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第3話

ผู้เขียน: 酔夫人
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2026-03-04 10:01:35

注文を受ける姿勢のバーテンダーに美咲は戸惑う。

(……何を頼めば、いいのかしら)

メニューを見ると、分かるのはビールだけ。

あとはベースとなるリキュールを割るためらしい、「炭酸」や「水」の文字。

(チューハイって、どれ?)

お酒に詳しくない。  

普段は缶チューハイくらいしか飲まない。  

こんなバーで何を頼めばいいのか、まったく分からなかった。

(確実だわ、わたし、早まった)

よちよち歩きの赤ん坊が、百メートルダッシュに挑むような無謀。

己の所業を、美咲は後悔していた。

しかし、後悔は後からやってくるもの。

覆水は盆には返らない。

(なんでもいいから、注文しよう)

「えっと……」

そのとき、隣の席から男性の声がした。

「迷ってるなら、俺と同じやつ、注文するか?」

驚いて横を見ると、背の高い男が立っていた。

年齢は、美咲よりも少し上に見える。  

黒いロングコートに、白いニットとジーンズ。

美咲のような会社帰りとは思えない、ラフなスタイル。

落ち着いた雰囲気だけど、目は鋭い。

でも、美咲を見る目は優しい。

「え……」

戸惑う美咲に、男は軽く笑った。

その笑い方が、どこか懐かしさを覚える。

「スプモーニ」

男性はバーテンダーに一言告げる。

酒の名前だろうと美咲にも想像はついたが、どんな酒かは分からない。

不慣れなことは自覚している。

女の一人のみの危うさも。

「どう? 初心者でも飲みやすいよ。強くないし」

誘いかけるような言葉に、美咲の胸の奥が、わずかに騒めいた。

美咲は居心地の悪さから、バーテンダーを見る。

この男の言っていることは本当か、と問うように。

「カンパリをグレープフルーツジュースとトニックウォーターで割ったものです。甘い物がお好みなら、カシスオレンジもおすすめですよ」

(カシスオレンジは……アレか)

以前、居酒屋で飲んで美味しくなかったことを美咲は思い出した。

(カンパリが何かは分からないけれど)

「いいえ……同じので」

男が何と言ったのかは思い出せなかったので、「同じの」で誤魔化した。

バーテンダーが頷き、タンブラーを二つ用意する。

氷を入れると、照明の琥珀色がグラスの中で乱反射した。  

氷が遊ぶように、カランと音を立てて崩れた。

(あれが、カンパリかな?)

バーテンダーが洒落た瓶をとって、グラスに注ぐ。

紅色の液体が同じ量。

対になったグラスの雰囲気に、美咲は少し落ち着かなくなる。

「変だよな」

不意うちのような男の声に、美咲は戸惑う。

美咲が横を見ると、男は美咲ではなく、バーテンダーの持っている紙パックを見ていた。

ラベルにはグレープフルーツ。

「なんでこういうところで見るジュースって、高級そうに見えるんだろう」

心底不思議そうに言うから、美咲はおかしくなった。

高級そうに見える、おそらく業務用でさほど高くはないグレープジュースが注がれて、グラスの中は淡いピンク色になる。

(女の子うけ、しそうだな)

美咲は隣の男を見る。

整った顔立ち。

コートの下も、シンプルな服装だからか、鍛えられた体躯だと分かる。

(慣れていそうな男)

男が美咲を見る。

美咲が見ていたことに気づいていたとでもいうように、浮かべている表情は嬉しそうで、余裕も見える。

「どうぞ」

ふたりの前に、グラスが二つ並ぶ。

男が手を伸ばさないから、美咲は先に手を伸ばした。

薄口のグラスに、割れやしないかと冷や冷やする不安をグッと抑えて、何でもない振りをしながらそっと口をつけた。

こわごわとしているように見えないことを祈りながら。

「美味しい……」

甘くて、飲みやすい。

でも、少しだけ苦いから、飲みやす過ぎない。

隣で男が微笑んだ。

「よかった」

その笑顔に、美咲の胸がまたざわついた。

(この感覚……久し振り、かも)

「俺は木崎司狼。あなたは?」

「……花邑美咲です」

「美咲さん、ね。いい名前だ」

名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねた。  

一年ぶりに感じた、ときめき。

(蒼太が死んだと知った日なのに……)

久し振りのときめきへの高揚感と、理由のない罪悪感。

美咲の胸の奥は胸の奥がざわざわと騒ぐ。

司狼は、美咲の表情を読み取ったように、不思議そうな表情をして、少しだけ首も傾げてみせた。

「何かあった?」

「……別に」

「嘘だね」

優しい声だった。  

責めるでもなく、踏み込むでもなく、ただ寄り添うような声。

「美咲さんって、普通の会社員だろ?」

(……普通)

普通じゃない会社員とは何かを美咲は考え、「ヤ」のつく自由業を思い浮かべた頭を振った。

「今日は月曜日、週の始まり。それなのにバーに来ている」

「いけないことでは、ないでしょう?」

「もちろん。でも、こういう不慣れな場所にきて、わざわざ飲むのはなんでかなーっと思うわけさ」

自分で言った通り、これはいけないことではない。

でも、自分に合わないことをしている自覚はあった。

図星をさされると、温和な人間も攻撃的になりやすい。

「ごめん。俺の悪いクセ、言い訳すると職業病なんだ」

「……職業病?」

首を傾げる美咲に、司狼はジャケットの内側から名刺入れを出した。

差し出された一枚に、美咲は視線を落とす。

「小説家……さん?」

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