Home / BL / 血と束縛と / 第11話(8)

Share

第11話(8)

Author: 北川とも
last update publish date: 2026-01-01 11:00:50

「なるほど。先生のきれいな指が、他の男の体を這い回るのかと思うと、少しばかりムカつくな」

「変な言い方をするなっ……。用が済んだんなら、ぼくはこれで帰るからな」

 立ち上がろうとした和彦だが、すかさず手首を掴まれて引っ張られ、バランスを崩して賢吾の胸元に倒れ込む。そのまましっかりと両腕で抱き締められた。

「先生への本題はこれからだ」

 嫌な予感がした和彦は、露骨に顔をしかめて見せる。すると賢吾は表情を和らげてから、耳元に唇を寄せてきた。

「頼みたいことがある」

「……聞きたくない」

「結婚披露宴に、俺の名代として祝儀を持っていってほしい」

 一瞬聞き間違えたのかと、和彦は目を丸くして賢吾を見つめる。

「えっ……」

「結婚披露宴だ。俺のオヤジが、昔から面倒を見てやっている男がいるんだが、そこの次男坊が結婚する。昵懇だから、何もしないわけにはいかない。だが、ヤクザと繋がりがあるなんて、人に知られるわけに
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 血と束縛と   第29話(22)

    「素直になったな、先生」 唇を吸い合う合間に、そんなことを南郷が言う。和彦は弾んだ息を誤魔化すため、抑えた声で応じた。「ぼくが暴れたところで、あなたは簡単に押さえ込めるでしょう。……ぼくは、痛い思いはしたくないんです。痛い目に遭うぐらいなら、多少の不快さは我慢できます」「不快、か。あんたは、弱いんだか、強いんだか、わかんねーな。まあ、今はっきり言えるのは、俺はあんたとのキスを、かなり気に入ってるってことだ」 次の瞬間、南郷が覆い被さってきて、和彦はベッドに仰向けで倒れ込む。また、体に触れられるのかと身構えた和彦に対して、南郷が甘く恫喝してきた。「セックスみたいなキスをしようぜ、先生。俺を満足させてくれ」 唇を吸われて呻き声を洩らした和彦だが、それ以上の抗議も抵抗もできなかった。南郷が大きな手で髪を撫でながら、下唇と上唇を交互に甘噛みしてくる。合間に歯列を舌先でくすぐられ、肉欲の疼きが体の内から湧き起こる。 昨夜からずっと、南郷によって官能を刺激され、鎮まりかけても巧みに煽られ続けていた。南郷は不気味な男だが、〈オンナ〉である和彦の扱いをよく心得ている。恐怖と屈辱と羞恥だけではなく、しっかりと快感を味わわせてくるのだ。「――今、発情した顔になったな」 唇を離した南郷に指摘され、カッとした和彦は肩を押し退けようとする。おどけた仕種で南郷は体を揺らし、和彦のささやかな反抗を簡単に受け流した。ますます和彦がムキになろうとしたそのとき、部屋のドアがノックされた。「南郷さん、そろそろ出発の時間です」 ドアの向こうからそう声がかけられ、おう、と短く応じた南郷があっさりと体を起こした。唇を拭う和彦を見て、気を悪くした様子もなく南郷が言った。「先生ともっと遊びたかったが、俺の時間切れだ。これでも隊を率いていて、何かと忙しい身でな」「……失点がどうとか言ってましたが、本当は、あなたがここに来るほど、切迫した理由はなかったんでしょう」「切迫した理由はなかったが、来る必要はあった。怖い長嶺組長の目が届かない状況なんて、そうはないからな。先生とは、もっと打ち解けてお

  • 血と束縛と   第29話(21)

     男たちの顔を思い浮かべたあと、和彦はつい苦笑する。賢吾の思惑通りなのか、自分は男たちへの情で雁字搦めになっていると、改めて痛感していた。そのうち自分は、男たちへの情で溺れ死んでしまうのではないかと、ありえない想像までする。 ここで和彦は、眉をひそめる。何かの拍子に脈打つように強い頭痛がして、吐き気まで伴い始める。そのため、ドアがノックされても、返事をする気にもなれなかった。何より、相手が容易に推測できた。 案の定、遠慮なくドアが開き、新しいポロシャツに着替えた南郷が姿を見せる。手には、ミネラルウォーターのボトルと、小さな箱を持っていた。「食堂に置いてある救急箱に、鎮痛剤があった。飲むだろ、先生」 あんなことをしておきながら、何事もなかったように声をかけてくる南郷に対して、やはり不気味さを感じる。それと、戸惑いも。猛烈な怒りを抱くには、肉体的にも精神的にも疲れていた。当然、意地を張る気力もない。 和彦は頷くと、慎重に体を起こす。傍らに立った南郷から受け取ろうとしたが、当の南郷は、ボトルと鎮痛剤の箱を、枕元に放り出した。からかわれたと思った和彦は、南郷を軽く睨みつけてから、ボトルに手を伸ばそうとする。すると、ベッドに腰掛けた南郷にその手を掴まれた。「頭が痛いと言っていたが、熱もあるんじゃないか。顔が赤い」「……陽射しにあたって、火照っているだけです」「陽射しだけか?」 揶揄するように言った南郷につい鋭い視線を向ける。和彦の反応をおもしろがるように唇を緩めた南郷は、鎮痛剤の箱を開け、シートを取り出した。大きなてのひらに錠剤を二つのせて、こちらに差し出してきたので、和彦は錠剤を受け取って口に入れる。さらに南郷はボトルを手に取り、和彦の見ている前で自分が口をつけた。 意味ありげな眼差しを寄越された和彦は、伸ばされた南郷の手を一度は押し退けたが、あっさりと肩を抱かれて引き寄せられる。「んっ……」 南郷の唇が重なり、冷たい水をゆっくりと口移しで与えられる。少しだけ唇の端からこぼれ落ちたが、和彦は微かに喉を鳴らし、鎮痛剤と一緒に呑んだ。 和彦が抵抗しなかったことで気

  • 血と束縛と   第29話(20)

     南郷の指に内奥の入り口をまさぐられ、さすがに和彦が身じろごうとしたとき、尻の肉を鷲掴まれた。痛みを予期して体を強張らせると、容赦なく尻の肉を左右に割られた。南郷の視線がどこに向けられているか、振り返って確認するまでもない。 背後から南郷が、笑いを含んだ声で言った。「昨夜、俺がたっぷり可愛がったせいか、まだ赤みが強いな。それに、柔らかい。こうすると――」 唾液で濡らされた指が内奥に挿入されてくる。「ひっ……」 内奥で蠢く指が、まだ残っている昨夜の官能の余韻を掻き出し、再燃させる。悔しいが、下肢から蕩けていきそうだった。和彦は間欠的に声を上げ、南郷の愛撫に反応する。南郷も、興奮していた。「本当に、忌々しいぐらい、いいオンナだ。あんたは……。このまま、後ろから犯してやりたくなる」 感じやすい粘膜と襞を指で擦り上げられ、歓喜する内奥全体がきつく収縮する。和彦はその場に崩れ込みたくて仕方なかったが、それを許さない南郷に片腕で腰を支えられる。「ほら、先生、しっかりしろ。尻以外も可愛がってやれねーだろ」 腰を撫でられ、背を舐め上げられる。和彦が喉を鳴らすと、媚態を示した褒美だといわんばかりに、反り返って震える欲望を握り締められた。「あっ、あうっ、くうっ……ん」「出すか?」 南郷に短く問われ、何も考えられないまま和彦は頷く。南郷の手の動きが速くなり、あっという間に絶頂へと昇りつめる。和彦は熱い吐息をこぼして、精を迸らせていた。すると、余韻なく体の向きを変えられ、だらしない顔を南郷に間近から見つめられる。 現状を認識し、視線を逸らす間もなかった。「俺に掴まってろ」 短く告げた南郷に唇を塞がれ、和彦はその口づけを拒めない。まだ息が整わないうちに口腔に舌を押し込まれると、受け入れるしかないのだ。互いに荒い呼吸を繰り返しながら、浅ましく舌を絡め、濡れた音を立てて唾液を交わす。 塀にもたれていても自分の力で立っていられない和彦は、南郷が言った通り肩に掴まる。 南郷は、燃えそうに熱くなったてのひらで和彦

  • 血と束縛と   第29話(19)

     返事の代わりに和彦は顔を背けたが、すぐに南郷にあごを掴まれて唇を塞がれる。痛いほど唇を吸われたあと、恫喝するように求められた。「舌を出せ、先生。ケダモノみたいな、下品でいやらしいキスをしようぜ」 自分の今の発言が、南郷の中に変化をもたらしたことを和彦は感じ取っていた。それは、怒りや不快さというわかりやすいものではなく、もっと複雑で、ドロドロとした感情だ。 南郷の、力強くて粗野で無遠慮な眼差しは、和彦の中にある賢吾の存在を抉り出そうとしてくる。それが嫌で、和彦は南郷に従っていた。 おずおずと舌を差し出し、南郷に搦め捕られる。大胆に舌を絡め、唾液すらも交わし、啜り合う。余裕なく浅ましい口づけを交わしながら、南郷に手首を掴まれて促され、太い首に両腕を回していた。南郷の両手に胸や背を手荒く撫でられて、再び胸の突起を弄られる。指先で弾かれ、和彦が微かに喉の奥から声を洩らすと、武骨そうな指で摘み上げられて執拗に刺激される。 ようやく唇が離され、南郷の荒い息遣いが顔に触れたかと思うと、次の瞬間にはTシャツを大きくたくし上げられて、今度は胸に触れる。あっと思ったときには、胸の突起を口腔に含まれ、きつく強く吸い上げられていた。「あっ、あっ……」 和彦は控えめに声を上げながら、南郷の肩を軽く押し退けようとする。しかし、大きな体を窮屈そうに屈めている南郷はまるで岩のようで、ビクともしない。舌先で突起を嬲りながら上目遣いで見つめてきたが、殺気を帯びているとも言える眼差しの鋭さに、和彦の抵抗は形だけのものとなっていた。「あんたは、汗までいい匂いだな。むせ返るような雄の匂いがしないから、触れることに抵抗がない。だから、こんなこともできる――」 胸元を伝い落ちる汗を、南郷が舌でじっくりと舐め上げる。そのまま顔を上げ、二人はまた濃厚に舌を絡め合っていた。舌先を通して、自分の汗と、南郷の唾液が混じり合った味を知る。 吐き気のあとに襲いかかってきたのは、眩暈だった。逃げ出したい気持ちと、身震いがしそうな官能の高まりに、和彦の頭は混乱する。ただ、南郷は冷静だった。和彦の両足の間をまさぐり、無反応ではないと確認すると、ためらいもなくスウェットパンツと下

  • 血と束縛と   第29話(18)

     背後から、揶揄するように声をかけられる。ビクリと身を竦めた和彦は振り返ることすらできなかったが、傍らに立たれると無視するわけにもいかない。ゆっくりと顔を上げると、目の前に大きな手が差し出された。「怪我はしてないか、先生」「……手が汚れてますから。一人で立てます」 和彦が立ち上がろうと身じろいだ瞬間、強い力で腕を掴まれ、無理やり引き立たされた。驚いた和彦は目を見開き、南郷の顔を真正面から見つめる。南郷が、ニヤリと笑った。「ツンケンしたあんたが泥で汚れている姿は、実に加虐的なものを刺激される」 その発言に不穏なものを感じ、咄嗟に南郷の手を振り払おうとしたが、それ以上の力で引き寄せられる。後頭部に手がかかり、暴力性を秘めた南郷の目を間近で見てしまうと、それだけで和彦は息苦しくなる。 当然の権利のように南郷が唇を塞いできた。南郷の肩を押し退けようとして和彦は、自分の手が泥で汚れていることを思い出し、躊躇する。その一瞬の隙を、南郷は見逃さなかった。深い口づけで和彦を威圧してくる。「んっ、うぅ……」 熱い舌が強引に口腔に押し込まれ、我がもの顔で蠢く。不快さに総毛立つが、口腔を隈なく舐め回された挙げ句に、舌を搦め捕られてきつく吸い上げられているうちに、身の内を這い回るある感覚に襲われる。 肉の疼きだった。 おかげで、昨夜南郷の手で感じさせられた事実を改めて直視することになり、それが耐え難い苦痛となる。 和彦は、不自然な形で止まっていた手をようやく動かし、南郷の肩を押し退ける。服を汚してしまうなどとためらっている場合ではなかった。 一度は南郷から体を離し、後退りながら周囲を見回す。道の真ん中でなんてことをと思ったのだが、和彦の恥じらいを南郷は嘲笑った。「こんなところに、いまさら誰が来るっていうんだ。ぬかるんだ地面を見てわかっただろ。俺たち以外の新しい足跡がついてないことを。何をしようが、どんな声を上げようが、自由ってわけだ」 和彦は踵を返して駆け出そうとしたが、その動きを待っていたように南郷に背後から抱きかかえられ、引きずられる。そして、道の脇に建つ空き

  • 血と束縛と   第29話(17)

    「あんたは、いかにも都会育ちという感じだが、俺がガキの頃に住んでいたのは、こういうところだった。俺が生まれてすぐに母親が育児放棄ってやつをして、そんなロクでなしの母親を育てた連中――つまり、俺の祖父母が仕方なく俺を引き取ったんだ。物心ついたときには、もう厄介者扱いされていたな。俺としても、こいつら早く死なねーかなと思っていたから、お互い様というんだろうな。この世界じゃ、珍しくない話だ。ロクでもない環境で育って、ロクでもない人間が出来上がったというだけだ」 南郷の話を聞きながら和彦は、自分が育った環境は非常に恵まれていたのだろうなと思いはするものの、だからといって幸福であるとは限らないのだと、ささやかな毒を心の中に溜める。 すると、南郷に指摘された。「優しげな色男のあんたは、ときどきゾクリとするような冷たい目をするときがある。人を殺しそうな目というわけじゃなく……、なんというんだろうな。自分と、それ以外の存在を切り離したような、孤高――っていうのか。俺は学がないから、上手い表現が思いつかない」 とぼけたような口調の南郷だが、和彦に向けてくる眼差しは、心の奥底までまさぐってくるかのように鋭い。 物騒な世界で生きる男たちは、共通した勘のよさを持っているのかもしれない。いつだったか、賢吾にも似たようなことを指摘されたことを思い出し、和彦は苦々しい気持ちになる。「……あなたの生い立ちの話をしてたんじゃないですか?」 露骨に話題を逸らされたとわかったのだろう。南郷は微苦笑のようなものを唇に浮かべた。「生い立ちなんて立派なものじゃない。まさに絵に描いたような、ありがちなヤクザの成り上がり話だ。俺はとっとと田舎を飛び出し、ささやかな伝手を頼って仕事にありつき、そこから実入りのいい仕事へと転々としていく中で、オヤジさんに出会った」「長嶺会長ですか」「俺が知り合ったときは、長嶺組長だった。……ヤクザらしくない見た目で、惚れ惚れするほど鋭くて、優しかった。が、怖くもあった。俺はまだ十代のガキだったが、声をかけられただけで舞い上がって、組に入れてほしいと、頭を下げて頼み込んだ。そこで

  • 血と束縛と   第16話(28)

     山の中にある保養地ということで、とにかく暖かい服装をしろと言われたが、バッグに詰め込んで持ってきた着替えでは限りがある。コーデュロイパンツと、カシミアのニットの下にシャツを着込んだ和彦は、賢吾から贈られた毛皮のコートにおそるおそる手を伸ばす。さすがに、羽織って出かけるいい機会ではないかと思ったのだ。 このとき、座卓の上に置いた携帯電話が鳴る。表示された名を確認した瞬間、和彦の心臓の鼓動は速くなった。 大きく深呼吸をしてから電話に出る。「――……どうかしたのか、こんな時間に」 努めて平素の調子で問いかけると、電話

    last updateLast Updated : 2026-04-02
  • 血と束縛と   第16話(27)

    **** 雪を見に行かないかと賢吾から言われたとき、和彦がまっさきに思ったのは、これは機嫌取りなのだろうか、ということだった。 朝食のパンを食べ終えたところだった和彦は、指先を軽く払ってから、カップを両手で包み込む。ホットミルクを一口飲んで、向かいのイスに座る賢吾をジロリと見ると、口元を緩めていた。「――……雪?」「これから新年の挨拶も兼ねて、人に会いに行くんだ。ちょっと距離があるんだが、今はたっぷり雪が積もって、静かでいいところだ。一泊旅行の行き先として、最適

    last updateLast Updated : 2026-04-02
  • 血と束縛と   第16話(9)

     薄い笑みを浮かべた秦が、自分の口元を指さす。ああ、と声を洩らした和彦は、顔をしかめる。「君に避けられ続けて、少し落ち込んでいるようだったぞ、中嶋くん。ぼくとしては、困惑する彼の姿を想像して、君は楽しんでいるんじゃないかと思っているんだが――」「残念ながら、本当に忙しかったんです。しかし中嶋は、先生に対しては素直なんですね。少し妬けますよ」「……自分の素性を明かしもしないくせに、相手の心の内は知りたいなんて、ずいぶん都合がいいな。それだけで愛想をつかされても、仕方ないぞ」「手厳しい」「ぼくだって、彼に

    last updateLast Updated : 2026-04-01
  • 血と束縛と   第16話(15)

    「先生が」「……着方がわからない」「とりあえず羽織ってみたらいい」 和彦は困惑しつつ、賢吾の着物姿を眺める。大柄な賢吾のために仕立てた着物を自分が着た姿を想像してしまった。すると、和彦の心配を察したのか、短く笑った賢吾が衣装ケースに歩み寄った。「先生にちょうどよさそうな着物がある。この家じゃ、もう誰も袖を通さないものだ」 そう言って賢吾が取り出したのは、明らかに女性ものの着物だった。長襦袢の鮮やかな桜色を目にして、和彦は頬が熱くなってくる。「それ、女物じゃないかっ…&hell

    last updateLast Updated : 2026-04-01
More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status