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第320話

Author: 雲間探
その日の朝、玲奈がまだ仕事に取り掛かったばかりの頃、AIジャーナルから論文の正式採用通知が届いた。

しばらくして、礼二が仕事の話でやって来て、玲奈の論文が採用されたと知ったが、特に驚いた様子はなかった。

何しろ、真田教授という権威が後ろにいる。あの教授が「問題ない」と認めたなら、玲奈の論文が通るのは当然だった。

一通り話し終えて、玲奈は時計を見て言った。「一緒に食事でもどう?」

礼二は眉間を揉みながら、少し頭痛そうに言った。「予定が入ってて」

玲奈が不思議そうに見上げる。「どうしたの?」

礼二は口元を歪めて答えた。「……お見合い。じいちゃんの仕切りでさ」

玲奈はくすっと笑った。「28歳で初めてのお見合いなんて、まだ恵まれてる方じゃない?」

「……」

実際、礼二の家族は礼二の結婚に対してそこまで焦ってはいなかった。

ただ、今回の相手は祖父の旧友の孫娘。

祖父も断りづらくて、こうしてお見合いすることになった。

玲奈はさらりと言った。「じゃあ行ってらっしゃい。私は食堂で済ませるから」

礼二は「わかった」と答えた。

30分後、礼二は指定されたレストランに到着した。

そこは落ち着いた雰囲気のカップル向けレストランだった。

礼二が到着してしばらくすると、相手の女性もやって来た。

礼二のお見合い相手が席についた頃、清司も女連れでレストランに入ってきた。

彼はすぐに少し離れた席に礼二が座っているのを見つけた。

けれど礼二はちょうど背を向けていたので、清司には気づかなかった。

清司はニヤリとしながら女を連れて、礼二のすぐ後ろの席に腰を下ろした。

礼二の声は小さかったが、清司は近くにいたため、会話の内容でお見合いだと察した。

連れの女が話しかけようとしたが、清司は唇に指を立て、黙るように合図した。

清司は嬉しそうにスマホを取り出して、こっそり礼二と相手の写真を撮ると、智昭、辰也、優里との4人グループに投稿した。

【何が起こったか当ててみて?】

【ヒント、ここはカップル向けレストラン】

辰也はちょうど仕事が終わって外食しようとしていたところ、通知を見て写真を開いた。

清司のヒントがあまりにもわかりやすかったので、辰也はすぐに礼二がお見合い中だと察した。

だが彼はメッセージを読んだだけで、反応を返さなかった。

見落としたのかもしれな
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Comments (2)
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千恵
クズグループ 辰也、玲奈を大切にしたいなら、こいつらと縁を切れ
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優子
本当に勘違いクズには呆れてしまう。
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