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第5話

作者: 皆無
入ってきたのは安雄だ。

彼は中に入るなり、真白の指の傷に気づいた。

一瞬呆然としてから、慌てて駆け寄ると、震える手で彼女の手を包み込み、痛ましそうに言った。

「どうして、こんなことに……」

一昼夜が過ぎ、指の痛みはすでに麻痺していた。

真白は苦く口元を歪め、唇の傷を引きつらせながら言った。

「私がこんな目に遭うって、想像もしなかった?」

前は闘獣場に閉じ込められ、一晩中、猛獣に囲まれる恐怖を味わったのに、今回の結末を、想像できなかったはずがないだろう。

案の定、安雄は沈黙した。

真白は冷笑しながら、手首を上げて彼を押しのけ、出口へ向かった。

二歩も進まないうちに、安雄に止められた。

「真白、すまない。俺もどうしようもなかったんだ……」

真白はその空虚な謝罪を聞く気もなく、淡々と遮った。

「母さんの遺骨を探しに行く」

雨が降ったら、母の遺骨はどうなるのか。そう考えるだけで恐ろしく、彼女は一刻も待ってはいられなかった。

安雄は彼女を止め、壺を一つ差し出した。

「もう集めてある。心配しなくていい」

真白は震える手でそれを受け取り、蓋を開けた。

中には土と混ざった遺骨が横たわっている。罪悪感と胸を裂く痛みが同時に押し寄せ、目が赤くなった。

安雄は彼女の表情に気づかず、口を開いた。

「事情は分かった。瑠花もわざとじゃない。中に何が入っているか知らず、ただの瓶だと思っていたんだ。もう彼女を責めないでくれ」

瑠花をかばう言葉を聞くと、真白は、執事が言っていた「瑠花様の怪我を見て、心を痛めておられました」という言葉を思い出し、口元に皮肉な笑みを浮かべた。

――母さん、ごめんなさい。私が夫を選び間違えた。

彼女はもう何も説明せず、黙って骨壺を抱き、外へ向かった。

安雄は後ろからついてきて、彼女を車に乗せた。

走行途中、安雄のスマホが鳴り、正子からの電話だ。

「瑠花の傷口がまた裂けたわ。血がたくさん出てるの!早く来てちょうだい!」正子は焦った口調で言った。

安雄は急ブレーキを踏んだ。

慣性で真白の体が前に投げ出され、手がグローブボックスにぶつかった。激痛が走り、一瞬、頭が真っ白になった。

彼女が我に返ったときには、安雄はすでに電話を切っていた。

彼はハンドルに手を置いたまま彼女を見て、焦った表情で言った。

「真白、あとで迎えを手配する。瑠花の傷がまた裂けた。俺は行かなきゃならない」

真白は手の痛みに耐えながら、その必死な表情を見つめ、胸に苦さが広がった。

彼の目には、彼女の傷は映らず、瑠花の傷しか見えていなかった。

真白は視線を落とし、静かに答えた。「分かった」

彼女が骨壺を抱えて車を降りた瞬間、隣の車は勢いよく走り去り、泥水が全身に跳ねかかった。

彼女は袖で胸元の骨壺を拭きながら、涙がこぼれ落ちた。

「彼のために泣くのは、これで最後にしよう」真白はそう自分に言い聞かせた。

拭き終えたあと、彼女はその場で待たなかった。待っても、彼は戻ってこないと分かっていたからだ。

彼が戻ってくることも、彼女を連れて去ることも、もうない。

帰宅後、真白は救急箱を取り出し、自分で傷の手当てをした。

そのとき、ふと昔のことを思い出した。

あの頃、安雄に内緒で料理を作ろうとして、誤って火傷をしたことがあった。

それを目にした安雄は、胸が痛んで目を赤くし、彼女に薬を塗る手さえ震えていた。彼は必死に、すべて自分の不注意のせいだと責め続けた。

だが今、すべてが変わってしまった。

彼はもう、彼女の痛みを見ず、気にも留めなくなった。
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