Masuk封筒をダッシュボードの上に放り出し、二人分のシートベルトを素早く外した鷹津に、当然の権利のように乱暴に頭を引き寄せられる。和彦が目を見開いたときには、熱い唇が重なってきた。
「んんっ」 痛いほど強く唇を吸われながら、Tシャツの下に無遠慮な手が入り込んでくる。鷹津が何を求めているのかは明白で、和彦はシートの上で抵抗しようとするが、鷹津がものともせずに強引な口づけを続ける。 胸元をまさぐられ、指先に突起を探り当てられる。執拗に指の腹で擦られて喉の奥から声を洩らすと、鷹津に後ろ髪を掴まれて、口腔に舌を捻じ込まれた。吐き気を覚えたのはわずかな間で、和彦の背筋を、馴染み深い感覚が駆け上がってきた。 征服の手始めのように、鷹津が口腔に唾液を流し込んでくる。最初は嫌がった和彦だが、いやらしく口腔の粘膜を舐め回されているうちに、コクリと喉を鳴らして受け入れていた。 Tシャツを押し上げられて、硬く凝った胸の突起をてのひらで捏ねるように愛撫される。そして、口づけの合間に囁かれた。「……お前のために働い**** さきほどから地図を眺めて、賢吾はひどく楽しそうだった。食えない男のその表情を、キッチンから缶ビールとグラスを取って戻ってきた和彦は、興味深く観察する。「――何か言いたそうだな、先生」 地図からちらりと視線を上げ、賢吾が口を開く。油断ならない男だと、いまさらなことを実感しつつ、和彦は賢吾の隣に座った。 グラスにビールを注いでやってから、一緒に地図を覗き込む。鷹津の乱雑な字がびっしりと書き込まれた地図は、執念のようなものが滲み出ているようだった。 鷹津は、表向きは暴力団組織――長嶺組を憎悪する悪徳刑事を演じている。事実、憎悪はしているのだろうが、長嶺組組長のオンナである和彦と関係を持ち、結果として長嶺組に情報を流している。 鷹津という男の屈折した感情を、この地図の存在はよく表しているのかもしれない。「さっきから、地図を眺めて楽しそうだな」 和彦の言葉に、賢吾は目元を和らげる。「先生が、ヤクザの組長のオンナらしい仕事をしたと思ってな。悪徳刑事を手玉に取って、自分の身を守るための情報を取ってきた」「……人聞きが悪い」「そうだな。鷹津が勝手に先生を気遣って、気を回した結果だ。先生は鷹津に何も頼んでいないし、媚びてもいない。手玉に取るなんて、失礼な言い方だった」「その言い方も――」 気に障る。心の中で洩らした和彦は、窓の外に目を向ける。すでに日は落ち、外は暗い。 本当であれば今日は、クリニックが終わってから弁当でも買って帰り、部屋で一人ゆっくりと過ごすつもりだったのだ。ところが夕方になって賢吾から連絡が入ったことで、和彦のささやかな予定は狂った。 外で待ち合わせて一緒に夕食をとったあと、少し部屋で寛がせてくれと賢吾に言われては、拒めるはずもない。 和彦はソファに深くもたれかかり、グラスに口をつけつつ相変わらず地図を見ている賢吾に視線を戻す。「その地図、役に立つのか?」「先生にとってはな。むしろ重要なのは、鷹津が話した内容だ。本当に、暴力団担当係の有能な刑事と〈仲良く〉なっ
「……何様だ、あんた……」「お前の番犬だ。餌欲しさに、お前のためだけに働いている」 その言葉を受けて、差し出した舌を大胆に絡め合う。明け透けな欲情を見せ付けられて、和彦も興奮していた。狭い車内で、シートから身を乗り出す不自由な姿勢で口づけを交わし、互いのものを愛撫し合っていると、もどかしさが媚薬となる。 和彦は片手を鷹津の肩にかけていたが、車内の空気が淫靡さを増してくると、無精ひげの生えた頬にてのひらを押し当てるようになっていた。鷹津はピクリと肩を揺らし、食い入るように間近から和彦を見つめてくる。いまさら鷹津の眼差しの強さに気恥ずかしさを覚え、和彦は視線を伏せる。すると鷹津が、誘われるように目元に濡れた唇を押し当ててきた。「残念だ。お前がその気になっている今みたいなときこそ、思うさま尻を犯してやりたいのに」「誰が、その気なんて――」 鷹津の指に強く先端を擦り上げられ、たまらず和彦は呻き声を洩らす。和彦のものは熱く脈打ち、先端から透明なしずくを垂らしているが、それは鷹津のものも同じだ。ふてぶてしく息づき、和彦の手を濡らしている。 声に出してタイミングを計る必要もなかった。鷹津の愛撫の手が速くなり、つられて和彦も握ったものを強く扱き上げる。「あっ、あっ」 たまらず和彦が声を上げ始めると、唇にかかる鷹津の息遣いも荒くなってくる。「イけよ、佐伯。イク瞬間の顔をたっぷり拝んでやるから」 言い返したくて仕方なかったが、その余裕はもう和彦にはなかった。ぐっと奥歯を噛み締めて、腰を震わせる。閉じた瞼の裏で閃光が走り、快感の塊が背筋を滑り落ちた。そして、鷹津の手の中で精を迸らせていた。「は、あぁ……」 詰めていた息を吐き出すと、すかさず鷹津に言われる。「俺のも最後まで面倒見てくれよ」 半ば意地のように和彦は、握り込んだ脈打つものを手荒く扱き、自分がされたように鷹津の精をてのひらで受け止める。ビクビクとてのひらの中で震える鷹津のものが生々しい。まだ、硬く熱いのだ。 この時点で和彦は、精を放ったばかりだというの
封筒をダッシュボードの上に放り出し、二人分のシートベルトを素早く外した鷹津に、当然の権利のように乱暴に頭を引き寄せられる。和彦が目を見開いたときには、熱い唇が重なってきた。「んんっ」 痛いほど強く唇を吸われながら、Tシャツの下に無遠慮な手が入り込んでくる。鷹津が何を求めているのかは明白で、和彦はシートの上で抵抗しようとするが、鷹津がものともせずに強引な口づけを続ける。 胸元をまさぐられ、指先に突起を探り当てられる。執拗に指の腹で擦られて喉の奥から声を洩らすと、鷹津に後ろ髪を掴まれて、口腔に舌を捻じ込まれた。吐き気を覚えたのはわずかな間で、和彦の背筋を、馴染み深い感覚が駆け上がってきた。 征服の手始めのように、鷹津が口腔に唾液を流し込んでくる。最初は嫌がった和彦だが、いやらしく口腔の粘膜を舐め回されているうちに、コクリと喉を鳴らして受け入れていた。 Tシャツを押し上げられて、硬く凝った胸の突起をてのひらで捏ねるように愛撫される。そして、口づけの合間に囁かれた。「……お前のために働いてやったんだ。今すぐ抱かせろ」 和彦は熱い吐息をこぼし、それすら惜しむように鷹津に唇を吸われる。その間にも鷹津の片手が、胸元から両足の間へと下りていた。数時間前に賢吾の愛撫を受けたばかりだというのに、和彦の体は反応したがっている。「今日は、ダメだ――……」 答えた途端、それでなくても鋭い鷹津の眼差しが殺気を帯びる。「ヤクザのオンナが、偉くなったもんだな。刑事を使っておいて、礼もなしか? このまま無理やり、お前の尻に突っ込んでもいいんだぞ」「体がつらいんだっ。昨日……だったから。だから今日は、組長の誘いも断った」 我ながら嫌になるが、鷹津にとってどの話題が効果的か、和彦は把握している。賢吾だ。一方の鷹津も、和彦がどんな意図から賢吾の名を出したか把握しており、忌々しげにこう洩らした。「性質の悪いオンナだ。――昨日は誰に抱かれたんだ」「あんたに……関係ない」 そしてまた、和彦は唇を塞がれる。舌を引き出さ
そうしているうちに車は、薄暗く人気のない小さな公園の側を通りかかり、駐車場に入った。エンジンを切った鷹津が口を開く。「――グローブボックスを開けてみろ」「えっ?」「必要ないなら捨てようと思っていたが、そうもいかないようだからな。持って帰って、長嶺に見せてみろ。あいつなら、お前のために手を回してくれるはずだ」 そこまで言われて和彦は正面のグローブボックスを開けてみる。普段から整理していないのか、さまざまなものを押し込んであり、一番上に大判の封筒が窮屈そうに入っていた。 鷹津に言われるまま封筒を取り出し、和彦は首を傾げる。「これは……?」「花見会は、毎年同じ場所で催される。これは、総和会と県警との取り決めのようなものだ。総和会は、なんとしても行事を行いたいし、県警としても、毎年場所を変更されて、そのたびに警備を見直す時間も予算もかけられない。そういう理由もあって、互いに威嚇し合いながらも、大きなトラブルを起こさずにやってきた。だけど今年は少し様子が違う」 そこまで言って鷹津は、封筒を指先で軽く弾いた。「今年の県警は、気合いが入っているぞ。厳戒態勢を敷くと、うちの課長が息巻いている。その手始めに、警官の動員数を増やすそうだ。――例年、大物幹部は、あらかじめ知らされている警備の手薄な場所から、花見の会場に入っている。そうやって、警察との接触を避けてきた。警察とヤクザとの癒着……と言うなよ。下手に職質をかけると、護衛についている組員たちが興奮して、手がつけられなくなるんだ。そんな事態を避けるための、苦渋の決断だ。表向きは」「その口ぶりだと、今年は大物だろうが容赦しない、ということか」「所持品検査ぐらいはさせてもらうつもりだ。拒めば、のん気に花見なんぞできない状況に追い込む」 それは困る、と和彦は心の中で呟く。物騒なものを持ち歩く必要のない和彦自身は、所持品を調べられるぐらいはかまわないが、それと同時にまず確実に行われるのは、身元照会だろう。医師という肩書きのため、医師会に問い合わせでもされたら、現在は何をしているか追及されるのは目に見えている。「こういう状況に
気取った言い方をするほどのことでもないだろうと、心の中で呟いた和彦は、眉をひそめてウィンドーのほうを向く。すると、唐突に鷹津が話し始めた。「――県警には、毎年この時期に恒例行事になっていることがある。ある集会を監視するために特別対策室が設けられて、俺のいる課だけじゃなく、県警の管区機動隊に大号令がかかるんだ。暴力団撲滅を謳ってな」 鷹津が何を言おうとしているか察し、数秒の間を置いて和彦は応じる。「総和会が催す、花見会のことか?」「やっぱり知ってやがったな」「教えてもらったのは最近だ。……それで、聞きたいことというのは……」「万が一にも、お前が出席するのか気になってな。さすがに長嶺が、自分の弱みにもなりかねないオンナを伴って、大物ヤクザが勢揃いする場に出かけるほどマヌケとも思えんが――どうなんだ?」 鷹津はこれでも警察の人間だ。本来であれば、長嶺組や総和会にとって敵ともいえる人間だ。現在も、決して賢吾たちに対して友好的というわけではなく、妙な成り行きから、あくまで和彦の〈番犬〉としてつき合っているのだ。 こちら側の情報を、賢吾に相談もなく与えていいものだろうか。和彦がそう逡巡していると、こちらを一瞥した鷹津は鼻先で笑った。「その様子だと、出席するみたいだな。あの長嶺が、色ボケして迂闊な判断をしたと取るべきか、何か企みがあるのか……」「――組長が決めたんじゃない」 頭で考えるより先に、言葉が口をついて出る。「長嶺組長は、ぼくを花見会に連れて行く気はなかったし、もちろんぼくは、自分が出席するなんて考えもしなかった。でも、やむをえない事情ができたんだ」 鷹津が、賢吾を蔑むような発言をしたことが、なぜかいまさら気に障った。いや、単に、鷹津の誤解を訂正したかっただけだったのかもしれない。とにかくこのときの和彦は、鷹津相手の駆け引きを忘れていた。 鷹津は前を見据えたまま、冴えた表情を浮かべる。通りすぎる車のライトを受けて、サソリにも例えられる下卑た嫌な男は、精悍で有能な刑事に見えた。「…&helli
** 長嶺の本宅から戻った和彦は、ゆっくりと風呂に浸かったあとも、体に残る気だるさを持て余していた。今晩は賢吾と体を重ねなかったが、自ら進んで淫らな行為に及んだのだ。身の内で荒れ狂った欲情は、セックスのそれと変わらない。 この気だるさは、激しい欲情に身を任せた代償だと、コーヒーを一口啜った和彦はため息をつく。 書斎に入り、簡単な書類仕事を片付けたものの、なんとなく手持ち無沙汰で落ち着かない。ソファで寛ぎながらテレビを観てもいいし、寝室のベッドに転がって本を読んでもいいのだが、そういう気分でもなかった。 厄介事が片付かないまま、どんどん積み重なっていくようで、少しでも思考を働かせていないと不安なのかもしれない。 里見のこと、守光との関係、そして、状況が理解できないまま出席することになった総和会の花見会と、どれも和彦にとっては重要な事案ばかりだ。 今晩、賢吾が言っていたことが引っかかっていた。 総和会に属する十一の組だけでなく、総和会に関わる外部の組織の人間たちも集まるという場で、特殊な立場にいる和彦が物見遊山のためだけにのこのこと出かけられるはずもなく、また、それが許されるとも思えない。 場に華を添えるために必要なのは、あくまで〈女〉だ。だったら、〈オンナ〉が必要とされる理由は、と考えてしまう。邪推で済めばいいが、和彦を花見会に呼びたがっているのは守光だ。裏がないとは言い切れない。 もっとも、どんな企みがあるにせよ、和彦に逆らう術はない。ただ力に身を委ねるだけだ。 和彦はコーヒーを飲み干すと、カップを手に立ち上がる。書斎を出ようとしたところで、デスクの上に置いた携帯電話が鳴った。慌ててデスクに戻って携帯電話を取り上げたが、次の瞬間、和彦は意識しないまま顔をしかめていた。電話の相手は、鷹津だった。「――……こんな時間になんだ」 不機嫌さを隠しもせずに電話に出ると、鷹津が癇に障る笑い声を洩らす。『こちらの予想通りの応対だな』「ぼくをからかうためにかけてきたんなら、切るぞ」『今、マンションにいるのか?』「…&helli
「先日は、相手をしてくれてありがとう。――先生」 賢吾に似た太く艶のある声が発せられ、呆然と立ち尽くしていた和彦は我に返る。急に落ち着かなくなり、緊張のあまりこの場から逃げ出したくなったが、手招きされると、もう逆らえない。会釈をして座敷に足を踏み入れた。 さらに促されるまま、座卓を挟んで守光の正面に座る。和彦は唇を動かしはするものの、守光の顔を見ると、頭の中が真っ白になってしまい、何も言葉が出ない。正体を知ってしまうと、どう話しかけていいのかすら、わからないのだ。 相手は、総和会という大きな組織の会長で、賢吾の父親で、千尋の祖父だ。そして和彦は、その二
突然のことに声も出せない和彦は、大きく目を見開く。南郷は、手荒な行動とは裏腹に、静かな表情で和彦を見つめていた。 こんなときに限って、マンション前には人はおろか、車すら通りかからない。 南郷の大きく分厚い手が眼前に迫ってくる。絞め殺されるかもしれないと、本気で危機を感じた和彦だが、仮にも総和会に身を置く男がそんなことをするはずもない。 南郷の手は、和彦の首ではなく、両頬にかかった。「これが、長嶺組長のオンナ……」 和彦の顔を覗き込みながら、ぽつりと南郷が呟く。淡々とした声の響きにゾッとして、和彦は手
「……それは、ぼくの実家のことを指しているのですか?」「わしは、難しい話に興味はないよ」 機嫌よさそうに話す守光の表情から、狡猾さは感じられない。しかし、本当に狡猾で、頭が切れる人間は、完璧に自分の本性を隠せるものだ。和彦の父親が、まさにそうだ。 急に警戒心を露にした和彦に向けて、守光はさらに言葉を続ける。「あるのは、長嶺の〈悪ガキ〉二人を骨抜きにしている先生への興味だ」「悪ガキ……」「わしにしてみれば、でかくなったつもりの賢吾はまだ悪ガキのままで、千尋はさらに
思わず謝罪したことで、守光の指摘の正しさを認める。そんな和彦を咎めるでもなく、むしろ反応を愛でるように守光は目を細めた。一方で、相変わらず和彦の手に触れ、指を一本ずつ撫でてくる。「あんたを大事にしたいと考えているのは、何も長嶺組だけじゃない」 返事の代わりに和彦は目を見開く。ズバリと切り込むように、守光が低い声で告げた。「総和会で、あんたの身を預からせてもらえないだろうか――と考えている」 恫喝されたわけではない。だがこの瞬間、和彦は得体の知れない不安と恐怖を感じていた。巧妙に仕掛けられた罠にかかってしまった小動物の心境とは、こういうもの