Masukたまらず三田村の胸元に倒れ込みそうになったところを、すかさず受け止められて再び体の位置を入れ替えられる。
「あっ、あっ、あっ――ん。三田村……、三田村、もうっ……」 三田村の力強い律動が繰り返され、和彦は奔放に乱れる。内奥深くを抉るように突かれた拍子に精を迸らせ、絶頂の余韻に酔いながら、引き絞るように三田村の欲望を締め付ける。 獣のように低く唸ったあと、三田村が精を内奥深くに注ぎ込む。和彦は放埓に悦びの声を上げながら、三田村の背にすがりついた。 三田村の体が熱い。それ以上に、内奥でビクビクと震えるものが熱い。それが和彦には、たまらなく愛しい。 荒い呼吸を繰り返す三田村の顔の汗をてのひらで拭い、勇ましい虎を撫でて慰撫する。珍しいことだが、三田村が甘えるように和彦に頬ずりしてきた。*
*
グラスに注いだ牛乳を一息に飲んだ和彦は、天井を見上げてほっと息を吐き出す。まだ体に、三田村との激しい情交の熱が留まっている。朝だというのに
和彦はつい穿った見方をしてしまい、一瞬あとには、そんな自分を恥じた。仮にそうだとしても、圧力云々は関係なく、和彦は自分の意思で選択した。「……こんな言い方をしたら失礼かもしれませんが、気分転換をしてみたかったんです。普段生活している場所から、離れてみたかったというか……」「あんたの場合は、複雑な人間関係から距離を置いてみたかった、というところか」 表情の浮かべようがなかった。複雑な人間関係の中には、守光の息子と孫も含まれているのだ。二人から逃げたがっていると受け止められるのが怖かった。 守光はちらりと唇に笑みを刻むと、自分が選んだ団扇と、和彦が手にしていたブックカバーと扇子を取り上げる。「あのっ――……」「わしと一緒にいる間、あんたは自分の財布を出さなくていい。わしの顔を立てるためだと思って、任せてくれ」 ここまで言われて断れるはずもなく、和彦は頷く。しかし、他に何か欲しいものはないかと言われて本気で困った。「遠慮はいらない。あんたはもう、〈わし〉の身内だ」 和彦の背を駆け抜けたのは冷たい感触だったが、同時に、無視できない疼きもあった。 こうして守光に同行して、何事もなく気楽に旅行が楽しめるとは毛頭思っていない。和彦はあることを予期したうえで、それでもこうしてついてきたのだ。 強い力には逆らわず、巧く身を委ねる。守光は、和彦にその姿勢を貫くことを求めており、おそらく試してもいる。 支払いを済ませた守光に袋を差し出され、礼を言って受け取る。和彦はサングラスをかけて店を出ると、今度こそ守光と並んで歩く。 総和会の男たちに四方をがっちりとガードされて歩くと、悪目立ちするうえに、あからさまに奇異の視線を向けられるか、目を逸らされるのだ。居心地が悪くて仕方ないが、守光に〈身内〉と言われてしまっては、否が応でも慣れなくてはならないのだろう。 辺りを睥睨するわけでもなく、ただ慎重に注意を払っている男たちの中にいる自分は、果たしてどんなふうに見られているのだろうか――。 ふとそんなことを考えた和彦は、自嘲気味に唇を
かぶっていた帽子を取った和彦は、髪を掻き上げる。気候のよさのせいだけではなく、春が近づいてきている証拠か、思いがけず気温が高い。歩いているうちにすっかり汗ばんでしまった。 石畳の通りを歩く人たちに目を向ければ、地元住民と観光客の違いが服装に出ているようだ。観光客は持て余し気味にコートやジャケットを腕にかけているが、地元の人たちはすでに春らしい軽装だ。 春が近づいているどころか、ここはもう春が訪れているのだ。 和彦は改めて、ここが旅先なのだと実感する。柔らかな風も、空気の匂いも、見渡せる風景も、何もかもが今暮らしている地域とは違う。 これが一人旅なら、どれだけ肩の力を抜いて楽しめただろうか――。 和彦は深刻なため息をつくと、帽子をかぶり直して歩き出す。有名な寺が近くにあるという場所柄か、通りに並ぶ土産物屋も落ち着いた雰囲気を醸し出しており、店先に出ている商品も、渋いものが多い。 特に何か買うつもりはなかった和彦だが、藍染め商品を扱う店が目につき、ついふらふらと中に入る。サングラスを外してざっと店内を見て回る。 ブックカバーが気に入り、数種類の柄を選んでから、次に扇子に目移りする。いままで扇子など使ったことはないのだが、賢吾がせっかく春に合わせて着物を一揃いあつらえてくれたこともあり、何か一つぐらい、着物に合いそうな小物を自分で揃えてみようかと思ったのだ。 和彦が扇子の一本を手に取ろうとしたとき、隣にスッと誰かが立つ気配がした。「――それは、自分で使うのかね?」 いきなり話しかけられ、飛び上がりそうなほど驚く。隣を見ると、守光が身を乗り出すようにして扇子を眺めていた。さきほどまで、和彦よりずいぶん先を歩いていたはずだが、わざわざ引き返してきたようだ。 店の入り口のほうに目をやると、スーツ姿の男たちがこちらをうかがいつつ、外で待っていた。「あっ、すみません。勝手に動き回って……」「かまわんよ。なんといってもわしは、あんたを〈観光旅行〉に連れてきたんだ。こういうところで買い物をしないと、旅行の醍醐味がないだろう」 守光から悪戯っぽく笑みを向けられ、和彦はぎこちなく応じる。
車が、里見の勤務先が入っている大きなビルの前を通るとき、和彦は意識して他へと視線を向けていた。出勤ラッシュの時間帯にはまだ少し早いが、歩道を歩く人の姿は次第に増えてきている。歩く人の中に里見の姿はないか、つい探してしまう。たまたま車で通りかかり、出勤している里見の姿を見ることなど、ほぼ不可能に近いだろう。それは承知のうえだ。 そして当然のように、里見の姿を見出すことはできなかった。 失望はなかった。むしろ当然のことだと受け止めたし、心のどこかで和彦は安堵もしていた。 朝早い時間から開いているというパン屋に着くと、和彦一人が店内に入る。手ぶらで車に戻るわけにもいかず、トレーとトングを手に、並んでいるパンを選ぶ。 どうせなので、本宅の組員たちの分も買っておこうと思い、目につくパンを片っ端からトレーにのせていて、ふと顔を上げる。店は通りに面しているため、ガラスの向こうを歩く人の姿が見えるのだ。「えっ……」 和彦は小さく声を洩らし、硬直する。通りを歩く、自分そっくりの顔立ちをした男が視界に飛び込んできた。その男は銀縁の眼鏡をかけており、怜悧な雰囲気に拍車をかけている。 見間違うはずもなく、それは和彦の兄――英俊だった。 あまりに予想外の人物を見かけ、心臓が止まりそうな衝撃を受けた和彦だが、数瞬あとには激しく鼓動が打ち始める。動揺から、足が小刻みに震えていた。 英俊に見つかるかもしれないという本能的な恐れから、棚の陰に身を隠す。 なぜこんな場所に英俊がいるのかという疑問は、すぐに氷解した。 英俊に続いて和彦の視界に入ってきたのは、里見だった。小走りで英俊に追いついて何事か話しかけ、英俊が歩調を緩める。二人は並んで歩いていった。たったそれだけともいえるが、和彦にとっては強烈な光景だった。 里見と英俊はかつて、同じ省庁の課内で働く上司と部下だったが、里見は現在、民間企業に勤めている。なのに朝から二人が一緒にいる理由が、和彦には思いつかなかった。 里見と佐伯家は現在もつき合いがある。それは事実として受け止められる。里見が、和彦たちの父親の命令に逆らえないという立場も、理解できる。なのに、里見と
** 送って行くという中嶋からの申し出を断り、雑居ビルの前まで、組の車に迎えにきてもらう。 後部座席に乗り込んだ和彦は、朝早くからすまないと組員に謝る。手間を考えれば、秦の部屋からクリニックへと直接向かえば楽なのだが、仕事上、身だしなみはきちんとしておきたい。それに気分的なものとして、情事の痕跡はしっかりと洗い流しておきたかった。 和彦はシートにもたれかかると、ぼんやりと外の景色を眺める。 慣れないベッドで眠ったせいか、体が疲労感を引きずっている。それでも悪い気分ではなかった。自分の淫奔ぶりに自己嫌悪に陥るぐらいはしてもいいのだろうが、相手が中嶋と秦ともなると、後ろ暗い感情を持つのは違う気がする。もう、そんな殊勝さを大事に抱え持つ時期は過ぎてしまった。 綺麗事で肯定するつもりはなく、賢吾の許可の下、男と関係を持つのは、和彦にとって生活の一部なのだ。そうやって、限られた自分の世界と生活を守り、より居心地のいいものにしている。 ここでふと、行為の最中に中嶋に語ったことを思い出す。 里見と関係を持っている頃、和彦にとっての世界とは、佐伯家の自室がすべてだった。小さな世界からどうすれば解放されるか、そんなことばかりを考えていた気がする。 この瞬間和彦は、魔が差したようにこう思っていた。 里見の姿を見たい、と。 思考は一気に目まぐるしく動き始め、ハンドルを握る組員にこう声をかけていた。「マンションに戻る前に、ついでに寄って行きたいところがあるんだ」「どこですか?」「――パン屋」 和彦が細かい住所を告げる。ついでに、というにはかなり遠回りとなる場所だが、異論を挟むことなく組員は進路変更した。 鷹津から、里見に関して調べた内容はすべて、報告書という形でメールで送ってもらった。その報告書には出勤時間から退勤時間まで記載されており、普段の言動からは想像もつかないが、鷹津の性格の細かさが表れているようだった。何より、有能だ。人を使ったにせよ、短期間で和彦が知りたかった以上のことを調べ上げてきたのだ。 おかげで和彦は、里見に知られることなく周囲をうろつくことが可能になる。
思いがけず苦々しげな秦の口調がおかしくて、つい和彦は笑ってしまう。「つまり中嶋くんは、秦静馬という男に、そこまでのフォローは最初から期待していないということだな。さすが、君のことをよくわかっている」「ひどい言われようだ……」 肩をすくめた秦が立ち上がる。まだ何も身につけていない後ろ姿を見て、反射的に和彦は視線を逸らす。理屈ではなく、秦の体は中嶋のものだと咄嗟に思ってしまったのだ。「――中嶋の側にいてやってください。わたしはこれからちょっと、仕事の電話をしないといけないので」 手早く服を着込んだ秦が、携帯電話を片手に部屋を出ていく。ドアが閉まるのと同時に、眠っていると思っていた中嶋がパッと目を開いた。いつから起きていたのかは知らないが、和彦と秦の会話を聞いていたのは確かなようだ。「君の恋人は薄情だな。ことが終わったら、さっさと仕事の電話をしに行ったぞ」 和彦がわざと意地悪く言ってみると、中嶋は食えないヤクザの顔でこう答えた。「照れているんですよ、あれで。外見も言動も甘い人だけど、中身はそうじゃありませんから。いざとなると、人をどう甘やかしていいかわからないんです」「……どうして君があの男じゃいけないのか、わかった気がする。秦にとって、君じゃないといけないんからだな」 素直に感心して見せると、中嶋は短く声を洩らして笑った。「買いかぶりですよ、先生。俺と秦さんの関係は、映画や小説のように素敵なものじゃない。気が合ううえに、互いに利用し合う価値があって、今日確認できましたが、運よく体の相性も合ったというだけです」 それだけ合えば十分だろうと、和彦は心の中でそっと呟く。すると突然、中嶋が体を起こしたかと思うと、次の瞬間には和彦にのしかかってきた。「先生にも同じことが言えますね」「何、が……?」「俺と気が合って、互いに利用し合う価値があって、体の相性も合っている」「……君の主観だな。ぼくが同じことを思っているとは限らないだろ」 素直に賛同するのも癪で、ささやか
今まさに、中嶋の肉を食らおうとしているのだ。「うっ、うあっ」 和彦の上で、中嶋が背をしならせる。それと同時に、繋いだ手をぐっと握り締められた。 内奥深くに収まっている中嶋のものが脈打ったのを感じ、和彦は小さく呻き声を洩らす。すると中嶋も、苦しげに息を吐く合間に呻き声を洩らした。見ることはできないが、中嶋の体に何が起こっているのかは、感じることができた。「――……ひどい奴だな、君の〈オトコ〉は」 和彦がそっと囁くと、眉をひそめていた中嶋が口元に微苦笑を浮かべる。「物騒な男ばかり相手にしている先生にそう言われると、なんだか胸を張りたくなりますよ」 ここで中嶋の腰が大きく揺れ、和彦の内奥で熱い欲望も蠢く。秦が、己の快感のために律動を繰り返すと、その動きに合わせて中嶋の腰は揺れ、必然的に和彦の内奥で動くことになる。 とんでもなくふしだらで、淫らな行為に及んでいるという興奮が、和彦を狂わせる。種類の違う快感を同時に味わっている中嶋は、それ以上かもしれない。 秦が動くたびに声を上げる中嶋は、快感に酔いしれた表情を隠そうともしていない。繋いでいた手を解くと、和彦は中嶋の頭を引き寄せて深い口づけを与える。「羨ましいですね。わたしも仲間に入れてもらいたいのですが――」 舌を絡ませている最中に、わずかに息を弾ませた秦が声をかけてくる。和彦は、一瞬息を詰めた。中嶋と繋がっている部分に、秦が指を這わせてきたのだ。堪らず内奥を収縮させると、中嶋の欲望が一層逞しさを増す。 秦が声を洩らして笑った。「……すごいな。わたしと先生が繋がっているわけじゃないのに、先生の中の動きが、中嶋を通して伝わってきますよ。わたしの動きも、先生には伝わっていますよね?」 秦が大胆に腰を使い、中嶋が掠れた声を上げる。和彦の内奥では中嶋の欲望が力強く脈打ち、秦の律動に合わせて動く。 中嶋のものを受け入れているのは和彦だが、まるで中嶋を犯しているような感覚だった。おそらく、律動を繰り返す秦に、和彦は自分の欲望を重ねているのだ。 和彦の内奥深くを抉るように突き上げて、息を
「佐伯先生、ちょっとご相談したいことがあるんですが、かまいませんか?」 素早く頭を引いた和彦は、即座に答える。 「はいっ、今行きますっ」 ヤクザの組長という肩書きに似つかわしくなく、賢吾が大仰に顔をしかめる。和彦はたくし上げられていたTシャツを下ろしてから、苦笑しながらも賢吾の腕の中から抜け出そうとしたが、反対にきつく抱き締められた。 抗議の声を上げる前に、賢吾に耳元で囁かれる。 「――千尋が、先生が相手してくれないと拗ねてたぞ。あと、長嶺組の組長も」 「長嶺組の組長って、あんたのことじゃないか……」 「そうだ」
「実家に戻ってから、お前、子供っぽくなったんじゃないか」 「だったら、俺が本気出しても、先生平気?」 前触れもなく立ち上がった千尋に、いきなり腕を掴まれて壁に体を押し付けられる。目の前に迫ってきたのは、しなやかな体躯を持った若々しい肉食獣だ。さきほどまで、あざといほど子供っぽさを前面に出していたくせに、今はもう、したたかな笑みを浮かべて舌なめずりしていた。 発情している顔だと、和彦は思った。 千尋は、まだ湿りを帯びた和彦の肌に触れてくる。バスローブの紐を結んでいないため、何もかも千尋の前に晒したままなのだ。しずくが伝う首筋をゆっくりと舐め上げ
「だから考える必要がある。俺たちの大事な先生の面子を守る方法を。俺たちは、オンナになったからと卑屈になる先生を見たくはないしな」 「……ぼくを拉致してあんなことしておいて、勝手な言い分だな……」 本気か演技か、いつにない賢吾の真摯さに半ば圧倒されながら、和彦は応じる。すると賢吾は、楽しそうに目を細めた。 「ヤクザだからな。自分勝手なのは、得意だ」 「便利な言葉だな、ヤクザってのは。なんでもかんでも、それで無理が通ると思ってるだろ」 「少なくとも先生相手には」 賢吾を睨みつけると、なぜかキスで返された。 賢吾の調教
「――……いらない」 和彦が身構えながら答えると、さきほどの仕返しとばかりに千尋が爆笑する。一方の賢吾も、怒った様子もなく苦笑を洩らした。 「まあ、そう言うな」 賢吾の大きな手が後頭部にかかり、引き寄せられる。間近からじっと目を覗き込まれ、さすがに和彦も息を呑んだ。 賢吾の目には、大蛇が潜んでいる。普段はじっと身を潜め、大抵のことには身じろぎもしないが、それが何かの拍子にぞろりと蠢き、巨体をしならせる。たったそれだけで、小さな生き物は簡単に吹っ飛び、もしくは押し潰される。和彦もそれは例外ではない。 「――今回は、よく耐えた」