ログイン「ぼくはこれでも、モラリストのつもりなんだ。妖しい空気の中、平然となんてしてられない」
「……冗談ですか?」「本気で言ってるんだっ。君らはぼくを、なんだと思ってるんだ」 和彦がムキになって抗議すると、秦と中嶋は顔を見合わせたあと、大仰に神妙な顔つきとなる。これならまだ、笑ってもらったほうがよかったと、和彦は顔を背けてワインを飲む。 からかわれた仕返しというわけではないが、ここを訪れる前に賢吾と電話で交わしたことについて、中嶋に質してみた。「――組長に、しっかり報告してくれたそうだな」「先生と、鷹津という刑事との夜景デートの件ですね」 顔を背けたばかりの和彦だが、たまらずじろりと中嶋を見る。「本当に、そういう表現をしたのか……?」「見たままを正直に。長嶺組長からは、そう言いつかっていますから」「ぼくの側にいて見聞きしたことは、なんでも、か」「なんでも、ですよ」 和彦と中嶋のやり取りを聞き思いがけず苦々しげな秦の口調がおかしくて、つい和彦は笑ってしまう。「つまり中嶋くんは、秦静馬という男に、そこまでのフォローは最初から期待していないということだな。さすが、君のことをよくわかっている」「ひどい言われようだ……」 肩をすくめた秦が立ち上がる。まだ何も身につけていない後ろ姿を見て、反射的に和彦は視線を逸らす。理屈ではなく、秦の体は中嶋のものだと咄嗟に思ってしまったのだ。「――中嶋の側にいてやってください。わたしはこれからちょっと、仕事の電話をしないといけないので」 手早く服を着込んだ秦が、携帯電話を片手に部屋を出ていく。ドアが閉まるのと同時に、眠っていると思っていた中嶋がパッと目を開いた。いつから起きていたのかは知らないが、和彦と秦の会話を聞いていたのは確かなようだ。「君の恋人は薄情だな。ことが終わったら、さっさと仕事の電話をしに行ったぞ」 和彦がわざと意地悪く言ってみると、中嶋は食えないヤクザの顔でこう答えた。「照れているんですよ、あれで。外見も言動も甘い人だけど、中身はそうじゃありませんから。いざとなると、人をどう甘やかしていいかわからないんです」「……どうして君があの男じゃいけないのか、わかった気がする。秦にとって、君じゃないといけないんからだな」 素直に感心して見せると、中嶋は短く声を洩らして笑った。「買いかぶりですよ、先生。俺と秦さんの関係は、映画や小説のように素敵なものじゃない。気が合ううえに、互いに利用し合う価値があって、今日確認できましたが、運よく体の相性も合ったというだけです」 それだけ合えば十分だろうと、和彦は心の中でそっと呟く。すると突然、中嶋が体を起こしたかと思うと、次の瞬間には和彦にのしかかってきた。「先生にも同じことが言えますね」「何、が……?」「俺と気が合って、互いに利用し合う価値があって、体の相性も合っている」「……君の主観だな。ぼくが同じことを思っているとは限らないだろ」 素直に賛同するのも癪で、ささやか
今まさに、中嶋の肉を食らおうとしているのだ。「うっ、うあっ」 和彦の上で、中嶋が背をしならせる。それと同時に、繋いだ手をぐっと握り締められた。 内奥深くに収まっている中嶋のものが脈打ったのを感じ、和彦は小さく呻き声を洩らす。すると中嶋も、苦しげに息を吐く合間に呻き声を洩らした。見ることはできないが、中嶋の体に何が起こっているのかは、感じることができた。「――……ひどい奴だな、君の〈オトコ〉は」 和彦がそっと囁くと、眉をひそめていた中嶋が口元に微苦笑を浮かべる。「物騒な男ばかり相手にしている先生にそう言われると、なんだか胸を張りたくなりますよ」 ここで中嶋の腰が大きく揺れ、和彦の内奥で熱い欲望も蠢く。秦が、己の快感のために律動を繰り返すと、その動きに合わせて中嶋の腰は揺れ、必然的に和彦の内奥で動くことになる。 とんでもなくふしだらで、淫らな行為に及んでいるという興奮が、和彦を狂わせる。種類の違う快感を同時に味わっている中嶋は、それ以上かもしれない。 秦が動くたびに声を上げる中嶋は、快感に酔いしれた表情を隠そうともしていない。繋いでいた手を解くと、和彦は中嶋の頭を引き寄せて深い口づけを与える。「羨ましいですね。わたしも仲間に入れてもらいたいのですが――」 舌を絡ませている最中に、わずかに息を弾ませた秦が声をかけてくる。和彦は、一瞬息を詰めた。中嶋と繋がっている部分に、秦が指を這わせてきたのだ。堪らず内奥を収縮させると、中嶋の欲望が一層逞しさを増す。 秦が声を洩らして笑った。「……すごいな。わたしと先生が繋がっているわけじゃないのに、先生の中の動きが、中嶋を通して伝わってきますよ。わたしの動きも、先生には伝わっていますよね?」 秦が大胆に腰を使い、中嶋が掠れた声を上げる。和彦の内奥では中嶋の欲望が力強く脈打ち、秦の律動に合わせて動く。 中嶋のものを受け入れているのは和彦だが、まるで中嶋を犯しているような感覚だった。おそらく、律動を繰り返す秦に、和彦は自分の欲望を重ねているのだ。 和彦の内奥深くを抉るように突き上げて、息を
「中嶋の中のことは、今はまだ先生のほうがよく知っているんですよ。だから、頼みます」 そう囁いてきた秦に手を取られ、たっぷりの唾液を絡めるようにして指を舐められた。和彦は秦と場所を入れ替わると、中嶋の片足を抱え上げ、内奥の入り口を濡れた指でまさぐる。中嶋は息を喘がせながら、唇だけの笑みを向けてきた。「一息に入れてもらってかまいませんよ」「乱暴なのは、ぼくの趣味じゃない。……多分、この男も」 和彦がちらりと背後を振り返ると、秦は意味ありげに自分の指を舐めていた。その行為の意味を即座に理解した和彦は、全身を羞恥で熱くする。まさかと思ったが、今のこの状況では、どんな淫らな行為が行われても不思議ではない。 何より、和彦は期待している――。「先生?」 中嶋に呼ばれて我に返った和彦は、前に一度そうしたように、狭い内奥に慎重に指を挿入する。できる限り綻ばせて、苦痛が少ないようにしてやりたかった。「うっ、うぅっ」 ゆっくりと指を動かすと、ビクビクと体を震わせながら中嶋が声を上げる。覚えのある感触が指にまとわりつく。戸惑いつつも中嶋の襞と粘膜は、愛撫に応えようとしているのだ。 中嶋の内奥がひくつき始め、和彦の指の動きに合わせて収縮を繰り返す。強気に見つめ返してくる中嶋を煽るように、和彦はそっと囁いた。「……いやらしいな。初めてのときは、こんなに物欲しげな反応はしなかったのに」「いやらしさなら、先生も負けていないと思いますよ」 秦が、背後から和彦の肩に唇を押し当ててくる。ハッとしたときには、和彦の秘裂に秦の指が入り込み、内奥をまさぐられる。「やっ、め……」 和彦は慌てて身を捩ろうとしたが、強引に秦の指が内奥に挿入されてくる。異物感に呻いたときには、秦の指をしっかりと咥え込んで締め付けていた。「いい反応ですね、先生。この調子で中嶋をしっかりと、可愛がってやってください」 秦の指が巧みに内奥で蠢き、和彦は息を弾ませる。すると中嶋が片手を伸ばし、頬に触れてきた。「先生、気持ちいいですか?」
そう中嶋から言葉をかけられると同時に、秦にベッドに引き上げられる。 二人がかりでワイシャツを脱がされ、スラックスと下着を引き下ろされる頃には、和彦は形だけの抵抗の空しさを味わっていた。本当に嫌なら逃げ出せばいいのだ。二人は決して、和彦に無理強いはしない。 和彦に覆い被さってきた中嶋が唇を重ね、剥き出しになっている欲望同士を擦りつけてくる。そんな二人を眺めながら、秦は悠然とシャツを脱いでいた。 広いベッドの上で、何も身につけていない体をしっかりと重ねているうちに、羞恥心が少しずつ剥ぎ取られていくようだった。まるで獣同士が無邪気にじゃれ合っているようで、なんだか楽しくさえなってくるが、次第に中嶋の体が熱くなってくるのを感じて、これは儀式のようなものだと悟る。「……緊張していたのか?」 思わず和彦が尋ねると、〈女〉の顔をした中嶋は頷いた。「先生がいてくれてよかった。そうじゃないと俺は多分、ベッドに転がったまま、初心な乙女みたいに体を震わせていましたよ」「経験豊富な元ホストが、何言ってるんだ」「経験じゃ、先生と秦さんには負けます――」 ここで中嶋がビクリと体を震わせ、唇を引き結ぶ。楽しげに和彦と中嶋の会話を聞いていた秦が、ようやく動いたのだ。 和彦に覆い被さっている中嶋の両足の間で、差し込まれた秦の手が妖しく動いていた。小さく声を洩らした中嶋の髪を掻き上げてから、和彦は唇を啄んでやる。すぐに互いの唇を吸い合い、舌を絡め合っていたが、ふっと和彦の上から中嶋の重みがなくなる。ベッドの上に座った秦の両腕の中に、中嶋はいた。 今度は秦と中嶋が、濃厚な口づけを交わし始める。胸元をまさぐられた中嶋が大きく息を吸い込むのを見て、和彦は体を起こす。すかさず秦が目配せしてきて、中嶋の足を左右に開かせた。一瞬、逡巡はしたものの、好奇心と欲情が入り混じった衝動に和彦は勝つことができなかった。 和彦は、中嶋の欲望に手を伸ばすと、てのひらに包み込む。緩やかに上下に扱いてやると、切なげな声を上げた中嶋が腰を震わせる。 快感に身を震わせる〈女〉の姿に、和彦はゾクゾクするような興奮を覚えた。自分に快感を与えてくれる男
「ぼくはこれでも、モラリストのつもりなんだ。妖しい空気の中、平然となんてしてられない」「……冗談ですか?」「本気で言ってるんだっ。君らはぼくを、なんだと思ってるんだ」 和彦がムキになって抗議すると、秦と中嶋は顔を見合わせたあと、大仰に神妙な顔つきとなる。これならまだ、笑ってもらったほうがよかったと、和彦は顔を背けてワインを飲む。 からかわれた仕返しというわけではないが、ここを訪れる前に賢吾と電話で交わしたことについて、中嶋に質してみた。「――組長に、しっかり報告してくれたそうだな」「先生と、鷹津という刑事との夜景デートの件ですね」 顔を背けたばかりの和彦だが、たまらずじろりと中嶋を見る。「本当に、そういう表現をしたのか……?」「見たままを正直に。長嶺組長からは、そう言いつかっていますから」「ぼくの側にいて見聞きしたことは、なんでも、か」「なんでも、ですよ」 和彦と中嶋のやり取りを聞きながら、秦は楽しそうにワインを味わっている。それどころか、こんなことを言った。「本当に仲がいいですね、先生と中嶋は。なんだか、どちらにも妬けてきますよ」「……何言ってるんだ」「職業どころか、本来なら住む世界も違う二人が、わたしの部屋で砕けた様子で話しているのを見ると、今の生活は恵まれていると思えてくるんです」 秦の殊勝な言葉に、すかさず中嶋が乗る。「それもこれも、全部先生のおかげですよ。俺の頼みを聞き入れて、秦さんを助けてくれたからこそ、今こうしていられる」 その秦は、賢吾と繋がりを持ちたいがために、自分に何をしたか――。ふと思い出した和彦は、どうしても複雑な心境になる。少なくとも、いい思い出とは言い難い。だが、知らず知らずのうちに胸の奥で妖しい衝動がうねっていた。 酔うほどまだ飲んでいないはずなのに、頬の辺りが熱い。和彦は視線を伏せて、ぼそぼそと応じた。「そのせいで、ぼくはいろいろと大変な目に遭った。……下手をしたら、組長に縊り殺され
** わざわざ雑居ビルの一階で待っていてくれた中嶋は、酒屋の袋を手にした和彦を見て申し訳なさそうな顔をした。「……誘ったのはこちらなのに、なんだか気をつかわせてしまったようですね」 そう言って中嶋は、さりげなく袋を持ってくれる。「こちらこそ、ちょうど気分転換をしたくて、相手を探していたところだったんだ。誘ってくれてありがたい」 和彦は背後の車を振り返り、運転席の組員に向けて軽く手を上げる。中嶋と一緒にいるところを確認して、今日の護衛の役目は一旦終わりだ。 エレベーターで最上階まで上がると、ドアを開けて秦が待っていた。浮かべている笑みが普段以上に艶やかに見え、なんとなく秦の顔を直視しがたい。 ここで和彦は、ピクリと肩を揺らす。自然な動作で中嶋に腕を取られたのだ。思わず隣に目をやると、中嶋の柔らかな表情に〈女〉を感じ取る。漠然と予期していたものが確信へと変わり、この瞬間から和彦の心臓の鼓動は、わずかに速くなっていた。 部屋に招き入れられると、不躾だと思いつつも和彦の視線はつい、部屋の一角に置かれたベッドに向く。和彦の部屋のベッドほど幅はないが、それでも男二人が寝るには十分な広さだろう。「そう、まじまじと見つめられると、恥ずかしいものがありますね」 グラスを準備しながらの秦の言葉に、和彦のほうが恥ずかしくなってくる。「……新しいベッドを見てもらいたいと言ったのは、君だろ」「まさか、先生があっさり誘いに乗ってくれるとは、思っていませんでした」「ぼくも、ベッドで釣られるとは思わなかった。……理由はなんでもよかった。気分転換したかったんだ。――気心が知れた相手と」 和彦が買ってきたワインをさっそくグラスに注いだ秦が、芝居がかった優雅な仕種で首を傾げる。「何かありましたか?」「仕事のことで、ちょっとややこしい立場になった、かもしれない」「先生はいままでも、十分にややこしい立場だったでしょう」 率直な意見を述べてくれたのは、中嶋だ。促
** 別れ際、玄関で秦に抱き締められてから、和彦は部屋をあとにした。 エレベーターの中で、もう二度と秦と会わないということはおそらく不可能だろうなと、ぼんやりと考える。秘密を共有してしまったということもあるが、秦との間に確かな結びつきができたことを実感していたのだ。 賢吾や千尋、三田村との間で生まれた結びつき――縁と、同種だ。肉欲と切っても切れない縁で、それはすぐに、情へと変化する。さすがに和彦も、それぐらいは学習していた。 複雑になった事態と人間関係を、自分はどうするつもりなのか、考えたくなかった。体も心も、秦から与え
口元に笑みを浮かべながらも、賢吾の表情から静かな凶暴さがちらりと覗く。大蛇が巨体をしならせたような迫力を感じ、和彦は身を強張らせる。それでも口だけは必死に動かした。「それを自分の力だと錯覚しそうで、怖いんだ。あんたに頼むだけで、自分に都合がいいように物事が進んで、片付いて……。そうすることに慣れていったら、ぼくはあんたと同じ、ヤクザだ」「正確には、ヤクザのオンナだ。ヤクザに媚びて、尻を振って、自分の望みを叶える。オンナの特権だぜ」 賢吾は、わざと和彦を挑発する言い方をしている。ここで反論しても話が進まないと思い、大きく息を
和彦の視線に気づいた鷹津が苦い表情を浮かべ、意外なほど素直に煙草を仕舞う。これでやっと、会話を交わせる気になる。「……逃げ出すだけなら、いつでもできる。別にぼくは、監視されているだけじゃない」「逃げ出す気も失せるほど、ヤクザのオンナってのはいい生活が送れるみたいだな」「嫌味を言いに来ただけなら、さっさと帰ってくれ。ぼくは、あんたと違って忙しい」 立ち上がろうとした和彦だが、かまわず鷹津は会話を続ける。「長嶺組から、お前を引き離してやるというのは、本気だ」「あんたが、タダ働きをするようには
** 熱い吐息をこぼしながら和彦は、三田村の逞しい欲望に舌を這わせる。何度も根元から舐め上げ、ときおり舌を絡みつかせ、吸い付き、ひたすら三田村の快感のために尽くす。 三田村にこの愛撫を施すのは、初めてだった。いままで、和彦のものを丹念に愛してくれながら、三田村は自分がされることを望まなかったのだ。なんだか申し訳ない、という理由は、いかにも三田村らしいと言える。だが今日は、和彦が頑として聞き入れなかった。 最初は慣れていない様子でベッドの上にあぐらをかいて座り、緊張している素振りすら見せていた三田村だが、欲望の高ぶりとともに、和彦の愛