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第812話

Author: 風羽
慕美は背筋を正したまま座っていた。

けれど、意識の全部は澪安が握る自分の手のひらにあった。

その温度、その強さ、その意味。

ようやく呼吸を思い出したころ、小さく首を振る。

「別に、何も考えてない」

澪安は横目で彼女を見て、怠惰にも優しい声音で笑う。

「俺のこと、考えてたんだろ」

「考えてない」

慕美は即座に否定した。

それ以上、澪安は追及しない。

女性の心に踏み込みすぎない――彼なりの礼儀だ。

車は静かに夜道を走り、マンションへ向かう。

しばらくして、澪安のスマホが震えた。

画面に表示された名前――桂木恬奈。

慕美も見えた。

澪安はすぐには出ない。

だが数秒後、再びコール音が鳴り響く。

静かな空間ではひどく耳障りだ。

今度は澪安が顎で合図した。

「出てくれ」

慕美は顔をそむける。

「あなたの電話。私が取るのは違う」

運転から目を離さず、澪安の声だけが低く落ちた。

「お前は俺の未来の妻だ。俺宛ての電話なら、何だってお前が出ていい」

そう言われても、慕美は頑なに拒む。

だが澪安は強引に通話ボタンを押し、そのままスマホを慕美の耳元へ。

「何
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