LOGIN「あっ……、はあぁっ」
「もっと感じたいなら、また裸にひん剥いてやろうか? それこそ、全身を舐め回してやるぜ。好きだろ、舐められるの」 そんなことを言いながら、鷹津の片手がワイシャツの下に入り込もうとする。和彦は懸命にその手を押し返した。「時間が、ないんだっ……。もう、ロビーに下りないと――」「組員なんて、待たせておけばいいだろ」「あんたと違って、こっちは予定がある」「……組長のオンナは、忙しいことだな」 和彦が睨みつけると、鷹津は鼻先で笑う。上体を起こして和彦の両足を抱え直すと、衰えることのない力強い律動を内奥で刻み始めた。和彦は甲高い声を上げ、仰け反りながら頭上のクッションを握り締める。 鷹津と体がドロドロになるほど求め合ったあと、和彦はシャワーを浴びる時間も惜しくて、手早く後始末だけを済ませてスーツを着込んだのだが、その姿が鷹津の何かを刺激したらしい。再びベッドに引っ張り込まれて下肢だけを剥かれ、貫狂おしい欲情に突き動かされて、情熱的な愛撫を施す。すぐに、自分自身の反応したものも気になり、着物の下に片手を忍び込ませた和彦は、賢吾の視線を気にかけつつも、自らの欲望も慰め始める。「大胆なのか、慎ましやかなのか、わからねーな、今のその姿は」 そう言って賢吾に優しい手つきで髪を撫でられたあと、口腔深くまで硬く張り詰めたものを突き込まれる。和彦は低く呻きはしたものの、ギリギリのところで吐き気を堪える。 和彦の献身ぶりに満足したのか、賢吾はそれ以上手荒なことをせず、大きく息を吐き出してから、思いがけない話題を振ってきた。「――オヤジが、総和会の花見会に先生を招待すると言い出した」 驚いた和彦は一度動きを止めたが、すぐに賢吾のものを締め付けるように吸引する。「俺としては、先生をあんな目立つ場に連れて行く気はなかったし、もし、先生同行でと言われた場合は、長嶺組の身内として連れていくのが筋だと考えていた。……まったく、面倒なことを言い出したものだ、総和会会長は」 いろいろと言いたいことはあったが、賢吾のものを口腔に含んでいる状態ではそれも叶わない。それに賢吾のほうも、和彦の返事は求めていない様子だ。「毎年顔を出している行事だが、総和会の威光を一方的に見せつけられているようで、どうも俺は苦手だ。日陰者のヤクザが大勢つるんで、明るい陽の下で花見なんざ、大胆すぎて空恐ろしくなる」 獰猛ながら、警戒心が強くて慎重でもある大蛇は、物陰に身を潜めているのが似合っている。賢吾は言外に、自らのことをそう言っているようだ。 話しながらも賢吾のものはますます熱く、大きくなっていく。限界が近いことを察した和彦は、欲望の根元を指で擦りながら、ゆっくりと頭を動かす。「……俺は、自分のオンナを見せびらかすつもりはなかったが、オヤジは違ったようだ。この色男が自分のオンナだと、周知させるつもりだろうな。なんといっても、長嶺の男三人で共有している、特別なオンナだ」 賢吾の息遣いがわずかに弾む。後頭部を押さえつけられた和彦は、思わず目を閉じ、口腔で欲望が爆ぜる瞬間を迎えた。迸った熱い精を受け止め、すぐに喉に流
賢吾の言葉に含まれているのは、甘い毒だ。『独占欲』という単語にピクリと肩を揺らして、和彦は顔を上げる。楽しげに口元に笑みを刻んでいる賢吾だが、目はまったく笑っていない。それどころか、和彦の何もかもを暴こうとするかのように鋭い。 昨夜の千尋同様、ある人物の存在を気にかけているのだろうか。それとも――。 守光の顔に続いて、里見の顔が脳裏に浮かび、和彦はヒヤリとするような感覚を味わう。今この瞬間、思考のすべてを賢吾に覗かれていたらと、ありえないことを考えていた。「……長嶺の男の独占欲は、物騒だ。前までのぼくなら、そういうのが疎ましくて、すぐに逃げ出していただろうな」「先生は正直だ。自分を囲っている男の前で、そういうことを言うなんて」「ぼくが何を言ったところで、逃がす気なんてないだろうし、逃がさない自信もあるんだろ」「さあ、どうだろうな」 さらりと応じた賢吾の口調から、それが本音なのかどうか判断することはできない。ただ、賢吾が自分に向ける強い執着を、和彦はしっかりと感じ取っていた。必要とあれば、この男はきっとなんでもするはずだ。 感じた恐怖に小さく身震いした和彦だが、同時に、抗いがたい欲望の疼きも自覚していた。 和彦は、手の中で逞しく脈打つ賢吾のものを撫でてから、眩暈がするような感情の渦に襲われる。欠片ほどは残っていた理性を手放し、おずおずとその場に跪いた。「――……昨夜は、千尋をたっぷり甘やかしたようだな、先生。俺に、同じことをしてくれるのか?」 和彦は、頭上からそんな言葉を投げかけてきた賢吾を睨みつけはしたものの、賢吾が着物の合間から露わにしたものは拒まなかった。 自らの手で成長させた賢吾の欲望に顔を寄せ、舌を這わせる。昨夜千尋にしたように尽くしてやる。なんといっても和彦は、この男の〈オンナ〉だ。 片手で賢吾のものを扱きながら、先端に唇を押し当てる。柔らかく吸い上げ、舌先でくすぐり、括れまで口腔に含んでから、唇で締め付ける。「焦らすのが上手いな。できることなら、このまま畳の上に這わせて、後ろから尻を犯したくなる」 露骨な賢吾の言葉
そんなことを言って、賢吾が強引に唇を吸ってくる。軽く抵抗した和彦だが、すぐに諦めて賢吾の肩に手を置く。慣れない着物を身につけているせいか、新鮮な感覚だった。帯で体を拘束されているようでありながら、腰から下は無防備だ。その無防備な感覚を煽るように、賢吾が膝で両足の間を割り開こうとしてくる。「先生を着物姿で外に出すときは、貞操帯をつけるか。どんな男が股に手を突っ込んで、こうして、ここを弄ってくるかわかったもんじゃねーからな」 まんざら冗談とも思えないことを呟いた賢吾の手が、着物の裾を割り、奥に入り込んでこようとする。和彦は手を押しのけながら抗議の声を上げる。「何してるんだ、あんたはっ……」「股割りだ。これをしておかないと、歩きにくいぞ」「だったら自分でやるっ」「遠慮するな」 両足の間を賢吾の手にまさぐられ、和彦は腰を震わせる。下着の上から思わせぶりに敏感なものを撫でられて、咄嗟に賢吾の肩にすがりついていた。「ほら、もっと足を開け、先生」 下着をわずかに引きおろして、賢吾が揶揄するように囁いてくる。間近から賢吾を睨みつけた和彦だが、まるで蛇が絡みつくように蠢く指の動きには逆らえず、おずおずと足を開いた。「あっ」 賢吾の手にしっかりと、欲望を握り締められる。この瞬間、本能的に怖いと感じた。賢吾が、今のこの状況で自分を痛めつけてくるはずがないとわかってはいるのだ。これは、和彦自身が抱える罪悪感の裏返しだ。賢吾が何事もないように振る舞えば振る舞うほど、和彦は罪悪感に追い詰められる。 握られたものを手荒く扱かれて足元が乱れる。単なる戯れではなく、賢吾は本気で自分を貪ろうとしていると知り、和彦は羞恥を押し殺して訴えた。「――……今日は、無理だ。体がつらいんだ」「なんだ。別の男と楽しんだばかりなのか?」 大蛇の潜む目が、じっとこちらを見据えてくる。和彦が口ごもると、賢吾がスッと視線を動かし、部屋の柱を見た。このとき和彦の脳裏に、ある光景が蘇る。 前に一度この部屋で、千尋の母親の長襦袢を羽織らされ、柱に掴まった姿勢で内奥を犯されたこと
**** 袖を通した長襦袢の前を合わせると、すかさず背後から回された手が衿端を持ち、たるみを調整してくれる。「さすがに、千尋が高校生のときにあつらえたものだから、先生には少し寸足らずか。が、思っていたより不恰好じゃない」 ぴったりと背後に立っている賢吾の言葉に、耳元をくすぐられる。和彦は反射的に首をすくめ、その拍子に、姿見に映る自分と目が合った。 先月足を運んだ呉服屋でも体験したが、着物を身につける自分の姿を鏡で見るというのは、なんとも照れくさくて、気恥ずかしい。 そんな和彦を、賢吾が妙にまじめな顔で見つめていた。こちらはすでに端然とした着物姿で、さきほどから熱心に着付けを指導してくれている。だから和彦も、逃げ出したい気持ちを堪えられた。 クリニックからの帰りに呼びつけられて本宅に寄り、一緒に夕食をとったあと、和室に連れ込まれた。そのときにはすでに、着付けの練習用の着物が一揃い用意されており、ようやく和彦は、自分が本宅に呼ばれた理由を理解したのだ。「今日は長襦袢の下はTシャツだが、外出するときは、きちんと肌襦袢を身につけるんだ。それに、裾よけも。いかにも品のいい先生が、きちんと着物を着こなしていたら、今以上に色男っぷりが上がるぞ」 そんなことを言いながら、賢吾は腰紐を差し出してくる。受け取った和彦は、いつも賢吾がしているように結んでみる。「上手いもんだ、先生」「……紐を結ぶぐらい、初心者のぼくでもできる」「俺は、褒めて伸ばす男なんだ」 和彦が顔をしかめるのとは対照的に、賢吾はニヤニヤと笑いながら、今度は長着を肩にかけてきた。袖に手を通すと、賢吾が肩をてのひらで撫でたあと、袖先を軽く引っ張り、たるみが出ないよう整えてくれる。 長襦袢の衿に重ねるように、長着の衿を合わせる。すかさず賢吾が身幅の余りを丁寧に始末して、不恰好にならないよう上前で隠す方法を説明してくれた。「なんだか、複雑だ。あんたはいつも簡単に着付けているから、そういうものなのかと思っていた」 思わず和彦がぼやくと、前触れもなく賢吾の手が、上前の下
中嶋から聞いた内容を、秦は艶然とした笑みを浮かべながら賢吾に報告しただろう。いや、それ以前に、すでに中嶋から賢吾へと報告済みかもしれない。 和彦が関係を持つ男たちは、和彦の情報を当然のように共有するのだ。情も利害も絡んだ、妖しいネットワークだ。「……ぼくは、彼に感謝しないとな。気分が塞ぎ込みそうになっていたところを、助けてもらった」「セックスして先生に感謝されるなんて、羨ましい立場だ」 秦が楽しげに洩らした言葉に素早く和彦は反応し、慌てて周囲を見回した。「それで……、ぼくに渡したいものってなんだ」 ああ、と声を洩らした秦は、隣のイスに置いた小さな紙袋を差し出してきた。「出張のお土産で、香水です。なんとなく先生に合いそうだと思って。嫌な香りでなかったら、仕事が休みの日にでも使ってください」「ありがとう……」 紙袋を受け取った和彦は、香水の香り以上に、秦がどんな仕事で、どこに出かけていたのかが気になる。ちらりと視線を向けると、秦は秘密をたっぷり含んだ艶やかな笑みを返してくる。その表情を見ただけで、和彦が何を尋ねても、『出張』について答える気がないとわかった。 ランチが運ばれてきたところで、腕時計で時間を確認する。秦とのおしゃべりを楽しみながら、優雅に食事ができるほどの余裕はあまりない。「――お土産を渡すためだけに、わざわざ来てくれたのか?」 食事をしつつ和彦が率直に疑問をぶつけると、秦は首を横に振った。「中嶋と話していて、なんとなく決まったことなんですが、せっかくなので先生も誘おうという話になったんです」「何を……」 つい反射的に警戒してみせると、楽しそうに秦は口元を緩める。「三人で、花見をしませんか。とはいっても、人ごみの中でにぎやかに飲むわけではなくて、ビルから夜桜を見下ろしながら、という形になりますが」「花見、か」 昨夜千尋から聞かされた、総和会の花見会のことが頭に浮かぶ。暖かくなってきて、物騒な男たちが精力的に動き始めたような気がし
**** 和彦の顔を一目見るなり、端麗な容貌の男は表情をわずかに曇らせる。 それが芝居がかって見えるのは、この男の美貌ゆえか、それとも胡散臭い存在のせいか――。 頭の片隅でちらりとそんなことを考えた和彦は、唇をへの字に曲げてテーブルにつく。「……ぼくの顔に何かついているか?」 あえてぶっきらぼうな口調で問いかけると、今日の昼食の相手である秦は肩をすくめた。ごく一般的なレストランなのだが、この男が正面に座っているというだけで、とてつもない贅沢をしているような気がしてくる。 平日ということもあり、周囲のテーブルを占めるのは、ビジネスマンやOLたちだ。ノーネクタイのやや砕けた格好の和彦と、きちんとスーツを着てはいても、見るからに普通の勤め人ではない秦の組み合わせは目立って仕方ない。「少し居心地が悪いかもしれないが、我慢してくれ。午後一番に予約が入っているから、あまりクリニックから離れるわけにもいかないんだ」 ランチを頼んでから和彦がぼそぼそと言うと、秦は穏やかに微笑む。「気にしないでください。わたしの都合で、先生につき合ってもらっているんですから」 午前中、秦から連絡が入り、渡したいものがあるので昼食を一緒に、と言われたのだ。断る理由もないため和彦は誘いに乗ったが、何を渡されるのか、いまだに教えられていない。 おしぼりで手を拭く和彦の顔を、秦がじっと見つめてくる。最初は気づかないふりをしていたが、次第に苦痛になってきて、仕方なく和彦は口を開いた。「……なんだ」「先生もしかして、少しお疲れですか?」 鋭いなと思いつつ頷く。「昨夜はあまり……寝てないんだ」 酔っ払った千尋がやってきて、そのまま深夜まで体を重ねていたのだ。そこに、キッチンの片付けという労働も加わった。 十歳も年下の青年相手の痴態が生々しく蘇り、知らず知らずのうちに頬が熱くなってくる。そこに、さらに羞恥を煽るようなことを秦が言った。「――わたしが出張している間、
たまらず三田村の胸元に倒れ込みそうになったところを、すかさず受け止められて再び体の位置を入れ替えられる。「あっ、あっ、あっ――ん。三田村……、三田村、もうっ……」 三田村の力強い律動が繰り返され、和彦は奔放に乱れる。内奥深くを抉るように突かれた拍子に精を迸らせ、絶頂の余韻に酔いながら、引き絞るように三田村の欲望を締め付ける。 獣のように低く唸ったあと、三田村が精を内奥深くに注ぎ込む。和彦は放埓に悦びの声を上げながら、三田村の背にすがりついた。 三田村の体が熱い。それ以上に、内奥でビク
**** 受け取った箱の中身がわかったとき、和彦は思わず苦笑を洩らしていた。「お前も、ドーナツの差し入れか」 和彦の言葉に、千尋は軽く唇を尖らせる。「だって先生、ドーナツならペロッと平らげるって、うちの連中が――」「仮にぼくがドーナツ好きだとしても、三食ともドーナツを食べても追いつかない量を差し入れされたら、苦笑の一つぐらい洩らしたくなる」「……一緒に食おうと思って持ってきたんだけど、他のものがいいなら、買ってくる」 捨てられ
「やっと笑ってくれたな。どうだ、もう立ち直ったか?」「……こんな状況で、うかうか落ち込んでいられない。ぼくの周囲にいる男は、どいつもこいつも、油断ならない連中ばかりだからな」「俺も含めて?」「あんたは、筆頭だ」 和彦がせっかく枝に結んだリボンを解きながら、賢吾はまた楽しそうに笑う。解いたリボンをどうするのかと思っていると、和彦の右手首に結んでしまった。意味がわからず首を傾げたとき、賢吾にあごを掴まれた。 官能的なバリトンが、官能的な言葉を紡ぐ。「――元気になったところで、さあ先生、キスをさ
「そのつもりだったが、元気そうだな。少し痩せたようには見えるが」「食欲は戻った。それに……安定剤を飲んででも、眠るようにしているしな」 鷹津から探るような眼差しを向けられ、和彦は逃げるようにキッチンに向かう。和彦に何があったのか、明らかに鷹津は知りたがっていた。 和彦の身近にいる男たちは、必要があれば情報を共有する。その中で、今回は鷹津がつま弾きにされたらしい。ここでいい気味だと思えないのは、自分自身のことだからだ。 二人分のコーヒーを淹れながら、仕方なく端的に事情を説明する。賢吾なら、先生は甘いなと、薄い笑みを