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第五話 妹に奪われた人生

Auteur: 煉彩
last update Date de publication: 2026-06-23 21:05:17

 凛華の実の両親は、唯衣に言われるがまま、凜華へ視線を向けた。思わず凜華は目線を下に背ける。

(さすがにこの距離じゃ、バレてしまうかもしれない)

 ドクンドクン……。凛華の鼓動は大きくなるばかりだ。

 両親は、ジッと凛華を見つめた。それは時間にして数秒。彼女は何分以上の体感だ。額に汗が流れる。だが、次の瞬間、両親は冷めきった目で首を横に振た。

「別人だ」

 父は汚い物を見るように吐き捨てる。

「昔の娘は、もっと綺麗だった」

(お父さん、こんなに近い距離なのに私のことがわからないのね)

 それは凛華にとって都合が良かったことだが、同時に心の中で僅かに残っていた両親への小さな希望が消えた瞬間だった。

「こんなみすぼらしい恰好で子どもを抱えているはずがないだろう?」

 父は義理の妹に向かい言葉をかける。

「あの子がこんな惨めな女性になるわけがないでしょう」

 母も息と同時に毒を吐いた。その言葉は、刃のように凛華の胸へ突き刺さる。

 唯衣と両親が並んで笑い合う姿は、まるで本当の家族のようだった。

――いや、きっと最初からそうだったのかもしれない。

 凛華は幼い頃、母の不注意で遊園地にて誘拐された。人買いに売られ、引き取った夫婦は最初こそ優しかったものの、実の子供が生まれると、凜華を祖父の元へ押し付けた。そして今、実の両親ですら、凛華を娘として愛してくれたことは一度もない。

 凛華は唇を噛み締め、静かに視線を伏せた。

 唯衣は両親の態度に安心したように笑い

「紛らわしい顔をしているから、ちょっと驚いちゃった」

 フフッと笑うと

「でも、本当に汚らしい女ね」

 凛華の身体を上から下まで目線で追い、ハハハっとさらに声を大きくした。

「赤ちゃんもこんな女に育てられるなんて。子どもに母親は選べないもんね。可哀想だわ」

 一旦泣き止んでいる赤ちゃんに顔を近づけた。

「どこの誰の子かもわからない雑種でしょうに」

 その瞬間、凛華の呼吸が止まった。自分は構わないと思っていたが、一番大切な子どもまでバカにされ、怒りが喉元まで込み上げる。

(ここで反抗的な態度をとったら騒ぎが大きくなっちゃう)

 凛華は必死に怒りを押し殺した。

(今はこの子を守るお金も力も、逃げる場所さえもない。ここで騒いだら、終わってしまうわ、だめだ。)

 凜華は唇を強く噛み、唯衣たちに向かい、深く頭を下げた。

「……。申し訳ございません」

 凛華には言い返す気力すらなかった。今はただ、一刻も早く日葵を連れてこの場を離れたい。

「すぐに立ち去ります」

 凛華がその場から一歩歩こうとした瞬間、唯衣がわざと進路を塞ぐ。

「待ちなさいよ」

 赤いヒールが凛華の前へ立ちはだかった。

「人にぶつかっておいて、このまま逃げる気?」

 ふんと唯衣は鼻を鳴らす。

「床に跪いて、私の靴を舐めなさい。そうしたら許してあげる」

 周囲にはいつの間にか、人だかりができていた。

 一方的に言いがかりをつけられている凛華を、誰一人助けようとはしない。凛華は震える指先を止めようと、手のひらにグッと力を込める。

「……。お願いです。通してください」

 凛華の声は媚びを売るような声音ではなく、低く、反抗的な声だった。

 その言葉に、唯衣は凛華の耳元で笑った。

「昔ね、私の近くにあんたに似た大嫌いな女がいたの」

 その人物を思い出すように、くくっとバカにしたような笑いを続ける。

「邪魔だったから、私が自分の手で刑務所へ送ってあげたわ」

 急にボソッと呟かれたような言葉に、凛華は一瞬背中が冷たくなった。

(私のことをこんなにも憎んでいただなんて。私が何をしたと言うの?)

 凛華がこの家に引き取られたばかりの頃は、唯衣に気を遣い続けていた。本当の娘ではない自分が現れたことで、不安にさせたくなかったからだ。だからこそ、本当の妹のように大切に接してきた。一度だって、彼女を傷つけた覚えはない。

(――それなのに、いつからここまで深く憎まれるようになったのだろう)

あまりにも皮肉だった。

「あの女にそっくりな顔してるんだから、自業自得でしょ。」

 凛華は怒りを抑えるため、ギュッと握っていた爪が拳へ食い込む。

(この子だけは守らなきゃ。大切なわが子だけは。不幸にしちゃいけない)

 凛華は、自分の娘の存在、その一心だけで立っていた。だが、次の瞬間、唯衣の手がその

 大切なわが子へ伸びる。

「この子のこと、本当にあんたが守り切れると思ってるの?」

 唯衣の赤いネイルが日葵の頬へ触れかけた、

 その時――。

「……。その汚い手で、私の子どもに触らないで」

 必死に耐えていたものが、凛華の中で切れた。低く、掠れた声だった。

 しかしその目には、先ほどまで感じられなった今まで押し殺してきた怒りの感情で燃えている。その威圧感に唯衣は一瞬たじろいだ。

「は? 反抗する気?」

 自分より下に見ていた存在に反抗され、唯衣のプライドが許せなかった。

 再び手を伸ばそうとしたその瞬間――。

「――。何をしている?」

 低く重たい男の声がその場に響き渡る。

 空気が凍り付くほど、威厳のある男。彼の一言でその場が静まり返った。

 凛華もまたその声に小さく肩が震え、子どもを抱く腕に、思わず力が入った。

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  • 私を刑務所へ送り込んだ夫が、今さら執着するなんて   第六話 気づかないふりなのか、それとも本当に

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