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第39話
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総裁、早く美羽秘書を追いかけて！彼女の値打ちは3000億円に達したからだ 第148話
花音の会社のビルの下に着くと、美羽は花音が彼氏の優と一緒にいるのを目にした。花音は泣きながら優の手を掴んでいたが、優は嫌悪と苛立ちの表情を浮かべ、力強く彼女の手を振りほどいた。その上、花音の会社の同僚たちが窓やビルの下で見物し、写真を撮っている。やがて花音は地面に倒れ込み、優は車に乗って去っていった。すると花音は声をあげて泣きじゃくった。普段はおおらかで明るく活発な彼女が、今や会社中の笑いものになってしまったのだ。美羽は迷わず車を降り、花音の頭に自分の上着を被せた。慶太も車を停めて降り、二人のそばへ駆け寄った。美羽は泣き崩れる花音を抱き起こし、車へと乗せた。花音は美羽の胸に顔を埋め、嗚咽した。「優が……優が私と別れるって！……あの夜、西宮に迎えに来た彼は、私の姿を見て何度も『何があったのか』って問い詰めた。でも怖くて本当のことを言えなかったの。……ただ酔っ払って、痴漢に遭いかけたけど、美羽がいたから無事だったって……今日、その写真が彼にも送られて……会社に迎えに来てくれたけど、開口一番、私のことを売女だって……ううっ……」美羽は低く言い放った。「彼はそんなことを言う、最低男よ。あんなクズと別れて、泣くじゃなくて、喜ぶべきだよ」信号で車が止まった時、美羽はティッシュを取って花音の涙を拭こうとした。そのとき花音がふと外を見て叫んだ。「絶対あの女よ！」そう言い終えると、彼女はすぐドアを開けて飛び出した！美羽は一瞬遅れて「しまった！」と気づいた。人通りも監視カメラも多い大通りで、もし花音が月咲を殴れば、その映像が証拠になってしまう。慌てて追いかけた美羽だったが、車道に踏み出した瞬間、一台の車が猛スピードで迫ってきた。その車に乗っていたのは、偶然通りかかった翔太だった。運転手が急ブレーキを踏み、彼自身も前座席に手を突いて衝撃を防いだ。運転手は青ざめて弁解した。「……社長、私の不注意じゃありません、彼女が急に飛び出して――」その刹那、慶太が素早く車から飛び出し、美羽の腕を掴んで胸に抱き寄せ、間一髪で救い出した。翔太が見上げた時、視界に映ったのは、自分の車の目の前で抱き合う男女の姿だった。その瞬間、彼の頭をよぎったのは――なぜ運転手は轢かなかったのか。彼の表情は冷えきっていた。今回の運
総裁、早く美羽秘書を追いかけて！彼女の値打ちは3000億円に達したからだ 第147話
美羽は特に口を挟まなかった。彼女はいま、朋美に介護士を選んでいるところだった。週末には慶太と出張に行かなければならない。どれだけ長引くかはまだ分からない。早ければ1週間、遅ければ半月。雪乃は生まれて2ヶ月の娘の世話で手一杯で、病院に頻繁に来られるわけでもない。その横で、花音はインスタを見ながら声を上げた。「紗々ってやつ、ほんと腰抜け！謝罪文出したと思ったら全部言い訳。『聞いた話をちょっと愚痴っただけ、まさかこんな騒ぎになるとは思わなかった』って。しかも『私の話を真に受けないで』とか。コメント欄、今めちゃくちゃ荒れてるわよ」さらにしばらくすると――「こいつ、コメント欄閉じた」また2時間後――「嘘っ！？彼女はアカウントごと消した！」美羽はため息をついた。「もういいわ、この件はここまでにしましょう」ずっと引きずる気にはなれなかった。花音は最後にぽつりとつぶやいた。「展開が早すぎ。……これ、もし私が当事者じゃなかったら、誰か裏で仕掛けたと思ったかも」普通なら、この手の炎上騒動は当人が出てきても「どうせ裏操作での火消しでしょ」と疑われるのに、今回の佐久間紗々の件にはそれがなかった。むしろ彼女が謝罪文を出す前から、世論はすでに風向きを変えていた。……西宮のホールは音楽で賑わっていた。恭介はバーにもたれ、気ままに酒を口にしながらスマホでメッセージを送った。【翔太、ネットの件、大体片付けた】翔太からの返信は短く、【了解】。恭介は西宮を出て、街路に出てタバコをくわえた。ふと顔を上げると、意外な人物を見かけた。慶太だった。彼は向かいのレストランから出てきたところで、隣にはスーツ姿の男がいた。暗がりのせいで顔までは分からないが、背が高く体格のいい人物だった。二人はそのまま車に乗り込んだ。恭介は煙を吐き、意味ありげに眉をひそめた。車内。慶太はスマホを見ていた。ネット上の美羽に関する騒ぎは、すっかり静かになった。彼は隣の男に目をやった。「片付けさせたんですか？」「ああ」……彼も手を打っていたのだ。では今回の功績は、一体誰のものだろうか。……誰の手柄であれ、彼らはこれで一件落着だと思っていた。嵐は去り、日常が戻る。――そう思っていたのに、翌日、事態は制御不能の方向へ暴走し
総裁、早く美羽秘書を追いかけて！彼女の値打ちは3000億円に達したからだ 第146話
星璃は眉をひそめた。月咲は花音を見て言った。「紅葉さんが当初、私を傷つけた件です。傷口はもう治りましたが、痕はまだ残っています。そして怪我をしたときの写真も、診断書も全部残してあります。これをネットに出して経緯を説明したとしても、『デマ』や『中傷』にはならないですよね？」この件については、美羽は星璃に話していなかった。不意打ちを食らった星璃は思わず美羽を見やった。花音は急所を突かれて言葉を失った。だが美羽は表情を変えずに口を開いた。「全部ネットにあげていいよ。ネットでは、私はそこそこ有名人よ。『医療トラブルを起こした人の娘』っていうレッテルをね。その話を足したら、きっとあなたも『心臓移植を受けた患者の家族』だってすぐにみんなに知られるわ。そして、私たちが碧雲で一緒に働いていたことまで」月咲は唇を噛んだ。「だから、何ですか？」「それがどう転ぶかは私にもわからないわ。けどね、一番予測できないのはネット民よ。ちょっとした蝶の羽ばたきが、最後には何を引き起こすか誰にもわからない。……この泥仕合の最後、誰が一番の負け組になるか、見てみましょう」月咲は言葉を失った。美羽は視線を紗々に移した。「……あなたがどういうつもりでネットにそう書いたのか、興味はない。ただ一つ、今日中にその投稿を消して、さらに私に向けて正式に謝罪を出しなさい。もしやらなければ訴える。私は言ったことを必ず実行するから」そう言い切ると、美羽は花音の腕を引き、星璃に軽くうなずいて、三人で店を後にした。帰り道、花音はまだ怒り心頭だった。「まったく！あの二人がつるんでたなんて！あっ、そうだ。『お月様』って名前でアイコンが月のアカウント、あれ絶対葛城月咲だわ！紗々と一番頻繁にやり取りしてた！」彼女はすぐ月咲のインスタを見せた。美羽が流し見したとき、一つの投稿が目に入った。――「『あなたは私の宝物だ』って言ったら、あなたは『君こそ俺の宝物だ』って答えた」添えられた写真は二つのコーヒーカップ。人物は写っていないが、端に映り込んだ手首に小さなほくろがある。それは、翔太の手だ。美羽は視線をそっと外し、無表情のまま星璃に向かって言った。「ありがとうございます、黒川先生。今日は本当に助かりました」星璃は淡々と返した。「1時間半かかりまし
総裁、早く美羽秘書を追いかけて！彼女の値打ちは3000億円に達したからだ 第145話
ちょうど雪乃が朋美のお見舞いに来てくれたので、美羽は母を姉に任せて病院を出た。その頃、花音から連絡が入った。「犯人がわかったよ。覚えてる？佐久間紗々（さくま ささ）って子」どこかで聞いた名前だ。美羽は少し考えてから答えた。「大学のとき、同じ寮にいた子？」「そう、それ！あの靴下を平気でそこら中に放り投げて、掃除当番になると外で遊び歩いて寮に帰らず、使用済みのナプキンをトイレに流した、あの珍妙な子！」「……ネットに書き込みしてたの、彼女なの？」「100パーセント間違いない！先インスタに『友達と午後のひととき』なんて書いて、カフェの写真をあげたの。まだその店にいるはずよ。今から行こう！」美羽はタクシーを捕まえ、移動中に星璃へ電話をかけて事の顛末を説明し、時間があるかどうか確認した。万一法に触れる話になったら、弁護士が同席してくれる方が安心だからだ。幸い、星璃もちょうど手が空いている。三人はそれぞれ別の場所から向かい、ほぼ同時にカフェに到着した。先陣を切ったのは花音だ。店に入るなり声を張り上げた。「紗々！なんでネットで美羽のデマを流したの！」そのとき、紗々の向かいに座っている女性の後ろ姿が目に留まった。どこか見覚えがある。すぐにその女性が顔を上げた。月咲だった。花音は即座に怒鳴った。「やっぱり！二人グルだったのね！どうして紗々が突然、美羽の悪口を書き立てるのか不思議だったけど……なるほど、裏で糸引いてたのはあんたか、この不倫女！共犯者同士、ほんとお似合いだわ」突然問い詰められた紗々は明らかに動揺したが、強がって言い返した。「……意味わかんない。私たちはただコーヒー飲んでるだけだわ」月咲は落ち着いた声で口を挟んだ。「紅葉さん、店に入ってくるなり罵倒するのは、どうかと思いますけど？」「ふん！あんたみたいな不倫女に、これでも丁寧な言い方してる方よ！」月咲はスマホを取り出し、録音を開始した。「これから話すことは、全て録音させてもらいます。根拠もなく侮辱を繰り返すなら、弁護士に依頼して名誉毀損で訴えますから」美羽は、月咲が以前とは別人のように見えた。かつての、ただ弱々しく装う「かよわい女」ではない。今の彼女は余裕すら漂わせ、自信に満ちている。人が短期間でこれほど変わるには、身分
総裁、早く美羽秘書を追いかけて！彼女の値打ちは3000億円に達したからだ 第144話
冬の日にしては珍しく、よく晴れた天気だった。翔太と直樹は仲間と連れ立ってゴルフに出かけた。この日は直樹の運も腕も冴えていて、ホールインワンを決めると、仲間たちに囃し立てられ、お小遣いやご馳走を約束させられた。直樹も気前よく、次々と小切手にサインしていく。たった一試合で2千万円以上が飛んだ。翔太は白いトップスに黒いパンツのスポーツウェアを着こなし、サングラスをかけて小高い丘の上のカップを眺め、クラブを振りながら言った。「お金はいらない。お前のそのブランデー、俺が前から狙っていた。あれをくれ」直樹は笑いながら悪態をついた。「それは俺が結婚式で開けるつもりで取ってあるんだぞ。よく言うよ」恭介はゴルフにまるで興味がなく、ただ付き合いで来ているだけ。「哲也はもう結婚したんだから、直樹はいつ結婚するんだ？彼女とは長い付き合いだろ？」「凛（りん）は今年は時間が取れないって。来年に結婚の話をしようってことになってる」そう言って直樹は翔太に向き直った。「そういえば、真田さんは今、慶太の秘書をやってるんだって？」翔太は「そうだな」とだけ言って、自分の打ったボールの方へ歩いて行った。態度は軽く、淡々としている。彼が歩き出すと、直樹と恭介もついて行った。直樹は問うた。「前から知ってたのか？何も思わないのか？」サングラスに半分隠された翔太の顔からは、もともと感情が読み取りにくい。今はさらに不可解だ。彼は再びクラブを振り、ボールを打った。ボールは空を舞い、キャディが駆け寄って旗を立て、位置を記録した。「何の反応が必要だ？今は滝岡市のプロジェクトで手一杯だ。彼女に割く余裕なんてない」彼は淡々と答えた。直樹は彼の袖を軽くつかみ、じっと考え込むように眉を上げた。「でも、お前……やっぱり信じてるんだろう？彼女があの時、本当にお前の子を堕したって」恭介はスマホを見ていて会話に加わっていなかったが、その一言に耳を捉えられ、顔を上げた。「……流産って？」直樹が説明した。「真田秘書は半年前に一度流産してる。翔太、お前がもう彼女の就職を邪魔しなくなったのは、やっぱり心が揺れたからじゃないか？」恭介の顔色が微妙に変わった。「真田秘書が流産……？」翔太は冷ややかに言い放った。「考えすぎだ。そんなの関係
総裁、早く美羽秘書を追いかけて！彼女の値打ちは3000億円に達したからだ 第143話
「……お父さんと一緒に小さなスーパーをやっていてね。あなたと雪乃、心音（ここね）、三人のまだ半分子どものような子たちが、学校帰りになるとすぐお菓子売り場に駆け込んだ。それでお父さんに『この散財娘ども！店をやっても、お前たちが食べ尽くすんじゃないか！』って怒鳴られてね。棒を持って追いかけてくると、あなたたちは私の後ろに隠れて、私があなたたちを庇って……結局、あなたたちはキャッキャ笑いながら外に遊びに飛び出していったんだ。お父さんは本気で叩くつもりなんてなかったよ。私が二度三度止めれば、すぐ手を引いて。あんまり食べ過ぎるなって言いながら、その夜は海老の醤油煮を作ってくれるつもりだったんだから……あの頃の日々は、本当に良かったね……」――そうだ、あの頃の日々は、本当に良かった。あの罠に嵌められる前までは。生活は質素でも満ち足りていて、あの罠こそが家族をバラバラにした。美羽は、いまだにどうして物事がそこまで転がってしまったのか分からない。人脈を得てから調べようとしたが、あの時に関わった人間たちはまるで煙のように消え、痕跡一つ残っていなかった。彼女はときどき思う。もしあの罠がなければ、今の人生はまったく違っていたのではないかと。「美羽、お母さんと約束して。もしお母さんは本当にダメになったら、もう無理にお金をかけて助けなくていいよ。最後にはお金も命も失ってしまったら、どうしよう……お母さんは死ぬまで美羽に迷惑をかけたくないの」美羽の鼻先がつんと痛み、黙って首を振る。そんなことにはならない、絶対に。「でもね、必ず妹の心音を探し出してちょうだい。あの子は騙されて連れていかれたのよ……」それからの2日間、慶太の方は特に用事がなかったため、美羽は病院で朋美を看病した。朋美は編み物が得意で、「冬になったら寒いでしょう」と美羽にマフラーを編んでやろうと言い出した。「体力のいらないことならいいか」と思った美羽は、朋美にやることを与えたほうが治療を諦める気持ちも紛れるだろうと、かぎ針と毛糸を買ってきた。毛糸を整える娘と、編み棒を動かす母。二人で息を合わせると、あっという間に半分ほど編み上がった。しかし、この静かな幸せは長く続かなかった。美羽の携帯に数件のメッセージが届いたのだ。差出人は花音。【美羽、あなたと夜月が馬に乗ってる動画、
