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6.初仕事は控えめに

ผู้เขียน: 伊藤ほほほ
last update วันที่เผยแพร่: 2026-04-05 18:10:00

今日は初仕事の日。

ダグルド侯爵に呼ばれ、マーガレットはキルエンと一緒に書斎へとやってきた。

「父上、マーガレットと共に参りました」

「入りなさい」

中から、低く厳かな声が聞こえる。

昨晩の、あのどこか柔らかさを感じさせる声音とは違う。

――これから会うのは侯爵なのだ。

そう思うと、自然と気が引き締まる。

重厚な樫の扉が開かれると、革と古い紙の香りがほのかに漂ってきた。

マーガレットはわずかに緊張しながら、広々とした書斎へと足を踏み入れる。

義父は椅子に深く腰かけ、窓から差し込む午後の光を背にしていた。

「二人を呼んだのは、王都の新規事業についてだ」

侯爵は机の上に広げた地図を指し示す。

「この場所、店舗に空きが出てな。我がファーブリック侯爵家に依頼が来た。どう使うべきか、お前たちの意見を聞きたい」

どうやら、新しく店を開くらしい。

以前管理していた家が、事業に失敗したのだろう。

案を出すだけなら簡単だ。

だが、いま急いで決めるのは得策ではない。

なぜ前の店が失敗したのか――そこから探るべきだと、マーガレットは考える。

しかし。

新参者の自分が、軽々しく口を挟んでいいのか。

その迷いが残る中で、キルエンが一歩前に出た。

「僕にお任せを。付き合いのある商人たちと協力して、セレクトショップを開きましょう。藤の貴公子が新しい流行を作るとなれば、貴族たちは放っておけない」

その声は、自信に満ちている。

藤色の髪は陽光を反射して鮮やかに輝き、白い歯を見せた笑みは眩しいほどだ。

たしかに、彼が広告塔となれば安定した集客は見込めるだろう、とマーガレットも思う。

「僕が社交の場で身につけたものは話題に上がり、飛ぶように売れる。父上もご存知でしょう? いままでは、この商人に聞いてくれと仲介していたが、店を作れば話は簡単になる。高位家族には便宜を図ってやればいい」

「なるほど、確かに具体性がある計画だ。大きな収益も見込める。王都でも有名な店になるだろう」

侯爵はあごの下をなでながら、右下に視線を向けて思案するそぶりを見せた。

「……しかしなぁキルエン。それでは、金の流れを変えるだけではないか? 商人から紹介料として割合で得ていた利益。商品を仕入れて売り、賃貸料に加え従業員に給料を支払う。お前を通すか店を通すかの違いでしかない。マイナスだな。……さて、マーガレットは何かあるか?」

次は自分の番だ。

話す機会を与えられた以上、遠慮する必要はない。

大事なのは、失敗しないこと。

マーガレットは一歩、意識を前に出した。

「その前に、以前この場所にあった店がなぜ潰れたのかを教えてください」

「貴族向けのレストランだな。味は良かった。しかし、高級な素材に高い酒。毎日席が埋まるはずもない。しばらくは順調だったが、そのうち収支が逆転したというわけだ」

――なるほど。

つまり、飲食店としての立地自体は悪くなかったのだ。

経営の設計さえ間違えなければ、成功していた可能性は高い。

マーガレットは慎重に言葉を選びながら、口を開く。

「私は、喫茶店を提案します。もしも、キルエンが了承してくれたら……ですが」

この案には、キルエンの協力が不可欠だった。

出会ったばかりの相手に、それを求める。

嫌われる可能性もある。

それでも。

必ず、侯爵家を継ぐ彼の助けになる。

そして彼自身の価値を、さらに引き上げるはずだ。

マーガレットは両手を前に組み、俯きながら、不安を隠しきれない視線をキルエンへ向ける。

「どういうことだい、マーガレット? 怒らないから話してごらん」

キルエンは、優しく微笑んでそう言った。

その一言で、胸の奥にわずかな勇気が灯る。

「はい、鍵になるのは……キルエンがブレンドした、あのお茶です。この店でしか飲めない名物になると思います」

藤の花を乾燥させ、紅茶葉と混ぜたあの一杯。

出会いと、交わした言葉も重なり、マーガレットにとって忘れられないものとなっている。

それを抜きにしても、あれは確かに“商品”だった。

目を見開くほど、美味しかった。

キルエンが作ったという事実も含めれば、集客力は十分にある。

――あれなら、戦える。

「待て待て、それは無理だ」

キルエンがすぐに言葉を返す。

「あのお茶は大量生産できない。この家で栽培された特別な藤だからこそ成り立っている。名物になって客が押し寄せれば、すぐに在庫が尽きる」

もっともな指摘だった。

花の咲く季節があり、収穫量には限りがある。

だからこそ――。

「そうです」

マーガレットは、はっきりと頷く。

「ファーブリック侯爵家で栽培され、キルエン様がブレンドされた特別なお茶。そう簡単に飲めるものではありません。だからこそ、貴族向けの高級喫茶にしましょう」

「なにを馬鹿な。それでは前のレストランと同じではないか。値段を上げればいいというものではない」

その通りだ、とマーガレットも理解している。

貴族は、ただ高いだけのものに金を払うわけではない。

見栄やプライドにこそ、価値を見出す。

「絞りましょう」

言葉に、わずかな力がこもる。

「店は大きくありません。予約制にして、営業日は月に数回。一度訪れた貴族は、社交の場で自慢します。その話を聞けば、他の貴族も予約したくなる。……でも、できない」

侯爵がゆっくりとうなずく。

仕組みに気づいたのだ。

「なぜできない? 公爵家に頼まれれば、店を開かざるをえなくなるぞ?」

「それは先ほどキルエンが言ったじゃないですか。このお茶は特別だと。大量生産できないから、営業日が限られる。……独り占めしたくなるでしょう?」

「それは……たしかに……」

開店の日には、高位貴族のみを招待する。

藤の貴公子という“ブランド”と、茶の希少性を同時に提示する。

営業日は限られ、完全予約制。

味も確か。

この店に通えている――その事実そのものが、誇示になる。

話を聞いた者は思うだろう。

どれほど美味しいのか、自分も味わってみたいと。

だが、容易には体験できない。

そしてその“制限”を守るのは、店ではなく高位貴族の側になる。

月に数回の機会。

その狭い入口を、自分たちの特権として囲い込む。

さらに、選ばれた者だけが下位貴族を招く。

力を示す場としても機能する。

「ふむ……面白い案だな」

ダグルド侯爵が低く唸る。

「あの場所で喫茶店とは、私には思いつかん。ファーブリック侯爵家の地位も高まりそうだ。……よし、試してみよう。マーガレット、任せられるか?」

「はいっ!」

即座に答える。

書斎を出たとき、マーガレットの胸には確かな手応えがあった。

自分は、この家でやっていける。

そう思えた瞬間だった。

それが、破滅の始まりであるとも知らずに。

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