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第967話

Auteur: 風羽
数秒の間をおいて、夕梨は電話に出た。

「……もしもし?」

その声は、わずかに掠れていた。

受話器の向こうで、寒真がすぐに気づき、低く優しい声で尋ねた。

「どうしたんだ?」

夕梨は首を振る。

「ううん、何でもないわ。廊下の突き当たりにある窓際で風に当たっていたから、少し冷えちゃったみたい。

翠乃さんのスタイリング、ちょうど終わったところよ。そっちはどう?」

寒真の口調は、どこまでも柔らかかった。

「こっちは今、バンドのチェックとお品書きの確認が終わって、ようやく進行を詰め終えたところだ。夕梨……ホテルでの仕事がこれほど細かくて大変なんだな。ずっとこんなふうに頑張ってきたんだろ……本当に、よくやってる」

夕梨の胸に、不意に温かいものが込み上げた。

「私、この仕事が好きなの」

寒真は周囲から離れると、囁くように言った。

「でも、俺はお前が心配なんだ……もちろん心配だけど、止めたりはしない。夕梨が選んだことだし、俺は尊重する。結婚しても、続けたいなら続けていい」

それは、恋人同士の交わす最高の言葉だった。

夕梨は、もう米国へ留学に行くことはないだろうと思った。

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