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第57話 同行する条件

Penulis: 渡瀬藍兵
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-06 19:00:00

「……私ひとりで、行こうと思っています」

美琴は、どこまでも静かに、だけどその奥に揺るぎない、鋼のような決意を込めて、そう言い放った。

その言葉は、僕の胸の奥に、ずっと|澱《おど》みのように抱えていた重たい想いを、ふっと表面に浮かび上がらせた。

「……美琴にとって、僕は……やっぱり、足手まとい、なのかな……」

実際に、廃病院での誠也くんの時も、そして、あの風鳴トンネルでの詩織さんの時も、僕が本当に役に立てたことなんて、ほとんどなかった。

ただ、美琴に守られていただけだ。

それが、今の僕の、偽らざる本音だった……。

でも――

「そんなことは、決してありませんっ!」

美琴が、僕の言葉を遮るように、間髪入れずに、そして驚くほど強い口調で否定してくれた。

だけど僕は、それでも俯いたまま、目を伏せながら言葉を続けた。

「でも……詩織さんの件で、美琴が倒れた時……僕は本当に、何もできなくて……怖かったんだ」

その言葉に美琴は何も言わず、ただ黙って、僕の言葉に耳を傾けてくれている。その沈黙が、逆に僕の心を締め付ける。

「また、あんなことになるかもしれないって思うと……それに…見ての通り、星燦ノ礫も、少しは使えるようになったから、自分の身くらいは、なんとか守れると思うんだ。だから……もし、どうしても美琴が行くって言うなら、僕も一緒に行きたい…。」

僕は、一歩も引かずに、自分の想いをそう伝えた。

心のどこかでは、これがただの僕のわがままで、彼女の足を引っ張るだけかもしれないとも思っていた。


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