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美人上司に甘やかされる毎日が、残業よりつらい
美人上司に甘やかされる毎日が、残業よりつらい
Auteur: 霜晨月

プロローグ

Auteur: 霜晨月
last update Date de publication: 2025-12-03 22:12:44

プロローグ

鳴瀬颯斗なるせはやとは、蹴り飛ばされて意識を取り戻した。

「死んだふりしてんじゃねえ、とっとと起きろ!」

その一撃は、五臓六腑の位置がずれるかと思うほどの威力であった。

颯斗は朦朧としながら目を開ける。強烈な光が差し込み、視界が一気に開けた。

午後の陽光だろうか。目が眩むほどにまぶしく、周囲は有刺鉄線が張り巡らされた高い壁に囲まれている。

そこは広場のような場所で、颯斗は筋肉隆々の荒くれ者たちに取り囲まれていた。

野次馬の中には喝采を叫ぶ者もいれば、不気味な高笑いを上げる者もいる。どいつもこいつも、出来損ないか凶悪犯といった面構えだ。

とりわけリーダー格とおぼしき大男は、肩幅が広く腰回りも太い。鼻筋には見るもおぞましい刀傷が走り、全身から危険な気を放っていた。

颯斗はゆっくりとあたりを見回し、自分を含めた全員が囚人服を身に着けていることに気づく。

ここは……刑務所か?

口を開こうとした瞬間、鉄錆の味が広がった。颯斗は血の混じった唾を吐き捨て、嘲笑と罵声を浴びながら、ようやくの思いで体を起こす。

だが、足元が定まらぬうちに、再び手酷い一撃を食らった。

「来いよ!どうした、やり返さねえのか?吠える犬ほど噛まぬ、ってか?」

人だかりから、どっと笑い声が沸き起こる。

「あんた誰だ、一体何を……!」

しかし、相手は颯斗に口を挟む隙も与えない。拳と蹴りが嵐のように降り注ぎ、颯斗は反撃の余地もなく、両手で頭をかばいながら後退するしかなかった。いつの間にか壁際まで追い詰められ、逃げ場を失っている。

それでも相手は容赦なく、攻撃はいよいよ苛烈さを増していく。まるで颯斗を人間として見ておらず、ただのサンドバッグとして扱っているかのようだ。

俺はなぜここにいる?

こいつはなぜ俺を殴る?

疑問が次々と脳裏に浮かぶが、考える暇などない。颯斗は呆然とあたりを見回し、野次馬たちに助けを求める視線を送った。

だが、誰一人として義憤に駆られ助太刀しようとする者はなく、それどころか、まるで興奮剤でも打ったかのように、もっと悲惨な目に遭えと願っている様子だった。

「死にたいか?」

意識が朦朧とする中、冷徹な声が脳内に響いた。

「いや、死にたくない……」

颯斗はこの状況がまるで理解できていなかったが、このままでは間違いなく殴り殺されるということだけは分かっていた。

――ならば、抗え。

一片の感情もこもらぬ声が、脳裏に再び響く。

颯斗は頭を抱え、ガンガンと痛む頭で叫んだ。

「俺だってそうしたいさ!」

だが、目の前の大男は体格も力も自分をはるかに上回っている。こんな相手に、どうやって抗えというのか。

――口に出せ。

まるで颯斗の心の声が聞こえているかのように、その声は続けた。

――心に思うことを言え。心の奥底に埋もれた欲望と感情を、言葉にするのだ。

時を同じくして、丼鉢ほどの大きさの鉄拳が迫ってきた。これが最後の一撃、致命傷になるだろう。

命にかかわるその刹那、颯斗は突然何かに目覚めたかのように、何もかもを投げ打って叫んだ。

「やめろ――ッ!」

奇妙なことに、その言葉を叫んだ瞬間、大男の攻撃がぴたりと止まった。

拳は、颯斗の顔面からわずか一センチのところで静止している。

大男は呆気に取られていた。手首を動かそうとするが、まるで呪縛にでもかかったかのように、びくともしない。

颯斗はこの好機を逃さず、大男の膝を思い切り蹴り上げ、必死に叫んだ。

「俺にひざまずけ!」

大男の膝がガクンと折れ、ドスンという鈍い音と共に、颯斗の前に片膝をついた。

場の形勢は瞬く間に逆転し、周囲の男たちは顔を見合わせ、ざわめき始める。何が起きたのか理解できないのは明らかだ。ついさっきまで圧倒的優位に立っていた大男が、なぜ一瞬にして相手にひざまずいたのか。

颯斗は拳を握りしめ、口元の血をぬぐうと、裏拳で大男を殴り飛ばした。大男はずりずりと数メートルも後退する。

「俺に謝りやがれッ!」

颯斗が言い終わるや否や、大男は本当に言われた通り地面に這いつくばった。悔しさと屈辱に下唇を噛み切り血を流しながらも、一言一句、絞り出すように告げた。

「ご、め、ん、な、さ、い」と。

一瞬にして、復讐を遂げた快感がこみ上げ、電流のように脳天を突き抜けた。

だが残念なことに、颯斗がその喜悦を十分に味わう間もなく、手足に痺れが走り、頭の中が真っ白になったかと思うと、硬直した体のまま激しく倒れ込んだ。

その時ようやく、不意打ちを食らったのだと気がついた。

高電圧の警棒が、背中を強打したのだ。

颯斗は痙攣しながら地面に這いつくばり、口が麻痺して言葉も発せない。警棒を手に、刑務官の制服を着た長身の人影が、ゆっくりと彼の前まで歩み寄ってきた。

「ついて来い」

男は彼を見下ろし、冷たい声で告げた。

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