私と兄の出会いは、十四年前。
実のところ、兄との間には血のつながりも、戸籍上のきょうだい関係もない。 私の実の両親は、私が物心つく前に交通事故で亡くなった。 児童養護施設で暮らしていた私を、里子として迎えてくれたのが朝比奈家――兄の両親だった。 詳しい経緯は今もよくわからない。冠婚葬祭の席で聞きかじった程度の話だけど、朝比奈家の実の長女、愛莉さんという人が病気で亡くなったことがきっかけだとか。 ただ、この件に関しては、なんとなく触れてはいけない空気があって、両親にも兄にも、まだきちんと聞けたことはない。里親制度には『交流期間』というお試しの時間がある。
実際に里親の家で過ごし、お互いに相性を確かめてから正式に迎え入れるというもの。
初めて朝比奈家を訪ねたのは、その交流期間の最初の夏の日だった。
「瑞希ちゃん、自分の家だと思ってゆっくりしてね」
玄関でそう言ってくれた母の手は、あたたかかった。
「漣、そこにいるんでしょう。こっちにいらっしゃい」 家の中に入ってすぐ、母が一番手前の扉に向かってそう呼びかけた。 その扉から現れたのは、背の高い中学生の男の子。 艶のある黒髪、整った顔立ち、姿勢の良さ。チャコールグレーのズボンに深緑のブレザーが、不思議と大人びた雰囲気を漂わせていた。
――わぁ、カッコいい。 その人を見た瞬間、胸がときめいたのをよく覚えている。 「紹介するわね。この子は漣っていうの。中学三年生。……漣、この子が瑞希ちゃんよ」 「は、はじめまして」 名を呼ばれて頭を下げると、兄は一瞬だけ驚いた顔をして、すぐに視線を逸らした。 そして何も言わず、踵を返して部屋へ戻ってしまった。 母は慌てて「普段はあんな態度を取る子じゃないのよ」とフォローしてくれたけれど、私は少し悲しくなった。 ――嫌われちゃったのかな。 でもそれは杞憂だった。 正式に朝比奈家へ迎えられてからの兄は、まるで別人のように優しかったから。 七歳の私に、十四歳の兄。倍以上も年が離れていたけれど、仕事で父母が不在の日には必ず夕食を一緒 にとり、私の話を穏やかに聞いてくれた。 「そうなんだ」「楽しそうでよかった」 そんなふうに微笑む兄の表情が大好きだった。 どんなときも穏やかで優しい。私にとっては、安心の象徴みたいな存在。特に、あの夜のことは忘れられない。
環境が変わったせいか、眠れない夜が続いていた。胸の奥にあったのは、いつかこの家を出なければならないかもしれないという不安と恐怖。
里親制度には養育期間があり、十八歳になったら施設に戻るか、自立しなければならない――そんな説明を受けていたからだ。 あたたかい食卓、柔らかい笑顔。 せっかく見つけた居場所が、いつか消えてしまうのではないかと思うと、胸が苦しくなった。 その夜、私は衝動的に兄の部屋をノックしていた。「……え、でも」 反射的に声を漏らす。 なんと答えていいかわからなくて言い淀み、手にしていたバッグをそっと置いた。 そして漣くんのとなりに戻り、腰をかける。 両親が私たちの関係をどう受け止めるのか――との話題が出たのは、お互いの想いを確かめ合ったあの日だけ。以降は避けてきた。 もちろん、いつかは向き合わなければならない試練だとわかっている。 でも、いざ行動に移そうとすると、やはり不安が頭を擡げた。「わかるよ。反対されるかもしれないし、傷つくこともあるかもしれない。でも時間が経つたびに思うんだ。これから先も瑞希と一緒に生きていくなら、避けて通れない」 真剣な瞳で告げる漣くん。 その言葉が正しいと、私もわかっている。だけど――「……もし、『別れなさい』って言われたら、別れるの?」 心の奥に潜んでいた恐怖が、思わず言葉になってしまった。 なにか行動を起こすことで、この幸せを手放さなければならなくなるのがつらい。 私は、たとえ両親に反対されてもこの愛を貫きたい。 でも、ひょっとすると漣くんは違うのかもしれない。 確かめたくて、震える声で問うた。膝に置いた手が小刻みに揺れている。「そうできるなら、最初から瑞希と付き合ったりしない」 返ってきたのは、揺るぎない想いを込めた力強い言葉だった。「――長期戦覚悟で、わかってもらうしかないよ。瑞希も同じ気持ちだろ?」 私は強くうなずいた。「お父さんとお母さん……大切なふたりには、漣くんのこと、ちゃんと認めてほしい」 実の親のように育ててくれた、心から大好きな両親。 だからこそ、きちんと筋を通したい。 もしかすると、ふたりにとっては恩を仇で返すような告白になるのかもしれない。
ぱちっと目を開けると、すぐ目の前に漣くんの優しげな瞳があった。「っ……ごめん、寝ちゃってた」「いや。寝顔、かわいかったから飽きなかったよ」 微笑みながら言う漣くん。 どうやら衣服を着てひと休みしたあと、ほんの短い間眠ってしまっていたらしい。「そ、そういう……恥ずかしいこと言うんだ、漣くんって」 顔が熱くなって、慌てて横を向いてしまう。 妹だったころは、こんな甘い台詞を告げられるなんて一度もなかった。 うれしいけど、どうしていいのかわからない。調子が狂ってしまう。「そうだね。思ってることは、ちゃんと伝えたいほうかも」「……さすが、モテるはずだよ」 さらりと受け入れてしまうところも、漣くんらしい。 照れ隠しや言い訳をしない、真っ直ぐなその姿勢に、心から尊敬してしまう。 こんな人に真っ直ぐ「好きだ」と伝えられたら、どんな女子だって夢中になってしまうに違いない。 私は納得と尊敬をこめて小さくうなずきながら、枕元のスマホを手に取った。 画面に表示された時刻におどろく。 ――もう十七時半。 お昼過ぎに来たはずなのに、どうしてこんなに時間が経つのが早いのだろう。「そろそろ帰らなきゃ。夕飯までには帰るって言っちゃったんだ」 小さく嘆息しながら告げる。 本当は泊まっていきたい。明日は漣くんも休みだと言っていたし、時間を気にせず過ごせたらどんなに幸せだろう。 でも、いくら仲のいい『きょうだい』でも、異性である以上、泊まりがけはさすがに不自然だ。「そうか。残念だけど、仕方がないな」 漣くんも同じ気持ちなのだろう。無理に引き留めたりはせず、少し寂しそうにしながらもうなずいてくれた。「……もっといろいろ話したかったな」
彼がそう宣言したあと、両手を私の腰に移動させ、しっかりと抱え込むような体勢になった。 漣くんのこめかみに伝った汗が、ぽたりと私の肩へと落ちる。 熱い滴が触れただけで、心臓が跳ねる。「あぁ……んんぅっ、はぁあっ……!」 その瞬間、律動の間隔がさらに短くなる。 下肢から全身へと駆け上がるめくるめく悦び。 刻まれる激しいリズムに翻弄され、もうそれ以外は何も考えられなかった。 気持ちいい。気持ちいい。それしかない。 ――だめ、こんなの……我慢できない……!「あぁ、漣くんっ――漣くんっ……やぁあっ……っ、~~~っ……!!」 大好きな彼の名を必死に呼び続ける。 絶頂感がせり上がり、腰が意思に反してびくびくと跳ねた。「ナカ、収縮してる……ちゃんとイけたね。でも、もう少し付き合って」「っ?」 それで抽送が止むと思っていたのに―― 意味を理解したのは、漣くんがつながったまま私のお尻を抱え上げ、自分の脚の上に跨らせたときだった。 抱き合いながら向き合う体勢。羞恥と興奮が一気に押し寄せる。「この体勢だと、いっぱいキスできるね」「んんっ……ふぅ、はぁあっ、んんっ……!」 達したばかりの身体を容赦なく突き上げられ、その合間に唇を塞がれる。 口の中も、お腹の奥も、彼に支配されている――そう思うだけでどうしようもなく情欲が募った。「ふ、ぁ……あぁ、漣くんっ……」 苦しくて、呼吸さえ上手くできない。 それに気づいた漣くんが唇を解放し、熱
くちゅり、と粘着質な音を立てながら、漣くんの熱い切っ先が秘裂に触れる。 ゆっくりと体重をかけられると、少しずつ私のなかへ呑み込まれていった。「ん、んぁっ……」「つらい?」「大丈夫……痛くはないから、そのまま……」 前回から少し時間が空いていたせいか、苦痛ではないけれど、確かな圧迫感に身体がびくびく震える。「無理だけはするなよ。今日はとにかく、瑞希を気持ちよくしてあげたい」 耳元でそうささやいた漣くんが、左の耳朶にちゅっと吸い付く。「あぁ、んんっ……!」 耳輪を舌でなぞられるたび、ぞくぞくと快感が駆け上がる。 さらに軽く歯を立てられると、また違った愉悦が背筋を走った。「気持ちいい? ……ほら、もっと溢れてきた」「ん……気持ちいいっ……」 眩暈がしそうな快楽に翻弄されながら、私は素直に答えていた。「正直で偉いな」 褒めるような声音でそう言うと、漣くんがご褒美と言わんばかりに唇を重ねてきた。 口腔内を這い回る舌が、私を淫らな気持ちに染め上げていく。「ふ、ぅっ……んくっ……んんっ…」 ――掻き混ぜられて気持ちいい。もっと欲しい。 そんな願望を抱いた矢先、彼は唇を離して私の瞳を覗き込む。「かわいい……そのとろんとした目、堪らない……」「あっ!」 興奮に掠れた声を洩らしたあと、漣くんがゆるやかな律動を始めた。「んんっ、ぁあ――」 大きな質量が前後に動くたび、粘膜同士が擦れ合って、お腹の奥から痺れるような悦びが弾ける。「っ、はぁっ&
漣くんが避妊具を装着している間、どうにも落ち着かなかった。 ベッドに横並びで座りながら、私はそわそわと意味のないことをしてしまう。 兄の部屋の天井の四隅や、シーリングライトの形なんて普段気にも留めないものを、やけに真剣に観察していた。「瑞希、どうした?」「な、なんでもないっ」 不思議そうに顔を覗き込んでくる漣くん。 私は慌ててぶんぶんと首を横に振り、視線を逸らした。「……うそが下手だな。いかにも『目のやり場に困ってます』って顔してる」「っ、ごめん……まだ、その……慣れなくて」 図星を突かれて、顔を背けながら小さく謝る。 漣くんは私のことを、やっぱりなんでもお見通しだ。「そういうところも、かわいい」 ぽつりと呟くと、彼は私を抱き寄せた。 熱を帯びた胸に顔を埋めると、ドキドキがさらに加速する。 意外と筋肉質な腕が私の背中を包み、首筋にキスがひとつ落ちた。「――愛おしくてたまらない。瑞希が俺の腕の中にいてくれるのが、本当にうれしい」「私も……漣くんとこうして一緒にいられて、すごく幸せ」 少し前の私は、こんな未来が来るなんて想像できなかった。 奇跡でも起きない限り、望めないと思っていた。 でも――その奇跡は起きた。 大好きな人の温もりが、その証拠として今ここにある。「……ずっと謝らなきゃって思ってた。初めて瑞希を抱いた、あの夜のこと」「……?」 幸福感に浸っていると、不意に神妙な口調で切り出され、私はほんの少し身を離して彼の瞳を見つめた。「瑞希が初めてだってわかってたのに、ちゃんと『好きだ』って伝えられなくて……中途半
漣くんは私の頬に軽くキスを落とすと、そのまま足元へとずり下がった。 そして、私の両脚をそっと開き、その間に身体を割り込ませる。「な、なにするのっ……?」「いいから」「あっ、やぁ――!」 まさか、と思った次の瞬間。 漣くんが私の脚の間に顔を埋め、まだ絶頂の余韻で蜜を吐き続けている入り口に舌を這わせてきた。「だっ、だめだってば、漣くんっ……! そんなところ、汚いっ……!」「そんなことない。瑞希の身体に、汚い場所なんてないよ」「で、でもっ……あぁっ……!」 指で触れられるよりも鋭く、直接的な刺激。 粘膜の上を舐め上げられるたび、羞恥と快感が入り交じって全身を駆け抜ける。 ――顔から火が噴き出そうなほど恥ずかしい。 それなのに、どうしようもなく気持ちいい……!「んぁ、やぁ……漣くん、だめぇっ……!」「どうして? 気持ちよくないの?」「そういうんじゃ……っ、なく、てっ……!」 ざらついた舌先が秘芽を嬲るたび、えも言われぬ悦楽がほとばしる。 必死に足をばたつかせようとするけれど、彼にがっちりと押さえ込まれて身動きが取れない。 強制的に快楽を与え続けられる状況に、抗う術はなかった。「だめ、漣くん、本当にだめっ……! また、おかしくなっちゃう、ぁああっ……!」「何度でもおかしくなっていいよ。どんな瑞希も、大好きだから」「あぁっ、やぁ――っ……!」 濡れそぼった入り口に呼気がかかるだけでも、今の私には十分な刺