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第412話

Auteur: 風羽
散らばった荷物の中で、「葉酸」の箱がひときわ目立った。

輝の視線がそこに吸い寄せられる。

朱音は失態に青ざめ、慌ててかがみ込むが、手は震え、物を拾い集めるのもままならない。

そのとき、大きな手がすっと伸び、葉酸の箱を拾い上げた。

「……ありがとうございます」

朱音が受け取ろうとする。

だが輝は手を離さず、彼女を見つめ、それからゆっくりと瑠璃へ視線を移した。

細いヒールではなく、控えめな中ヒール。

その足元を見た瞬間、胸の奥に確信が生まれる。

——瑠璃は、身ごもっている。

朱音は慌てて箱を奪い返し、鞄に押し込む。

「社長、行きましょう!」

瑠璃は取り乱さなかった。

妊娠はやがて誰の目にも明らかになる。いずれ隠せぬこと。

二人は背を向けて歩き出す。

輝はただ、その後ろ姿を見つめ続けた。

周囲では噂話が広がる。

彼女との過去のスキャンダルを囁き合う声。

遠くから、絵里香の甲高い声も混じる。

掌に残る熱。

まるで、あの葉酸の箱が焼き付けたかのように。

輝は突如、足を踏み出した。

——早く、彼女を追わなければ。

「輝!どこへ行くの!」

背後から絵里香の声が追う。

だが彼は振り返らなかった。

振り返らぬ背中を見つめながら、絵里香は呆然とつぶやいた。

「やっぱり……彼は彼女を忘れられないのね」

エレベーターはすべて上階に。待ちきれず非常階段へ駆け込む。

革靴の音が白い壁に響き、胸の鼓動と重なった。

窓の外、街の灯が星のように瞬いていた。

何度も、何度も——彼女の面影と、手を重ねた夜が蘇る。

……

ホテル一階。

漆黒の車体が夜の灯を受けて輝き、運転手がドアを開けて恭しく言う。

「奥さま、どうぞ」

瑠璃が乗り込もうとしたその背へ、急な足音。

そして、忘れ得ぬ声。

「……瑠璃」

風に髪を揺らし、瑠璃は身をこわばらせ、ゆっくりと振り返った。

灯火に照らされ、そこに立つのは昔と変わらぬ男の姿。

端正な輪郭に、黒曜石を思わせる瞳。

「お前、身ごもっているのか?」

距離を詰め、彼は低く問うた。

風が頬の髪をそっと揺らし、彼女の姿はどこか儚げで愛らしい。

それでも退くことなく、穏やかな笑みを浮かべる。

「結婚した夫婦に、子が宿るのは普通でしょう?」

輝の声は切羽詰まっていた。

「誰の子だ?」

「もち
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Commentaires (1)
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良香
かつて囁いた瑠璃さんは心からお前だけを望んでたんやで。今そばにいる女は周防夫人になりたいんだけどな。
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