるとは思いもしませんでした。

柚和様のもとで護衛に身をやつしてまで、四六時中望愛様の顔を見るためにそこまでなさるのですか?」

蒼琉は冷淡な表情で答えた。「調べたところ、望愛は隠し子として不遇な幼少期を送り、安心感にひどく飢えている。強引に迫れば怯えさせてしまう。俺は時間をかけて手に入れるつもりだ」

「なるほど、さようでございましたか。如月家の中に、これほどまでに一途な想いを抱かれるお方がおられるとは、思いも寄りませんでした。

柚和様が毎日誘惑してくるっていうから、少しは心が動くかと思いましたがね。彼女、界隈じゃ有名な小悪魔です。彼女を狙ってる男なんて、掃いて捨てるほどいます」

蒼琉は微かに笑ったようだったが、その口から放たれた言葉は、柚和を底知れぬ淵へと突き落とした。

「そうか?興味ないな。彼女は望愛の髪の毛一本にすら及びはしない」

一文字一文字が鋭利なナイフとなって、柚和の心臓を情け容赦なく抉った。

その瞬間、彼女の心の中から蒼琉への恋心は、欠片も残らず消え失せた。

部屋の中では自涜行為がどれほど続いているのか分からなかったが、なぜか今日の蒼琉は、遅々として絶頂を迎えようとしなかった。

それを見て、柚和は冷たい笑みを口元に浮かべると、勢いよくドアを押し開けた。
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