LOGIN和彦はピクリと肩を震わせる。胸元を撫でた賢吾の手が、今度は後頭部にかかったからだ。思わず視線を上げると、賢吾がニヤリと意味ありげに笑う。そして、和彦の頭を軽く押さえつけた。意図を察した和彦は目を丸くしたあと、賢吾を睨みつけたが、拒めなかった。
促されるまま賢吾の両足の間に顔を伏せ、差し出した舌で熱い欲望を舐める。いい子だ、と言いたげに賢吾の指にうなじをくすぐられた。 頭上で賢吾が、物騒な仕事の話をしているのを聞きながら、本格的な愛撫を始める。 賢吾のものを深く口腔に呑み込み、熱く湿った粘膜で包み、吸引する。賢吾のものが逞しさを増していくのを待ってから、ゆっくりと頭を上下させ、舌を絡める。括れに丹念に舌先を這わせると、頭にかかった賢吾の手にわずかに力が加わり、もう一度口腔深くまで呑み込む。 賢吾のものが力強く脈打っていた。影響力のある組の組長として恐れられている男の欲望を、自分がコントロールしていると実感できる瞬間だ。それはひどく官能的で、甘美な時間でもある。 先端を舐めてから、そっと吸い上げて括れまでを含む。根元から指肩にかかった守光の手に、力が加わる。抱き寄せられた和彦は、抗うこともできず守光におずおずともたれかかった。 守光のもう片方の手があごにかかり、持ち上げられる。初めてこんなに近くから、守光の顔を見ることになる。 端整な容貌の老紳士が、総和会という巨大な組織の頂点に君臨するには、相応の理由がある。見た目がいかに穏やかであろうが、守光の内面がそうであるとは限らない。 守光は、じわじわと本性を露わにしていき、和彦を呑み込んでいく。「あんたは、自分が逆らえない力に敏感だ。そして、その力に対して巧く身を委ねられる。わしに対してもそうであると、考えていいかね?」 目隠しの布一枚分の理屈が、剥ぎ取られる瞬間だった。もう必要ないと守光は確信しているのだ。そして和彦は――。 守光の目を見つめたまま、ゆっくりと唇を塞がれた。 昨夜知ったばかりの唇の感触に、他の男たちには感じない緊張を強いられる。口づけの感覚を分かち合うというより、自分の身を差し出す感覚に近い。一方的に貪られるのだ。 唇を吸われてから、歯列をこじ開けるようにして舌が口腔に入り込む。その間も和彦は、守光の目を見つめ続けていた。賢吾は目に大蛇を潜ませているが、守光の場合は何も捉えられない。冷たい檻が存在していて、その奥に怪物が棲んでいるのだろうかと想像してしまう。守光の怖さは、正体の掴めなさにあるのだ。「んっ……」 口腔の粘膜をじっくりと舐め回されたとき、和彦はゾクゾクするような疼きが背筋を駆け抜ける。 顔を見つめ合いながら唇を重ねて、ようやく和彦は実感していた。守光もまた、長嶺の男なのだと。堪らなく怖い存在である守光に、心と体のどこかで強烈に惹かれるものがあるのだ。もしかすると、そう思い込むことで、この世界での自分の身を守ろうとしているのかもしれないが――。 促されるまま舌を差し出し、守光に吸われる。そうしているうちに緩やかに舌を絡めながら、守光の唾液を受け入れる。守光は目を細めて一度唇を離し、この行為の意味を囁いてきた。「――あんたは今から、長嶺守光の〈オンナ〉だ。いいな?」 まるで暗示にかけられたように和彦は頷く。頭の中
「おはよう。まだ横になっていてもかまわんよ。わしはこれから外を散歩して、露天風呂に入ってくる。朝食はそれからだ」 そうは言われても、起き抜けに強烈なものを見てしまい、眠気など一気に吹き飛んでしまった。 いままで守光を畏怖していたが、それは総和会会長という肩書きに対するものだったのだと実感する。九尾の狐の刺青を目にして、長嶺守光という男の一端に触れ、改めて畏怖していた。その一方で、人間としての輪郭が見えてきて、心惹かれるものがあった。 守光はかつて和彦を、抗えない力に対して逆らわず、巧く身を委ねると表現したことがある。自覚がないまま、この本能を発揮した結果が、この心境の変化なのかもしれない。「ぼくも――」 声を発した自分自身に驚きつつも、和彦は言葉を続ける。「ぼくも、散歩にご一緒していいですか?」 守光は口元に薄い笑みを浮かべて頷いた。「大歓迎だ、先生」** シートに体を預けた和彦は、ウィンドーの外の景色をぼんやりと眺めていた。駅からの景色は見慣れたもので、陽射しが降り注いではいるが、通りを歩く人はまだ厚着が多い。ほんの数時間前まで滞在していた場所とは明らかに気温が違う。 ただ、見慣れた景色に和彦はほっとしていた。帰ってきたのだと実感もしていた。 状況に流されるように守光に同行した一泊旅行に、最初はどうなることかと危惧を抱いていたが、もうすぐ終わるのかと思うと、少しだけ名残惜しさがあった。 緊張はしたし、終始人目を気にして居心地の悪い思いもしたが、その分、総和会の男たちに丁寧に接してもらい、気遣ってもらった。特に、守光には。 懐柔されつつあると、頭の片隅で冷静に分析はしているのだ。和彦など、裏の世界では小さな存在だ。それでも大事にされるのは、組織に対して協力的な医者であることと、長嶺の男たちと関係を持っているからだ。 そんな和彦を男たちは容赦なく、裏の世界の深みへと引きずり込み、逃すまいとしている。 怖くはあるが、嫌ではないと感じている時点で、この世界にしっかりと染まっている証だ。「――さすがに疲れただろう」 外に目を遣ったま
衝撃の波が去り、和彦はぎこちなく息を吐き出す。「こういうとき……、父がかつてお世話になりました、と言えばいいんでしょうか」 冗談ではなく、本気で言った言葉だが、守光は低く笑い声を洩らした。「人の縁は不思議だ。こうして、あのときの青年の息子と、枕を並べて同じ部屋で寝ているんだ」 俊哉に関する秘密を抱えて、その息子である和彦を巡る関係を観察していたのだろうかと思うと、ヒヤリとする感覚が背筋を駆け抜ける。守光が怖いというより、不気味だった。「――あんたは、父親とよく似ている」 守光の言葉に、和彦はちらりと苦笑を浮かべる。「初めて言われました。ぼくも兄も、顔立ちは母方の血が濃く出ていると言われ続けてきたので」「顔立ちのことを言っているんじゃない。あんたも、自覚はあるんじゃないか。自分のどの部分が、父親とそっくりなのか。……佐伯俊哉という人間に会ったのは数回だが、人となりを調べることは可能だ。間違いなく、あんたは父親の〈性質〉を受け継いでいる」 守光の言う通り、自覚はあった。だがそれは、心を抉られるような痛みを和彦に与えてくる。認めたくはないのに、認めざるをえないほど、和彦と父親はある性質がよく似ている。 和彦は返事をすることなく再び寝返りを打ち、今度は守光に背を向ける。そんな和彦を気遣うように、守光が優しい声で言った。「おやすみ、先生」 おやすみなさいと、和彦は小さな声で応じた。**** 久しぶりに父親の夢を見た。 幼いときの和彦にとって俊哉は、ただ畏怖の存在だった。抱き上げてくれることも、手を繋いでくれることもなく、どこかに遊びに連れて行ってもらった思い出もない。だが、成長していくに従い、それすら恵まれていたことなのだと思うようになった。 俊哉は、和彦に一切の関心を示さなくなったのだ。まだ、厳しく躾けられていたほうが遥かにまともな状態だった。少なくとも、父親として接してくれていたからだ。 中学生の頃には和彦は、佐伯家での自分の立場を理解していた気がする。
** 守光と向き合ってお茶を飲むのは、ひどく落ち着かない気分だった。居たたまれない、といってもいいかもしれない。 静かな表情でお茶を味わっている守光をまともに見ることができず、つい隣の部屋へと視線を向ける。すでに二組の布団がきちんと敷いてあった。その様子を見て、つい数十分ほど前までの自分の痴態が蘇る。 一人で動揺する和彦とは対照的に、守光はあくまで何事もなかったように泰然としている。 守光はさきほどの淫らな行為で、相手が自分であると隠そうとはしていなかった。和彦は確かに目隠しをして、何も見られない状態ではあったが、ほとんど意味をなさないものになっていた。守光なりの、もう目隠しを取ってもいいというサインだったのかもしれない。 必要なのは、和彦の覚悟次第ということか。「――今日は疲れただろう」 守光の言葉に、和彦はピクリと肩を揺らす。『おもしろい話』をいつ切り出されるかと、身構えてしまうのだ。「少し……。遠出は久しぶりなので」「まあ、あんたの場合、気疲れといったところだな。わしと一緒にいることに、多少は慣れてきているようだが、それでもまだ肩に力が入っている」「……すみません」「謝るようなことじゃない。――そのうち、嫌でも慣れる。わしとこうして茶を飲むことも、総和会の人間に囲まれていることにも」 どういう意味かと尋ねようとしたが、そのときには守光は立ち上がっていた。「そろそろ布団に入ろう。横になっても話はできる」 和彦は頷き、部屋の電気を消してから守光の隣の布団に入る。 変な感じだった。布団の中で身を硬くしながら、隣にいるのは一体誰なのだろうかと考えてしまう。もちろん、長嶺守光という名で、総和会会長という肩書きを持つ人間だということは知っている。しかし、こうして隣り合って寝ている自分との関係は、よくわからない。 いや、あえて曖昧にしているのだ。だから目隠しという、布一枚分の理屈を必要としていた。 和彦はそっと寝返りを打ち、守光のほうを向く。枕元のライトをつけるまで
「――……どうして、ここに?」 和彦の目の前までやってきたかと思うと、開口一番にこう問われた。無視するわけにもいかず、露天風呂がある方向を指さす。「露天風呂に入っていました」「もう上がったのか」 変なことを言うのだなと、眉をひそめながら和彦も問いかけた。「それで、あなたはどこに?」「露天風呂に行こうとしていた。本当は、風呂であんたを捕まえるつもりだったんだ。まさか、こんなに早く上がるとは思っていなかった」 悪びれた様子もなく南郷が言い放ち、和彦は唖然とする。貸し切りで和彦一人が入っていた露天風呂に、南郷は押しかけるつもりだったのだ。 もし、露天風呂で出会っていたらどうなっていたか――。 和彦は南郷を睨みつけると、足早に庭の小道を歩く。部屋に戻ろうとしたのだが、当然のように南郷があとをついてくる。「……ついてこないでください」「部屋まで送る。――物騒だからな」 階段を上っていた和彦は、振り返ってもう一度南郷を睨みつける。嫌な笑みを浮かべた南郷がゆっくりとした動きで片手を伸ばし、和彦の腕を掴んでこようとする。それをあっさりと躱したが、すかさず、今度は素早い動きで南郷が間合いを詰め、和彦の体を手荒に手すりへと押し付けた。「なっ……」「そんなにふらついた足じゃ、階段から転げ落ちるかもしれない。なんなら、抱き上げて連れて行こうか?」 南郷は本気で言っているわけではない。おもしろがるわけでもなく、ただ和彦の神経を逆撫でるようなことを言って、反応を観察してくる。それがわかるからこそ和彦は、南郷が苦手で――不気味だった。 息を詰め、ほとんど虚勢だけで南郷の目を見据える。和彦のそんな眼差しすら、南郷は観察している様子だったが、思いがけない声が二人の間に割って入った。「――南郷」 窘めるように南郷を呼んだのは、さきほど和彦が耳元で聞いた声だ。顔を上げると、渡り廊下に立った守光がこちらを見ていた。「先生に、礼を欠いた態度を取るな。長嶺の家だけじゃなく、総和会にとっても大切な人
和彦が切羽詰った声を上げる頃、ようやく内奥で律動が刻まれる。恥知らずな歓喜の声を立て続けに上げると、まるで褒美のように精を注ぎ込まれた。 必死に頭上の枕を握り締め、快感の奔流に耐える。そうしないと、今度こそ相手にしがみついてしまいそうだったのだ。今度は、和彦の従順さに対する褒美なのか、相手は再び絶頂へと導いてくれた。 二度目の精を迸らせた和彦が脱力するのを待ってから、繋がりは解かれる。だが、これで終わりではなかった。 喘ぐ唇を軽く吸われ、ごく当然のように和彦は舌を差し出し、絡め合う。汗に濡れた体を撫でられ、心地よさに小さく声を洩らしていた。 長い口づけを堪能したあと、唇が耳に押し当てられる。「――一階の露天風呂を貸し切りにしてある。ゆっくり入ってきなさい」 耳に注ぎ込まれたのは、賢吾に似た太く艶のある声だった。目隠しの下で和彦が目を見開いている間に、ベッドが揺れ、相手が下りた気配がする。そのままベッドの上でじっとしていると、数分ほどして、部屋のドアが閉まる音がした。 和彦はおずおずと目隠しを外し、わずかに体を起こす。快感からまだ完全に醒めていないのか、頭がふらついている。それでも、自分が放った精や、鮮やかな愛撫の痕跡が残る体を見て羞恥する程度には、理性は戻っていた。 床に落ちた浴衣を拾い上げた和彦は、とりあえず下肢の汚れを拭うことにする。こんな状態では、とてもではないが部屋を出られなかった。** 一階の露天風呂は、部屋についているものとは違い、さすがに広かった。貸し切りということで、誰かが入ってくる心配もないため、情交の跡が残る体を隠すことなく入浴することができる。 体の汚れを流した和彦は、湯に浸かりはしたものの、風呂から見渡せる景色を堪能することなくすぐに上がる。部屋の風呂にゆっくり浸かったあとに、濃厚な行為に及んだのだ。いまだに体に熱が留まっており、あっという間にのぼせてしまいそうだ。 脱衣所で浴衣と茶羽織を着込むと、洗面台の前に置かれたイスに腰掛け、少しの間ぼうっとしてしまう。体には確かに、嫌というほど覚えのある情交後のけだるさがあるのに、まるで夢を見ていたような感覚に陥るのは、目隠しを
** 和彦は両手首を後ろ手に縛られたうえ、目隠しまでされた裸の姿で、もう数十分以上、敷布団の上に転がされていた。 こうしていると、初めて長嶺組と関わりを持つこととなった出来事を思い出す。辱めを受けたときのことだ。 あのときはただ怖く、死の恐怖すらも味わった。だが今は、怖くはあるのだが、命の危険は感じていない。むしろ強烈なのは、羞恥と高揚感だ。賢吾は、手酷く痛めつけてくることはしないだろうが、容赦ない快楽を与えてくることは十分考えられるためだ。 血流を止められるほどではないが、布が手首に食い込み、少し痛い。和彦は身じろぎ、
長嶺の本宅の中庭は、相変わらず手入れが行き届いていた。落ち葉の一枚も許さないかのように清められ、人が寛ぐために足を踏み込むことは、本来許されていないのではないかと思うほどだ。 しかし、一度でもこの中庭で時間を過ごすと、本宅のどこよりも寛げる場所だと思えてくる。 テーブルについた和彦はコーヒーを一口飲むと、木陰を作る木を見上げる。季節が夏から秋へと移りつつあるのに、相変わらず木陰に避難しなくてはならないほど陽射しは強い。ただ、ときおり吹く風だけは秋を感じさせる。 涼しい風がさらりと髪を揺らしていく。和彦は強張った息を吐き出すと、緊張のため味もわからなく
中嶋のそういう状況を救ったのが、秦なのだ。恩を感じる一方で、そんな相手を自分の利益のために利用するなど、果たして中嶋にできるのだろうか。 その疑問に対する答えを、和彦は持たない。秦も得体が知れないが、ヤクザであるという一点において、中嶋も同じだ。 車の後部座席に乗り込んだ和彦は、すぐにシートにぐったりと体を預ける。縫合手術だけなら普通はこんなに疲れないものだが、長嶺組の代紋を背負わされ、ヤクザに囲まれた状況でこなす手術は特別だ。体力よりも気力を消耗する。 中嶋と会話らしい会話も交わさず、流れる景色を眺めていた和彦だが、すぐに、ある異変に気づいた。
鷹津が乱暴にソファに腰掛けると、それが合図のように、和彦は賢吾にあごを掴まれ、深い口づけを与えられた。 賢吾は再び氷の粒を唇に挟み、熱をもって疼いている胸の突起に擦りつけてくる。氷が溶けると今度は、賢吾の熱い舌に弄られてから、きつく吸い上げられる。「あっ、あっ……」「こっちに氷を押し当てたら、もっと早く溶けそうだな」 そう言って、賢吾が次に氷の粒を押し当ててきたのは、内奥の入り口だった。冷たい感触が内奥に押し込まれ、和彦が声を上げて腰を震わせているうちに、あっという間に氷は溶けてしまい、すかさず次の氷の粒が押し