로그인颯馬はまるで小さな子供をあやすかのように、根気よく優しく語りかけた。「はいはい、分かったよ分かったよ。あんたたち若い者は、私のことを子供扱いしてすぐあれこれお説教するんだから」志津はやれやれといった様子で応じたが、その意思はなおも固かった。「私ももういい歳なんだ、そんなことくらい言われなくても分かってるさ。ただね、自分の好きなものを食べたい時だってあるんだよ。どうせ先は長くないのに、我慢したってあとどれだけ食べられるっていうんだい?」老い先短いのだから、嫌いなものを食べてまで自分を誤魔化す必要などない。志津の考えははっきりしており、こればかりは絶対に譲る気がないようだった。ふと、自分の人生がひどく虚しいものに思えてくる時がある。何十年も身を粉にして拝島家を支え、守り抜いてきたというのに、結局、二人の息子はどちらも救いようがないほど不甲斐ないままだ。何かあれば、真っ先に飛びつくのは『金と利権』ばかり。自分が若い頃から商売に身を投じ、利益を追い求めてきたせいなのかと自責の念に駆られることもある。だが、いくら仕事で利益を最優先にしてきたとはいえ、家族の絆を捨ててまで金に執着するよう教えた覚えなど一度もない。一体どうして、あの子たちはあんな風に醜く歪んでしまったのだろう。どれだけ考えても、志津にはその理由が分からなかった。「おばあちゃんは絶対に長生きするよ、だからこれからはもっと健康に気をつけてもらわないと」颯馬はにこやかに、しかし少し大げさに言った。「おばあちゃんがいてくれるから、こうしてみんな毎日楽しく過ごせるんだ。もしおばあちゃんがいなくなったら、この家はバラバラになっちゃうよ」「それに――」と颯馬は少し声を潜め、真剣な眼差しを向けた。「僕、帰国してからずっとおばあちゃんのそばにいるけど、本当にこの時間が大好きなんだ。おばあちゃんと一緒にいると、毎日がすごく楽しい。まだまだ一緒にいたいんだから、絶対に僕たちを置いていかないでね。みんな、おばあちゃんにずっと元気でいてほしいって思ってるんだから」その甘えるような言葉に、志津の顔にパッと華やかな笑みが広がった。欲にまみれた息子たちに絶望し、心細く無力感に苛まれていた志津にとって、こうして無邪気に自分を慕ってくれる新しい孫の存在は、どれほど心強いものだったか。颯馬が家にやっ
颯馬は帰国してからの短い期間で、この家の力関係を正確に見極めていた。祖母が正人を毛嫌いし、あからさまに遠ざけていることは誰の目にも明らかだった。正人には家長としての実権はないものの、裏で絶えず小賢しい画策を続けており、決して侮れない性根の悪さを持っている。だからこそ、あえて正人に恩を売って「良き理解者」を演じてみせる。今のうちにこの厄介な伯父を取り込んでおけば、いざという時の駒になる。それと同時に、祖母の前で「いざこざをスマートに収められる優秀な孫」をアピールすることもできる。一石二鸟のこの立ち回りを、颯馬が逃すはずもなかった。「あ、ああ、颯馬の言う通りだ。過ぎたことはもう忘れるとしよう。今は母さんに喜んでもらうのが一番だ」颯馬が差し出した絶好の助け舟に、正人は慌てて飛びついた。憎まれ口を叩く妻の尻拭いをしつつ、その場を上手く取り繕ってくれた青年に内心安堵する。見事なまでに母親の懐に入り込み、機嫌を操る颯馬の器用さを目の当たりにして、正人は少しだけ歯痒くも感じていた。自分にもあれくらいの立ち回りや要領の良さがあれば、少しは母親からの評価も違っていたかもしれないのに、と。「さあ、もう席に着いて食事にしなさい。少しはおとなしくして、これ以上私を怒らせたり気を揉ませたりしないでちょうだいね」志津は溜息まじりに言った。「もし不満があるなら、これからは無理に顔を出さなくていい。私を不愉快にさせるんじゃないよ」容体が安定したとはいえ、入院を経て志津の体力は確実に落ちていた。これ以上ストレスを溜め込めば本当に身を滅ぼすと、彼女自身が一番よく分かっている。そもそも、彼女が病院に担ぎ込まれる原因はいつだってこの強欲な親族たちのせいだ。どうして金のことしか頭になく、母親の身を心から案じることもできない息子を産んでしまったのか……志津は心の奥底で静かに嘆息した。「おばあちゃん、退院したばかりなんだから、先生も薄味のものを食べるようにって言ってたよ。おばあちゃんが濃い味付けが好きなのは知ってるけど、これからはお体のために少し我慢してね」食事が始まると、颯馬はすっかり『よくできた優しい孫』の顔になり、かいがいしく志津の世話を焼いていた。その気の回りようは、まるで律や紫音たちが出る幕はすでにないと言わんばかりだ。志津の和らいだ表情を見てい
「さあさあ、つまらない話はこれくらいにしようじゃないか。今日はめでたい母さんの退院祝いだ、皆で楽しくやろう。ご苦労だったな。それから颯馬、お前も本当によく母さんの世話をしてくれたそうじゃないか。今まで会ったこともなかっただろうが、律と颯馬、お前たち二人もこうして見ると何かの縁だな」正人はさらに芝居がかった口調で、懸命に志津の機嫌を取ろうと続けた。「これからはこの家もどんどん良くなって、円満になっていくと俺は信じてるよ。母さん、ずっと具合が悪かったのに、俺たちなかなか顔を出せなくて本当にすまなかった。愛想を尽かして、俺たちを突き放したくなる気持ちも痛いほどよく分かる。でもな、何があっても俺たちは血の繋がった家族なんだ。これからはもっと良い関係を築いていけるはずだ」人が変わったように殊勝な言葉を並べる正人の頭の中には、狡猾な計算が渦巻いていた。もし仮に、将来颯馬が会社の実権を握ることになったとしても、今のうちに母親の許しを得て取り入っておけば、自分の立場は安泰だ。いくら自分の持ち分があるとはいえ、会社で旨味を吸い続けるには、中心にいる者たちに上手くすり寄っていく必要がある。自分は野心のない人間だと嘯きながらも、正人が拝島家の財産への執着を手放したことは一度もない。この家の金はすべて長男である自分の懐に入って当然だと信じて疑わず、家族の中での自分の重要性を何が何でも認めさせたいのだ。そもそも会社の経営にしても、元はと言えばすべて自分の権利だ。律たちに実務を任せてやっていたのも、本来の主である自分がただ「施しを与えてやっていた」ことに過ぎないのだから。「本当にそう思ってくれているなら、それに越したことはないね。この家が少しでもまともになり、つまらない争いが消えることを私も願っているよ」口ではそう言いながらも、志津が正人と早苗に向ける視線はひどく冷ややかだった。今さらどれだけ耳障りの良い言葉を並べ立てようと、彼らを信じる気など毛頭起こらない。この夫婦の言葉には必ず裏があり、結局はすべて己の欲を満たすための計算でしかないからだ。そもそも、この二人が拝島家のために汗水流して尽くしたことなど一度としてない。ただ貪欲に金と権利をむしり取ろうとするだけだ。とはいえ、彼が自分が腹を痛めて産んだ長男であるという事実は変わらない。どれほど腹
二人が志津に尽くすのは、遺産や会社のためではない。ただ純粋に、祖母には心穏やかに長き人生の晩年を過ごしてほしいと願っているだけなのだ。「……だが、もし颯馬の親愛が偽りで、それをおばあちゃんが知ってしまったら、さらに深く傷つくことになるだろう。私はそんなことにさせたくないし、おばあちゃんが長年心血を注いできたグループを、見ず知らずの他人の手で台無しにされるのも見過ごせないんだ」家の中がどれほど泥沼であろうと、律の根底には、自分を愛してくれた祖母と、彼女が守り抜いてきた会社を簡単には見捨てられないという強い責任感があった。「分かったわ。つまり、何があっても会社に残り、志津様の残したものを護り抜くということね。あなたがどれほど志津様のために身を削っているか、私にはちゃんと見えている。だから、あなたがどんな決断を下そうと、私は全力であなたを支えるわ」紫音は、今の言葉で律の覚悟をしっかりと受け止めた。その声には一切の迷いがなく、強固な意志が宿っていた。「ありがとう。君がそうして理解し、支えてくれるだけで、私はどれほど救われているか……君がそばにいてくれるなら、これから何が起ころうと必ず立ち向かってみせる」律の胸の内に、熱い活力が静かに満ちていくのを感じていた。愛する人がこうして隣で微笑んでくれるだけで、もう他に望むものなど何もない。どんな荒波が待ち受けていようとも、二人なら必ず乗り越えられると確信していた。「さあ、もうすぐ志津様の家に着くわ。向こうで何を言われても、私たちから反発するのはやめにしましょうね。志津様は退院したばかりでまだ本調子じゃないんだから、また怒らせて病院に逆戻りなんてことになったら大変でしょ」紫音の言葉に、律は静かに頷いた。「ああ、分かっているよ」欲に目が眩んだ親族たちがどれほど非常識に振る舞おうと、同じ土俵に立つ気などさらさらない。今日こうして本家に向かっているのも、すべては祖母の顔を見るためだ。祖母が喜んでくれるのなら、些細な挑発などいくらでも聞き流せる。元々、律は彼らに対して凄まじいほどの忍耐を見せており、正面から張り合うような真似はしてこなかった。その大人の対応が、かえって親族たちをつけ上がらせ、「どれだけ冷遇しても言い返してこない外様」として見下す原因になっていることも事実だ。だが実際には、二人はただ志
志津が颯馬をすっかり気に入っているのは事実だ。目に余るような青年であれば、そもそも病室で長々と世話を焼かせるような真似は許さなかっただろう。今の拝島家はとうの昔に壊れていた。誰もが己の打算ばかりを隠し持ち、志津はそんな醜い争いに深い絶望を抱いていた。どうせ自分はもう長くないのだと、生きる気力すら手放しかけていたその時……颯馬という思いがけない存在が現れた。優雅で善良、そして驚くほどよく気の利くこの新しい血縁者が、志津に再び「もう少しだけ生きてみようか」という前向きな活力を与えてくれたのだ。こうして穏やかな時間の中で笑い合える。それだけで志津の心は十分に満たされていた。もうこの歳になって、無意味な財産や権力を欲する気持ちなど毛頭ない。ただ静かに、家族としての温もりを感じながら平穏に過ごせれば、それだけで十分だった。「お義母さん、そんなに目くじらを立てないでくださいな。他意はありませんし、ただ思ったことを口にしただけじゃありませんか」早苗は悪びれる様子もなく言い返した。「それに、私の言っていることは事実でしょう?皆が腹に抱えて言えないことを、私が代わりに言ってあげただけ。どうせお互いの狙いなんて分かっているんですから、今さら猫を被る必要なんてないじゃありませんか」その声には見下すような響きが含まれており、律と紫音への敵意を微塵も隠そうとしなかった。「おい、いい加減にしろ。母さんの具合がせっかく良くなってきたんだ、これ以上刺激するようなことを言うな」見かねた正人が横から声を荒らげた。ただでさえ母親からの心証が最悪だというのに、場所もわきまえずに火に油を注ぐ妻に、正人でさえほとほと呆れ果てていた。これ以上の面倒ごとには巻き込まれたくないのだ。結局、その場は正人がその場を収める形となり、揃って病室を後にした。帰り道、紫音と律は自分たちの車で、志津は颯馬と共に本家の車に乗り込んで帰路についた。「ねえ」助手席に座る紫音は、前を向いたまま静かに口を開いた。「志津様と颯馬くん、すごくいい雰囲気だったわね。彼も、本当に志津様を大切にしているみたいだった。裏にどんな思惑があるかは分からないけれど……もしあれが本心からの優しさなら、それはそれで、悪いことじゃないと思うわ」紫音の口調には一切の迷いがなく、状況を冷静に見極めようとする
いずれにせよ、今後は祖母の様子を見に来た時に顔を合わせる程度の関係だ。わざわざ警戒心を剥き出しにして、つまらない火種を作る必要もないだろうと紫音は割り切っていた。「あんたたち、これまで会う機会もなかっただろうから、お互いのことはまだよく知らないだろうね。でも、颯馬はしばらくこっちにいるんだろう?だったら兄弟、仲良くやりなさい」志津は優しく、しかしどこか芯のある声で二人に言い聞かせた。「律は最近、会社の仕事で随分忙しくしているみたいだから、時間があるなら颯馬も手伝ってやりなさいな。律の仕事ぶりからたくさん学ぶといい。うちのグループが今日ここまで大きくなれたのも、全部律の努力があってこそなんだからね」志津は颯馬の会社への出入りを認めるような口ぶりだったが、それはあくまで「律の下で学ばせるため」という線引きをはっきりと示していた。彼女は決して情に流されて判断を誤るような人ではない。入院中も、颯馬が自分に対して甲斐甲斐しく、細やかに世話を焼いてくれる姿を静かに観察していた。その優しさは素直に嬉しかったし、こうして孫たちが揃って平和な時間を過ごせる日を心待ちにしていたのも事実だ。それでも、各々の立場やこれまでの献身への配慮を忘れることはなかった。「おばあちゃんに言われるまでもなく、兄さんがどれだけ優秀かは分かってるよ」颯馬は朗らかに笑って応じた。「前に兄さんが手掛けたプロジェクトをいくつか調べたことがあるんだけど、本当にすごい手腕だよね。僕が一生かかって努力しても、たぶん兄さんには敵わないな」そう言って肩をすくめると、颯馬はまっすぐな視線を向けた。「でも安心してよ。兄さんという最高のお手本が目の前にいるんだから、たくさん勉強させてもらうつもりだよ」颯馬の言葉はどこまでも謙虚で、志津の前では完璧なほどに身の丈を弁えた態度を崩さなかった。そんな和やかなやり取りを見て、志津はさらに目を細めた。その顔には、この上ない安堵と喜びの色がはっきりと浮かんでいた。ちょうど病室を出ようとしたその時、ドアが開き、正人と早苗が連れ立って入ってきた。 室内に律と紫音の姿を認めるなり、早苗の表情がサッと険しくなる。「あら、あんたたちも来てたの。わざわざ来なくてもよかったのに」早苗は口元にだけ笑みを貼り付け、あからさまに棘のある声で言った。「ここにはお







