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第五十六話:残されたもの⑤

Auteur: 花柳響
last update Dernière mise à jour: 2025-12-14 20:00:02

「……あ……」

 喉が引きつり、悲鳴さえ出ない。

 スマートフォンの画面が、呪いの鏡のように光り輝いている。

 既読がついた。

 その瞬間、画面の向こう側にいる「何か」が、ニタリと笑った気がした。

『みつけた』

『みつけた』

『みつけた』

 追撃のようにメッセージが連続して表示される。通知音が鳴り止まない。ピコン、ピコン、ピコン、ピコン。静寂だった部屋が無機質な電子音で埋め尽くされていく。それは心電図のモニターが異常を知らせる警告音のようであり、あるいは泥の中から這い出そうとする者の、必死のノックのようでもあった。

 違う。これは燈じゃない。

 私が知っている、あの明るくて少しお調子者だった朱鷺燈はもういない。これは彼の残骸だ。地下の泥の中で溶け合い、混ざり合い、「ウツロ様」の一部となってしまった彼が、莫大な悪意と執着のほんの一部を、デジタルな回線を通して滲み出させているのだ。

「……やめて」

 震える指で電源ボタンを長押しした。画面が消える。部屋に再び闇と静寂が戻る。

 けれど、もう遅かった。

 視線を感じる。スマホの黒い画面からではない。部屋の隅から。天井のシミから。カーテンの隙間から。

 そして、自分自身の足元の影から。

 ズズッ……。

 微かな音がした。

 幻聴かもしれない。けれど鼓膜には、あの湿った土を引きずる音がはっきりと届いていた。

 鼻腔の奥で、消えたはずの腐敗臭が蘇る。肺が冷たくなる。

 終わってない。

 斎の言葉が呪いのように蘇る。『ウツロ様は退けたが、消滅したわけではない。地下で眠りについただけだ』

 眠ってなどいない。あれは起きている。地下の暗闇の中で無数の目を開き、じっとりとした視線で地上を見上げている。そして、一度触れてしまった私という「窓」を通して、いつでもこちら側を覗き込んでいるのだ。

 サイドテーブルに置いたカードキーをひったくるように掴み、胸に抱く。硬いプラスチックの角が皮膚に食い込む。痛
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  • 禁区の残穢 ~影を喰われると存在が消える世界で、私は冷酷な退魔師に拾われた~   第五十一話:観月の「処理」③

     ドォォォォォン!! 繭が内部から爆発するように膨張し、泥の一部が弾け飛ぶ。 その裂け目から、二つの影がもつれ合うのが見えた。 一つは、必死に何かにしがみつく、小さな影。静。 もう一つは、それを飲み込もうとする、巨大で不定形な影。燈であり、ウツロ様であるもの。「今だ」 瞳孔が開く。 この瞬間、二つの影の輪郭が明確に分かれた。 躊躇なく、掲げていた手鏡を振り下ろすように構え、鏡面を繭の裂け目に差し向ける。「――穿て!!」 咆哮。 鏡面から、目に見えない衝撃波が放たれた。 光線でも物理的な力でもない。「認識」の強制書き換え。鏡に映ったものを「実体」として固定し、そこにあるものを「虚像」として弾き飛ばす、因果の逆転。 ガシャアァァァァァッ!! 地下空間全体が、巨大な鏡が割れたような轟音に包まれた。 空間に亀裂が走り、泥の繭が真っ二つに裂ける。「ぎゃあぁぁぁぁぁッ!!」 繭の中から、この世のものとは思えない断末魔が響いた。 静の声であり、燈の声であり、そして泥に沈みかけていた慧の悲鳴とも重なる。 斎の放った一撃は、静と燈の結合部を正確に断ち切っただけではない。その余波が周囲の空間ごと衝撃を与え、慧に群がっていた影たちさえも吹き飛ばしたのだ。「……チッ、余計なものを」 顔をしかめる。 慧を助けるつもりはなかった。だが、鏡の出力が高すぎたせいで、結果的に周囲の雑魚を一掃してしまった。 吹き飛ばされた影たちが霧散し、泥の中から慧の体がボロ屑のように放り出される。「ごほっ、ごほっ……!」 泥の上に転がり、激しく咳き込む慧。 全身泥まみれで、髪も服も皮膚も溶けかかっている。だが、生きている。 虚ろな目で、裂けた繭の方を見上げた。 そこには、泥の中から這い出そうとする静の姿があった。 そしてその背後――切り離された巨大な「燈の影」が、苦痛にのたうち回りながら、形を保てずに崩壊しようと

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