LOGIN三田村は、ごっそりと感情をどこかに置き忘れたかのような無表情を保っていたが、一方の賢吾は、ニヤニヤと笑っていた。和彦の反応をおもしろがっているのだろうかと、最初は訝しんだのだが、どうやらそうではなく、鷹津の行動に何かしら感じたようだ。意地の悪い男は、それがなんであるか、当然和彦に教えてはくれなかった。
表面上の無表情さとは裏腹に、和彦が知るどの男よりも優しい三田村は、何かと気遣ってくれる。実際和彦は、鷹津のことを正直に話したところで、鬱屈した感情は少しも軽くなってはいない。 蛇蝎の片割れである男に侮辱されたことが、ささやかに残っている和彦のプライドを踏みにじり、それが痛みを生む。いまさら取り繕うものもないのに、人並みの体面を保とうとする自分が、心のどこかで忌々しくもあるのだ。「あんな男に言われたことを気にする自分に、腹が立つ……」「見た目によらず、先生は気性が激しい」 三田村の声が笑いを含んでいるように聞こえ、視線を再びバックミラーに向ける。思ったとおり、三田村の目元は和らいでいた。そんな表賢吾と千尋は、奔放に乱れる和彦をじっと見つめていた。興奮して強い光を放つ目は怖くもあり、優しくもある。向けられる眼差しにすら、和彦は反応してしまう。「……先生、もうイク?」 甘えるような声で千尋に問われ、頭の中が真っ白に染まるのを感じながら夢中で頷く。すると、内奥深くを抉るように突き上げられた。一度目で全身が快感に痺れ、二度目で瞼の裏で閃光が走る。一拍遅れて、下腹部が濡れるのを認識した。二人の男たちが見ている前で精を放ったのだ。 和彦のその姿に刺激されるものがあったのか、ふいに賢吾が内奥から欲望が引き抜く。そして傲慢な表情で、和彦の胸元に向けて精を迸らせた。 賢吾としては、〈オンナ〉を精で汚すことで所有欲を満たしたのかもしれない。被虐的な悦びに浸りながら和彦は、そんなことをぼんやりと考える。「さあ先生、甘ったれの子犬が待ちかねているぞ」 和彦の頬を手荒く撫でてから、賢吾が笑いを含んだ声で囁いてくる。意味を理解したときには、弛緩した和彦の体はうつ伏せにされ、腰を抱え上げられた。挑んできたのは、すっかり興奮した千尋だ。「千尋、待っ――」「優しくするね、先生」 言葉とは裏腹に、蕩けた内奥の入り口に余裕なく熱いものが押し当てられた。「あうっ」 ぐっと内奥に挿入され、声を洩らした和彦は背をしならせる。賢吾の形に馴染んだはずの場所は、すでにもう千尋のものをきつく締め付け、快感を求めると同時に、甘やかし始める。千尋の息遣いが弾み、乱暴に腰を突き上げられた。「うっ、うあっ……」「先生の中、すごく、熱い。熱のせいかな。それとも、オヤジがめちゃくちゃにしたから?」 意地の悪い問いかけに答えられるはずもなく、和彦は唇を引き結ぶ。すると、いつの間にか枕元に移動した賢吾に顔を覗き込まれ、唇を指で割り開かれた。 口腔に入り込んだ指が蠢き、粘膜や舌を擦られる。内奥での律動を繰り返されながらそんなことをされると、唇の端から唾液が滴り落ちる。賢吾は目を細めて言った。「いやらしくて、いい顔だ。加虐心をそそられて、めちゃくちゃにしたくなる」
賢吾の指は休みなく動き、和彦の内奥の入り口を解すように擦り始める。唾液を施されながら刺激されているうちに、柔らかくなりかけた肉をこじ開けるようにして、指が内奥に侵入してきた。「あぁっ――」 自分でもわかるほど必死に、賢吾の指を締め付ける。物欲しげな内奥の蠢動を楽しんでいるのか、賢吾の指が緩やかに出し入れされ、襞と粘膜を軽く擦り上げられる。和彦は息を喘がせながら敷布団の上で身を捩り、そのたびに浴衣がはだけていく。「こっちの肉も美味そうだ」 低い声でそう言って、賢吾が胸元に顔を伏せる。触れられないまま硬く凝った胸の突起をいきなり口腔に含まれ、きつく吸い上げられた。「んうっ」 はしたなく濡れた音を立てて突起を愛撫しながら、賢吾は執拗に内奥を指でまさぐる。その指の動きに合わせて、和彦も声を抑えられなくなっていた。 爪先を突っ張らせ、腰をもじつかせながら、背を反らし上げ、賢吾から与えられる快感を味わう。そんな和彦の様子を、賢吾は射抜くほど強い眼差しで見つめてくる。「……気持ちいいか、先生?」 鼓膜に刻みつけるように囁かれ、和彦は頷く。寄せられた唇を甘えるように吸い、すぐに濃厚に舌を絡ませ合う。 内奥から指が引き抜かれ、熱く逞しい欲望が待ちかねていたように押し当てられた。性急に内奥を押し広げられる苦痛すら、大蛇と繋がっていく精神的愉悦の前では些細なことだった。「あっ、あっ、頼、む――、ゆっくり、してくれ……」 押し入ってくる欲望の感触をじっくりと味わいたくて、和彦はつい恥知らずな頼みを口にする。興奮したのか、内奥で賢吾のものが力強く脈打ち、一際大きくなったようだった。和彦は上擦った声を上げ、腰を揺すって反応してしまう。 病み上がりであることなど関係ない。求められて、和彦の体は悦んでいた。 和彦の頼みを聞き入れる気はないらしく、両足をしっかりと抱え上げた賢吾は大胆に腰を使い、内奥深くを犯し始める。突き上げられるたびに和彦は身を震わせ、声を上げ、反り返った欲望の先端から透明なしずくを垂らす。「本当に、いやらしくて、いいオンナだ…
何分か前まで、畳の上に転がって雑誌を読みながら、思い出したように和彦に話しかけていた千尋だが、すっかり寝入っているようだ。 どうせ昼寝をするなら、自分の部屋に戻ればいいのにと、和彦は小さく苦笑を洩らす。千尋としては、和彦が退屈しないよう、つき合っているつもりなのだろう。 呉服屋から戻ってすぐに、賢吾が見ている前で熱を測らされ、微熱が出ていることがわかった。普段の和彦であれば気づきもせずに動き回っている程度の熱だが、さすがに今は無茶できないと、こうして休んでいるというわけだ。 和彦は姿勢を戻し、再び天井を見上げる。 千尋の寝息を聞きながら思うのは、長嶺の本宅で自分は大事にされているということだ。クリニック経営という役目を負い、物騒であったり、訳ありの男たちを結びつけてもいる和彦に何かあったら面倒なのだと、捻くれた考え方もあるだろうが、決してそれだけではない。 間違いなく、長嶺の男たちは和彦を大事にしてくれていた。そして、長嶺と関わりを持つ男たちも――。 甘い眩暈に襲われて、反射的にきつく目を閉じた瞬間、障子が開く音がした。ゆっくりと目を開くと、真上から賢吾に顔を覗き込まれる。 不思議でもなんでもなく、和彦が布団を敷いて横になっているのは賢吾の部屋なのだ。 傍らに胡坐をかいて座り込んだ賢吾は、何も言わず和彦の顔を見つめてくる。「……別に、側にいてもらわなくても大丈夫だ」 向けられる視線の圧力に耐えかねて、和彦は口を開く。賢吾は口元を緩めながら、千尋をちらりと見た。「千尋は側に置いて、俺だけ追い払うのか?」「甘ったれの子犬は、側でおとなしくしてくれているからな。大蛇に側にいられると、気が休まらない」 和彦の邪険な物言いに対して、もちろん賢吾は機嫌を損ねたりしない。「大蛇を怖がるような可愛いタマじゃねーだろ、先生は」 そう言って和彦の頬を手荒く撫でてくる。「――体はつらくないか?」「熱も大したことはないし、つらくもない。本当は、こうして布団に寝ているのも大げさなぐらいなんだ」「本当に?」 さりげなく賢吾に念を押され
複数の男たちとの奔放とも言える関係を、三田村は受け止めてくれている。だが、総和会会長という肩書きを持つ守光との特殊な関係だけは、奇妙な言い方だが、三田村に受け止めてもらいたくなかった。従順な〈犬〉らしく無表情で沈黙され、和彦は何も説明できなかったのだ。 和彦自身、自分のこの複雑な心理をどう表現していいのかわからない。とにかく、目の前にいない守光と話しながら、三田村と同じ部屋にいることが、居たたまれなかった。「――どの男のことを考えている」 唐突に賢吾に話しかけられ、和彦は激しく動揺する。そんな和彦の反応を、大蛇が潜んでいる目が冷静に見つめていた。「誰、も……」「そこで、俺のことだと言わないあたりが、先生らしいな」「……ぼくに、そんな可愛げのあるウソが言えるはずないだろ」「先生の場合、憎まれ口すら可愛げがあるから、大丈夫じゃないか」 ようやく平静を取り戻した和彦は、苦々しく唇を歪める。「そんなこと言うのは、あんたぐらいだ」「俺ほど、先生に憎まれ口を叩かれている人間はいないだろうからな。俺にそんな口を聞けるのは、今じゃもう、千尋か先生ぐらいしかいないから、貴重だ」 賢吾の口調には、微妙なほろ苦さと優しさが入り混じっているように聞こえた。 なんと言えばいいかわからず和彦が戸惑うと、寸前の会話など忘れたように賢吾が片手を伸ばし、頬や首筋に触れてきた。「少し熱い。熱がぶり返してないか?」 自覚がなかった和彦は、慌てて自分の額に触れる。「いや、そんなはずは……」「自分が高熱を出しているかどうか、へたり込むまで気づかなかった先生が言っても、説得力がない」 言外に頼りないと言われているようで、ムッとした和彦はすかさず反撃した。「ぼくは、内科は専門外だ」「医者じゃない人間でも、自分が体調が悪いかどうかぐらい、わかるだろ。先生は、自分のことに無頓着なだけだ。いや……、不精というべきか?」「……好きに言って
いまさら、ともいうべきことを考え込んでいると、ふと顔を上げた賢吾がこちらを見る。一瞬何かを探るような鋭い目つきとなったが、すぐに表情を和らげた。「先生、せっかく呉服屋に来てるんだ。着物を着てみるか?」 即座に和彦の頭に浮かんだのは、千尋の母親のものだったという長襦袢に袖を通したときのことだ。その姿で賢吾と及んだ行為が鮮明に蘇り、密かにうろたえる。 口ごもる和彦に対して、賢吾は容赦ない。「その衝立の向こうで着付けてもらえ。しっかり見ておけよ。近いうちに、先生が自分で着ることになるからな」 ここまで言われて、拒むことは不可能だった。** 着物の出来上がりは一か月後で、ちょうど春らしくなってくる頃だ。抜け目ない賢吾らしく、和彦の誕生日プレゼントに何を贈るか、早いうちから計画を立てていたのだろう。賢吾と、呉服屋の主人が交わしている会話を聞いていれば、それぐらい推測できる。 ふっと息を吐き出した和彦に、正面に腰掛けた賢吾が話しかけてきた。「――疲れたか、先生」 和彦は目を丸くしてから、首を横に振る。向き合って座り、さりげなく言葉をかけられただけなのに、知らず知らずのうちに頬の辺りが熱くなってくる。これが二人きりであればまったく平気なのだが、そうではない。 カップに口をつけつつ和彦は、視線を周囲に向ける。店に入ったときはいくつか空いていたテーブルも、あっという間に埋まり、すでに満席だ。皆それぞれ自分たちの時間を過ごしているが、やはり会話の声はかなり抑え気味になる。 なんといっても和彦の正面に座っているのは、この場にいる誰よりも物騒な男なのだ。存在感だけでも、嫌になるほど悪目立ちしている。さきほどから人に見られているようで、賢吾の些細な言動に過剰に反応してしまう。 昼間のコーヒーショップで、ヤクザの組長とのんびりコーヒーを飲むというのも、なんだか妙な感じだ。こういうことは初めてではないが、頻繁でもない。 賢吾の立場では、目についた場所に気軽に立ち寄るだけで、危険に遭遇する可能性が高くなる。それを承知で、呉服屋の帰りにこうして寄り道をしてくれた理由は、一つしか思い当たらない。
「――あそこだ、先生」 あそこ、と言われても和彦にはわからない。車がすれ違うのもやっとの通りの左右には、住宅や商店が並んでいるのだ。 車は狭い駐車場に入り、降りた和彦は辺りを見回す。古い建物が多いなと思っていると、賢吾に呼ばれてあとをついていく。どうやら護衛の組員は車に待機させておくようだ。 和彦が物言いたげな眼差しを向けると、賢吾は軽くあごをしゃくった。「店は目の前だ。それに、これから優雅な気分を味わおうってのに、護衛をつけてたら不粋だろ」「……優雅?」「いい品を揃えてある店だからな。目が肥えるぞ」 そう言って賢吾が、駐車場前の店の扉を開ける。〈準備中〉の札が表になっているのもお構いなしだ。 電気がついている店の中を覗き込んだ和彦は目を見開くと同時に、かつて賢吾に言われた言葉を思い出した。「春には、着物の着付けができるようになってもらうって言ってたが、もしかして――……」「着付けをするためには、まずは肝心の着物がないとな」 賢吾に肩を押され、店に足を踏み入れる。さほど広くない店内には、数え切れないほどの反物が並んでいた。艶やかなものから、渋い色合いのものまで、さまざまだ。「ここは、長嶺の人間がずっと贔屓にしている呉服屋だ。今日は昼まで、貸切にさせてもらった。人目を気にせず、じっくりと選びたかったからな」 促されるまま靴を脱ぎ、畳敷きのスペースに上がる。物珍しさはあるが、高価そうな反物に迂闊に近づけず離れて眺めていると、着物姿の初老の男性が奥から出てきて、親しげに賢吾と言葉を交わす。風情や会話の内容からして、この呉服屋の主人のようだ。 会釈した和彦を、その主人が頭の先から爪先までじっくりと見つめたかと思うと、反物を選び始める。「すごい色男さんだとうかがって、こちらも気合いを入れて、反物を仕入れておきましたよ。賢吾さんがお好きそうな色目のものから、若い方向きのちょっと粋なデザインまで」「おう。これからちょくちょく世話になると思うから、よさそうなものがあったら取っておいてくれ。こうして、その色男も連れてきたしな」
**** ウェイトマシンのコーナーに中嶋の姿を見つけた和彦は、さっそく歩み寄る。約束しているというほどではないが、互いに次の予定を聞いて、スポーツジムに通う曜日や時間帯を合わせるようになっていた。 そうやって顔を合わせては、情報交換を行っている――というわけではなく、まだ和彦のほうが、中嶋から一方的にあれこれと教えてもらうことが多い。 汗だくになってバーベルを持ち上げていた中嶋が、和彦に気づくなり、危うくバーベルを落としかける。照れ笑いを浮かべて無事にバーベルを置くと、汗を拭きながら和彦の側にやってき
「んあっ」 和彦は声を上げ、シーツを握り締める。三田村の舌の動きはすぐに大胆になり、内奥の入り口を唾液でたっぷり濡らすと、浅く侵入させてくる。ビクビクと腰を震わせて、和彦は感じてしまう。自分でもわかるほど浅ましく、内奥をひくつかせていた。「あうっ、うっ、い、い――……。気持ち、いっ……」 舌で愛されてから、再び挿入された指を必死に締め付けて喘いでいると、三田村の片手が、汗で濡れた和彦の体に這わされる。内奥で蠢く指に欲望を高められる一方で、体に這わされる手は、まるで慰撫するかのように優しい。
三田村に引き寄せられてしっとりと唇を重ね、舌先を触れ合わせた。相手の体をまさぐるようにしてジャケットを脱がしていきながら、柔らかく唇を啄ばみ合う。そうやって、賢吾の〈オンナ〉と〈犬〉である自分たちが、賢吾の許可の下、こうして触れ合える現実を噛み締めていた。 もどかしい手つきで三田村のワイシャツのボタンを外し、上半身の素肌を露わにしてしまう。三田村の背後に回り込んだ和彦は、虎の刺青にてのひらを這わせてから、舌先を這わせる。 刺青に対してやはりいい気持ちは持てないが、こんな刺青を背負った男に求められることに、嫌悪感をねじ伏せるほどの倒錯した興奮を覚える。これは、賢吾
「だからといって、お前がマネする必要ないだろ」「約束して。先生が甘やかすのは、俺だけだって」 真摯な表情と、食い入るような眼差しを向けられて、冷たくあしらうことなどできなかった。小さく息を吐き出した和彦は、大きな図体の犬っころの頭を撫で回す。「ぼくはいままで、お前みたいな甘ったれと出会ったことはないぞ。こっちも手加減を忘れて甘やかしているから、お前一人で手一杯だ。他の奴に甘えられても、面倒見きれない」「……照れ屋だなー、先生。お前だけだ、の一言で済むのに」「調子に乗るな」 千尋の頬を軽く抓







