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「ねぇザイ、なんでリンカはこうなったの⋯⋯?」 正直に言うべきなんだろうか。 曖昧にしても仕方ないと思った俺は、"9Kの持つかいじゅうで撃たれた"と話した。 「あそこにある"人骨"って、そういうこと⋯⋯?」 「⋯⋯スアの思ってる通り、9Kも大井さんのを撃たれた結果があれだ」 「なんでアイツがここに入って来たの? アイツのせいでリンカは⋯⋯アイツさえ来なかったら⋯⋯まだ話し合いで解決できたかもしれないのに」 俺だって知りたい、9Kが急に来た理由を。 想像でしかないが、アイツも何かで知って狙いに来たのかもしれない、ここに置いてある"否定理由の一つ"を。 結局は、アイツも集めている一人だった、と思うしかない。 そもそもの話、9Kについてはまだ知らない事が多すぎる。 ウサネッコと契約成立時に教えて貰った内容だけでは、どうも説明付かない事ばかり。 まず、あの"マントを羽織った銃"には、以下の能力があった事になる。 ・謎の泡立つ液体を放出して殺させて"回避延長" ・別で"赤と青の軌跡を放つ弾丸"を装填可能 ・スアとモアとエンナ先輩を"操れる能力?" ・大井さんの身体を"毎秒凹ませるほどの継続スクラップ能力?" こんなに多種多様なのを持っていたって事なのか? その前に、"9K"という名前にも違和感がある。 この"9K"という文字並びに意味があるとするなら、あの"マント羽織る銃"にちなんで付けた可能性だってあるかもしれない。 "K"が英単語の頭文字だとして、多いとか変化とか、その辺の意味から取ってそうでもある。 一つ思い浮かんだのは"kaleidoscope"だ。 "kaleidoscope"は万華鏡という意味もあるが、"常に変わるとか複雑なパターン"とかの意味も含んでいる。 もしそうだとするなら、"9 Kaleidoscope"と仮定すると、本当は"能力が9個あった"という事実に繋がる。 だからなのか、アイツがあれほど行動的でありつつ、容易に自身で作った宗教団体を見捨てたのは⋯⋯。 実は、"9個の隠し能力があるかいじゅう"だったからこそ、他に無い自信を持てたと言う訳だろう。 まだ確信を得るには早いが、納得できるレベルにはなっていると思われる。 思考の世界から一瞬で戻り、今一度スアの話へ
「ん、あれ」 呟いたスアがゆっくり目を開く。 続くように、エンナ先輩とモアが目を覚ましていった。 「おぉ!? 3人起きたウニャか!?」 一番に驚きながらも、無事を確認するようにうろうろするウサネッコ。 けど、なんでこのタイミングで女子3人は元に戻れた⋯⋯? ⋯⋯まさか、9Kが何か細工をしていたってことなのか? 「ね、私のせいじゃないって分かったでしょ、キーくん」 考える暇も無く、ふと呟いた大井さんの一言で現実に戻される。 即座に振り向き、彼女へと海銃を構え直したが、様子が先程と打って変わっていた。 「そんな事しなくても、ほら、"いきなり来た変なヤツ"のせいで、こんなんなっちゃったんだけど」 そう言いながら、今度は大井さんの身体がおかしくなっていった。 "ガシャン"という軋む音と共に、なんと身体が凹みだしたのだ。 まるで"見えない機械の手で所々握りつぶされている"かのような、彼女の節々が毎秒ずつ凹まされていく。 「リンカッ!!」 少しずつ潰されていく彼女へと、真っ先にスアが駆け寄ろうとすると―― 「来るなッ! スア、あんたは"こっち側"じゃないでしょ?」 「いまさら何言ってるのッ!? このままじゃ死んじゃうんだよッ!!?」 「見れば分かるってそんなの。ほんと、病院の娘ってお人好しでウザい。ね、キーくん」 皮肉そうにしながらも、どこか最期の優しさを感じるような大井さんの表情。 俺の妄想でしかないけど、きっと心の底から俺たちを憎んでいる訳では無かったはずだ。 「ねぇッ!! どうすればいいの!? 私じゃどうしようも⋯⋯誰か止める方法無いのッ!!? 止めてあげてよッ!!!」 俺たちは首を横に振るしかできない、ウサネッコまでも。 大井さんは、女子3人を"ProtoNeLTと性交させようと加担した一人"な上、コウキと同様で相応の事を仕出かしてきただろう。 同情はしない、それでも⋯⋯。 でも⋯⋯ッ!! 「なんで⋯⋯なんでなんだよ!!! 大井さんも!! コウキも⋯⋯ッ!! 勝手に訳分けんねぇ事するだけして⋯⋯人生から逃げんじゃねぇよッ!!」 やるせない思いを吐き出し、もはや八つ当たりのように大井さんへとぶつける。 もう自分が何言ったかもよく分かってない。 ただ思っただけ、それだけしかない
大井さんの銃に対し、コウキと対峙した時のような衝撃が走る。 またあの通天閣前の時のように、殺り合わなければならないのだろうか、と考えていた時。 不意に、自分の背中に"冷たい何か"がかけられたのを感じたのだ。 「さぁ、これで彼らを殺していいですよ。"あなたがProtoNeLTである"と言うのであれば」 突如として背後からする声に、俺は鳥肌が立った。 この声の正体は、間違いなく"アイツ"だったからだ。 「な、なんでここに9Kがいるウニャか!?」 ウサネッコの反応そのままだった、俺の脳内も。 いつの間にコイツが城内に入って来て⋯⋯。 目の前の大井さんは、顔をしかめ始めた。 「⋯⋯なにこの赤青カボチャ野郎。知らないあんたに指示される覚えないんだけど」 俺とアマとケン、その3人を板挟みにしながら、大井さんと9Kの会話が始まった。 なんとも異様すぎる状況で、余計にこの場から動けそうにない。 一歩たりとも動けば、大井さんか9Kにいつ撃たれるか分からないからだ。 俺だけだったらどうにかなる可能性はあるが、ケンとアマはおおそらく無事では済まないだろう。 「指示などではありません。あなたがしようとしている事、そのままをすれば良いと助言しているだけに過ぎません」 俺の真後ろにいる9Kからは、大井さんに怯える雰囲気を一つも感じず、まるでここにいるのが当たり前かのような喋り様。 見えなくたって分かる、大阪駅地下であれだけ追い詰めたはずだったのに、それでもやられて逃げられたのだから。 「助言だのなんだの、あんたみたいなのに急に言われるのが嫌なんだけど? さっさと出て行ってくれる?」 徐々に大井さんがキレていくのが見て取れる。 これ以上刺激しないでくれと、俺たちは願うしか出来ない。 それかあわよくば、女子3人が元に戻り、9Kをどうにかしてくれたらいいのだが、現実はそうはなってくれない。 「それは受け入れられません。この真ん中の彼が"未だにこっち側"と判定されるのかどうか、ここで見たいのですから」 9Kの言葉に、大井さんは首を傾げる。 「⋯⋯はぁ? 何意味分かんない事言ってんの?」 「なんでもありません、こっちの話なので。ですよね、喜志可ザイ君」 笑みを含むような口調の9Kに、俺の全身から冷や汗が垂れる。
俺は黄金展望台の正面にぶっ倒れ込んだ。もう何も考えたく無いほどに、頭がショートしている。 タイムリミットはというと、【00:01.54】となったままで止まっている。 さっき書いた解答によって、どうにか"正解ライン"に入ったことで、顔認証と指紋認証が完了した。 失敗ラインと正解ラインがあり、失敗ラインへと針が振り切っていれば、全てが終わっていた。 完璧な解答が何かは分からないままに、自分の出した答えに自信を持つしかなかったというわけだ。 金髪ビリケンの真横には新しく、【イーリス・マザー構想は実は成功していて21年間その成功体は隠れて生き続けている】と、先程の俺の解答が深く刻まれている。 言わずもがな、これが真実かどうか定かではない。 とにかく"前提を全て壊した答え"だろうと思ったのだ、あれだけ周到に"あの実験"を用意している様子からして。 もし、ヤツらAI側がイーリスマザー構想を失敗だったと思い込んでいるなら、あんな公な場所で秘密裏に実験なんてリスクを取らず、どこかの隔離施設でこそこそと成功に近付ける実験をするはずだ。 だって、これまでずっと教科書には、"イーリス・マザー構想は失敗の跡だけが残っていた"って書かれてきたのだから。 先入観で失敗だったんだと擦り込まれている、俺たち世代全員。 「さて、これで3人はやっと⋯⋯」 考えるのをやめ、呟きながらゆっくり立ち上がり、通天閣5Fから新世界の夜景を見つめる。 その少し後、なんとアマからいきなり通話が掛かってきた。 どうやら、解答時だけネットが使えないようになっていただけで、もう使えるようになっているみたいだ。 「ザイ君、間に合ったみたいだね」 「いろいろあったが、何とかな。3人はもちろん帰ってきてるよな?」 「それが、中から出て来たのはいいんだけど⋯⋯」 アマの言葉の羽切が悪く、何故かいい答えが返ってきそうな雰囲気を感じない。 と思っていると、瞬く間にこいつはこんな事を口にした。 「⋯⋯落ち着いて聞いて欲しい。今、僕とケン君は銃を突き付けられている。⋯⋯白神楽さんたちに」 「⋯⋯は⋯⋯?」 すると、突如として大井さんに通話が切り替わった。 「はい終了、キーくんとの話し合いはここまで」 「ちょ、おい、どういうことだ!? 約束した事はちゃんとや
「⋯⋯間違えたら1分ロックするってなんだよ⋯⋯分かる訳ねぇだろこんなの⋯⋯ッ!!」 悩んでいる間にもタイムリミットが迫り、全身に冷や汗と緊張感が走る。 コウキのメッセージには、変わらず"IrisMother21"としかない。 どれだけ血眼に探そうが、ヒントになりそうなものは何処にも見当たらない。 伝った緊張で息遣いもより荒くなり、心臓の鼓動も耳に入る僅かな音も聞こえなくなっていく。 「⋯⋯どうしたら⋯⋯スア、モア、エンナ先輩⋯⋯ッ!! 俺⋯⋯俺はどうしたら⋯⋯分かんねぇよこんなのッ⋯⋯!!」 【02:30】、【02:29】、【02:28】。 自暴自棄になりそうな自分さえも神は見てくれない。 決まった制限時間は、無慈悲に俺と彼女たちを蝕んでいく。 これが0になった瞬間、あの女子3人は"ヤツらと行為"に及んでしまう。 即ち、"ヤツらとの赤ちゃん"を産む事になって―― 「⋯⋯あぁぁぁぁぁぁぁァァァァァッ!!!!」 それを想像するだけで、強烈な頭痛と腹痛に苛まれ、声にもならない声が漏れる。 俺はふらつきながら、金髪ビリケンの傍の壁へともたれ座った。 「⋯⋯何もかも終わりだわ⋯⋯なぁ、俺よくやったよなぁ⋯⋯?」 正面の黒い鉄のような柱に映った俺に話しかける。 その顔に正気は無く、酷くやつれているように見えた。 勝機の無いモノに端へ追い詰められ、全てを諦めたやつの顔だ。 「三船コーチ⋯⋯師斎社長⋯⋯ちょっとだけ褒めてくださいよ⋯⋯。お前はよく頑張った、お前だからここまで来たんだって⋯⋯ねぇッ!!!」 こんな事言ったって何になるかなんて、そんなの知らねぇよ。 もうどうだっていい、だって俺はよくやったんだから。 何が"IrisMother21"だ⋯⋯お前らでやってろ勝手に。 "イーリス・マザー構想"くらいは俺だって分かんだよ。コウキが言っていたように、変異体受精卵の禁忌生成、世界初の虹成分注入、調査が入った時には施設に失敗の跡だけ、そんなの誰でも知ってんだよ。 だって、最近は中学に入ったら誰でも習う授業内容の一つなんだ。 先生はよく言っていた、こんな前代未聞のヤバい事があって、この構想は多くの人に影響を与えたんだって。 だからなんだって話。 2009年頃にあったらしいけど、特に興味も⋯⋯
刹那、"白と黒の小波を纏った弾丸"が俺の額に目掛けて放たれた。 それと同時に、周りの動きが一気に遅く感じた。 遅延世界の中、こめかみの真横を白黒の小波が通り過ぎて行く。 「なにッ!? ⋯⋯いや、こんなのはありえないッ!!」 コウキが叫ぶと、後ろへ飛んで行ったはずの弾丸は、白と黒の小波羽を携え、もう一度こっちへと向かってきた。 「雑魚が何度避けようが意味は無いッ!! この銃の名の通り、"運命≒再運命"として登録され続けるッ!!」 避ける度に常に同速でホーミングしてくるという、異常に狂ったコウキの弾丸。 しかも1発じゃない。あいつがトリガーを引いた分、追加されて襲ってくる。 「ッ!! ⋯⋯卑怯な野郎がッ!」 「好きに言え、避けるという運命はここには無い。さっさと諦めて貫かろ、喜志可ザイッ!! そして成績優秀者として選ばれるのは、僕と大井リンカ、この二人だけになるッ!!」 「⋯⋯ちッ!」 ヤツの飛び回る白黒の小波弾を狙って撃ち落とそうにも、俺の海銃で最低3発以上を消費する。 つまり、これを繰り返されるだけで、残弾数でも圧倒的に負けてどうしようもなくなる。 ここだと"アマの階銃の効果"を受ける事も出来ない。あれはアマの近くにいて、かつ撃たれた者にしか得られない。 それに身体だっていつまで持つか分からない。 ここまで全力で走って来た分、思った以上に足へ響いてる。 たぶんコウキはそれも分かった上で、俺に挑んできたんだ。 ⋯⋯何もかも読まれていたんだ⋯⋯ごめんスア⋯⋯俺には⋯⋯ 激しく息切れしながら汗を噴き出す俺に、複数の白黒の小波弾が迫った時だった。 ―― 1枚の羽がポケットから飛び出した ⋯⋯これって、大阪駅3階手前で拾ったあの機械巨竜の⋯⋯? それは"白黒赤青の4色のハイスマートグラス"へと変形し、左手の上に落ちる。 さらに、隣から"あの人の声"が聞こえた。 (⋯⋯連れて行ってくれ喜志可くん⋯⋯わたしの愛した車も⋯⋯再びその運命に乗せて) "亡くなったあの人"らしき霧姿が消えていく。 咄嗟に新たなハイスマートグラスを銃のように構えると、左半身が白、右半身が黒だけではない、下左半身がメタリックワインレッド、下右半身がメタリックブルーの小波が覆いかぶさり、虎の顔を模した小波羽が各々から舞い上がる
『お待ちのお客様、12の席が動きます。座ったままお待ち下さい』 夢洲駅のとある回転寿司。 アナウンスが流れると同時に、俺とスアのL.S.へと、ホログラムメッセージが伝う。案外早く席が空いたようだ。「うわ、ほんとに動いた!」 驚く彼女の顔は期待感に溢れている。この回転寿司店、さっそく面白いのが、【12】と書かれた待機スペースに座っていると、席がそのまま自動で動いて連れて行ってくれる。会計した場合はというと、また席が動き、反対側から出口へと向かってくれる。つまり、店舗内で歩く必要が無く、他の人と会う事も無い。さっきまで【12】にいた人はもういないだろう。 席へ到着するやいなや、お寿司マ
今日は招待された≪急催R.E.D.//SUMMIT≫に出演する日。 俺以外にも数人の"AR e-Sportsプロ"がやってくる。今回はそういった現実感に特化したゲームのイベントが一部あり、土日の二日間で競って総得点で優勝者を決める。 このイベント、今年から始まる世界大会の"World AR E-Sports Championship"、通称"WAREC(ワレク)"への参加権を賭けたポイントも入るため、他も勝ちに来ると思われる。 だからこそ、"昨日のあの事"ばかり気にしてはいられない。昨日は昨日、今日は今日で切り替えないと⋯⋯ 少し考えていると、上からスアが降りて来た。「よぉ。体調
「ここね、こうやってどこからでも入れるんだよ!」 「「おぉ~!」」 まさかの壁だった場所が自動ドアのように開いた。大学関係者なら、L.S.を提示するだけで、どこでも開くそうだ。 「私も初めてこっちに来たけど、中はこんな風になってるんだねぇ」 視界に真新しい世界が広がった。まさに近未来とでもいうのか、各々の研究内容が壁に沿うように、プロジェクションマッピングで流れている。こうして興味を持って貰えるよう、工夫しているのだろうか。 静かな廊下で三人の足音だけが響く。周りを見ながら歩いていた時、ふと一瞬、左奥の通路に数人が過ぎ去るのが目に留まった。 「⋯⋯あれって」 「ん? ザイ?
これが新大阪大学か! 昨日も気になってずっと調べていたが、結局何も分からないままに今日が来た。 一緒に来たスアも興奮してる様子。 この大学だけは他と違う。 なぜか成績上位者のみにオープンキャンパスが行われるという、何とも変則的な場所で、男女2名ずつが選ばれる。 2日目に選ばれたのが俺とスア。ここは外からも内部が見えないようになっており、全てが謎に包まれている。閉塞大学や新大阪駅大学なんて言われていたりもする。 様々な大学の優秀者がここへ編入を希望しているらしく、これからの新たなAI社会に興味を持っている学生が、それだけいるという事だ。 それもそうで、2か月前に突然