LOGIN「これが、総和会会長と長嶺組組長が会うということだ。話した内容なんて関係ない。会ったという事実が、重いんだ。……俺が、ここに近づきたがらないのも納得できるだろ?」
車が走り出してすぐに、和彦の手を握った賢吾が、皮肉っぽい口調で言った。完全に気が抜けた和彦は、シートに深く身を預ける。「だったら、会長が長嶺の本宅を訪ねてくることは?」「帰ってくる、という表現のほうが正しいんだろうな。あの家を建てたのはオヤジだ。俺は、長嶺組を継いだと同時に、あの家も継いだ。……まあ、総和会会長の肩書きがある間は、オヤジは本宅の敷居は跨がないだろう。決め事というわけじゃないが、ケジメというやつだ」「……ぼくはヤクザじゃないが、なんとなく、わかる気がする。背負っているものに対して、責任があるということだろ」「そうだ。総和会と長嶺組の位置は近いが、まったく違う組織だ。何か事が起これば、この二つの組織が反目し合うこともありうる――」 賢吾の言葉に例えようも「秘密を抱えた先生の表情だ。俺にバレるのが怖くて、必死にそれを押し殺している。そのくせ、どんな〈いいこと〉をしてもらったのか知らねーが、目のやり場に困るような色気を振り撒いてやがる」 和彦は瞬きも忘れて、賢吾を見上げる。次の瞬間には握り潰されるのではないかと、切迫した危機感に息が止まりそうになるが、賢吾はくすぐるように優しく欲望を擦り上げてくる。和彦は顔を背けて唇を噛んだ。「たっぷり搾ってもらったようだな。俺が触ってやるとすぐに反応するのに、今朝は反応が鈍い」 あからさまな賢吾の物言いに、体が熱くなる。「性質の悪い男を片っ端から血迷わせて、まったく性質の悪いオンナだ……。そのくせ、こんなものをつけている、見た目だけは優しげな色男だからな」 和彦のものを緩く扱いてから、賢吾の指が秘裂をまさぐってくる。まだ熱をもって疼いている内奥の入り口を軽く擦られて、無意識に腰が揺れる。賢吾は唾液で指を濡らすと、躊躇なく内奥に挿入してきた。「ううっ」 丹念な愛撫を与えられた直後のように従順に、和彦の内奥は二本の指を受け入れ、ひくつく。すぐに指が蠢き、内奥の襞と粘膜を擦り始めた。 和彦は、疼痛と苦しさに小さく呻き声を洩らす。内奥をまさぐられることで、何が起こったかを言葉で説明する必要はない。賢吾の指の動きは、必要な事実を簡単に探り当ててしまう。「……熱くなって、蕩けそうに柔らかくなっている。奥は……滑っているな。じっくり愛されて、満足したのか? いつもの先生なら、物欲しそうに必死で締め付けてくるのに、今は、いやらしい襞が絡み付いてくるだけだ」 ここで賢吾が、やっと核心を突く質問をしてきた。「誰に、愛してもらった?」 誤魔化すことは許さないと、冷ややかな眼差しが言っていた。大蛇の化身のような男は、和彦を試しているのだ。何もかもわかっていながら。いや、何もかもわかっているからこそ――。 内奥からゆっくりと指を出し入れされ、鈍くなっていた感覚がゆっくりと研ぎ澄まされていく。和彦は、体の内どころか、心の内すら賢吾に暴かれていく錯覚を覚えながら、深く息を
「これが、総和会会長と長嶺組組長が会うということだ。話した内容なんて関係ない。会ったという事実が、重いんだ。……俺が、ここに近づきたがらないのも納得できるだろ?」 車が走り出してすぐに、和彦の手を握った賢吾が、皮肉っぽい口調で言った。完全に気が抜けた和彦は、シートに深く身を預ける。「だったら、会長が長嶺の本宅を訪ねてくることは?」「帰ってくる、という表現のほうが正しいんだろうな。あの家を建てたのはオヤジだ。俺は、長嶺組を継いだと同時に、あの家も継いだ。……まあ、総和会会長の肩書きがある間は、オヤジは本宅の敷居は跨がないだろう。決め事というわけじゃないが、ケジメというやつだ」「……ぼくはヤクザじゃないが、なんとなく、わかる気がする。背負っているものに対して、責任があるということだろ」「そうだ。総和会と長嶺組の位置は近いが、まったく違う組織だ。何か事が起これば、この二つの組織が反目し合うこともありうる――」 賢吾の言葉に例えようもなく不吉なものを感じ、思わず和彦は身震いする。そんな和彦を、賢吾はやけに楽しげな表情で見つめていた。「怖いか、先生?」 肩を抱き寄せられ、素直に賢吾に身を預ける。「怖い……。あまり、物騒なことは言わないでくれ」「心配するな。俺は、臆病で慎重な蛇だ。総和会とは上手くつき合っていくつもりだし、オヤジが会長であるという旨みを最大限利用するつもりだ。俺が蛇でいる限り、組は安泰だ」 よかった、と意識しないまま洩らした自分に、和彦は驚く。口元に手をやり、一人でうろたえていると、わざわざ賢吾が顔を覗き込んできた。「どうやら、俺が思っている以上に、先生は長嶺組の将来を考えてくれているようだな」「……別に、そんなつもりは……。ただ、身内同士の揉め事は見たくないだけだ」「先生が言うと、ヤクザ同士の腹の探り合いも、微笑ましく感じられる」 バカにされているのだろうかと思い、そっと眉をひそめると、ふいに賢吾が表情を消した。
「……そんな、ことは……」 守光は、和彦が現在、どれだけの男たちと関係を持っているか把握しているだろう。そのことをどう感じているか、冗談めいた口調から知ることは不可能だった。「わしみたいな偏屈ジジイは、あんたみたいな若い者から特別扱いされると、それだけで機嫌がよくなる。覚えておくといい」 和彦がぎこちなく頷くと、守光は前触れもなく片手を伸ばし、頬やあごの下を撫でてきた。「――昨夜は、触れられなかったからな」 ぽつりと洩らされた守光の言葉に、和彦の背筋に寒気とも疼きともつかない感覚が駆け抜けた。 自分の足で歩いているという感覚も怪しいまま、玄関に向かう。すでに靴を履いた賢吾と、寝癖を気にして髪を撫でている千尋が待っていた。 和彦の顔を見るなり、千尋に言われた。「先生、どうかした? 顔赤いよ」 自分の頬を撫でた和彦は、小さく首を横に振る。「なんでもない……」 靴を履いて振り返ると、守光が千尋の横に立っていた。なんとなく顔を直視できず、伏し目がちに頭を下げて挨拶する。 長嶺の男たちが発する独特の空気に呑まれた挙げ句、和彦は酔いそうになる。自覚もないまま変なことを口走るのではないかと不安になったとき、賢吾にぐっと肩を抱かれて玄関から外へと押し出された。「二人とも気をつけて帰れ」 守光からそう声をかけられたあと、背後でドアが閉まる音がする。この瞬間、息苦しいほどの重圧と緊張感から解放され、和彦は密かに息を吐き出す。しかし、賢吾にはバレた。「やれやれ、といった感じだな、先生」 ハッとして顔を上げると、賢吾の唇には微かな笑みが浮かんでいた。「……あの状況でリラックスできるほど、ぼくは図太い神経をしていないんだ」「そうか? すっかり馴染んでいたぞ。先生の順応性の高さには、慣れたつもりの俺でも驚かされる」 和彦はエレベーターのボタンを乱暴に押す。口を開いたのは、エレベーターに乗り込んでからだった。「――…&hellip
「内緒」 先日、千尋が入れるつもりの刺青の絵柄について尋ねたとき、千尋が答えた言葉をそっくりそのまま返してやる。本人もそれがわかったのか、短く声を洩らして笑った。「意外に根に持たれてる?」「ぼくは執念深いんだ」 ようやく髪が乾き、ドライヤーを置いた千尋が手櫛で整えてくれる。至れり尽せりだと、口元を緩めた和彦が立ち上がろうとすると、すかさず背後から抱きつかれた。「おい、千尋――」「なんか先生、今朝は妙に色っぽいよね。さっき俺たちの前に姿見せたとき、ちょっとドキッとしたもん」「何言ってるんだ……」 千尋の嗅覚の鋭さを、和彦はよく知っている。動揺を押し隠して腕の中から抜け出そうとするが、かまわず千尋は間近から顔を覗き込んでくる。「――長嶺の男って、結局、好みと行動が似てるのかな。気に入った人を逃がさないよう、長嶺の家に取り込んで、縛り付けようとする」 独りごちるように言いながら、千尋が和彦の首筋に顔を寄せて、ペロリと舐め上げてきた。熱く濡れた感触に和彦は、鳥肌が立ちそうなほど強烈な疼きを感じる。「千尋、こんなところでふざけるなっ」「俺は、歓迎だよ。先生が、長嶺の男と深く結びついていくの。そうすることで先生は、俺たちから離れられなくなる。目に見えない形で、長嶺の血が先生の中に流れ込んでいくんだ。……じいちゃんが今、総和会に対してやっているみたいに」 千尋の物言いは、確信しているようだった。和彦が夜、〈誰〉と深く結びついたのかということを。 しかし和彦自身は確信を得ることを避け、瞼の裏に焼きついている、掛け軸に描かれた若武者の姿にすがっている。「……さっきも言ったが、夜はゆっくりと休めた。お前が何を勘繰っているのか知らないが、何もなかった。ただ……、ちょっと艶かしい夢を見ただけだ」 和彦を抱き締める千尋の腕に、わずかに力が加わる。「その艶かしい夢って、相手がいた?」「ああ……」「誰?」「客間に行っ
「下で、うちの者たちが騒然となっていたぞ。お前がここに足を運ぶなんて、滅多にないからな。来るのは歓迎だが、せめて事前に連絡ぐらいしろ」「だったら俺も言わせてもらうぞ。――勝手に俺の〈オンナ〉を連れ出すな」 威嚇するように賢吾が低い声を発する。普通の人間なら、何かしら危険なものを感じて体が強張るだろう。和彦も例外ではなく、ビクリと身をすくめる。だが、さすがというべきか、守光は楽しげに口元を緩めている。千尋のほうは、巻き込まれたくないとばかりに和彦の側に寄ってきた。「先生は、うちの組で大事にしているんだ。ジジイの茶飲みにつき合わせるぐらいなら大目に見るが、得体の知れない輩がうろついている本部に連れ込むなら、まず俺の許可を取れ」「息子と孫が大事にしている先生を、わしの自宅に呼んだだけだ」「それだけじゃねーから、わざわざ俺が出向いたんだ。……俺が来なかったら、素直に先生を帰す気はなかっただろ」「どうかな」 遠慮のないやり取りは、父子だからこそだろうが、和彦はどうしても、二人から剣呑としたものを感じ取ってしまう。賢吾が背負う大蛇と、守光が身に宿す物騒な〈何か〉が、まるで威嚇し合っているような――。「先生、髪濡れたまんまじゃん」 突然、千尋が緊張感のない声を上げる。ぎょっとした和彦に、千尋はにんまりと笑いかけてくる。「あっちの部屋行こう。俺がドライヤーかけてあげるから」「いや、自分で――」 有無を言わせず広いリビングへと連れていかれ、ソファに座らされる。千尋は一度リビングを出て行ったが、戻ってきたとき、手にはドライヤーがあった。「……会長と組長は、大丈夫なのか?」 濡れた髪に温風を当ててもらいながら、和彦は背後に立つ千尋に話しかける。「平気、平気。あの二人は、だいたいいつもあんな感じだよ。さすが父子というか、食えないところがそっくりで、自分が背負った組織が何より大事。ただし、じいちゃんのほうが……欲張りかな」「欲張り?」「長嶺組も大事。だけど、今、自分がトップに立っている総和会も大事。寿命
** 重い瞼をなんとか持ち上げると、床の間の掛け軸が目に入った。 布団の中で大きく体を震わせた和彦は、朝の陽射しが差し込んでくる中で、じっと掛け軸の若武者を見つめる。意識が朦朧としながらも、若武者の美しい顔をずっと見ていた気がして、夢と現実の区別がまだ曖昧だ。 それでも、夜中、自分の身に何が起こったのかは記憶にある。はしたない夢を見てしまったと、ほんのわずかな間、羞恥に苛まれたりもしたのだが、内奥に残る疼痛や全身のけだるさは、否が応でも現実を和彦に突きつけてくる。 急に居たたまれない気分になって体を起こすと、下肢に明らかな違和感が残っている。行為の後どうやって後始末をされ、浴衣を直されたのかを思い出し、あっという間に全身が熱くなってくる。 何げなく枕元に視線を向けると、見覚えのない男性物らしきスカーフがあった。 深みのある紫色のスカーフに触れた和彦は、滑らかな手触りにゾクリと身を震わせる。寒いわけではなく、体の奥から疼きが湧き起こったからだ。間違いなく、行為の間ずっと顔にかけられていたものだった。 和彦は口元を手で覆いながら、夜の間の出来事をゆっくりと思い返す。自然に視線は、再び掛け軸へと向いていた。 どうすればいいのだろうか――。 そう自問しながらも、反面、考えたくないという思いもあった。貪欲なほど何もかもを自分の中で呑み込み、感情と理屈の折り合いをつけてきた和彦だが、さすがに〈これ〉は、処理が追いつかない。誰かに手助けしてもらわないと。 ひとまず、体に残る生々しい感触をどうにかしたかった。和彦はふらつきながら立ち上がると、自分の服を抱えて客間を出る。廊下に人気がないことを確かめて、足音を殺しながらバスルームに向かった。 シャワーを浴びながら、下肢に残る潤滑剤と、内奥に残された精をできる限り指で掻き出す。惨めさよりも、とにかく羞恥を刺激される作業だ。 体中にてのひらと指先が這わされ、内奥深くすら丹念に探られたが、和彦に覆い被さってきた相手は、唇と舌で触れてくることはなかった。そのため肌には、愛撫の痕跡が一切残っていない。唯一、淫らな行為があったことを示すのは、内奥に残る疼痛だけだ。これさえ、今日中