공유

社畜、ジョブチェンジ(前編)

작가:
last update 최신 업데이트: 2025-04-24 17:17:59

 ──翌日。

 わたしは、十年ぶりに朝寝坊をした。

 生家のベッドで起きると、スマホの画面には「10:00AM」の文字。

 どうしてスマホが使えるのかはわからないけど、眠いわたしは、あくにをし、寝癖のついた頭を掻いた。

 昨夜、魔王は言っていた。「子を産ませるためなら支援を惜しまない」……と。

 見回しているこの生家の寝室も、電話も、そのうちの一つなのだろう。

 とりあえず、わたしはこの魔界の〝国賓〟あるいは〝ふたりめのイブ〟らしい。

「……フフん」

 バックに世界の最高権力者である魔王がついているのだから、親方日の丸どころの話じゃない。

 ……とはいえ、のんべんだらりとしてもいられないか。

 わたしは魔王と、絵を描かない代わりに、婚活の契約を結んだ。

 その期限は、三年。

 ベッドを離れ、裏庭の縁側を兼ねた廊下に立つ。

 サッシの向こうに、テラスの裏庭と広い湖が見えた。

 この湖畔の生家は、魔王のちからで昨晩、地面から生えてきたものだ。

 昨夜は馬車でこの地に着いて、降ろされて、呆然と夜の湖を眺めていたら、地面から音を立てて見慣れた実家が生えてきたんだから、シンプルにたまげた。

 こうして朝の光のもとで眺めると、湖の浅瀬には、淡く睡蓮が広がっていて美しく、中ほどからは深いのか、ダークブルーの水面にさざなみが立っている。

 対岸には、小さな森が見える。

 さらに彼方には王都の尖塔が小さく霞んで見える。

 湖のほとりに生えたおかげで、良い感じに借景を得たこの廊下からの景色が、何度見ても新鮮だ。

 室内を振り返ると、祖母のいた床の間に、なぜだかわたしが三茶のマンションに置いてきたシングルベッドがある。

 3LDKの平屋建は、二十年以上も前に火事で失った生家の間取りそのもの。

 一人暮らしには広すぎるが、昨夜は魔王が、「そのうち子供も生まれることだし」と、急に姑めいたことを言い出して結局、押し切られた。

 床の間の右隣は、テレビを置いていた和室。

 廊下の突き当たりに、台所。反対側の突き当たりには、バランス釜のお風呂。

 となると、いちばん北の洋間には、廊下を挟んだ父のアトリエがあるはず。

 この蘇った生家が、火事になる直前の状態を再現したものだとしたら、アトリエには、小学生のわたしが描いた絵が、そのままのはず。

 わたしは、洋間へとつながるドアノブに、手をかけた。

 心臓が嫌な鼓動を打つ。

 やっぱり、アトリエに入ろうとすると…… 溺れるような息苦しさを覚える。

 そして、水の中で炎に巻かれるような、そんな幻視に目がくらんだ。

 でも歯を食いしばる。

 確かめておかねばならないことがある。

 そっと、わたしは洋間のドアを開けた。

 そこから覗く洋間には、天窓からの明かりを浴びるイーゼルが、フローリングの中央で画板の背中を乗せている。

 ──わたしは、ドアを閉めた。

 そのまま閉めたドアにもたれ、息を荒げる。

 冷たく乾燥したアトリエの、時間の止まった匂いに、目が回ったわけじゃない。

 それでも呼吸は、鼓動と共に乱れている。

 記憶が、この廊下を炎で包む。

 でも、イーゼルとボードが向こうを見ていた……

 額の汗を拭う。

 たしかにこの家は、あの日のままだった。

 外にあって、夜なんかは怖かった和式トイレが、屋内に移って洋式のウオシュレットになっていた。

 水を流して、わたしは出る。

 そこらへんのリフォームが、魔王って、妙に気が利いてるんだよな。

 わたしは喉元に残るムカムカ感に手をあてながら、廊下で洗面台に向かう。

 ……ほんとに魔法って不思議だ。

 戸建てを一瞬で生やすその仕組みは皆目わからないが、魔王の魔力と、仕事の速さは確かだ。

 睡蓮の湖にまた、しばしみとれて、心を落ち着けた。

 うがいのついでに、歯を磨く。

 火事の時、なくしたはずのクマのプラスチックカップを手に、眺める。

 絵を描くか、結婚して子供を産み育てるか。

 そのどちらかが、この魔界での、わたしの新しい仕事だ。

 

 魔王は、その仕事の報酬として、わたしがひと月で溜めた〝正のエネルギー〟の量に応じた金額を出す、と言った。

 月末締めの十日払い。

 今日は二十日だから、今月分は日払いだけど、ここの家賃は全額無料だから、住む場所には困らないだろう。

 しかもどういうわけか、電気代ほか、光熱費はかからないと言う。

 これは地味に助かる。

 けれど、この報酬制度、実は完全出来高制というところが、たぶん、みそだ。

 わたしが正のエネルギーを集めようとせず日々をダラダラ過ごしていると、ふつうに給料日がギャグになりかねない。

 洗面台のコップの中で、魔王がチラついて見えて、流して捨てた。

「まったく。今度の上司はよくできた経営者ね……」

 社畜の放牧を心得ていらっしゃる……。

 しかも、魔王は、婚活にペナルティまで付けてきた。

『……三年だ。この魔界時間で三年がすぎるまでに成婚相手をみつけなければ、ミイラとなったこの岸部ハルトを蘇生させる』

 その上で、強引にでもハルトとわたしを、結びつけるとも……。

 以上の状況証拠から思うに、あの魔王、わたしが絵も描かず結婚もせず、この世界で寿命まで、ニートをして逃げ切ることを許さない気なのだろう。

「やれやれ……」

 わたしの人生、異世界に来てまでも、ハルトと仕事が着いてくる……

「はぁー。」

 まさか、結婚が仕事になるとは、思わなかった。

 わたしは、スエットのお尻を掻きながら寝室へ向かった。

이 책을 계속 무료로 읽어보세요.
QR 코드를 스캔하여 앱을 다운로드하세요

최신 챕터

  • 異世界マッチング❗️社畜OLは魔界で婚活します❗️   温かさ

     ──外は夕暮れだった。 台所のシンクには、大小の皿が水に浸されている。 和室では、塗り絵の上でアオがすうすうと寝息を立てていて、お腹に、タオルをかけてやる。 わたしは縁側に出た。 ヒコさんがいた。夕焼けを見ている。 その横に腰をおろすと、少し心強い気がした。 わたしはマグカップを手にした彼に言う。「おかわりはどう」 ヒコは首を横に振った。「ありがとう、もう大丈夫」 しばしの沈黙。 風が、湖と頬をなでる。 ヒコがぽつりとつぶやいた。「そうか……。るんちゃんのこの家には、そんな悲しい思い出があったんだ」 わたしは頷いた。 だから魔界に来たとき、魔王の馬車で、この湖のほとりに着いた時、びっくりした。 ほんとうに息が止まった。 うれしいのか、嬉しくないのか、正直、混乱して分からなかった。 この家が建っているのを見て、心底びっくりしたのだ。 焼けて、焦げた柱だけになった家が。むかしの姿で、そこにあったから。 わたしはおもわず、いそいで家に駆け込んだ。 そして父を呼び、家中をさがして回った。 和室にも寝室にもいなくて、意を決して、手を触れた洋間のドアノブにも、父の姿は無かった。 アトリエの天窓から光がさしこんでいて、イーゼルの上でキャンバスが、背中を向けていた。 大雨が降り、深夜に火が出た、あの夜のまま。 父を驚かせたくて、わたしが水差しを描いたキャンバス。 つまり、魔王は、この家が出火するほんの少し前に時計を巻き戻して、そっくりそのまま、この湖のほとりに再現したのだ。 わたしは唇を噛んだ。 この家を復活させるのと、父を復

  • 異世界マッチング❗️社畜OLは魔界で婚活します❗️   漏電

     わたしも頭にタオルを巻いて、天袋の隙間に入っていく。 ヒコさんが手を引いてくれた。 屋根裏は、ランタンモードに切り替えた彼の懐中電灯が、ぽうっと全体的に照らしている。 埃っぽいかと思っていたが、それほどでもない。 むしろ空気が冷たい。 時間が止まっていた空間の匂いだ。 アトリエとも違う、人がそもそも入らない空間の、眠っていたようなにおいだ。 アオを肩に乗せ、懐中電灯を手に、わたしはヒコの指さす先に光を向けた。 梁の上を、電気の配線が走っている。「……危険な箇所って、あの配線のこと?」「うん。黒い配線の真ん中あたりを見てみて」 私は目を凝らした。「カバーが破れてるだろ」 ヒコの声が、いつになく低く、真剣だ。 言われてよく見ると、太めの配線の黒いビニール外装《カバー》が、ほつれたようにあちこちで剥がれている。 中から赤色っぽい金属の反射が覗いている。「あそこで銅線が剥き出しになっているんだ」「──どうして…… 勝手に、電気コードが破れることなんてある?」 なんか怖い。それこそ誰かが屋根裏に忍びこんで、配線のカバーを剥いていったなんて思ったら、寒気がしてきた。「……まさか、コウモリが?」 つぶやくと、ヒコさんが言った。「いや。ネズミが齧《かじ》ったんだと思う」 わたしは思わず反芻する。「ネズミ!?」「そう。ネズミが前歯でかじったんだよ。あいつら歯が伸びるだろ。だから伸びすぎると、柱だって壁だって、なんでも齧るんだ。ムズムズしてさ」「だからって……配線までかじるものなの?」 普通にビリッてしないのかな……「するかもねぇ。でもアイツらには木も枝も電線も関係ないからなぁ……。──あとほら、こんどは上を

  • 異世界マッチング❗️社畜OLは魔界で婚活します❗️   屋根裏探検隊、なんだかえらいものを発見したらしいです

     点呼をとる声が、和室に響く。「番号、イチ!」「にっ!」 ヒコさんとアオだ。(ふたりしか居ないのに、点呼、いる?)「持ち物確認! 懐中電灯、ヨシッ!「お菓子、ヨシ!」 おやつ持ってくんかい…… ついつい平たい目で突っ込んでいるけれど、男の子って楽しそうよね……。 と言うのも、このふたり、これから天井裏に大冒険なのだが、いい大人と子供が目を輝かせながら押入れの天袋へとよじ登っていくその背中を、わたしはお尻のポケットに気になる手紙を入れたまま見送った。(……やっと読める) そう内心で思っているものの、彼らは別に遊びにだけ行くわけじゃない。 屋根に穴が開いているかもしれず、チェックに行ってくれるのだ。「いってらっしゃい、ご安全に〜!」 いちおう、それっぽく、笑顔で手を振る。 ずらした板の中へと、ふたりは屋根裏に消えていった。 ──さて。 ……わたしは息を吐き、いそいそと、さっきお尻のポケットにねじ込んだ封筒を取り出す。子供が寝た後に、って感じだ。(ああ、もう、ドキドキする!) 縁側テラスに小走りする。 湖の上では、空が晴れ渡り、わたしは封筒を鼻先をあてる。 ヒコさんじゃないけれど、森の匂いに、マヌルの背中が思い浮かぶ。 ほのかな心音のぬくもりに、浸っていたかった。 だが、そこに、あのヒコの顔が重なる。「──!」 うっかりまた心臓が跳ね上がった。 淡い封筒からの波長を、犬の濡れた鼻先が上書きしてしまったようだ。 廊下の壁に手をついて、うなだれる。 動悸が止まらない。 ──くそう、あの無自覚イケメン犬め……! 距離感バグってるヒコの、目を閉じたあの顔が

  • 異世界マッチング❗️社畜OLは魔界で婚活します❗️   ヒコがジェラシー?

    玄関側に回ると、オークの姉さんが笑顔で手を振っていた。 「こんちは、調子はどう?」 わたしも自然と笑顔になれた。 「おかげさまで、なんかスッキリです」 オーク姉さんは、おなじみの荷車から小包をひとつ取り出しながら、「まずはいつものね」と言った。 「伯爵も懲りない人よねえ」 まとめて送り返したのに、また吸血鬼からのプレゼントだ。 「すみません、今日から受け取り拒否で……」と、わたしはサインしながら、申し訳なくて口をへの字にした。 「でも持ってきてもらってこれだと、お姉さんもストレスになるでしょ……」 オーク姉さんは笑ってくれる 「そんなことないよ、ちゃんと料金は向こうから発生しているからね。そこはご心配なく」 そして彼女は、「で、今日はもう一つあるのね」と、一通の封筒を取り出した。 受け取った封筒の裏面に、わたしの目は思わず輝いた。 差出人に、〝フクロウの森のマヌル〟とある。 やっぱり、マヌルの返事だ!…… 姉さんは、「よかったわね!」と、満面の笑みを残して荷車を引き、去っていった。 * * * 裏庭の湖が、きらきらと揺れている。 縁側のテラスで、わたしは左右を見回し、背後まで確認し、念のため見上げて軒先をチェックする。コウモリもいない。 ──よし。 そして、封筒を手に、ハサミを握る。 マヌルさんが書いたのであろう文字で、〝睡蓮の湖の相川〟と宛先がしてある。字を見つめているだけで、なんだが胸が波立つ。

  • 異世界マッチング❗️社畜OLは魔界で婚活します❗️   らくがきだけどね♪

    ──翌日、昼過ぎ。 ぽかぽかとした春の光の中で、ヒコさんが訪ねてきた。 彼は、わたしがテラスでチラシの裏に落書きをしていることに驚いた。 「……絵、描けるようになったの?!」 わたしは、はにかんだ。絵というほどのものではないけれど…… 「えへへ、そうなんですよ」 描いていたのは、昨夜のアオがコウモリに食いつこうとした顛末の四コマ漫画だ。 線もヨレヨレだし、下書きも無しの一発描きで、楽しいから描いただけのものだ。 「──ははは! たしかにあいつ、コウモリとか食べそうだ」 でも、ヒコさんには、このとおり好評で良かった。 チャリン……、と、懐のポケットでアプリの通知音がした。 そう。わたしは発見したのだ。こんなラクガキでも正のエネルギーが貯まるのだと言うことを……! 「面白かったよ、また描いたら見せてね」 すると、チャリン……と、またスマホが鳴った。 「なんの音?」と、ヒコさんは興味深そうだった。 「ええと…… なんていうか、仕事、みたいなものかな?」 わたしは誤魔化した。 それにしても、四コマでも人に絵を見せたからポイントが加算になったのだろうか。わたしは少し考え込んだ。……いや、反応が返ってきたことに、わたしの心が嬉しかったからだろうか。 わたしの横で、ちょっと離れてヒコさんがあくびをしながら、「おれも座っていい?」と、縁側に腰掛けた。 「朝から王都に仕事行ってきた帰りなんだ」 「大工さんのお仕事?」 「んにゃ。きょうは魔王さまの王宮で、庭師さ」 ……とっさにピンと来なくて、私

  • 異世界マッチング❗️社畜OLは魔界で婚活します❗️   生のコウモリは食べないで!

    今夜は、サラダと煮っ転がし。 ヒコさんにも食べていけばと誘ったが、なんだか明日は早いらしい。 ものすごく残念そうに、肩と尻尾を落として帰って行った。 だから今夜は簡単に、タコをサトイモと煮た。 魔界にも醤油があるのが微妙に嬉しい。 わたしはエプロンをかけ、トマトを切っている。 こうして、夕暮れどきに夕飯を作る生活にも、だいぶ慣れてきた。 時計を見るとまだ十八時。 社畜だった頃は、この時間だと、追加の残業が降ってくることにイライラしていたはずだ。 背後では、アオが塗り絵をしている。 クレパスがテーブルの上でカツカツと踊る音がしている。 「それで、絵葉書にはなんて書いたのさ?」 「んー、なんてことは書いてないよ。今度はうちに遊びにきてください。一緒に湖を見ましょう、って」 それでダメなら、何を言ってももうダメってことだろう。 レタスを洗いながら、わたしは答える。 アオが手を止めて、ちょっとためるように言った。 「……一緒に、って、ぼくもいっしょにってことだよね?」 かわいいけど、めんどくさいスライムだな…… わたしはレタスの葉をちぎりながら言った。 「まぁ、そういうことになるね。でもお利口さんにするんだよ」 アオは勝ち誇ったような顔をしてるんだろうな。 言わなくても分かる。クレパスの音が楽しそうに変化している。

더보기
좋은 소설을 무료로 찾아 읽어보세요
GoodNovel 앱에서 수많은 인기 소설을 무료로 즐기세요! 마음에 드는 책을 다운로드하고, 언제 어디서나 편하게 읽을 수 있습니다
앱에서 책을 무료로 읽어보세요
앱에서 읽으려면 QR 코드를 스캔하세요.
DMCA.com Protection Status