LOGIN*
*
こんなに切羽詰った気持ちでラブホテルに入ったのは、学生のとき以来かもしれないと、ベッドの傍らに立った和彦は室内を見回す。
渋滞に巻き込まれながら、とにかく一刻も早く二人きりになれる場所を探すとなると、取れる手段は限られている。シティーホテルを見つけるより先に、たまたま空室のラブホテルが目に入り、車を進めていた。 普段であれば、自分たちが同性同士であることや、立場のこともあり、人目が気になってこんな大胆な行動は取らないだろう。だが、燃え上がった欲望は、なりふり構わず二人を行為へと駆り立てた。 人と会わなくて済むガレージ式の部屋だからこそ、ここまで大胆になれたのかもしれないが、と和彦はひっそりと苦笑を洩らす。 「――先生、何か飲むか?」 三田村に声をかけられて振り返る。ネクタイを解いた三田村に向けて首を横に振ると、次の瞬間には、やや乱暴にベッドに押し倒されていた。 いきなりスラックスのベルトを外され、下肢を剥かれる。その間に和彦も、自分が羽織っているジャケットの前を開き、三田村** 寝返りをうった拍子に、前触れもなく目が覚めた。和彦はぼんやりとした意識のまま、ここはどこだろうかと考えていたが、すぐに状況を思い出す。 伏せていた視線を上げると、ベッドの端に鷹津が腰掛けていた。向けられた背は真っ白のバスローブに包まれているが、普段の格好を知っているだけに、鷹津という男に白は似合わないなと、失礼なことを考えていた。そんな自分に気づき、和彦は唇を綻ばせる。「――……寝ないのか?」 和彦が声をかけると、鷹津がゆっくりと振り返る。手には、缶ビールを持っている。「まだ、宵の口だ」 時間の感覚が麻痺しており、和彦は瞬きを数回繰り返す。熟睡したような気もするが、ほんのわずかな間、ウトウトしていただけのような気もする。激しい情交に加え、昼間歩き回ったせいもあって、とにかく体はドロドロに疲れきっていた。 ただ、それは苦痛ではなく、どちらかといえば心地よさに近い。頭の先から爪先まで、鷹津に注がれた情愛に満たされているようだ。「喉、渇いた……」 和彦はのろのろと手を伸ばし、鷹津から缶を受け取ろうとしたが、スッと躱される。「お前にはルームサービスを頼んでおいた」 そう言って鷹津が立ち上がり、テーブルへと歩み寄る。和彦は再び寝返りを打って仰向けとなったが、その拍子に内奥で蠢く感触があってドキリとする。腰から下にはシーツがかかっているが、見なくても、自分の下肢がどういう状態になっているのかわかった。 ベッドに戻ってきた鷹津は、ワインが注がれたグラスを持っていた。「……あんたにしては気が利いている」 和彦の言葉に、鷹津は鼻先で笑った。「俺はいつでも、お前に甲斐甲斐しく尽くしているだろ」「そうだったか?」 片手を掴んで鷹津に引っ張り起こしてもらうと、受け取ったグラスに口をつける。本当はただの水のほうがありがたかったのだが、せっかく鷹津が頼んでくれたのだから文句はなかった。一気に飲み干すと、鷹津がニヤニヤと笑う。「ボトルでラッパ飲みしそうな勢いだな」
まだ呼び慣れない名を何度も口にしていると、下肢から送り込まれる快感も重なり、恍惚としてくる。和彦は片手で鷹津の濡れた後ろ髪を掻き乱し、自ら浅ましく腰を動かしていた。鷹津が耳元で熱い吐息をこぼし、忌々しげに呟いた。「尻が締まりっぱなしだ。そんなに、俺のは美味いか?」 ピシャリと鋭く尻を叩かれて、和彦は上擦った声を上げる。同時に、食い千切らんばかりに鷹津の欲望を締め付けていた。呻き声を洩らした鷹津の全身の筋肉がぐっと引き締まる。 数秒の間を置いて、内奥深くで鷹津の欲望が歓喜に震え、爆ぜた。「ひっ、あっ……」 注ぎ込まれる精の生々しい感触に、鷹津の腕の中で和彦は身悶える。精を噴き上げないまま、軽い絶頂に達していた。 繋がりを解かないまま、二人は呼吸が落ち着くのを待つ。合間に唇を触れ合わせ、淫らな言葉を囁き合い、体内で吹き荒れる情欲が少しでも冷めないよう努める。もっとも、無駄な努力なのかもしれない。汗に濡れた体を擦りつけ合っているだけで信じられないほど気持ちがいいし、淫らで感じやすい部分が物欲しげにひくついている。 鷹津の欲望が、瞬く間に内奥で逞しさを取り戻していく感触に、和彦は吐息をこぼす。誘われたように鷹津が唇を重ねてきた。熱い舌に口腔を隈なく舐め回され、心地よさに体が震える。「――……ようやく、お前は俺のオンナになったんだと実感できた」 絡めていた舌を解いたところで鷹津が呟き、欲情でギラギラとした目で和彦を見つめてくる。「欲しいときにお前を抱いて、思う存分鳴かせて、イかせて……。俺の、可愛くていやらしいオンナだ」「……バカだ、あんた。そんなことのために、どれだけ危険なことをしたのか……」「お前には言われたくねーな。危険だとわかっていて、引き返すチャンスもあったのに、結局、とんでもない状況に自分から陥った。……俺が最初に、お前を助けてやると言ったとき、素直に頷いてりゃよかったんだ」 鷹津と知り合ったばかりの頃のやり取りを思い返し、つい和彦の口元
蠢く舌が欲望に絡みつき、口腔全体で締め付けられる。鷹津の引き締まった下腹部に顔を伏せ、和彦は押し寄せてくる快感に腰を揺らす。鷹津は感じやすい先端を執拗に舌先で攻め立てながら、指では柔らかな膨らみをまさぐり始めた。その指が、気まぐれに内奥の入り口をくすぐり、ときにはわずかに爪の先を押し込んでくる。 鷹津の口腔で、和彦の欲望は瞬く間に熟す。先端をヌルヌルと舐められたとき、和彦の目に、反り返ったままの鷹津の欲望が映る。言われたわけではないが、おずおずと握り締め、その熱さと逞しさに戦く。「いい眺めだ。お前が俺の顔の上で腰を振って、俺のものを扱いているんだ。――お前の尻が、もう興奮してひくついてる。俺のものを突っ込まれる瞬間を、想像してるのか?」 淫らな言葉を囁かれながら、内奥にヌルリと入り込んでくるものがあった。唾液で濡らされた鷹津の指だとわかったときには、締め付けてしまう。和彦は突き出した尻を震わせ、呻き声を洩らす。信じられないような自分の痴態と、それをすべて鷹津に見られているという状況に、気が遠くなりかけていた。だからこそ、本能に忠実になっていく。 挿入された指を内奥で蠢かされながら、柔らかな膨らみを揉みしだかれ、探り当てられた弱みを弄られる。すでにもう鷹津の欲望を愛撫する余裕はなく、舌と指の動きに翻弄されるがままに悦びの声を上げていた。 欲望だけではなく、柔らかな膨らみも口腔による淫らな愛撫を施されたあと、内奥の入り口に濡れた柔らかな感触が這わされる。「うっ、ああっ、そんな、こと、するな……」 和彦の秘密を暴き立てるように、鷹津の硬くした舌先が内奥へと浅く入り込んでくる。異常なほどの興奮を煽られるが、一方で、快感を求める気持ちが歯止めをなくしてしまいそうで怖くもある。 惑乱した和彦はうわ言のように、悦びの声と制止の声を交互に上げていたが、内奥浅くに鷹津の舌を感じたまま、絶頂を迎えていた。 間欠的に精を噴き上げる。和彦は声も出せずに、絶頂の余韻にビクビクと体を震わせていた。「――いいイキっぷりだ。おかげで俺は、お前の精液塗れだ」 意地の悪い言葉をかけられて、和彦は体を引きずるようにして鷹津の上から退く。と
手の中でますます硬さと大きさを増す欲望の変化に、静かな喜びを覚えていた。鷹津は、自分を求めて興奮し、こんなささやかな愛撫でも感じてくれているのだ。 和彦が身を任せきったタイミングで、鷹津が低い声で言った。「――舐めてくれ、和彦」 和彦が伏せていた視線を上げると、目元に唇が押し当てられる。もう一度唇を吸い合ってから、鷹津が壁にもたれかかり、和彦はタイルに膝をついた。 鷹津の欲望を掴んで顔を寄せる。先端に軽い口づけを繰り返しただけで、鷹津の引き締まった下腹部が強張った。括れまでをゆっくりと口腔に含み、舌先でくすぐりながら優しく吸引すると、欲望がドクンと脈打って震える。先端を優しく吸い上げてやると、濡れた髪に鷹津が指を絡めてきた。 促されるように和彦は、舌を添えて欲望を口腔深くまで呑み込んでいく。すぐには動かない。ただじっとして、鷹津の欲望が充溢した大きさとなり、歓喜に震えている様子を直に感じる。 浴室に立ち込める熱気によってのぼせそうだった。一度口腔から欲望を出した和彦は大きく息を吸い込むと、再び欲望を含み、唇で締め付けるようにして口腔から出し入れする。逞しい根元を指で擦りながら、ときおり先端に吸いついて、滲み始めた透明なしずくを舐め取ってから、硬くした舌先で弄る。「腰が溶けそうだ……」 苦笑交じりの声でそう言った鷹津に頭を押さえつけられ、和彦はやや強引に口腔深くまで欲望で犯される。大きな異物を押し込まれたせいで、息苦しさに息が詰まる。それが、鷹津にとっての快感となる。「……いい、締まりだ。ねっとりと吸い付いて、いやらしく蠢いて……。お前も、感じるか?」 鷹津の爪先が両足の間に入り込み、中心をまさぐられる。鷹津の欲望に口腔で奉仕しながら、和彦の欲望もまた、疼いていた。 口淫を堪能した鷹津だが、和彦の口腔で達しようとはしなかった。濡れた体のまま和彦は浴室から連れ出され、ベッドに押し倒される。体の上に乗りかかってきた鷹津は目を細めて、まるで眼差しで愛撫するかのように、じっくりと見下ろしてくる。「――……なんだ」
** 日が落ち始めた頃には、二人はホテルの部屋に入っていた。 和彦は、着替えを入れた袋を手にしたまま、室内を見回す。落ち着いたブラウン系でまとめられた部屋は、単なるダブルルームではないようだ。宿泊料はけっこうするだろう。 当日に訪れて、シティホテルで部屋を取れるのだろうかと心配したのだが、鷹津は予約を入れていた。つまり、今日の行動は衝動的なものではなく、しっかり計画を立てていたのだ。 ここまで来て、鷹津の不可解な行動を問い詰めても、おそらく徒労感しか得られないだろう。鷹津はきっと教えてくれないし、強引に聞き出す腕っ節も勇気も、和彦にはない。 総和会も長嶺組も大騒ぎになっているだろうなと、心の中でそっと嘆息する。 クローゼットに袋を入れ、買ってもらったコートだけはハンガーにかけてから、さっそく靴からスリッパへと履き替える。「足はどうだ?」 ベッドに腰掛けた和彦の前に屈み込み、鷹津が問いかけてくる。「大したことない。靴擦れというほどのものでもないし、本当に歩き過ぎただけだ」「あの程度で歩き過ぎたと言える感覚が、俺にはわからん」「いいよ、わからなくて。明日は車での移動中心にして――」 和彦はふいに言葉を切り、鷹津が顔を上げる。 明日は一体どうするのかと問いたかったが、代わりに和彦は、鷹津の頬にてのひらを押し当てた。「あんたさっき、きちんと食事をとっていたな。少し痩せたように見えるから、気になってたんだ」「医者としてか?」「……なんと答えたら満足なんだ」 鷹津はいきなり立ち上がり、和彦に向けて片手を差し出す。「シャワーを浴びてこい」 ピクリと肩を揺らした和彦は、自分の顔が赤くなっていないことを願いながら、差し出された手を掴んで立った。 レストランでアルコールは一切飲んでいないのだが、頭が少しふわふわしている。しっかり歩いているつもりなのに、足元が覚束ない。鷹津に異変を悟られていないだろうかと気にかけながら、半ば逃げるようにバスルームに入ると、洗面台の鏡から不自然に視線を逸らして服を脱い
和彦は自分の格好を見下ろす。秦の店が入るビルから連れ出されたあと、まずは速やかにその場を離れて、車は別の駐車場に停めてから、今度はタクシーで移動した。向かった先はデパートで、鷹津が選び、購入した、薄手のニットとパンツ、コートと靴に着替えたのだ。 鷹津らしからぬ散財ぶりは、総和会にケンカを売るような行動もあいまって、和彦をひたすら困惑させる。それゆえの『おかしい』という発言なのだが、鷹津は自分の行動を説明する気はさらさらないようだった。 鷹津という男に何かが起こったのは確かだが、和彦には推測することすらできない。もどかしいし、水族館に引っ張り込まれるまでは、腹立たしさすら覚えていたが、それはもう消え失せた。 鷹津と〈デート〉をしているという現実に、気恥ずかしさのほうが上回ったのだ。「なあ、どうして水族館なんだ」「遊園地のほうがよかったか?」 和彦は動かしていた爪先をピタリと止めて、思わず隣を見る。鷹津は、到底楽しんでいるとは思えない顔で、水槽を眺めていた。「そうだと言ったら、連れて行ってくれたのか?」「俺と一緒で楽しめるならな」「……今は、楽しんでいるように見えるか?」 横目で和彦を一瞥した鷹津が、ようやく唇を緩める。「あまり深く考えるな。晩メシまでの時間潰しだ」「服を買ってくれたのも?」「俺と一緒にいるのに、総和会の匂いが染み付いているものを身につけているのが、気に食わなかったんだ」 そのせいで、着替えた服はコインロッカーに押し込まれてしまった。 鷹津の言葉に、和彦は表情を曇らせる。「なあ……、あんた本当に――」 これからどうするつもりかと言いかけたが、言葉は口中で消える。代わりに、別の質問をぶつけていた。「水族館を出たら、次はどこに行くんだ」「希望はあるか?」「あんたなりのデートプランがあるんじゃないのか」「……ねーよ、そんなもの」 吐き捨てるように答える鷹津がおもしろくて、和彦は顔を伏せて必死に笑いを噛み殺す。本
「呆れた。そんなことまで調べたのか」「大事なオンナのことは、なんでも知りたい性質なんだ」 そう言いながら賢吾の手が柔らかな膨らみにかかり、残酷なほど優しい手つきで揉みしだかれる。たまらず甲高い嬌声を上げた和彦は、両足を開いたまま仰け反る。腰が震えるほどの強烈な快感だった。「捜さないでくれと先生が言い張ったら、佐伯家は引き下がると思うか?」「あの家の人間は……、ぼくの意見になんて耳を貸さない。ぼくを、好きに扱える人形ぐらいに、思っている……」「憎まれ口を叩くくせに、いやらしく
急に引き返したい気分になったが、それはできない。嫌になるほどヤクザの思考に染まっていると思うが、和彦は、賢吾だけでなく、鷹津の面子のことも考えていた。面子を潰された男は――怖い獣になる。 長嶺組が取ったという部屋は、男二人が寝ても持て余しそうな広いベッドがある、ダブルルームだった。大きな窓から見渡せる風景は感嘆するほどで、この眺望込みで、部屋の料金は安くないだろう。すでにワインまで準備されていた。 この部屋は、鷹津のためというより、和彦のために用意されたようだった。部屋を見回して感じるのは、和彦を安く扱う気はないという意思だ。「俺は、ホテルの部屋を取
****「――俺との約束を忘れたのかと思ったぞ」 春巻を一口食べて、味に納得したように頷いてから、唐突に澤村が切り出す。和彦は苦笑を洩らしながら、酢豚を堪能する。値段が手頃なランチメニューなのだが、値段以上の価値がある味だ。 先日、中嶋に連れてきてもらってディナーを食べた中華料理店に、ぜひもう一度訪れたいと思っていたところだったので、澤村とランチを一緒に、という約束を果たすには、うってつけの店だろう。 店はホテル内にあるため、常にさまざまな人が行き交っている。そのため、護衛をホテルの駐車場
それでも今は、優しい錯覚に浸っていたい。 三田村に促され、サンドイッチを手に取る。和彦が眠っている間に、近くのファストフード店まで三田村が買いに行ってくれたものだ。具がたっぷりの大きなサンドイッチとスープは、和彦の普段の朝食としては十分すぎる量だ。「昼まで一緒にいられるんだろ?」 サンドイッチを頬張る合間に問いかけると、和彦を安心させるように三田村は目元を和らげる。「ああ。もうそんなに時間はないが、先生の行きたいところがあればつき合う」「別に今日、どうしても行きたいってところは……ないな。あんたこそ