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第23話(20)

مؤلف: 北川とも
last update تاريخ النشر: 2026-04-04 08:00:08

 パッと頭を上げた和彦は、瞬きも忘れて賢吾の顔を凝視する。防衛本能というべきか、賢吾の今の発言は冗談だと、咄嗟に和彦は判断した。本気にしてしまう自分自身を恐れたためだ。

 どんな言葉をかけられるより賢吾の提案は優しいと感じ、同時に、どんな打算が含まれているのだろうかとも勘繰ってしまう。和彦と賢吾の関係で、これは仕方のないことだった。

「そんなことをしたら、ぼくは一生、長嶺の男から離れられないな……」

「なんだ、離れるつもりなのか?」

 じっと身を潜めていた大蛇が、ふいに鎌首をもたげてチロリとした舌を覗かせる。そんなイメージが和彦の脳裏を過ぎり、つい顔が強張る。

 賢吾の優しさは、怖い。和彦はさりげなく体を離そうとしたが、しっかりと肩を掴まれて動けなくなる。間近で賢吾と目が合ったそのとき、前触れもなくインターホンが鳴った。この時間の訪問者は限られている。心当たりがあるうちの一人は、すでにもう和彦の目の前にいる。そうなると、考えられるのはもう一人しかいない。

 無視するわけにもいかずインターホンに
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     頭の芯がドロドロと溶けていくようだった。それだけではなく、体の奥も熱いものでこじ開けられ、掻き回されて、容赦なく解されていく。南郷の欲望を深々と根本まで呑み込まされたとき、和彦はぐったりとして、厚い胸板にもたれかかるしかなかった。「……あんたの中が、悦んでる。ヒクヒクと震えながら、俺のものにしゃぶりついてる」 南郷に耳元で囁かれながら、背筋に沿っててのひらを這わされる。身震いしたくなるような被虐的な愉悦に、和彦は上擦った声を洩らしていた。「求めてくる男に弱いな、先生。組長も、面倒な檻を作ってでも、あんたを逃すまいとするはずだ。……あんたみたいなのは、外に出しちゃいけない。〈俺たち〉で大事にしてやらないと」 和彦の中で脈打つものが、痛みと肉欲のうねりを交互に生み出し、緩やかに一つに混ざり合っていく。気がつけば、南郷の肩に手をかけるだけとなっていた。待ちかねていたようにまた、百足が身を潜める脇腹へと手を導かれた。 引っ掻こうとして、寸前で躊躇する。結局、てのひらを押し当てていた。内奥で、南郷のもう一つの分身が蠢く。「うあぁっ――……」 和彦が上げた声は、自分でもわかるほど切ない響きを帯びていた。南郷が気づかないはずもなく、会心の笑みを浮かべる。和彦がよく知る、攻撃的に歯を剥き出しにするいつもの笑みとは、まったく違っていた。 南郷が腰を揺すりながら、和彦の首筋を舐め上げてくる。その最中、さきほどより強く歯を立てられた。噛みつくというほど激しいものではなく、痛みはない。ただ、肌に食い込む歯の硬さはしっかりと認識できた。この瞬間、内奥がきつく収縮する。「こうされるのが好きなのか?」 そう言って南郷が、もう一度首筋に歯を立てた。肩先にも。 南郷は、自分という存在を和彦に刻み付けているようだった。もしかすると、所有の印のつもりなのかもしれない。 わずかに反発心が芽生えたが、震える欲望を握り締められると、呆気なく砕け散る。和彦は、はあはあと荒い呼吸を繰り返しながら、天井を仰ぎ見た。目の前で光が点滅しており、ときおり意識が遠のきかける。仰け反り、このま

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  • 血と束縛と   第43話(40)

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    「……何が言いたいんですか?」 ようやくこちらを一瞥した南郷が、唇の端を動かす。「そう怖い顔をするな、先生。きれいな顔立ちの人間がそういう表情をすると、なかなか凄みがある」「もしかして賢吾さんを――」「恩義ある〈親〉の一人息子を食らおうと思うほど、俺は外道じゃないし、思い上がってない。――この機会だ、あんたに提案がある」 南郷がいくぶん声を潜めたところで、再び強い風が吹き付けてくる。ふらりと和彦の体が揺れ、素早くポケットから手を出した南郷が支えてくる。間近で目が合うと、こう言われた。「長嶺の本宅を出て、俺の家で暮らさないか、先生」** 体を洗っていた手をふと止めていた。髪先から垂れた水滴が肩に落ち、その冷たさに和彦は我に返る。 さきほどの出来事にまだ動揺しているのだと、嫌でも認めざるをえなかった。 湖で、南郷から思いがけない提案をされたとき、まず頭に浮かんだのは、この男は何を企んでいるのだろうかということだった。ただ、意外すぎる提案だったことは確かで、慌てて南郷から離れようとした拍子に、和彦は凍った雪に足を取られ、その場で転んでしまった。 泥と雪に塗れ、すぐには動けなかったところを、南郷に腕を掴まれて引っ張り起こされたのだ。おかげで話を続けるどころではなくなり、足を引きずるようにして別荘に引き返し、風呂場に放り込まれたというわけだ。 なぜ南郷が、長嶺の本宅を出て、自分の家で暮らさないかと言い出したのか、和彦には目的が見当もつかなかった。甘い理由などではないことは、はっきりしている。そもそも、和彦が承諾するはずがないと、南郷自身よくわかっているはずだ。 和彦を動揺させるための冗談か、もしくは、和彦の口から賢吾に伝わることを前提にした、露骨な挑発か――。 和彦はブルッと身を震わせる。さっさと体を洗って出るつもりだったが、水辺での立ち話のせいもあって、すっかり冷え切っている。風邪を引いては堪らないと、手早く泡を洗い流してから湯舟に入る。「疲れた……」 じんわりと体が温まってきたところでそう呟いた和彦

  • 血と束縛と   第43話(37)

     粗野で暴力的な空気をまとっている南郷だが、ときには人を煙に巻くような、皮肉めいていたり、迂遠な物言いには知性が感じられるということを。 和彦がつい聞き入ってしまうのは、そのせいだ。〈言葉〉をよく知っている男なのだ。 南郷が読書家だというのは、世間話程度に賢吾から聞かされてはいるし、総和会の中でも口の端に上ることがあった。書厨と言われるような、ただ本を読むだけでなんの知識も得ない人間ではないのだと、南郷の話を聞いていれば察することができる。 いかにも筋者らしい見た目は他人を威圧する武器になるだろうが、南郷は身の内に、狂暴性とは別の、切れ味鋭い武器を持っているのかもしれない。「……会長と、何を企んでいるんですか」 坂道の勾配は大したことはないが、水たまりを避け、泥に足を取られまいと踏ん張るうちに、息が上がる。それでも和彦は問いかけずにはいられなかった。「ひどい言いようだ。この世界、何も企んでいない奴なんていないだろう。長嶺組長だって例外じゃない」「答える気はないということですか……」「まだ、な。別の質問なら、答えられるかもしれない」 ここでようやく道が開け、見覚えのある景色が目の前に広がる。千尋と訪れたとき同様、湖に氷が張っており、岸にはうっすらと雪が残っている。人が歩いた痕跡はなく、さすがにこの寒さでは、水辺で散歩をしようなどという酔狂な人間は、和彦たち以外にいなかったようだ。 湖を渡ってくる風は突き刺さるように冷たく、和彦は首を竦める。すると、肩に南郷の腕が回された。反射的に体を硬くし、睨みつける。「触らないでください」「誰も見てやしない。恥ずかしがらなくてもいいだろ、先生」 とぼける南郷は腕を離すどころか力を入れたため、やや強引に歩かされる。 突然のことに動揺していた和彦だが、寸前まで自分たちが何を話していたか思い出した。「――……ぼくの役目は、なんですか」「従順なオンナであること。俺たちの求めに逆らわず、協力してくれればいい」「長嶺組長――賢吾さんへの嫌が

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