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第7話

ผู้เขียน: 酔夫人
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2026-03-08 11:00:44

美咲と司狼の前にあるグラスの氷は、静かに溶けきっていた。

いつの間にか、店内の客は増えている。

カウンターの端ではサラリーマンたちが笑い、奥のテーブルではカップルが肩を寄せ合っていた。

それでも、美咲と司狼のあいだだけ、妙に静かな空気が流れていた。

「……時間、大丈夫か?」

司狼が腕時計を確認する。

美咲もその言葉に、スマートフォンを確認した。

「あ……」

(もうこんな時間……)

さっきも思ったより長居していると感じたのに、結局それからも長居して、思っていたよりここにいてしまった。

「家は、近い?」

「……比較的」

(悪い人ではないと思うけれど……)

警戒心から、美咲は家の場所をぼかした。

それに対する司狼の反応は……。

(また、この顔)

美咲が正しい行動をして、それに満足しているような表情をその端正な顔に浮かべていた。

「街灯がなくて暗いとか、人通りがないとかではないから、大丈夫か」

司狼の言葉に、美咲は首を傾げた。

「どうして?」

「ここから比較的近いといったし、美咲はそういう危機管理はちゃんとしていそうだから」

「……ありがとう、ございます」

美咲は、反射的に鞄を抱きかかえた。

その仕草に、司狼の顔に変な表情が浮かぶ。

「木崎さ……」

「防犯ブザーに、痴漢撃退スプレー?」

「……え?」

司狼の目が、美咲の鞄に向かう。

確かに、司狼の言う通り、防犯ブザーと痴漢撃退スプレーが美咲の鞄に入っている。

―― 夜一人で歩くんだから、このくらい持っておけ。

鞄に入っているのは、そう言って蒼太が渡してきた防犯グッズ。

蒼太が魔改造したといって規格以上の音量にした防犯ブザーに、どうやって入手したのかも分からない外国製の強力な痴漢撃退スプレー。

「どうして……」

(知っているの?)

「俺が……美咲の父親なら、美咲みたいな美人な子が上京するって言ったときに絶対に持たせただろうからさ」

父親。

(てっきり……)

蒼太のことを言われると思っていた。

美咲の体から、力が抜けた。

「治安は、悪くないって言ったんですけれどね」

美咲は笑ったが、司狼はなにも答えなかった。

ただ、美咲を見ている。

その目が、さっきまでより少しだけ鋭い気がした。

「……本当に、送らなくていいのか?」

低い声だった。

提案ではなく、まるで確認のようだった。

美咲は少し困って笑った。

「そこまでしてもらう理由がないです」

「ある」

即答だった。

美咲が驚いていると、司狼は肩をすくめた。

「この間書き上げた話が、ミステリーだったんだ」

バーで隣に座った女が、その夜に殺されたという話。

「話の設定って……それ、理由付けとして万能すぎません?」

「便利だぞ」

冗談めかした司狼に、美咲は笑う。

司狼の顔は、さっきまでの剣呑な雰囲気が消え、一緒に飲み合っていたときの穏やかな表情に戻っていた。

だから美咲も、それ以上は深く考えなかった。

「……じゃあ、店の前までで」

「了解」

奢る、奢らないのやり取りをして、司狼が五千円、足りない分を美咲が払う形で会計を済ませた。

二人は店を出る。

地下のバーから地上へ上がる階段は、夜露のせいか、少し湿っているようだった。

改めて、夜も遅い時間だと気づかされる。

ひんやりした空気は、夜の街の匂いがした。

車の排気ガス、濡れたアスファルト、どこかの店から流れてくる油の匂い。

「寒いか?」

「いえ」

美咲が答えたときだった。

司狼の足が、ほんのわずかに止まった。

「……どうしました?」

「いや」

司狼は首を振る。

「何でもない」

でも、その視線は周囲を警戒し、探るようだった。

「木崎さんって、本当に小説家なんですか?」

美咲が聞いた。

「疑ってる?」

「ちょっと」

「なんで」

「雰囲気が……小説家っぽくないので」

言葉を探して、美咲は笑う。

「小説家“ぽい”って?」

「小説家って、もっと、静かな人を想像してました」

司狼は小さく笑った。

「俺も静かだろ」

「どこがですか」

「今さっきまで、美咲が話すまで俺は黙っていた」

(確かに会話は多くない。でもそれは静かというより……)

「気配が、落ち着きません」

「え?」

「何か気になっている様なので……なにか、あります?」

「……いや」

答えは短かったが、けれどその直後。

司狼がふっと厳しくなった。

「行ったほうがいい」

「え?」

ほんの少しだけど、突き放すような司狼の言葉に美咲は目を瞠った。

「明日も仕事だろう?」

「そう、ですけど」

「行け」

その言い方が少しだけ強かった。

美咲が戸惑っていると、司狼は息を吐いた。

「……悪い」

声を落とす。

「仕事の、せい」

「またそれですか」

「便利だろ」

笑顔だけど、美咲には作り物めいた。

そして、自分はここにいてはいけないと感じた。

「それじゃあ」

司狼が言う。

「気をつけて帰れよ」

「……はい」

美咲は軽く頭を下げた。

背中に、視線を感じながら歩き出した。

(あ、連絡先……名刺があるから、いいか)

そう思いつつも、少しだけ残念な気がした。

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