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第8話(11)

Author: 北川とも
last update publish date: 2025-12-05 11:00:15

「ヤクザの世界じゃ、血統っていうのはそんなに大事にされてないんだ。あくまで実力主義。だから、ひいじいちゃんからじいちゃん、そしてオヤジ、俺、って形で続こうとしている長嶺組は、珍しいっていうか、異端なんだよ。じいちゃんが総和会の会長になったから、なおさら注目度アップで、俺の肩にのしかかる期待と重圧は半端じゃない――」

 もっともらしい顔で大事な話をする千尋だが、その手は油断なく動き、和彦が着ているTシャツをたくし上げて、スウェットパンツと下着を引き下ろしにかかっている。

「跡を継ぐことが決まっているから楽なんじゃない。継ぐことが決まってるから、キツイんだ。みんな、今から俺を値踏みしてる。じいちゃんやオヤジは怖くても、俺ならどうにかできるかもしれない、と舌なめずりしてる奴もいるだろうな。俺としては、そういう甘い期待をぶち壊して、高笑いしてやりたいんだ」

「……大人なんだか、ガキなんだか、お前が言っていることを聞いていると、わからなくなる」

「大人だろ、立派な」

 意味深にそう囁いてきた千尋に片手を取られ、ス
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  • 血と束縛と   第27話(23)

    **** 土曜日の午前中、自宅マンションで一人過ごしていた和彦は、突然の連絡を受け、急遽出かけることになった。こちらの予定も聞かず、自分につき合えと言うのは、口調の違いはあれど、長嶺の男に共通する特徴だ。 後部座席のシートに身を預けた和彦は、ウィンドーの外を流れる景色を眺めつつ、守光からかかってきた電話でのやり取りを思い返す。 美味い山魚を食べさせる店があるので、これから出てきなさいと、まず言われたのだ。面食らう和彦に、さらに守光は言葉を続けた。 一昨日の南郷の無礼について、詫びがしたい、と。 こう言われては、和彦には断る術はない。もとより、守光からの誘いを断られるはずもない。 マンション前に停まっていた車に乗り込んだのだが、肝心の守光の姿はなかった。運転手を務めている男によると、守光は昨日からある旅館に宿泊しており、そこに和彦はこれから向かうのだ。 一体何を言われるのだろうかと考えて、心がざわつく。 和彦を騙して呼び出した南郷の行為は、総和会と長嶺組に何かしらの波紋を起こしたようだ。 呼び出された当事者である和彦のもとには、情報がほとんどもたらされない中、唯一、中嶋から送られてきたメールのおかげで、自分の知らないところで事態が動いていることを知ったのだ。 それまで和彦はずっと、長嶺組の男たちに気遣われていた。南郷のせいで、和彦が激怒したままだと思われているためだ。それは事実ではないが、自分の精神状態を詳細に語ることを和彦は避けていた。 実は激怒どころか、南郷がもう一つの〈行為〉を明らかにすることを恐れていたとは、口が裂けても言えない。 自ら動きようがない中で、守光が連絡をくれたことに身構えつつも、正直和彦は安堵していた。 シートから身を乗り出して、ウィンドーに顔を近づける。道路の傍らを川が流れており、陽射しを反射してキラキラと輝いていた。しかし和彦が何より目を奪われたのは、川の向こうに広がる景色だった。 山の傾斜を利用して芝桜が植えられているのだ。まだ盛りを過ぎていないらしく、白や濃いピンクの花が満開となっており、あまりの鮮やかさに思わずため

  • 血と束縛と   第27話(22)

    「個人的な問題が起こっている最中で、今は気持ちに余裕がないんだ。そこに、これ以上厄介なことを抱えると、さすがに限界だ」「気分転換なら、いつでもおつき合いしますよ」 力なく笑った和彦だが、何げなく視線を周囲に向ける。学生らしいグループや、会社帰りと思しきスーツやワイシャツ姿の一団、女性たちだけで盛り上がっているテーブルもあり、とにかくにぎやかだ。そんな客たちの姿を眺めながら、自分や中嶋も、この場に上手く溶け込めているのだろうかと考えていた。 自分たちの存在が特別なのだというつもりはない。ただ、異質なのだ。いつの間にか異質であることを受け入れ、馴染んでいることに、いまさらながら不安のようなものを感じていた。「先生?」 中嶋に呼ばれ、我に返った和彦は慌てて箸を動かす。「たまには、こういう店で飲むのもいいなと思ってただけだ。普段は、一緒にいる男たちの安全を考えて、人の出入りが多い店を避けがちになるから」「そのうち、先生を気軽に連れ回すことができなくなるかもしれませんね」 どういう意味かと問いかけようとしたとき、店の自動ドアが開き、二人の男性客が入ってきた光景を視界の隅に捉えていた。男性客が店員と短く言葉を交わしてから、こちらに歩み寄ってくる。ここで和彦はやっと、その男性客が見知った男たちであることに気づいた。長嶺組の組員たちだ。「どうして――……」「南郷さんが、長嶺組のほうに連絡を入れたんだと思います。騙す形で先生を連れ出して、そのうえ怒らせてしまったのに、何事もなかった顔はできなかったんじゃないでしょうか。……この店に長嶺組の方が来たということは、もしかして俺たち、隊の人間にしっかり尾行されていたみたいですね」 さらりとそんなことを言われ、和彦は思わず中嶋を睨みつける。口ぶりからして、中嶋は尾行に気づいていたと察したからだ。中嶋はペコリと頭を下げた。「すみません。だけど、こちらの都合で先生を振り回して、不愉快な思いまでさせた挙げ句、危険な目には絶対遭わせるわけにはいきません。もし先生の身に何かあったとき、第二遊撃隊全体の責任問題になります」「そこまでのリスク

  • 血と束縛と   第27話(21)

     頬の熱さを誤魔化すようにてのひらで擦ってから、そっと中嶋をうかがい見る。グラスに口をつけている中嶋は、普通のハンサムな青年だ。表情によってはドキリとするような色気もあり、こういってはなんだが、ホストは天職だったのではないかとすら思える。 こんな青年が、南郷の下で物騒な仕事をこなしているのだ。そんなことをふっと考えた瞬間、和彦の口を突いて出たのは、自分でも驚くような質問だった。「――……南郷さんから、性的な嫌がらせをされたことはないか?」 さすがの中嶋も驚いたらしく、不自然に動きを止めたあと、ぎこちなくグラスを置いて、テーブルに身を乗り出してきた。「やっぱり何かあったんですか」「ぼくが質問をしているんだ。ぼくが何かされたと言っているわけじゃない」 我ながら苦しい言い訳を、当然中嶋は信用していない。苦笑に近い表情を見せたあと、急に澄ました顔で語り始めた。「前に確か、先生に話したことがありますよね。南郷さんは、長嶺会長に付き従っていることが多くて、あの人の動きを追えば、長嶺会長の動きもだいたい把握することができると。ところが最近は、ちょっと様子が変わってきていると、総和会の中でもっぱらの噂なんですよ。南郷さんと長嶺会長が別行動を取ることが増えてきた、と。第二遊撃隊をいよいよ大きくして、実行委員の一人として名を連ねるつもりじゃないかとも。総和会の人事について、先生はピンとこないでしょうが、これが実現したら、かなりすごいことなんですよ」「……ぼくの質問と、君のその話と、どう繋がるんだ……?」「隊にいるからこそ、感じることもあるんです。最近の南郷さんは、先生を追うために動いているんじゃないか――」 柔らかだが、ときおり怜悧さも覗く中嶋の視線を向けられ、なんとなく息苦しさを覚えた和彦は、焼きおにぎりをほぐしながら食べ始める。「ぼくにはよくわからない。ただ、顔を合わせる機会は増えたかもしれない。……今夜は、完全に騙された。患者の治療をするつもりだったのに、連れて来られたのがカラオケボックスで、南郷さんがいた」「それで、性的

  • 血と束縛と   第27話(20)

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  • 血と束縛と   第27話(19)

     いくらでもコピーができる動画が目の前で消去されたところで、確認することに意味はない。そう考えたことが顔に出たのだろう。南郷はこう続けた。「まあ、俺を信用してくれとしか言えない。それに――長嶺組長のオンナに悪さをした証拠を、いつまでも手元に残しておいたところで、俺に益があると思うか?」 和彦はスマートフォンを南郷に返す。「……二度と、こんなことをしないでください」「騙して呼び出したことか。それとも、あんたの特別な場所に触れたことか――」 前触れもなく南郷に肩を抱き寄せられ、耳元に獣の息遣いがかかる。続いて、耳朶に鈍い痛みが走った。食われる、と本能的な怯えを感じた和彦は短く悲鳴を上げ、身を捩って南郷の腕の中から逃れた。 全身の血が沸騰しているようで、心臓が痛いほど強く鼓動を打っている。南郷の様子をうかがいながら慎重に立ち上がった和彦だが、眩暈に襲われて足元がふらついていた。「大丈夫か、先生。顔が真っ青だ」「こんなぼくを見られて、満足しましたか……?」 和彦が睨みつけると、悪びれたふうもなく南郷は大仰に肩をすくめる。「必死に虚勢を張っているあんたの姿は、なかなかいい。こういうところでも、育ちが出るんだろうな。感情的になっていても、品がある」「そんな……いいものじゃないです。怖いんです。この世界の男を怒らせるのは」「オンナらしい配慮だ。何をされても、相手を怒らせないよう気遣わないといけねーなんて。つまり今晩のことも、長嶺組長には〈告げ口〉しないということか」 南郷が向けてきた冷笑を、和彦は見ないふりをする。挑発しようとしている意図が、露骨に透けて見えるのだ。和彦のささやかな反撃を、きっとこの男は、楽しげに受け流すはずだ。 なんとか大きく息を吐き出すと、ドアに向かおうとする。本当は駆け出したいところを、ぐっと気持ちを堪えて。「――俺は、あんたのことが知りたかった」 ドアを開けようとしたところで、背後からそんな言葉が投げつけられる。動きを止めた時点で、和彦の負けだ。聞こえなかったふりもできず、仕方な

  • 血と束縛と   第27話(18)

     その和彦にのしかかり、布の上から唇を貪っている荒々しい獣のような男は――南郷だ。 「――長嶺組長のやり方に倣ってみた」  怒りで全身が熱くなっていくのに、胸の内は凍りつきそうなほど冷たくなっていく。頭は混乱しながらも、南郷に対する表現しがたい嫌悪感や拒否感だけは認識できた。  払い除けるようにしてスマートフォンを南郷に押し返す。視線を逸らす和彦を多少は気遣うつもりがあるのか、南郷はすぐに動画の再生を停めた。 「長嶺組長とメシを食いながら話していてわかったが、あんたは肝心なことを、長嶺組長に打ち明けてないんだな」 「肝心なことって……」 「自分に悪さをした相手が、総和会の南郷――俺だということを。顔は見ていなくても、あんたならわかっていたはずだ。あんなことをしでかすのは、俺しかいないということは。あんたと長嶺組長の間でも、あえて言葉にしないまま、互いにそれを汲み取ったわけだ」 「……ぼくはあのとき、相手の顔を見ることはできませんでしたから、迂闊なことは言えません」 「できた〈オンナ〉だ」  皮肉っぽい口調で洩らした南郷が、ふいに立ち上がる。驚いた和彦は反射的に体を強張らせたが、それ以上の反応ができないうちに、隣に南郷が座った。荒々しい威圧感に頬を撫でられた気がして、体が竦む。 「自分が原因で、総和会と長嶺組に波風が立つのを避けたかったんだな」  自惚れるなと、南郷に鼻先で笑われるのが嫌で、和彦は返事を避けた。しかし南郷は一人で納得した様子で頷く。 「さすが、オヤジさんが見込んだだけはある。――どの男にもいい顔をして、揉め事は避ける。この世界での、あんたの処世術だ」  南郷の声に侮蔑の響きを感じ取り、それが何より我慢ならなくて和彦は立ち上がろうとする。すかさず大きな手に肩を掴まれ、腰を浮かせることすら叶わなかった。 「どうにも、生まじめに反応するあんたが新鮮で、つい煽るようなことを言っちまう。すまないな、先生」 「……離して、ください」  和彦は顔を強張らせ、肩にかかる南郷の手を押しのけようとする。だが手を退けるどころか、反対に力を込められた。 「そろそろ、聞いたらどうだ。――俺がなぜ、長嶺の男

  • 血と束縛と   第12話(35)

     淡々とした口調で三田村が応じると、いきなり鷹津がこちらを見て、和彦の手首を掴んできた。 「違うな。俺は、こいつの番犬だ。あんな蛇みたいな男は関係ない」 「……そのあたりの事情は、俺には関係ない」  ほお、と声を洩らした鷹津が、掴んだ和彦の手を引き寄せ、指に唇を押し当てた。驚いた和彦は、咄嗟に手を抜き取る。 「何するんだっ」 「そんなに顔色を変えなくてもいいだろ。いまさら、これぐらいのことで」  これは、自分ではなく、三田村に対する鷹津の嫌がらせだと理解したとき、思いがけず和彦の口から冷ややかな声で出ていた。 「誰が、

    last updateLast Updated : 2026-03-28
  • 血と束縛と   第12話(32)

    「……別に。あんたの過去に興味はない」 「賢い奴だな。危険な蛇の尾を踏まないよう、余計なことは耳に入れたくないってことか」 「サソリの尾だって踏みたくない。あんたも、長嶺組長も、物騒すぎるんだ」 「俺は物騒じゃないだろ。あんなに丁寧にお前を抱いてやったんだ。けっこう、紳士なつもりだぜ」  言葉とは裏腹に、和彦の体はソファに押し倒され、傲慢に鷹津がのしかかってくる。きつい眼差しを向けると、それ以上の眼差しの鋭さで言われた。 「あまり、俺と長嶺を同類で語るなよ。同じ悪党ではあっても、俺とあいつは敵対関係であることに変わりはない。手を組む気はな

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  • 血と束縛と   第11話(29)

     ヤクザの実態も謎が多いが、この男もまた、謎が多い。気にはなるが、うっかり踏み込むつもりはなかった。「その道を左に曲がってくれ」 和彦の指示通りに車が左に曲がり、すぐに、懐かしい建物が視界に飛び込んでくる。「ここですか?」「ああ。来客用のスペースが空いているから、そこに車を停めたらいい」 駐車場に車が入り、エンジンが切られる。秦はすぐに車を降りようとしたが、シートベルトを外した和彦は、すぐには動けなかった。「先生、大丈夫ですか。顔色が少し悪いですよ」 シートに座り直した秦が身を乗り出し、顔を覗き込んでくる

    last updateLast Updated : 2026-03-27
  • 血と束縛と   第11話(27)

     すかさず賢吾が応じる。「俺も嫌いだ。だが一応、あの男の悪党っぷりを、俺なりに評価もしている」 よく考えればいいと囁いて、賢吾が再び律動を刻み始める。悔しいが、和彦は乱れずにはいられない。 内奥深くに逞しいものを突き込まれるたびに、身を捩り、声を震わせる。そんな和彦を見下ろしながら、賢吾がひっそりと呟いた。「鷹津は、オトすどころか、オトされたがっているかもな、先生に――」 大きなてのひらに頬を撫でられて、和彦は自ら頬をすり寄せ、大蛇に媚びた。****

    last updateLast Updated : 2026-03-27
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