INICIAR SESIÓN「ぼくは薬を使ってはないが、他の人間からは、そんなふうに思われているかもしれない。力と金で、誰にでも尻尾を振ると……」
「先生は、主が誰かしっかりわかっているし、従順だろ。最初にしっかり躾けて、首にぶっとい鎖をしてあるからな」 顔を上げた和彦が睨みつけると、予想通りの反応だったらしく、賢吾が笑いかけてくる。だが次の瞬間には表情を引き締め、怖い男の顔となった。「……今回の薬の件は、気に食わない。人のシマでああいう商売をするなら、通すべき筋がある。それを通さないどころか、組の存在を、警察への目くらましに使っている節もあるんだから、腹も立つだろ。組のシマを汚すうえに、俺の面子を汚す行為だ」「その手の物騒な話に興味はない」「そうはいっても、荒事になったら、先生の仕事が増えるかもしれない」 和彦は賢吾の頬をてのひらで撫で、そっと唇に噛みつく。背にかかったままの賢吾の手に、わずかな力が加わった。「そうならないよう、努力はするんじゃないのか。組長としては」<「……俺はいままで、屑以下の最低な奴らと会ってきたが、お前はその誰とも違う。唾を吐きかけたくなるほど忌々しくて憎たらしい。ズルくてしたたかな嫌な人間だ」「蛇蝎の片割れに、そこまで言葉を費やして貶されると、かえって嬉しいな」 皮肉半分、本音半分でそう洩らすと、和彦はミネラルウォーターのペットボトルに口をつける。このとき首筋を、髪先から落ちた水のしずくが伝い落ちる。シャワーを浴びたあと、よく髪を拭かなかったせいだ。 鷹津の奢りで食事をしたあと、〈美味い餌〉の前払いを改めて求められ、和彦は拒まなかった。鷹津には、働きに対する報酬だけでなく、里見の件に関して口止め料も払わざるをえなくなったのだ。鷹津をどこまで信用していいかはわからないが、和彦が自分の事情に巻き込めるのはこの男しかいない。「今になって初めての男を調べさせるということは、会う気なのか?」「里見さんを使って、佐伯家がぼくのことを調べようとしている。だったらぼくは、里見さんを使って佐伯家の動向を探るだけだ。ただそのためには、あの人がいまだに信頼に値する人間なのか、それが知りたい」「妙に色気のある目をして、言うことはえげつない奴だ」「あんたの品性に合わせているんだ」 もう一度鼻先で笑った鷹津が立ち上がる。「人に頼み事をしておきながら、よくそんな口が聞けるな」「――……あんたに餌は与えるんだ。口の聞き方ぐらい大目に見ろ」 鷹津にきつい眼差しを向けながらそう言い放った和彦は、ペットボトルの水を飲み干す。空になったペットボトルを鷹津が床に放り出し、そのまま和彦はベッドの上に押し倒された。 のしかかってきた鷹津にバスローブの紐を解かれ、前を開かれる。じっと見下ろしてくる鷹津の眼差しの強さに、堪らず和彦は顔を背けた。鷹津の舌にベロリと首筋を舐め上げられ、嫌悪感に鳥肌が立ちそうになるが、それも一瞬だ。腰からじわじわと疼きが這い上がってくる。「うっ……」 胸元に手が這わされ、すでに硬く凝っている突起を指で転がすように刺激されたかと思うと、いきなり鷹津の熱い口腔に含まれた。まるで
鷹津の口調からは、歯がゆさや悔しさ、怒りといった感情が感じられず、まるで、与えられた台本を淡々と読んでいるようだ。刑事でありながら、自分が追う事件に対してここまで淡白なのは、何かしら理由があるのかもしれない。悪徳刑事らしい、理由が。「警察側から情報が漏れたら、組織としてはさぞかし動きやすいだろうな」 和彦がわかりやすい鎌をかけると、悪びれた様子もなく鷹津は笑った。爽やかさとは対極にあるような凶悪な表情で、ドロドロとした感情の澱が透けて見える目は、いつになく凄みを帯びている。追及してくるなと、和彦を威嚇しているのかもしれない。「……悪徳刑事」「ヤクザのオンナにそう言われると、ゾクゾクするほど興奮する」 そう言って鷹津は、今度はリゾットを流し込むように食べる。「言っておくがぼくは、南郷という男に興味はないから、情報を持ってこられても困る」「すると俺は、タダ働きか」「あんた自身が気になったから調べたんだろ。恩着せがましい言い方をするな」「だったら俺に、餌を与えるに値する仕事をくれ」 そんなものはない――。そう言いかけた和彦だが、ふとあることを思い出し、胸の奥がチクリと痛んだ。「あるのか?」 和彦の異変を敏感に察知した鷹津が、すかさず問いかけてくる。ぐっと唇を引き結んだ和彦は、リゾットに視線を落としたまま、ぼそぼそと答えた。「デザートが運ばれてくるまで待ってくれ」「好きにしろ」 時間稼ぎのつもりだったが、リゾットを最後まで食べることを早々に諦めた和彦は、コーヒーを啜り始めた鷹津が見ている前で、デザートを運んできてもらう。 和彦は白桃のシャーベットを一口食べてため息をつくと、鷹津に向けて片手を突き出した。「……ペンはあるか?」 鷹津がボールペンを投げて寄越してくる。和彦は、シャーベットの器と一緒に出されたペーパーナプキンにあることを書き込み、まずボールペンを鷹津に返した。「今からぼくが頼むことは、内密にしてくれ。もちろん、組長にも知らせないでほしい」「ほお、そりゃ、大事だな」
テーブルの下で、鷹津の靴先がくるぶしの辺りを軽く突いてくる。和彦はぐっと唇を引き結び、鷹津の靴先を蹴った。「あんたに仕事を頼んだ覚えはない。働きって、なんのことだ」「お前に迫っていた、熊みたいにでかい男のことだ。総和会第二遊撃隊の頭だろ」 眼差しを鋭くした和彦は、鷹津を見据えたまま肉を口に運ぶ。「名前は、南郷桂。三十九歳という若さだが、けっこうな修羅場を踏んでいる。元は金城組の人間だった。金城組は、今も派手にやっているある連合会の一門だったんだが、分派騒動で力を削ぎ落とされ、後ろ盾を失った。そこに手を差し伸べたのが、当時長嶺組組長だった長嶺守光だ。――これはまあ、得々と語るまでもなく、組の事情に詳しい人間に聞けばわかることだ」「ぼくは別に、個々の組に興味はない」「賢い奴だよ、お前は。知らないことが身を守る術だと、よく理解している」 鷹津なりの皮肉かもしれないが、和彦自身、自分のそんな性質をよく自覚していた。この世界で力を持たない人間にとって、小賢しいながらも大事な処世術だ。 表情を変えない和彦の反応に、鷹津は軽く鼻を鳴らして話を続ける。「俺が暴力団担当から外れている間に頭角を現した男かと思ったが、どうやら長嶺守光は、南郷にずいぶん昔から目をかけているようだな」 鷹津が南郷のことを調べたのなら、自分が持っているささやかな情報を隠しても仕方ないと判断し、和彦は頷く。「……十代の頃から可愛がってもらっていると言っていた。組を紹介してくれて、総和会にも招き入れてくれて……、実の親より面倒を見てくれたとも」 やっぱり、と鷹津は洩らした。「三年前に県警を定年退職した男がいるんだ。総和会の幹部と繋がっている、という噂があって、最後まで出世とは無縁な刑事だったが、少なくとも俺より善良だ。その男に会って、知っていることを教えてもらおうとしたが、なかなか口を開かなくて苦労した。いまだに、ヤクザに義理立てしているんだ」「あんたにとっての『善良』という価値観がどうなっているのか、ぼくには理解できないんだが……」
**** 長嶺の男たちは、和彦が静かに誕生日を過ごせるよう結託したのかもしれない。 そう勘繰ってしまうぐらい、誕生日当日の和彦は普段以上に淡々と過ごしていた。――夕方までは。 まったく予定が入っていなかったため、外で適当に食事を済ませ、さっさと自宅に引きこもろうと考えていた和彦だが、意外な人物と誕生日のディナーを共にすることになった。 急な仕事に備えて電源を入れておいた携帯電話が震える。慌ててフォークを置いた和彦は、ジャケットのポケットから取り出した携帯電話をテーブルの下で確認する。メールは、無粋とは対極にあるような内容だった。知らず知らずのうちに顔を綻ばせると、向かいの席についている鷹津が不躾な言葉をぶつけてくる。「お前の男からか?」 和彦は携帯電話に視線を落としたまま、テーブルの下で遠慮なく、口の悪い男の脛を蹴りつけてやった。 ささやかな攻撃が効いたのか、次に鷹津が口にしたのは、悪態でも皮肉でもなく、ジンジャーエールのお代わりを頼む言葉だった。 野獣と一緒に食事しているようだと思いながら和彦は、届いたメールを改めて読み返す。送り主は、中嶋からだった。 和彦と特別な関係を持っている男たちは、二月十日という日を決して無視しているわけではなく、しっかりと気にかけてくれている。その証拠に、今日は何通かのメールが届いていた。内容はどれも、和彦の誕生日を祝うものだ。 唯一、メールを送ってこなかった男は、なぜか今、和彦の目の前でステーキにかぶりついている。和彦はその食べっぷりを、半ば感心しつつ眺める。 今晩の鷹津は不精ひげを剃っているだけでなく、見た目だけはいつもより多少マシだった。 いままで見たことがない、きちんとプレスされたスーツを着込んでいるのだ。ネクタイもセットで色合いは地味そのものだが、オールバックの髪型や彫りの深い印象的な顔立ちのおかげで、かえってちょうどいいバランスとなっている。少なくとも、高級感漂うレストランにあって悪目立ちはしていない。 好奇心に負けて、和彦は鷹津に問いかけた。「――なあ、どうして
どこか楽しげな口調で呟いた賢吾に両膝の裏を掴まれ、足を抱え上げられる。何をされるのかと身構える間もなく、柔らかな膨らみに舌が這わされた。唇を噛んで声を堪えた和彦だが、淫らな愛撫にすぐに理性は陥落する。 熱い口腔に含まれて舐られると、はしたなく腰を揺すり、放埓に声を上げて感じてしまう。刺激が強すぎてつらくなってくるが、和彦がいくら賢吾の頭を押し退けようとしても、愛撫がとまることはない。「はっ……、やめ……、つらい、んだ」 和彦は必死に訴えながら、押し寄せてくる快感に爪先を突っ張らせる。顔を上げた賢吾に再び足の指を舐められ、柔らかな膨らみを指で刺激される。弱みを弄られると、意識しないまま上擦った声が出る。賢吾がそんなことをしないと知ってはいるが、容赦なく潰されるかもしれないという恐れは、一方で強烈に甘美だ。「うあっ、あっ、あっ、あぁっ」「涎を垂らしっぱなしだな、先生。そんなに、ここを弄られるのはいいか?」「……うる、さっ……」 震えを帯びた声で言ったところで、賢吾を悦ばせるだけだ。涙が滲んだ目で和彦が睨みつけると、今にも舌なめずりしそうな表情を浮かべた賢吾が、広げた両足の間に再び顔を埋める。ただし、次に濃厚な愛撫を施されたのは――。「んんっ」 全身を駆け抜ける快美さに、和彦は必死に布団を握り締めた。 賢吾の舌が内奥の入り口に這わされ、蠢く。繊細な部分を、繊細な動きでくすぐられると、身悶えたくなるような感覚が湧き起こる。はしたないからと、必死に声を押し殺していた和彦だが、舌が内奥に入り込んでくると、身悶えながら喘ぎ声をこぼす。 すっかり反り返ったものを賢吾に舐め上げられ、内奥には今度は指が挿入される。しっかりと、付け根まで。「これだけ可愛がってやったんだ。しっかり俺を甘やかして、感じさせてくれよ、先生」 和彦の内奥を指で解した賢吾が、耳元にそんな囁きを注ぎ込んでくる。すぐに囁きの意味を理解した和彦は、手の甲で涙を拭ってから応じた。「……ぼくはいつでも、あんたに甘
「俺としては、先生の機嫌より、艶っぽい表情をしていた理由のほうが気になるな。南郷に口説かれていると思って、そういう顔になったのだとしたら、俺も嫉妬に狂う男にならないと」 冗談めかしてはいるが、こちらを見据えてくる賢吾の目は蛇のように冷たい。牙を突き立ててくるように和彦の心を容赦なく抉ってこようとしているのだ。 痛みを与えることだけが、相手を恐れさせる手段ではない。賢吾を目の前にすると、それがよくわかる。 脳裏に蘇りそうになる昼間の出来事を、和彦は必死に抑え込む。賢吾と里見の存在を交わらせるわけにはいかないのだ。 どちらも、和彦にとっては特別な男だからこそ。「会長からの誕生日プレゼントのことで、あんたに叱られるんじゃないかとビクビクしていたんだ。……会長からのプレゼントだと思っていたら、どうやら南郷さんからのプレゼントみたいで、当の会長からは、意味ありげな総和会からのバッジを贈られた。そんなぼくが、あんたからどう見えているかなんて、わかるはずがない」「オヤジ、か……」 守光の話題が確実に、賢吾を刺激したようだった。突然、勢いよく立ち上がった賢吾に腕を掴まれて、和彦は強引に引き立たされる。引きずられるようにして連れて行かれた隣の部屋には、すでに布団が敷かれていた。 突き飛ばされて布団の上に倒れ込んだ和彦の上に、大蛇が這い寄るように賢吾がゆっくりとのしかかってくる。 耳に唇が押し当てられ、それだけで和彦は小さく呻き声を洩らしてしまう。浴衣の裾を割り広げて賢吾の手が入り込み、いきなり下着を引き下ろされたときには、全身を羞恥で熱くする。何度経験しようが、こういうときの反応に困るのだ。 帯を解かれ、羽織ごと浴衣を剥ぎ取られると、賢吾の視線から体を隠すものは何もなくなる。和彦の体を観察するように賢吾は目を細めた。「――この体目当てで、何人の怖い男たちが先生に貢ぐようになるんだろうな」「ぼくは、貢いでほしいなんて頼んだことも、思ったこともないぞ。あんたはどれだけ、ぼくを性質の悪い〈オンナ〉にしたいんだ」「したいんじゃない。先生はもう十分に、性質が悪いだろ。今、それを証