Se connecter気付けば涙が溢れ、子どものように嗚咽していた。
ミコトはなにか考えている様子だったが、意を決したように頬を優しく撫でてきた。
「急を要することだ。恥ずかしいだろうけど、ちょっと我慢してね」
彼の影が視界を覆う。チャックを下ろされ、ぐずぐずに溶けた性器を引っ張り出された。
「嫌だ……っ」
口では拒否するものの、擦ってほしくて腰を突き出してしまう。体と心が乖離する。
白衣や脚に絡まるズボンを脱ぎ捨て、ミコトの手から与えられる刺激を強請った。
男相手にあられもない姿を晒している。信じたくないのに、心は快楽の鎖で縛られている。
ミコトのことは、顔と名前以外何も知らない。だからこの切望は全て薬によるものだ。ずっと抱き締めてほしいなんて気持ちも、全て偽りのもの。
けど、表情も口付けも、頭を撫でる手も怖いぐらい優しい。勘違いに決まってるのに、自惚れてしまいそうになる。
「待っ……て、怖い……っ」
「大丈夫。気持ちいいか、気持ちよくないかだけ教えて」
耳元で二択を迫られ、必死に呼吸した。
答えないとこの苦しみは終わらない。そう思ったら、繰り返し頷いていた。
「いい。気持ち……いい……っ」
ミコトの舌は熱く、柔らかい。絶頂に上りつめる為に無我夢中で腰を振った。彼を離したくなかった。
綺麗な唇が、また弧を描く。
「いい子だ」
先っぽを指で苛められ、派手に仰け反った。頭と背中を少し打ったが、強烈な愛撫にいっぱいいっぱいで痛みなんて感じなかった。
「まさかここまで効果が強いとは。……やっぱり不思議な子だ」
掠れた独白が耳に残っていた。
それから先はただ天井を見上げながら、ミコトの尋問に答えた。疲労困憊のせいか記憶は朧気で、正直ほとんど覚えてない。
薬に関すること以外も訊かれた気がするけど……。
もう何回もイッてるのに、全然解放してもらえない。ミコトのシャツを掴み過ぎてぐしゃぐしゃにしてしまった。はだけた胸に甘噛みし、腰を彼の太腿に押し付ける。
「ミコト、さん……」
初めて呼んだ名前。胸の奥がずきっとして、抱き着いた。
怖い。苦しい、寂しい────。
唾液が零れた口元を、優しく舐め取られる。
「……お願い、します。離さないで……ずっと……!」
馬鹿げた台詞だ。普段の自分が聞いたら、発狂して崖から飛び降りるだろう。
自己嫌悪に駆られながらキスを求める。てっきり笑い飛ばされると思ったのに、彼は何故か真剣な顔で、苦しそうに息をしていた。
何故か、その姿があの人と重なる。
「先……生……っ」
不意に零れた言葉。それを聞くと、ミコトはハッとして手を止めた。
「……君……?」
涙でぐしゃぐしゃになった俺の顔を指でぬぐい、深く息をつく。
そして、自身に言い聞かせるかのように囁いた。
「分かった、約束する。……ずっと一緒にいると」
◇
冥々とした闇の中を彷徨い歩いている。
不安も恐怖も、喜びも驚きもない。限りなく「死」に近い状態。
暗くて寒い。
「た……」
助けて。中都先生。
「……っ!!」
息苦しさから逃れるように目を覚ました。心臓はドクドクと爆音を鳴らしている。
見慣れない白の天井を見つめながら、少しずつ呼吸を整えた。
「はー……」
汗でぬれた額を袖で拭い、レアルゼは息をついた。
あれ、そういえば変だ。地下はいつも真っ暗なのに、何で明るいんだろう。
数回瞬きした後、寝返りを打って絶叫する。
「うわああぁぁ!」
「わっ、びっくりした。大丈夫? どうしたの?」
「ど、どど、どうって……どうして一緒に寝てるんですか!」
「ごめんごめん。綺麗なベッドがここしかなかったから」
隣ではミコトが横になっていた。驚くレアルゼとは対照的に、眠そうに瞼を擦っている。
聞けばここはミコトの家。昨夜気を失った俺を運んできたと言う。
監視の必要もあった為、同じベッドで寝ていたらしいが、
「いや、何で服着てないんですか!」
ミコトは全裸だった。そういう人もいると聞いたことはあるけど、赤の他人の隣でフルチンになる奴がどこの世界にいるんだろう。
いや……いたか。このクレイジーな世界に。
最大限端に寄って警戒すると、ミコトは薄く笑い、レアルゼの下半身を指さした。
「ごめんごめん。ちなみに君も何も履いてないけどね?」
「え? ……うわっ何で!?」
羞恥心から半泣きで布団を身体に巻き付ける。
「い、いつから? まさか研究室からこの状態で運び出したわけじゃないですよね!?」
青ざめながら尋ねると、彼は和やかに笑った。
「初々しい反応で良いなぁ。下はここで脱がせたから安心して。ぐしょぐしょだったから洗濯してるよ」
礼を言うべきか。いや、それもちょっと違うような……。
色々変だ。体内にまだ薬が残っているのか、彼を見てるとくらくらする。
しかもいきなり腕を掴まれ、見下されてしまう。
「わ! やだ、離れてください!」
「その台詞は傷つくね。心配しなくても痛いことはしないから、じっとしなさい」
「いやいや信じられない! 警察呼んください!」
「俺が警察だよ。大丈夫だから落ち着いて」
突然距離を詰めてきたミコトに、尋常ではない恐怖を覚える。
だが後ろが壁の為、あっという間に追い詰められてしまった。
昨日は今日の昔という言葉が思い浮かんだ。桜の花びらを見ると改めて痛感する。誰にも言えない体験をしたことは、薄れはしても消え去ることはない。まだ少しチョークの跡が残ってる黒板に触れ、瞼を開ける。窮屈なネクタイを外し、御代は誰もいない教室を後にした。時間の大切さは分かっていたつもりなのだが、この世界に戻ってからは光の速さで日々が流れた。コンクールや入試はともかく、卒業式なんて体感的には十五分だった。今は廊下の窓から、校門に集まっている卒業生達を眺めている。保護者と一緒に帰る者、後輩に囲まれる者、友人と遊びに行く者。皆これから大きな世界へ飛び込んでいく。後輩達から貰った色紙を鞄に仕舞い、階段を降りる。壁にかかった姿見に映る自分は、なんてことない黒髪の青年だった。……いや、それも違うか。世界でひとりだけ。ありふれてるけどここにしかいない、唯一無二の存在だ。眼鏡を外し、昇降口を抜けた。青い空に舞う桜を見上げながら、ふと、自分の髪に触れた青年のことを思い出していた。「現状維持は最悪の選択……か」腕を組み、うーん、と首を捻る。俺は不変大好き人間だから現状維持が最善だと思ってしまう方だ。でも、こと恋愛に関しては違うのかな。お節介で優しいカミサマの言うことは忘れないでおこう。「御代!」校門に続く道に入ると、後ろから名前を呼ばれた。振り向くと、そこには息を切らした中都先生がいた。「連絡したんだけど、見てないな……?」「え? あ、ほんとだ。すみません」スマホを開くと、先生から今どこにいる? とメッセージが届いていた。朝からずっとミュートにしていたから気付かなかった。「あはは、でも会えて良かったです。先生、今日は忙しいのかなって思って」「気遣いありがと。でもどんなに忙しくても時間はつくるさ。大切な日なんだから」先生は呼吸を整えると、ゆっくりこちらへやって来た。「お前とここで会えるのは最後か。寂しいな」「寂しいですねー」「何か軽くないか?」「いや、寂しいですよ!」はい。実は、来たる大学生活の方に俄然気持ちが入ってる。なんて正直に言ったら絶対ど突かれるから隠しておこう。中都先生は訝しげに見つめてきたが、やがて笑いながら自身の腰に手を当てた。「はは。ごめんな。白状すると、俺はこの日をずっと待ってた」寂しいのは本当だけど。と、目の
死後の世界に来てしまった以上は、死んだも同然じゃないか。不安が頭をよぎったけど、今はただ信じるしかない。世界で一番大好きな人を。自分の決意を。やり直すというのは、それまで築き上げた過去をボロボロに叩き割る行為なのだ。それは楽だけど、とても哀しい。神様はずっと俺の恋愛を応援してくれていた。そう自惚れてもいいんだろうか。「……御代さん? 御代さん、聞こえますか?」深い水底から引き上げられるように、意識が鮮明になっていく。重たい瞼を開けると、見慣れない天井が広がっていた。傍には医療機器があり、白い服を着た女性が驚きながらこちらを見下ろしている。「ちょっと、先生に連絡して。あぁ、良かった……」驚きながらも胸を撫で下ろす彼女を見ながら、頭を横に向ける。見れば病室のような場所で、窓の外は雲一つない青空が映っていた。「生きてる。本当に……」片手を上げ、掠れた声で呟く。自分の本当の名前を呼びかけられて、現実に帰ってこられたのだと理解した。全身が痛いし、起き上がる気力もないけど、今なら迷いなく言える。 生きてるって、すごい。涙が零れるほど感動してるのに、頭に浮かんだ言葉は最高に薄っぺらかった。でも、これ以上なく満たされている。俺はまた、改めて生きる力を貰えたんだ。少しして担当の先生や家族、友人が代わる代わるやってきた。驚いたのは、俺が眠っていた期間は三日だけということ。向こうでは半年以上いたから、告白もとてつもなく遠い過去のように思えた。意外にも、父は無事に俺が目覚めたことで安堵していた。目元は腫れていて、親戚に声を掛けられるまで傍にいてくれた。階段から落ちた経緯を伝えてないから、何か申し訳ないな。幸い外傷は大したことはなくて、脳機能も今のところ問題はない。何事もなければ、週末には退院していいと言われた。病室から誰もいなくなった夕暮れ時。真っ白な廊下をゆっくり進み、目的の部屋を探した。そこは個室だったが、患者の名前を見た後もしばらく佇んだ。何を言うか定まらないまま、ドアをノックする。心臓は破裂しそうなほど大きな音を立てていた。わ。俺ってやっぱチキンだ……。嬉しいはずなのに、怖い、という感情の方が沸き立つ。必死に呼吸を整えようとしてると、「はい」という低い声が聞こえた。「……失礼します」引き戸を開けて、最奥のベッドに視線を向け
腕を掴む力は痛いぐらい強くて、振り払うことができない。雨に打たれ、うなじにかかる温かい吐息を感じていた。「……何が大丈夫なんですか。全っ然大丈夫じゃない」ここまでくると、彼の優しさもおかしく思えた。乾いた笑いを込め、足元の河に沈んだ街を見つめる。「全部思い出した。俺死んだんだろ? 先生も、俺のせいで……!」感情のまま叫ぶと、彼は驚いた顔を浮かべた。迷いながらも手を離し、俺を正面に振り向かせる。「それは違う。俺のせいでお前は階段から落ちた。俺がお前を助けられなかったんだ」どっちが悪いかは明白だろ、と彼は続ける。でもきっかけは全部俺にある。謝っても謝りきれない。ただでさえ悪い視界がぐにゃぐにゃにうねっていく。多分、ずっと泣いてるせいだ。嗚咽しながら、途切れ途切れでも言葉を紡いだ。どうしたらいい。何が正解なんだ。「俺……先生にフラれること分かってた。なのに勝手に傷ついて、階段から落ちたりして。こんなことになるなら告白しなければ良かった。本当に、本当にごめんなさい……っ!!」足元の水位は上がっていた。それでも構わず、床に両膝をつける。「大丈夫」先生は俺と同じ位置まで屈み、破顔した。「俺にも謝らせてくれよ、御代。お前の言う通り、俺はこの世界でたくさん隠し事をしてたんだから」彼は人差し指を俺の唇に当てる。もうどうしたらいいのか分からなかったので、大人しく彼の話に耳を傾けた。「俺は確かに階段から落ちた記憶があるから、ここがあの世だってことは最初から気付いてた」そして、必ず俺も一緒に来ていると。「大丈夫だって。あの世にいる神様は優しいんだ。俺達の記憶を保ったまま魂を繋ぎ止めてくれたんだから」「……繋ぎ……止める?」「そう」御代のぬれた前髪を持ち上げ、中都は自身の額を擦り合わせた。「安心しろ。俺達は死んだわけじゃない」真っ暗だった世界に、光芒が見えた。しかし納得いかない部分もあり、慌ててかぶりを振る。「で、でもここはあの世だって」「あぁ。だから、まだ死んでない……って感じかな。生死の境を彷徨ってるのは確かだ」聞けば聞くほど混乱して、立ち尽くす。すると彼は俺の手を取り、微笑んだ。「お前は、告白をやり直したいと思ったんだろう? だから神様は、俺達にチャンスをくれたんだ」現実で目を覚ます前に。そう言い、中都は御代を抱き起こした
知っているのは、先生のことだけ。でもその先生のことすら信じられなくなってしまった。途端に全てが歪み出した。ここに居場所はないと告げるように、道が狭まっていく。一目散に走り出す。何から逃げているのかも分からないが、とにかくここから離れたいと思った。やり直す機会を与えられたのに、それすらもやり直したいと思った。この崩壊はその代償だと気付けなかった。次第に雨も降り、地面を叩きつける豪雨に変わる。建物を挟んだ道は瞬く間に川となり、腰の当たりまで達した。このペースで雨量が増えたら、本当に溺れる。「何だよ……俺が何したって言うんだよ……!」恐怖はやり場のない怒りに変わり、怒りは哀しみに変わる。こんな目に遭う筋合いはない。現実世界では普通に生きて、普通に暮らしてただけだ。それとも本当は罪深いことでもしていたのだろうか。ずぶぬれになりながら、重たい一歩を踏み出す。夜のような暗さ。凄まじい水音。足をとられないよう何とか建物の扉に辿り着き、中へ入った。階段を上り、最上階を目指す。命からがら屋上へ出て、目の前に広がる景色を見つめた。────河ができている。何故か、ここはいつか誰もが行き着く場所だと思った。異世界なんかじゃない。あの世の一歩手前にある場所。「何で……?」あの世とこの世の境にある、河の畔。ここには死者しかいない。行く手を阻む見えない桎梏が、押し殺していた記憶の箱を開けた。『……ごめんな、御代。気持ちは嬉しい。けど』放課後、学校の渡り廊下で告白した。中都先生は熱でもあるかのように頬を赤くしながら、辛そうにかぶりをふった。フラれた。考えるまでもなく分かっていたけど、それなりにショックだったのだろう。彼の返答に頷いてる最中、立ちくらみを覚えた。『ですよね。あは……変なこと言ってごめんなさい』窓を貫く夕陽の光が、俺の胸も突き刺している。真っ赤で、血を噴き出してるように。ああ、やり直したい。欲しいものはあっても、ねだったことは一度もなかった。欲がないことを本当に感謝した人生だけど、中都先生と出逢って全てがひっくり返ってしまったんだ。襟元に落ちる雫に気付いて、驚いた。本当の本当に、彼が好きで仕方なかったのだと。『あ……明日からは普通にします。ので、今まで通り接してもらえると嬉しいです。部活もあるし』『あぁ。それは、もちろん』掠れ
先生はああ言ってくれたけど。自分が抱えているのは、いつかは報われる恋なんだろうか。「やり直したいな」ぽつりと零した。先生に告白した時に強く願ったこと。「……っ?」その言葉を口にした直後、雲が黒くうねりだした。嵐でも来そうな空に、胸がざわざわする。御代は白衣を羽織り直し、館の屋上階で洗濯物を取り込んだ。この世界に来てから一ヶ月近くが経った。地下施設から出た後は毎日が晴天だった為、こんな天気は初めてだ。独りでいるのが嫌で、足は自然と彼の部屋へ向かった。「中都先生? 雨が降りそうなので、洗濯物取り込んでおきました。中で干しておきますね」「あぁ。ありがとう、御代」書斎で書き物をしていた中都は、慌てて振り返った。正体は別世界の人間でも、やはり仕事はしないといけない。今日も忙しそう……。先生は目的を達していると言うし、もう現実に戻っていい。戻る手はずも整っていると教えてくれた。それを一旦断ったのは御代だ。何故だか怖かった。こんな得体の知れない場所にいる方が恐ろしいのに、いざ帰ると思うと足がすくむ。このまま中都とこの世界で暮らした方が幸せなんじゃないか。( そんなわけないだろ…… )ここは自分達のいるべき場所ではない。分かってるのに、急に例えようのない不安に襲われた。進路はどうなるだろう。父は、俺が消えて良かったと思ってるかもしれない。ただの教師と生徒に戻り、中都先生とは距離が遠のくだけ……。良いことって一つもなくないか?ここにずっと留まっていたい。そう言ったら、先生はどんな反応をするだろう。「御代? どうした」「っ!」ぼーっとしていたせいで、彼が近付いてきたことに気付けなかった。不意に額に手を与えられ、ビクっと震えてしまう。「顔色が悪いぞ。気分は?」「あ……すみません。大丈夫です」しどろもどろになりながら、彼の手から逃げる。そして白衣の裾をぎゅっと掴んだ。「先生。この世界に来る直前のこと、覚えてますか?」「急にどうした?」「全然思い出せないので。先生に告白した後のこと。……家に帰った記憶がないんです」ため息まじりに肩を落とす。すると先生の顔は曇った。しかしそれは本当に一瞬のことで、よく見る前に頭をぐしゃぐしゃ撫でられた。「そっか。……そうだったんだな」「…………っ?」先生は少し苦しそうに頷いている。ますま
押し殺さないといけない願望が、水面のすぐそこまで上がってきている。顔を出す前に突き放さないと。だが、御代はゆっくり首を横に振った。「偶然でもいいし、気まぐれでもいい。それでも俺は救われたんだから……それが全てじゃないですか」 それ以上の理由を求められても困る。むしろ、恋愛ってそういうものじゃないか。御代は可笑しそうに、そう言った。 「仲良くないけど何か気になるとか、気付いたら好きになってたとか。他人からすれば中身ゼロの理由ですけど、そんな始まりのカップルは星の数ほどいます。俺は、きっかけよりもその後の方が大事なんじゃないかと思うんです」「……」 正直、少し驚いていた。昔から御代は自分といる時は特に多弁だったが、ここまで自分の意見を伝えてきたのは初めてだ。無理に明るく振舞おうとしていた時とも違う。純粋に、中都に惹かれた理由を話している。 「俺は先生を幸せにする自信もあります」「ちょっ。すごい飛躍したな」 付き合いたい理由を聞いていたはずだが、結局プロポーズに戻ってしまった。御代は堪えきれない様子で、あどけない子どものように吹き出した。 「ごめんなさい。何年も頭の中でシミュレーションしてたから気持ちばかり先走っちゃうんですよね」 彼も分かっているらしく、目元を擦りながら頷いた。 「現実世界から飛ばされて、次元が変わっても先生に対する“好き”は変わらなかった。それが一番嬉しいのかもしれない」「……っ」 御代のホッとした笑顔を見た瞬間、胸の中が熱くなった。いてもたってもいられず、彼を強く抱き締める。 「わ、せんせ……」「好きだ。俺も……お前が好きで好きでたまらない」 一方的な好意をぶつけている。御代はそんな風に思っているのだろう。でもそれは半分正解で、半分不正解だ。俺も無意識に、彼を手に入れようとしていたのかもしれない。 初めて会った時のよそよそしい一年生の彼も、三年生になり、頼りないが一所懸命なときも。 常になにかに押し潰されそうになりながら、ひたむきについてくる彼が可愛くて仕方なかった。 俺はとっくに彼に落ちていたんだろう。この世界に来て、その事実に布を被せて隠したかっただけだ。御代は笑いながら瞼を擦った。 「はは。両想いなのに付き合うのは駄目って、困りますね」「そうだなぁ」笑いながら、また御代の額に口