เข้าสู่ระบบ司狼の声は落ち着いていたが、それに含まれた何かに美咲は思わずグラスを持つ手を止めた。
「……匂いで、覚えてる?」
「あるだろ」
司狼は淡々と言う。
「家の匂いで、懐かしさを感じたり」
「それは……ありますね」
祖母の家の、畳のにおい。
古い木のにおい。
夏になると、開け放たれていた窓から入ってきた湿った風のにおい。
美咲の頭の中に、幼い頃の記憶がふわりと浮かんだ。
「恋人も同じ」
司狼は氷を揺らしながら言った。
「香水とか、煙草とか、シャンプーとか……匂いは、記憶に残りやすい」
静かな声だった。
けれど、その言葉は妙に胸に引っかかった。
(なんで……)
美咲の喉が、わずかに締まる。
蒼太は煙草を吸っていた。
コーヒーもよく飲んでいた。
近づくと、いつもほんの少し苦い匂いがしたことを、美咲は思い出した。
「……思い出したのか?」
不意に司狼が言った。
美咲は驚いて顔を上げた。
「え?」
「さっきの顔」
司狼はグラスを傾けながら、美咲を見ていた。
「昔の恋人、思い出しただろ」
図星だった。
思わず言葉が詰まる。
「顔に出てた」
「そんなに分かりやすかったですか?」
「まあな」
司狼は肩をすくめた。
その態度は、おざなりのようであって、興味もあるようだった。
その興味が、美咲にはなぜか不快だった。
「……急に、恋愛の話ですか」
司狼が笑う。
「いま、恋愛小説を書いているから」
美咲は驚いた。
(恋愛小説……この人が?)
意外。
でも……。
(しっくりもくる……この人が恋愛しているところ、なんとなく想像がつく)
「……え?」
視界の端でさらりと司狼の髪が揺れたと思った瞬間、すぐ目の前に司狼の頭があった。
スンッ
鼻を鳴らす音に、美咲の体がビクッと震える。
「……なんですか」
「いや」
司狼は少し笑った。
「美咲さんは、いい匂いだ」
顔をあげて笑う司狼の、笑っていない男の目に美咲の心臓が跳ねる。
「心臓の音がここまで聞こえそうだけれど……警戒、してる?」
また、心臓が跳ねた。
「……して、ません」
「本当?」
「ちょっとだけ、してます」
美咲が正直に言うと、司狼の目が細くなった。
楽しそうだった。
「それより……」
「それより?」
「変わってるなとは思いますけど」
美咲の言葉に、司狼の目が大きくなり、その目も笑う。
「よく言われる」
「作家って変わってる人多いですから」
「フォローになってないよ」
司狼の言葉に、ふたりは顔を見合わせて、ふたりで同時に笑った。
「美咲……」
敬称なしの、呼び捨てに美咲の息が止まる。
「……さん」
かなり遅れてやってきた敬称に、美咲の喉から空気が漏れる。
「驚かせた?」
「……かなり」
「不快、だった?」
美咲は司狼を見た。
(……詐欺師)
聞き方と声は雨に濡れた子犬みたいなくせして、美咲に向けている顔には自信が垣間見える。
美咲が、満更でもないって分かっている表情だった。
「不快です」
「嘘つき。美咲、って呼んでいいか?」
「だめです」
「美咲」
(……ダメだって言ったのに、呼んでいるし……)
「あの……」
司狼の視線に、美咲の言葉が喉で止まった。
司狼は、美咲をじっと見る。
美咲は少しだけ落ち着かなくなった。
「……なんですか」
「いや」
司狼は静かに言った。
「美咲って、落ち着いてるなと思って」
「そうですか?」
(結構動揺していると思うのだけれど)
「こういうところ、不慣れなくせに」
「そんなこと……」
“ない”と反射的に否定しかけて、ここに来たばかりの、何を注文していいかも分からなかった状況を司狼に見られていたことを美咲は思い出した。
「……順応力が高いんです」
「へえ」
揶揄うような声音だったのに、そのあとを司狼は続けなかった。
ただ、美咲を見ている。
その視線に、少しだけ不思議な感覚があった。
観察されているような。
測られているような。
でも、不思議と嫌じゃない。
「美咲」
司狼が言った。
「もし」
「はい?」
「俺が、すごく変な奴だったら……どうする?」
美咲は少し笑った。
「どうしてほしいですか?」
「俺が、聞いている」
「私の答えに、意味がありますか?」
司狼の目が、わずかに見開かれた。
ほんの一瞬。
それから、ゆっくり笑った。
「……ないな」
司狼はグラスを持ち上げる。
氷が小さく音を立てた。
「よろしく」
改めた挨拶が、美咲には少しだけ意味深に聞こえた。
でも、美咲は気づかないふりをした。
バーの扉がまた開く。
カラン、とベルが鳴る。
司狼は、今度は入口を見なかった。
けれど美咲は、なぜか思った。
(きっとこの人は……)
誰かが入ってくることに、とっくに気づいていたんだろうな、と。
(根拠はないけど)
でも、そう思った。
そのとき。「ねえ」声がした。振り向くと、男が二人立っていた。さっきバーに入ってきた客だ。「さっきの店、いたよね?」酒の匂いがした。近い。「……はい」「一人?」もう一人が笑う。「彼氏と喧嘩?」美咲は首を振った。「違います」「じゃあ、ちょっと飲み直さない?」腕が伸びてくる。咄嗟に一歩下がった。「すみません、急いでるので」「いいじゃん」手首を掴まれる。その瞬間だった。 「離せ」低い声が落ちた。 男の手が止まる。美咲が顔を上げると、そこに司狼が立っていた。いつの間に。本当に、いつの間に。足音も、気配も、まったくなかった。「……なんだよ」男が舌打ちする。「彼氏?」司狼は答えなかった。ただ、美咲の手首を掴んでいる男の手を見ている。その視線は、冷たかった。「離せ」もう一度言う。声は静かだった。でも、なぜか空気が張り詰める。男が笑った。「何だよ、お前」次の瞬間。司狼の手が動いた。 男の腕が、あり得ない角度でひねり上げられる。「うっ……!」悲鳴が上がった。一瞬だった。本当に、一瞬。男の膝が折れる。「……な」もう一人の男が固まった。司狼の目が向く。その瞬間。男は一歩後ろに下がった。
美咲と司狼の前にあるグラスの氷は、静かに溶けきっていた。いつの間にか、店内の客は増えている。カウンターの端ではサラリーマンたちが笑い、奥のテーブルではカップルが肩を寄せ合っていた。それでも、美咲と司狼のあいだだけ、妙に静かな空気が流れていた。「……時間、大丈夫か?」司狼が腕時計を確認する。美咲もその言葉に、スマートフォンを確認した。「あ……」(もうこんな時間……)さっきも思ったより長居していると感じたのに、結局それからも長居して、思っていたよりここにいてしまった。「家は、近い?」「……比較的」(悪い人ではないと思うけれど……)警戒心から、美咲は家の場所をぼかした。それに対する司狼の反応は……。(また、この顔)美咲が正しい行動をして、それに満足しているような表情をその端正な顔に浮かべていた。「街灯がなくて暗いとか、人通りがないとかではないから、大丈夫か」司狼の言葉に、美咲は首を傾げた。「どうして?」「ここから比較的近いといったし、美咲はそういう危機管理はちゃんとしていそうだから」「……ありがとう、ございます」美咲は、反射的に鞄を抱きかかえた。その仕草に、司狼の顔に変な表情が浮かぶ。「木崎さ……」「防犯ブザーに、痴漢撃退スプレー?」「……え?」司狼の目が、美咲の鞄に向かう。確かに、司狼の言う通り、防犯ブザーと痴漢撃退スプレーが美咲の鞄に入っている。―― 夜一人で歩くんだから、このくらい持っておけ。鞄に入っているのは、そう言って蒼太が渡してきた防犯
ヤンデレ執着溺愛系の男にする予定で、過去に「仕事」で岡本蒼太は美咲以外の女性と関係をもったが、状の入り込まない100%仕事でのことだから蒼太自身には浮気という認識はなかった。美咲に泣かれたことで彼女を傷つけたことを知り、彼女を傷つけた自分は消して(死んだこと)にして、名前・顔・声・匂いまで変えて新たな男として美咲と出会う。今の自分が美咲に愛されれば満足なのだが、美咲がまだ思っている『蒼太』には嫉妬し、もっと愛されるために愛し方も独占欲も、司狼の愛し方はエスカレートしていく。美咲のほうも、蒼太を忘れられないから、どこか蒼太に似た司狼にひかれるのか、単にこれが自分の男の好みなのか分からず、蒼太が死んだということもあって何となく踏ん切りがつかないじれったさ有り。最終的には蒼太が司狼だと気づかれることなく、美咲が蒼太を忘れて司狼を完全に受け入れる話にしたい。第1~第4話までは先にあげた感じで、全体的に20万文字の作品にしたい。プロットを作ってすごく良いコンセプトです。 特に面白いのはこの構造です。「同一人物なのに三角関係」美咲蒼太(過去の男)司狼(現在の男)しかも司狼は蒼太なのに、蒼太に嫉妬する。これは ヤンデレ溺愛系ではかなり強い設定です。 この強みを最大化する **20万字構成(全体プロット)**を作ります。全体構造(20万文字)恋愛長編で安定する構造はこれです。部文字数内容第1部0~5万字出会い・違和感第2部5~10万字恋の加速・執着
司狼の声は落ち着いていたが、それに含まれた何かに美咲は思わずグラスを持つ手を止めた。「……匂いで、覚えてる?」「あるだろ」司狼は淡々と言う。「家の匂いで、懐かしさを感じたり」「それは……ありますね」祖母の家の、畳のにおい。古い木のにおい。夏になると、開け放たれていた窓から入ってきた湿った風のにおい。美咲の頭の中に、幼い頃の記憶がふわりと浮かんだ。「恋人も同じ」司狼は氷を揺らしながら言った。「香水とか、煙草とか、シャンプーとか……匂いは、記憶に残りやすい」静かな声だった。けれど、その言葉は妙に胸に引っかかった。(なん
「美咲さん」話ている途中で、司狼が美咲を呼んだ。そして、視線を美咲の向こうの空席に向ける。「悪いけど、席を変わってもらっていい?」「別にいいですけれど……」美咲は司狼の向こうの空席に向けて首を傾げたが、エアコンの風が気になっていたので了承した。(お店に入ったときは気にならなかったけれど、思ったよりも長居しちゃっている)美咲と司狼が席を代わったタイミングで、男性の二人組が店に入ってきた。大きな声に、少しだけ粗野な雰囲気。一人の目が自分に向いて、美咲は居心地の悪さを感じたが。「お二人様ですね」カウンターにいたバーテンが、司狼の向こうにある空きの二つの席を示したことで終わった。「タイミングが良かったですね」バーテンダーの言葉に美咲は頷き、安心したことで喉の渇きに気づき、ジンウーロンを一口飲んだ。「それにしてもお客さん、耳がいいですね」「そうですか?」司狼がバーテンダーの声に笑う。「先ほどから、扉が開く前に扉を見ているでしょう?」「階段を下りる足音が聞こえただけですよ」(そう、なの?)「ここの階段はタイル張りで、革靴やヒールの人は慎重に降りるから一歩の音が大きいんです」自分も滑らないように気をつけて降りたことを美咲も思い出した。「さすが、小説家さんですね」「ありがとうございます。ああ、ほら、また」司狼が扉に目を向けた。まだ扉は閉まっている。けれど司狼は、まるで誰かが来るのを知っているみたいに見ている。次の瞬間。カラン、とベルが鳴った。扉が開く。入ってきたのは、サラリーマン風の男性だった。何も聞こえなかった美咲は驚いた。でも司狼は何事もなかったようにグラスを口に運んでいる。「どうした?」「いえ…
バーのカウンターに座って、初対面の男性と向き合う。美咲の日常にはない異質さなのに、手には司狼から渡された名刺。そして反射的に、鞄を探って名刺入れを探している自分。薄暗い照明も、磨かれたカウンターも関係ない。氷の触れ合う音に低く流れるジャズはロマンチックだけれど、現実がしっかりと美咲を捕まえている感覚がした。「緊張が抜けた……」「え?」上から降ってくるような司狼の呟きに、美咲は司狼に目を向けた。(近い……)咄嗟に、美咲は司狼から距離を取る。(しまった……あからさま、だったかな)これでは、意識しているようだ。美咲は司狼の表情を確認しようと、ゆっくりと顔を向ける。そして、司狼の表情に戸惑った。「どうした?」「……いえ、何でも」(なに、この表情……まるで、私が正しい行動をして、それに満足しているみたい)美咲はグラスに視線を固定し、桃色の液体を見ている振りをしながら混乱をおさめる。美咲は、司狼の目的をナンパだと思っていた。(この見た目だし、自信はあったと思う)彼氏彼女とか恋人関係にない男と女が、ひょんなことから一晩抱き合うことはある。美咲に、その経験はない。ただ、死んだ元恋人に対する意味不明な罪悪感を払うために、ときめいた相手でもあるから司狼と一晩過ごすのも悪くないと思いかけた。そう、思いかけた。それを、司狼の意味不明な反応が、押し潰すように消した。まるで美咲が、自分も含めて、男に簡単に身を委ねることを許さないとでもいうような圧力。……いや。それだけではない。まるで――それでいい、と確認しているような顔だった。(この人……初対面よね……)見かけただけでも、覚えていそうな男だ。確かめるように隣に目を向ければ、司狼はグラスを指先でゆっくり回している。氷が静かに音を立てていた。「……なんです?」突然笑った司狼に、観察していた気まずさもあって、美咲の口からはやや険のある声が出た。「聞きたいことがあれば、言えよ」「……こういう店、よく来るんですか?」美咲が聞くと、司狼は笑う。それが本当に聞きたいことなのかと、揶揄うように問う司狼の目に美咲は気づかない振りをする。それにならったのか、司狼も美咲の聞いたことに素直に答えた。「あまり来ない」「それなら、今夜はなぜ?」美咲の問い掛けは、先ほど司狼が美咲に問うた