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第1話(4)

Auteur: 北川とも
last update Date de publication: 2025-10-14 10:37:23

 午前中の最後の患者を診察し終えた和彦は、午後に入っている手術の予約を確認する。基本的に和彦は、午後からは大半の時間を手術室で過ごし、手術を行っている。派手な宣伝を打っている大手のクリニックだけあって訪れる患者は多く、若手の医者といえど、否応なく経験を積まされるのだ。

 医者が若かろうがベテランであろうが、実績のあるクリニックに勤め、誠実なカウンセリングを行っていれば、それが患者からの信頼へと繋がる。あとは、患者のニーズを手術で応えられるかが、すべてだ。幸いにも、和彦は手術で結果を出し続けていた。

 もともとは外科志望だったのだが、現場の大変さを知るにつれ、なんとなく美容外科へと流れ着き、今に至っているのだが、職場の環境にも待遇にも不満はなかった。三十歳の医者としては、十分恵まれた位置にいる。

 仕事が上手くいけば、必然的に私生活も充実する。和彦が今のところ気にかけていることといえば、午後から手がける目頭切開の女性患者のことだ。何度もカウンセリングを重ねたが、ここにきて友人からのアドバイスでナーバスになっている。

「……今になって手術を取り止めると言い出しそうだなー」

 不安そうなら延期したほうがいいだろうと思いながら、和彦は診察室を出る。

 別フロアにある医局に戻った和彦が自分のデスクにつこうとすると、隣のデスクの澤村さわむらが、パソコンに向き合ったまま声をかけてきた。

「佐伯、これから昼飯食いに行こうぜ」

「ああ。いつものところでいいだろ」

「遠出するのも面倒だしな」

 イスに腰掛けた和彦は、ずっとつけたままだったマスクを外す。ふいにこちらを見た澤村が、真剣な顔で言った。

「お前、クリニックの中をうろうろするときは、マスクは外せよ」

「……いきなり意味がわからんことを言うな」

「せっかく持って生まれた顔を活用しろってことだ。今度うちのクリニックのホームページをリニューアルする予定があるらしいが、そのとき男前の先生たちの顔写真を使うって話がある。俺はもちろん、お前の顔写真も使われるぞ」

 自分の周りには、自意識過剰な男が多いのだろうかと思った和彦だが、もちろん声には出さない。案外、澤村が言っていることは外れてはいないのだ。

 和彦の一年先輩である澤村とは、このクリニックでは一番親しいつき合いをしている。甘い笑みがよく似合うすっきりと整った顔立ちをしており、それに白衣を羽織って颯爽と歩く姿は、かなり人目を惹く。口も上手く、女性関係も派手だが、どこか憎めないところがあり、女性の患者受けは抜群だ。

 そんな澤村に認められる和彦の容貌は――客観的に言うなら、どこか冷たく見える顔立ちをしている。造り物めいているというのだろう。世間の評価としては上等なハンサムという部類に入るらしいが、和彦はよくわからない。ただ、自分の顔立ちは嫌いではない。

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     格好だけなら小野寺は、華のある甘い顔立ちもあって、苦労知らずの大学生に見えた。それが実は、世に悪名を轟かせる組織の中で、どんな仕事でもこなす隊に所属しているのだから、人の見た目は本当にあてにならない。 もっとも和彦の周囲には、そんな男がけっこういる。例えば――。「中嶋くんは?」 唐突な和彦の問いかけに、動じた様子もなく小野寺は首を横に振る。「俺だけです」「……加藤くんの件を知らないのか」 和彦は露骨に不機嫌な表情を浮かべたが、それでも小野寺は動じない。「それは、あいつがドジを踏んだから大事になったんです。俺は正式に、隊から……というより、南郷さんからの使いで来ました」 南郷と聞いて、和彦の口元はピクリと引き攣る。小野寺を睨め上げたが、その反応をどう受け止めたのか、和彦の承諾も得ないで向かいの席についた。「おい――」 和彦は抗議しようとしたが、すかさず差し出された紙袋に気を取られる。紙袋に印刷された上品なデザインには見覚えがあった。いつだったか患者が差し入れとして持ってきた、有名な洋菓子店のものだ。 どういうつもりかと理由を問おうとして、今度は頼んでいたランチが運ばれてくる。小野寺は居座るつもりらしく、ちゃっかりメニュー表を開いている。 声を荒らげるのも大人げなくて、呆れて小野寺を見ていた和彦だが、すぐに目を丸くする。 ここまで、不貞腐れているのかと思うほど無表情だった小野寺が、ウェイトレスの女の子に思いのほか優しい笑顔を見せ、柔らかな声音で注文をしている。この場面だけ切り取れば、目の前にいるのは完璧な好青年だ。 ただ、それなりに人を見る目を養ってきたと自負している和彦が感じたのは、女の扱いに慣れているなということだった。 ウェイトレスが立ち去ると、小野寺は無表情に戻る。意地悪や皮肉のつもりはなかったが、和彦は率直にこう口にしていた。「ぼくには愛想がないんだな」 さすがに虚をつかれたのか、小野寺は目を丸くする。その反応に、ささやかな満足感を覚えた和彦は、軽い口調で続けた。「そういえば、加藤くん

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