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記憶□□

last update Last Updated: 2025-10-20 08:00:29

第八回 トラブル□□

 初めて手を繋げたのは十九の時。男性が苦手だった私は、彼の華奢な手と骨格の違いを肌で感じた。ビクリとする私に、微笑みながら『どうした?るい』なんて甘く名前を呼んでくれるの。

 私はアタフタしながら、たどたどしい日本語でパニックになってる。免疫ないのよ、それもホストの仕事をしている人なんて、特に。

 女性の扱いにたけている彼は、簡単に、無意識にエスコートをする。私はお客じゃなくて『彼女』なのに、そんな事しなくていいから。

 (他の女性にも同じ事するのかな?)

 そう思うと不安で不安でたまらない。でもね、彼の微笑みを見ていると、彼がしたいようにしたらいいかな?って思ってしまうの。

 ――これが、惚れた・・・弱みってやつかな?

 実際、告白したのも、好きになったのも私からじゃなかったんだけどね。最初職業とか関係なく、いつも通りに関わってたら、急に笑いだしてさ。なんでこの人、笑ってんのかな?って嫌悪感さえ感じていた。

 え?それなのに、なんで付き合っているのかって?

 チラリと彼の横顔を見ながら、私はあの時に戻っていく……。

 ◇◇◇◇◇

 私の得意な事は『迷子』なの。スキルに近いのかもしれないね。道は繋がっているから、絶対たどり着ける自信があるんだ。友達に『その自信、どこから来てるの?』とよく呆れられるけど、私は、いつも通りに『大丈夫、大丈夫、どうにかなるから~』なんて危機感なんて一切感じない。

 確か、彼と出会ったのは、私が一人で隣の県をドライブしてた時だったっけ。うん……そうだと……思う・・

 ――違うからね、大切な彼との出会いの瞬間を忘れる訳ないから。

 私そこまで抜けてないし、こう見えてかなり・・・のしっかり者。そう言うとね、周りの友人達は笑い出すのよ。その度にどんよりな気持ちになるけど、皆が笑顔になってくれるのならいいかな?って幸せだよね~って思うんだ。

 いつも通り、冒険に来た私はグルングルンと色々な道を走り続けてる。窓を開けているとさ自然に囲まれているからかな?綺麗な空気が流れてて、心まで潤う感覚がするんだ。

 「うーん。凄く気持ちいいなぁ」

 このまま風に流れて消えてしまってもいい位、心地よくて……寝てしまいそう。家に帰宅したら縁側えんがわでおばあちゃんと温かいお茶でも飲もうかな。なんだか懐かしいというか、自分に馴染んでいる感じて好きだな、この感覚。

 楽しい時間はつかの間なのは、いつもの事。どうしてだろう?道を走っていたはずなのに、いつの間にか狭い道へと……。

 (大丈夫。道は繋がってるもの)

 先に進む選択肢しか私にはないから、どんどん進んでいく。するとね、軽自動車一台分しか通れないトンネルが現れた。正直『ラスボス』並だよね。私の感覚でだけど。

 「これ……進むしか……ないよね?」

 チラリと助手席を確認しても、いつも隣で座っている友人はいない。一緒にドライブに行こうって言ったのに『ろくな事ないから無理!』って断られたから……今更、不安になってきちゃった。

 「行こう。後戻りできないし!」

 そしてトンネルの中に入った瞬間だった。運転をミスして前に進む事が出来なくなっちゃったの。

 「どう……しょう」

 フルフル震えながら、大好きな愛車に何度もごめんね、ごめんね、と泣きじゃくる自分がいる。こんな時『救世主』がいればなぁ……。

 『どうしたの?』

 「え?」

 『ここ……歩行者用・・・・トンネルだよ?』

 「えぇえぇぇぇえぇ」

 『こんな所に突っ込む人、初めて見た……』

 「ごめんなさい、ごめんなさい」

 『いやいや謝らなくていいから』

 慌てて泣きじゃくる私に、きとんと指示して不安を安定へと導いてくれる。

 『ギリギリ隙間あるけど、出てくるの厳しいと思うからトランクを開けてくれないかな?』

 「トランク?」

 『そう。そしたら僕がトランクから入って、運転を変わるよ。それとサイドミラーを閉じて』

 「ん?」

 『歩行者専用トンネルだからさ。ミラーが引っかかっているのもあると思うからね。てか……強引に突っ込んだね』

 「すみません」

 『いやいや謝らなくていいから。その謝る癖やめたほうがいいよ?』

 「……はい」

 私は彼の言う通りにして、身を任せた。どうしたらいいのか分からず、見ず知らずの人を信用したって後で友人に伝えると『あんたって……』と溜息を吐けられちゃったっけ。

 私の車は古いタイプだし、何の不安もなかった。トンネルに勢い余って破損もないからさ。ゆっくり開いたトランクから『お邪魔するよ』と忍者のように、スルリと入り込む彼を見て、なんて綺麗な人だろうと見とれてしまった。

 ――彼には内緒だけどね。

 ◇◇◇◇◇

 あの後は色々な人に迷惑をかけてしまった。そして両親も駆けつけて大騒動。それがきっかけで、現在・・があるから結果オーライかな?

第九回 おままごと□□

 よく両親が喧嘩してさ、いつも母方の家に連れられての繰り返しだったの。五歳の私は、ただ流れに漂うまま、ぼんやりとその光景を見て、母に手を引かれて、実家を後にした。

 私の地元は山が近い、その代わり海がないから、海が大好きな私からしたら、少し残念な気持ちになってしまうの。蒼く・・透き通った海。遠くから見るとそう見えるけど、両手ですくうと無色透明に近いよね。舐めるとしょっぱくて、涙の味に似ている気がして、自分の身体の一部みたいに親近感を持ってしまう。

 母は溜息を吐きながらも、車を走らせながら、母の実家へと私を案内していく。勿論、現代いまみたいにカーナビなんてないから不便なんだけど、実家に行く道のり位、分かるよね?

 ――子供の私には迷路にしか見えないけど。

 平地だった道のりは徐々に山に近づきながら、新しい景色を見せてくれる。天は晴れ、まるで綺麗な植物園のように見えるのは私だけかな?

 助手席に座っている私は窓越しに、その光景を見つめながら、いつもとは違う空間を楽しみながら、ワクワクしちゃってる。父さんと母さんが喧嘩の延長線上なのに、罰当たりかもしれない。それでも、この瞬間を大切にしたいと感じたんだ。

 山に入った瞬間に広がるのは『みかん畑』綺麗な緑で彩られた山々は、私にお辞儀をしながら『よく来たね』って受け入れてくれる。

 (まるで……夢の国みたい)

 本当、子供の頃ってさ純粋さが多いから、困っちゃうよね。それでも綺麗なものを美しいと感じる、この心、想いを大切にしたいと思ったの。

 『きちんと座ってなさい。危ないから』

 少し怒り口調の母は、アクセルを踏みつけながら、言い放った。

 いつもの事だから、日常化しているってのが、凄く怖いよね。だって他人から見たら違和感を感じて、私達からしたらそれが当たり前だもの。

 そこから抜け出して、自分が当たり前と思ってた事が違うってのが判明するよね。

 考える事は沢山ある、それでも、母の隣に入れる事が嬉しくて、たまらないの。ある意味父さんには感謝だよね。じゃないと、母さんは私を見てくれないから。

 そんなこんなでいつの間にか、疲れた私は、夢の中でいたみたいで、母に起こされて、おばあちゃんとおじいちゃんに挨拶したの。

 「こんにちわ。おじいちゃん、おばあちゃん」

 『よく来たね、るい。疲れたでしょう?ゆっくりしなさいな』

 おばあちゃんは厳しいけど、私には凄く優しく、甘いの。私は『大丈夫だよ、元気だもん』とピョンピョン跳ねてアピールしてる。

 そんな私を見つめている視線に気づくのはあっという間だった。

 クルリと後ろに振り向きながら、隠れているあの子・・・に近づいていく。

 「ねぇねぇ。何してんの?」

 『……なんでもねーよ』

 「ん?ねぇねぇ。一緒に遊ぼう」

 『……なんで俺が』

 「ん?嫌なの?るいの事嫌い?」

 『……嫌い……じゃ…ない』

 「なら遊ぼう遊ぼう」

 そうやって私は強引にあの子・・・の手を引っ張って、いつもの公園へと向かうの。いつもあの子・・・と遊んでた公園へと。

 家から凄く近いからさ。二人で色々話した……と言うか、私が一方的に話してたね。今、考えると、なんて自己中心的と言うか、空気が読めない子供だったんだろうって恥ずかしくなるよ。

 遊んでいる最中で、夫婦ごっこをしたの。いわゆる『おままごと』

 あの子・・・は頬を真っ赤にさせながら、私に言葉を伝えたの。

 『いつか本当のお嫁さんになって……』

 「ん?お嫁さん?」

 『……なんでもねーよ』

 今考えたら、可愛い記憶だね。

 昔の事を思い出しながら、ついニヤけてしまう自分がいる。今度会う事があれば、からかってやろうという魂胆こんたんだ。

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