เข้าสู่ระบบ時刻は真夜中の三時頃だろうか......
草木が眠る丑三つ時というだけあって、普段は大勢の人間が出入りするこの大学という施設も、日が出るにはまだ少しだけ時間がある今に至っては、僕一人しか居ない状況だった。
しかしながら僕は、真夜中の大学に忍び込んだわけではない。
そもそも大学という施設は、敷地内に入るだけなら、こんな夜中であろうとも普通に出入りができるのだ。
特にこの大学に関していえば、神奈川の横浜近くの某所にキャンパスを構える立地の良さと、そこまで高くない偏差値(まぁそれは学部学科によるが)のおかげで、約一万七千人の学生が在籍している、日本屈指のマンモス校である。
そんな大学だからかもしれないが、住宅街にキャンパスを構える割には、かなり広い敷地面積を誇っているのだ。
だから割と簡単に、夜中に敷地内に入るだけなら、誰でも出来る。
けれどまぁ、ここまで自分が通う大学のことを語っている僕だけど......
わざわざ夜中に、自分が通う大学の敷地内に入っている僕だけど......
別にそこまで、大学という場所が好きであるとか、そういうコトではない。
そもそもまだ、入学して一ヶ月ちょっとしか時間が経っていない今では、嫌いになることもないけれど、好きになることはもっとないのだ。
それでも、わざわざ故郷である九州から、こんな関東の海沿いの街に遥々来て、一人暮らしをしているのだから、嫌でもそのうち、思い出深い場所にはなるのだろう。
そんな風に、僕は大学の施設には入らずに、敷地内をただ散歩していた。
『どうしてそんなことをしていた?』かと聴かれれば、その答えはあまりにも単純で明瞭だ。
要は、『眠れなかった』だけなのだ。
眠れないから、自分が住んでいるアパートの近くを散歩していた。
その散歩のコースに、たまたま大学があっただけなのだ。
まぁ、家から徒歩十分のところに大学があるのだから、そういうこともあるだろう。
だからまぁ、特に何も考えずに、ただ気の向くまま、耳元にはイヤホンで、流行りの音楽を流しながら、歩いていた。
けれど多分、今思い返してみても、それが良くなかったのだ。 気の向くまま歩いた先に、普段使用している八階建ての大学施設があったからか、はたまた耳元に、イヤホンで流行りの音楽を流していたからか......いや、きっとそれらの状況がたまたま、本当に偶然に、重なってしまったからなのだろう。
だから僕は、
どんな風に表現するべきなのだろうか......
明らかに硬い何かが頭を直撃した筈なのに、まるでトマトみたいな柔らかい何かを床に叩き付けたような音と、そういう音には似合わないくらいの......
いや、もしかしたら似合い過ぎているくらいの鈍痛が、僕の頭を中心として、全身に響き渡った。
そしてさらに、これもまた僕の頭を中心としているのだけれど、倒れた際に、僕は大きな血溜りを作っていたのだ。
そして途端に、意識というモノが一気に、遠くの何処かに投げやられてしまったような、そういう感覚になっていく。
そしてそんな感覚の中で、この状況では明らかに不釣り合いな声が、聞こえた気がしたのだ。
「痛ったぁぁ......あぁ、頭が割れたかと思った......」
いや、もしかしたらこれも、釣り合い過ぎている程に釣り合っていたのだろう......
「あれ......まさか......やっちゃってた......?」
そう言いながら、次第に意識が薄れていく僕に近付いて、その声の主は僕に、恐る恐る問い掛ける。
「えっと......もしかしなくても君、今死にそう......だよね......?」
その言葉に、肯定の言葉を返したいけれど、何故だか言葉が出てこない。
「...っ」「あぁ、わかったわかった。喋らないでいいよ......たぶん喋るのもしんどいよね......」
そう言いながら、その声の主は少しだけ考えて、そしてその後に、多分こんなことを独り手に呟いていたような......
そんな気がする。
「仕方ない......か......ほんとうはこういうことはルール違反だけど......でも多分、死ぬよりはいいよね......たぶん......」
そしてその、最後の『たぶん』って言葉を聞いた後に、僕は多分、気を失ってしまったのだろう。
なんせそこからの記憶が、あのときの記憶が、どんなに思い出そうとしても、思い出せないのだ。
けれどまぁ、どんな風に考えても、僕は本来、このときに死んでいた。
考えなくてもわかると思うが、上空からの落下物が、ピンポイントで人間の頭の上に落ちてきて、生きている方がどうかしている。
なんせ落下物は、加速度的に、殺人的に速度を増して、その速度のまま直撃するのだ。
そんなの、戦争映画なんかで見るようなミサイルと、なんら変わらない。
そんなモノ、もしも生きていたら、そいつは人間ではないだろう。
そう、人間ではない。
人間とは違う、明らかに異なった体質でもない限り、死んでいて当然の状況だ。
だから僕は、このとき
次の日、何処かもわからない場所で、僕は目が覚めた。
何処だかわからないというのは、もしかしたら少しだけ、語弊があったのかもしれない。なぜなら目が覚めて、少しだけ時間が経てば、そこが大学の施設の中ということだけは、確信できたからだ。
その理由は、別になんてことはない。
ただ単に、僕が大学の授業の時に、使ったことがあるという、たったそれだけの理由で......
だから端的に言えば、『来たことがある教室だから、知っていた』だけなのだ。
しかしそれでも、どうして自分がこんなところに居るのかは......
どうしてこんな場所で熟睡していたのかは......
それだけはどうしても、わからなかった。「ン......ん?」
なんだろう、なんか妙に、温かい。
いや、温かいのはいいのだ。
なんせ今の僕は、大学内のとある教室に、どこから来たのか分からない毛布に包まって、どこから用意されたのか分からない、真新しい毛布に包まって、寝ているのだから。
だからまぁ、僕の身体がそれなりに温かい状態になっているのは、さして不思議な状況というわけでも、不可解な状況というわけでもない。
だけど不思議なのは......
だけど不可解なのは......
その毛布の中から感じられる『温かさ』が、明らかに人一人分のモノではなくて、明らかに、僕一人分のモノではなくて、もう一体、何かの生き物の体温を感じざる負えないモノだということだ。
なんだろう......一体......
そう思いながら、恐る恐る、その毛布を大きく横に持ち上げる。
それこそ、自分の身体が全て、その毛布から露わになるほどに......
それこそ、確実にその体温の正体を、全て目視で把握することが出来るほどに......
「......えっと......」
「ンー、ん~、んー」
そう言いながら、その露わになった生き物は、完全に寝ぼけながら......
っというよりも、完全に寝ながら、僕にその姿を現したのだ。
そしてその生き物の姿は、年齢で言えば僕と同じか、少し年下くらいの、可憐な女の子の姿をしていた。
しかも何故か、女性の洋服に対して、そこまで造詣があるわけでもない僕がわかる程に、明らかにその女の子は、薄着の格好をしていたのだ。
「んー」
寝ている薄着の女の子に、意を決して話し掛ける。
「あ、あの......」「んー......あと、五分......」
そう言いながら、その少女はまるで、自分の家に居るかのような決まり文句を言いながら、僕が横に持ち上げて退かした毛布を引っ張って、そしてまたそれに包まりながら、こう言ったのだ。
「寒い......」
そりゃ、そんな格好をしていれば寒いだろうに......しかしそれでも、毛布を完全に取られてしまえば、しかもその相手が、薄着の女の子であるというのなら、もう一度その毛布の中に潜り込んでしまうというのは、おそらく......いや、確実にまずいだろう......
もし何かの拍子に気付かれて、叫ばれて、警察でも呼ばれるなんてことがあったら、僕の大学生活は、スタートして間もないこの時期に、早々に色々な意味で終わりを迎えることになる。
今はまだ、四月の下旬で、たしか今日は、ゴールデンウィークの一日目だ。
そう、ゴールデンウィーク。
黄金色に輝く、連休続きの奇跡の期間。
そんな素晴らしい日の一日目に、それはさすがに良くない。
それは......さすがに......
そう思いながら、僕はもう一度、その少女が包まっている毛布に視線を向けた。
別に、おそらく女子大生であろうその薄着の女の子に、何かしらの厭らしい行為をするわけではなく(っというか、そんな度胸があるわけでもなく)、その時にただ、唐突に......
ほんとうに唐突に、昨日のことを思い出したのだ。
「なんで......僕は生きているんだ......」
そう呟きながら、口元を手で抑えながら、自分が呼吸していることを確認して、生きていることを確認する。
そして身体を起こして、立ち上がって、辺りを見回して、やはりそこが何も変わらない、何一つ変哲もない教室だということを確認する。
そしてそこまで確認出来て、目が覚めてこれだけの時間が経過すれば、次第に思考がはっきりとしてくるわけで......
そうなると必然的に、昨日のことを少しづつ、少しづつ、より鮮明に、より明瞭に、思い出すことになる。
それがどんなに......
どんなに、ありえないことだとしても......
どんなに、あってはならないとこだとしても......
根拠は何も無かったけれど、それでもこんなタイミングで、こんな変なことが起きているのだから、やはりこの、毛布に包まっている薄着の少女が、昨日のあの一件に関係している気がしてならなかった。
だから僕は、今度はちゃんと、事情を彼女から聴き出すつもりで......
ちゃんとその少女のことを起こすつもりで......
もう一度その毛布を手に取ろうと、前かがみの態勢になった。
けれどそこで、僕の動きは止まった。
「やぁ、おはよう青年」
そう言いながら、教室の端の席にいつの間にか座りながら、そして何かを口に咥えながら、男はこちらに笑みを浮かべて居た。
音も立てずに現れたその男に、僕は心底驚きながら、しかし声は出してはいけないと思ったから、動きを止めたのだ。
「まったく、ゴールデンウィークの初日から、大学に忍び込んで何か面白いことをやらかしていたようだけれど、一体何をしでかしたのかな?」そう言いながら、その男は座っていた席から立ち上がり、こちらに向かってゆっくりと、ゆっくりと、歩みを進める。
そうなると次第に、外の光が男の姿を照らし出す。
オーバーサイズの黒いTシャツに、黒のスキニーパンツ。
その服装はどこにでもいるような、大人の大学生みたいな人だった。
この大学の、先輩だろうか......
それにしては、何だか妙な雰囲気を持っている人だ......
なんだろう、なんて言えばいいのか、わからないけれど......
そう思いながら、僕は歩み寄って来るその男に向かって、何か言わなくてはいけない気がするから、言葉を紡ごうと努力する。
「あ、あの......」
「あぁ違う違う、僕が尋ねているのは君じゃないよ、青年」
そう言いながら、その男は僕に視線を向けて、静かに微笑をする。
しかしその後、僕の足元で包まって、丸まっている毛布に視線を向けて、まるでさっき僕がしようとしたように、男は徐に、その毛布に手を伸ばす。
しかしその男が手を伸ばした瞬間、その毛布は大きく、包まっていた中身ごと飛び上がって、そしてその教室の、教壇の机の上に降り立ったのだ。
ここで、今僕等がいるこの教室のつくりをザっと説明すると、教壇の部分は少しだけ段差があって、教室全体を広く見渡すことが出来るようになっている。
だから必然的に、その教壇の机の上になんか立っていれば、僕やこの男を含めた、この教室という空間全体を掌握できるし、また僕やこの男も、その毛布で包まったそれを、見失うことは絶対なく、注視することができるのだ。
そしてそうなると、その机の上に立って、包まっていたその毛布を自ら剥ぎ取って、中身である薄着の少女は、その姿を自ら晒す。
外から差し込む朝の光は、暗い教室では、さながらスポットライトのように、彼女を照らす。
露わになった彼女の姿は、特別だった。
最初に毛布を取ったときは、驚きのあまり目に入らなかったけれど、彼女の長い髪は、光に照らされてより一層輝きを増して、煌びやかな深紅が激しく揺らいだ。
そしてその奥に、彼女自身の華奢な身体は、まるで何かのダンスを踊っているかのような、その自ら剥ぎ取った毛布すら、その身のこなしの一部にするような、そんな美しい姿を、僕に見せた。
いや、彼女が見せたというより、僕が魅せられたのだ。
注視することができるその彼女の姿を、少なくとも僕は注目していた。
だから僕は、この後の瞳を開けた彼女の最初の言葉に......
朝の最初に言葉を交わすのなら、割とまともだった筈の彼女の言葉に......
なんて返すのが正解なのか、一瞬だけ戸惑ったのだ。
彼女は僕を見て、こう言った。
「あー、おはよう、夜の人」
『夜の人』というのが、果たして本当に僕のことを指して言っているのか、正直なところ自信はなかったけれど......
しかし確実に、彼女は僕と視線を絡ませながら、その言葉を言っているのだから、きっとそうなのだろうと、そう思った。
だから僕は、当たり前のことだけれど、彼女の言葉に応答したのだ。
「......おはよう......ございます......」
もっと分かりやすく言えば、ただ彼女に、挨拶を返しただけである。
その僕たちの様子を見て、横に居た男は笑い出す。
「ハハッ......まったく、君はどんな風にしていても、やはり華やかに周りを演出してしまうんだね、佐柳ちゃん」
その男の言葉に対して、『佐柳』と呼ばれたその少女は、教壇の机の上に立ったままの状態で言い返す。
「うるさい、専門家。なんで朝の起き抜けに、お前の年齢詐称面を拝まなくちゃいけないんだ。ゴールデンウィークの初日だというのに、これじゃあもう、今日は厄日で決まりじゃないか」
「ひどいな~僕は疫病神か何かなのかい?これでも君が生きやすいように、割と色々、働きかけているつもりなんだけどなぁ~」
そう言いながら、その『専門家』と言われた男は肩をすくめながら、不敵に小さく笑う。
そしてその笑顔のまま、僕の方を見ながらまだ言葉を続ける。
「特に今回のような、君の不注意で招いた事故の後始末は、本来なら僕の仕事ではないんだ。それなのにそれまでやらせておいて、そんな言い方はないんじゃないかい?」
「いいや、むしろ言い足りないくらいだ。普段のアンタの言動と行動が、あれくらいのことでチャラになると思うな!」
そう言いながら、その少女は『専門家』の男のことを睨みつける。
なんだろう、話にまるで入れないし、話がまるで見えてこない......
この二人は、そこまで仲がよくない......っというよりも、『佐柳』と呼ばれている女の子の方が、一方的に嫌っているような、なんだか、そんな風に思える。
けれどここで、この二人の会話をただボーっとして見ているだけには、おそらくいかないと思うから......
だから僕は、意を決して、話に入ろうと試みる。
「あ......あの......」
「ん?」
僕の声に、『専門家』の男が反応する。
「さっきから何の話をしているのか、まるでわからないんですけれど、でもその口ぶりから察するに、あなたは昨日の夜、僕に何があったのかだけは、知っているんですよね?」
その僕の言葉を聞いて、男はニヤリと口元を動かしながら答える。
「あぁ、もちろん知っているよ。なんせ
そう言いながら僕と、その『佐柳』と呼んでいた少女を見比べて、何かを考える素振りをして、わざわざ間を置いて、男はこう言った。
「とりあえず、何か食べようか。目の前のコンビニでも行ってきなよ」
まるで大学生が、友人に言うような言い方で......
「あの......」「ん?」「いや......佳寿さんの名前を知っているってことは、その......専門家の人......ですよね?」「うん、そうだよ......まだ思い出せない?」「えぇ......その......相模さん......あっ、佳寿さんじゃない方の......」「あー宗助《そうすけ》くんのことね」「はい......その人と佳寿さんと......すみません、その人達の印象が強すぎて......」「そりゃあそうよ。あんなにキャラが濃い姉弟に絡まれている君には、さすがに同情するわ」「......そうだなぁ......自分が見ている世界を、必ずしも他人が見てくれているわけではないから、それだけは、気を付けてねって言葉の意味は、ちゃんと理解してくれたかしら?」「えっ......」「短い時間ではあったけれど、私は楽しかったわよ?夜のドライブ」「夜の......あっ......」「......思い出してくれた?」「はい......その......すみませんでした。あの日、宿まで送ってくれたのに......」「......よかった。べつにいいのよ、思い出してくれただけでも、嬉しいから......」「あの......」「ん?どうしたの、荒木誠君」
「どうしたの、珍しく眠そうじゃない」「あぁ、おはよう......いや、なんだろうな......寝ていたはずなのに、ずっと眠い......」「あなた、それ病気なんじゃないの?」「へっ?」「稀有な体質の貴方に、こんなことを言って、どれだけ当てはまるかは知らないけれど、あるらしいわよ?寝ても眠気がとれなくて、疲れがずっと溜まり続ける病気......」「へぇーそうなんだ。けれどまぁ、それはないだろうな......」「あら?どうして?」「そりゃあ......僕はお前が言うところの、稀有な体質なんだ。もうこれ自体が、病気みたいなモノだろ?」「べつに、病気にかかるのは、一人一つというわけでもないでしょ?」「それ、合併症ってこと......?」「さぁ、どうなのかしらね......」「あの......」「はい?」「荒木......君......ですよね......?」「えっ......あぁ......はい。荒木です」「よかった~会えた~」「はい?えっとあなたは......」「あぁ、この恰好だと流石に、憶えていないか」「どこかで、会いましたか......?」「まぁ......そうなるよね......印象深い関りは、加寿さんに取られたからね......」
「さて、そろそろ帰ろうか」「もう帰るのか?まだ来て、そこまで時間、経ってないだろ?」「いや、もう帰らないとダメだよ。もうそろそろ、この姿じゃなくなる。そうなると帰るのが大変になる」「そっか......そりゃあヤバイ。帰ろう」「あのさ......」「ん?」「いや、来るときはいきなりだったから、何も思わなかった......っというより、そんなことを考える余裕がなかったけれど、僕が背中に乗ることに、お前は何も思うことはないのか?」「無いよ......そんなことを思う様に、ボクはできていない」「そんな言い方......まるで自分が、誰かに作られた様な言い方をするんだな」「似た様なモノでしょ?生き物みんな、作ってくれた親が居るんだから」「いや......そうだけれど......」「けれど......?」「今の言い方だと、生き物のそれとは明らかに違うニュアンスになっている気がするからさ......」「そうかな?あんまりそういうつもりはなかったけれど」「まぁ、いいや。そろそろ本当に、行かないとね」「あぁ、頼んだ」「ところでさ」「ん?」「乗り心地とかってどうなの?」「えっ?」「いや、自分だとわからないモノだからさ」「まぁ、それなりだよ......」
「どこだろ......小田原......いや、箱根かな......これたぶん、蘆ノ湖だし」「車かよ......そこまで時間かかっていなかったろ......」「いや~そんな褒められても」「べつに褒めてねぇよ......」「暗くてよくわからないな......来たこともないから、なおさら......」「そうなんだ、ボクはよくココに来るよ」「......ココに来ると、少しだけ、気持ちが整理できるから......」「それは、どういう意味......?」「......色々あるんだよ」「そりゃあ、そうだろう。そんな姿になるくらいなんだ。色々あるだろうさ......」「......嫌味だな。でも、その通りだから仕方ない」「僕が言えた義理でも、ないけれどね......」「そりゃあ、そうだろね。そんな身体になるくらいなんだ。色々あるだろうさ......」「......イヤミだな。まぁ、その通りだけれどさ......」「人生、いろいろだよね......」「もう人ですら無いような気がするけれど......」「じゃあなんて言うのさ」「えっ......」「人生って言えないなら、ボク等の今生きているこの現状。名前を付けるなら、なんて言うべき?」「さぁ......なんだろうね......」
「この時間ってさ......人とは会わないわけだろ?」「うん、そうだよ。こんな姿じゃ会えないしね~」「それなら普段、何してるの?」「......あーそうだなーまぁ、時間の潰し方は色々あるけれど......そうだねーとりあえずはひたすらに、散歩かな~」「散歩って......案外普通なんだな......」「そう思う......」「へっ......?」「いや、いやいやいや......おいおいおいおいおい......なんだよ、コレ......」「ハハッ......散歩だよ、散歩。案外普通なんだろ?」「いやいやいやいや、無理無理無理無理、怖い怖い怖い、速い速い速い」「イイねぇ~友達と散歩するのは、普段よりずっと楽しいよ」「......そう......それは......よかった......」「えっと~大丈夫?」「大丈夫だと思うか?下手したらバイクより速かったよね?あんなのをヘルメット無しでとか......どうかしているよ......」「......ホント、寿命が縮んだ...」「面白いね、それは不死身ジョーク?」「本心だよ......いつもあんなことしているとか......っていうかココどこ......?」
「......ところでさ」「ん?」「なんでそんな格好しているの?コスプレってわけでもないんだろ?」「......あぁ......まぁ......さぁ、よくわからない。気が付いたら、夜中はこの姿だった......」「気が付いたらって......困るだろ?人と会う時とか......」「ハハッ......いやいや、昼間から零時くらいまでは普通だよ。たぶん......この姿になるのは.....大体二時か三時くらいかな......そんな時間に会う人なんて、そもそもボクにはいないよ......」「あぁ......そう......でも」「......それにこの姿、結構楽しいんだ。文字通り人間離れしているせいで、凄く軽いし丈夫なんだよ」「軽いし丈夫ッて......そんな道具みたいに......」「まぁ、実際そうだしね......」「......ボクのこの身体は、昼間や人と会う時以外の代物だから、記憶は保たれないし、多分人格も違うんだろうね......だからさ、次の日になると、憶えてないんだ......」「憶えていないって......でも、僕のことはわかっていたじゃないか、この前会った時も、僕がお前のことを無視したと、そう言っていたし......」「あぁ......うん。憶えているのは、それだけ......」「えっ......」「この姿以外の時のことは、ボクの記憶には存在しない。それと同じように、きっとボクが人の姿になっている時は、この姿の時の記憶はない......言っただろ、人格が違うって......」「それに、いつも気が付いたら、深夜のこの時間だからね......だからボクは、この時間しか知らないんだよ......」
柊はそう言いかけて、口を噤んだ。「……柊?」「……っ」 正確に言えば、口を噤んだというよりも、開いた口が塞がらない様な、そんな表情だった様に、僕には見えた。 そしてその彼女の視線が捉えている景色は、一向に変わらない。 ただ単に正面を、真っ直ぐと、見つめていた。 そしてそんな風にしているモノだから、僕も自然と、柊の視線を追いかけて、彼女と同じ方を見る。 大学の構内は人が多く、それでいて混雑している。 だからきっと、普段の僕なら、わかるはずはなかっただろう。 しかしながら、どういうわけか……この時ばかりは、柊が見据えている先に居る人物が誰なのか、わかってしまったのだ。 名前
矛盾が生じてしまう恐れがあるので、予め言っておくと、僕は彼女のことを、とても綺麗で特別な存在だと、それは間違いなく、今でも思っているのだけれど...... なんだろう、それはなんとなく、そう理解しているに過ぎないのだ。 欲求だとか、下心だとか、色気だとか、そういうモノをまだ、微かになんとなく感じることが出来る筈なのに...... それなのに、ただ綺麗なモノを、綺麗だなって...... 僕は彼女に対して、そういう風な気持ちにしか、ならないのだ。「ねぇ......」「えっ?」 考え込んでいたところに、不意に声を掛けられたから、一瞬だけ思考が鈍くなる。「誠、私に話があるって言ってた
気がかりだった着替えの件は、近くのコンビニに売られている物を使うということになり、それを買いに行くときは一人でいいから家に居ろと、そう言って彼女は再び僕の家を出ていった。 僕の家から徒歩数分のところに、一軒だけコンビニがあるから、おそらくそこに向かったのだろう。 出て行ってから三十分と経たない間に、柊は部屋に戻ってきた。 そして部屋に入るなり、彼女は言う。「汗をかいたから、シャワーを浴びたいわ」 そう言いながら僕の方を見つめる彼女は、数秒のわざとらしい沈黙の後に、睨みが利いていない無表情な顔で言い放つ。「覗いたら殺すわよ?」「誰が覗くか!」 そういうのはもう少し、表情
昼食もそこそこに、なんならそれなりに話をして、お互いの名前だとか、出身地とか、そういう自己紹介的な情報交換もそこそこに、どういう話の経緯だったか忘れたが...... どんな話をして、どういう流れでそうなったかは忘れたが...... 僕と琴音と、そして浴衣姿の小さな女の子である、若桐 薫は...... 今現在、熱海城に続くロープウェイに乗っている。 少しだけ気まずそうな笑みを浮かべながら、右隣に座る若桐は、僕に小声で語り掛ける。「やっぱり、アレですね......他のお客さんも入ると、少し狭いですね......」 そしてその言葉に対して、僕も彼女と同じように、小