LOGIN「男に対して無防備すぎる先生に、その男の怖さを体に叩き込んでやる。もちろん、痛みが苦手な先生に配慮して。……〈初めて〉相手をする男にも愛想よくしろよ。そうすれば、たっぷり可愛がってくれる」
和彦は小さな悲鳴を上げて身を捩ろうとする。しかし、容赦なく男たちの手に押さえつけられ、両足を抱え上げられて膝裏を掴まれていた。秘められた部分を晒す格好を取らされたことに、苦痛に近い羞恥を味わうが、賢吾はさらに和彦を追い詰めてくる。「いつものように、いい声で鳴いて、悶えろよ、先生。みんな、期待して見ているんだから。長嶺組長のオンナは、どれだけいやらしいかと」 そんな言葉のあと、秘裂に冷たい液体が伝う感触があった。辱められたときと同じような状況だと考えると、おそらくローションだろう。 滑った指に内奥を犯され、和彦は声を洩らす。萎えることのない欲望を手荒く扱かれながら、胸の突起を痛いほど強く吸い上げられたかと思うと、もう片方の突起は焦らすように舌先でくすぐられる。たまらず息を喘がせた途端、待っていたように唇を塞がれた。ダイニングでお茶を飲む和彦を見るなり、賢吾は口元に薄い笑みを浮かべた。何か企んでいると思わせるには十分な表情で、和彦は露骨に警戒して見せた。「すっかり顔色がよくなったな」 和彦の隣のイスに腰掛けた賢吾が、テーブルの上の食器にちらりと視線を向けたあと、身を乗り出すようにして顔を覗き込んでくる。湯のみを置いた和彦は小さく頷いた。「熱さえ下がったら、あとは楽になった。咳も出ないし、食欲も戻ったし。……熱のおかげで、ゆっくり休めた」 ちょうど今は、遅めの朝食をとり終えたところだ。土曜日は一日中布団の中で過ごして、お粥とヨーグルトばかり胃に流し込んでいた。日曜日になってようやく動き回れるようになり、食事も通常のものに戻してもらったが、胃腸も問題ないようだ。「そりゃよかった。ただ、寝込んだときぐらい、もう少しわがままを言ってもらいたかったがな」「あんたは何もしてないだろ。面倒をみてくれたのは、ここの組員たちだ」「なんだ。俺に看病してほしかったのか?」 ヌケヌケと言う賢吾を、和彦は横目で睨みつける。そんな二人のやり取りがおかしいのか、空いた食器を片付ける組員は笑っている。「……とにかく、体調はもう大丈夫だ」「本当か? 遠慮はするなよ」 やけに強く念を押され、気圧されながらも和彦はしっかりと頷く。「遠慮はしてない。本当に元気になった」 昼前にはマンションに戻りたい、と言葉を続けたかったが、突然賢吾が片手を伸ばしてきたため、そちらに気を取られる。何事かと身構えると、大きな手が頬に押し当てられた。「確かに……熱は下がったみたいだ」「そう言ってる――」「だったらこれから、出かけられるな」 目を丸くする和彦に対して、畳み掛けるように賢吾は続ける。「出かけると言っても、ただ車で移動して、行った先で突っ立ってりゃいい。病み上がりの体でも、そう負担にならないはずだ」「……行くって、どこに…&helli
三田村が返事に困ったような顔をしたとき、今度は座卓の上に置いた携帯電話が鳴った。土曜日にクリニックから呼び出しがかかるはずもなく、つまり電話は、和彦のプライベートに関わりのある相手からということになる。 和彦が視線を向けると、心得たように三田村は携帯電話を持ってきてくれた。 液晶には見覚えのない番号が表示されているが、直感めいたものが働き、熱で弛緩しきっている体にピリッと緊張が駆け抜ける。それが傍目にもわかったらしく、三田村の手が肩にかかった。「どうかしたのか?」「……いや、電話の相手が――」 無視するわけにもいかず、和彦は電話に出る。『――千尋から聞いた。熱を出して寝込んでいるそうだが、大丈夫かね?』 電話越しだと、より賢吾に似て聞こえる声の主は、守光だ。「ええ、急に熱が出て……。仕事の疲れも溜まっていたのだと思います。ここのところ忙しかったですから」 当り障りのない受け答えをしながらも和彦は、実は内心では激しく動揺していた。さすがに今は思考も正常とは言い難く、迂闊な発言をする恐れもある。何より傍らには、三田村がいるのだ。『原因の一つは、わしだろうな。まだあんたは、わし相手に緊張するから、精神的な負担をかけただろう。――肉体的な負担も』 和彦の心臓の鼓動はドクドクと大きく脈打ち、また熱が上がったのか、体が燃えそうに熱くなる。支えを欲しがって片手を伸ばすと、すかさず三田村が握り締めてくれた。「あの……」『息が苦しそうだ。何も言わんでいい。わしが一方的に話すから』 守光の指摘通り、和彦の息は上がっていた。『勝手だと思うだろうが、わしと会うことを負担に感じないでほしい。わしはただ、賢吾と千尋が大事にしているあんたと、打ち解けたいんだ。身内として、な。堅気だった人間の常識では到底理解できないこともあるだろうが、少なくとも、長嶺組と総和会は、敵意も害意もあんたに向ける気はない。この世界が、あんたにとって安らげる場であってほしいと願っている』 柔らかな声で語る守光だが、総和会会長の肩書きを背負って
**** 脇から体温計を取り出した和彦は、微妙な表情を浮かべる。 朝、目が覚めて、いくらか体が楽になっていることに気づき、さっそく熱を測ってみたのだが、さすがに平熱に戻るほど甘くはなかったようだ。それでも、高熱が続くよりはよほどいい。 そう自分に言い聞かせながら、枕元に用意された新しい浴衣に着替えていると、内線が鳴った。これから朝食を運ぶと言われ、まだ食欲がない和彦は一度は断ったのだが、なんとなく押し切られてしまう。 慌てて帯を締め、脱いだ浴衣を畳んだところで、障子の向こうに人影が映る。「――先生」 呼びかけてきたのは、ハスキーな声だった。目を丸くした和彦が見ている前で障子が開き、トレーを手にした三田村が姿を現す。 三田村は、和彦の姿を見るなり表情を和らげた。「三田村、どうして……」 布団の傍らに座った三田村に問いかけると、答えより先に、肩に羽織りをかけられる。礼を言った和彦は、改めてまじまじと三田村を見つめる。「ぼくが寝込んでいると、知っていたのか?」「昨夜のうちに、本宅の人間から連絡をもらっていた。今朝は、寝ている先生の様子を見て黙って帰るつもりだったんだが……、顔を見せていけと、千尋さんが言ってくれた」「千尋が?」 深夜にこの部屋にやってきた千尋だが、いつ出ていったのか和彦は知らない。もしかして、朝方までついていてくれたのかもしれないが、本人に尋ねたところで答えてくれるとも思えない。 和彦がつい笑みをこぼすと、不思議そうに三田村は首を傾げた。「どうかしたのか?」「いや……。ぼくの周囲には、過保護な人間が多いと思ったんだ。たかが風邪で、なんだか大事だ」「たかが、と言うけど、熱が高いんだろ」 三田村が片手を伸ばしてきたので、和彦も身を乗り出して額に触らせる。無表情がトレードマークのはずの男は、一気に厳しい表情になった。「……熱いな」「これでも、昨夜よりは少し下が
「ダイニングに、チョコレートと一緒に、あんたへの酒を置いてある。……まだ誕生日プレゼントはもらってないけど、何か贈ってくれるらしいから、先にお返しをしておく」「はっきりと、バレンタインだからだ、と言ったらどうだ」「……好きに解釈してくれ」 ため息交じりに洩らした和彦は布団を引き上げ、口元を隠す。立ち上がった賢吾が客間を出ていくとき、こう言い残した。「用があれば、いつでも内線を鳴らせ。とにかく先生は、熱が下がるまでおとなしく寝てろ」 振り返った賢吾の表情は、怖いほど真剣だった。自分でも不思議なほど、そのことが和彦には嬉しかった。本気で心配してくれているとわかったからだ。** 夜が更けるにつれ、本宅は息を潜めるように静かになっていく。ただし、完全に人の気配が絶えることはない。 夜勤として常に誰かが詰め所にいて、外部からの連絡を受けているし、深夜になって帰宅してくる者もいる。そのため寝ている人間を起こす必要がなく、何かあれば詰め所にいる人間を気兼ねなく呼びつけてくれと、お粥を運んできた組員に言われた。 そのお粥を苦労して少し食べたあとから、和彦の意識は曖昧だ。うつらうつらとしていると、組員に話しかけられ、生返事を繰り返しているうちに着替えさせられ、薬を飲まされた。ときおり汗も拭ってもらった記憶もある。 わざわざ内線で人を呼ぶまでもなく、まさに痒いところに手が届くような甲斐甲斐しさだ。 先生にはいつも組員の面倒をみてもらっているから、と言われたような気がするが、もしかすると夢かもしれない。 熱を出して体はつらいが、人から世話を焼かれる状況は和彦にとっては新鮮で、同時に、心地よかった。 ヤクザの組長の本宅で、人恋しさを癒されるというのも妙な話だが、とにかく和彦は救われていた。 実家を出て一人暮らしを始めてから、病気で寝込んだときの自分はどうしていただろうかと、朦朧とした意識で思い出しているうちに、何度目かの浅い眠りに陥る。 ふと、傍らに人の気配を感じた。組員が様子をうかがいに来てくれたのだと思い、目を開くことすらし
無理やり笑みをつくって歩き出そうとしたが、千尋に腕を掴まれ引き止められる。人目があるというのに間近に顔を寄せられ、和彦のほうが動揺してしまう。「千尋、本当に何もないんだ」「……先生、まだ顔が赤いよ。それに、目の焦点がおかしい」 そこまで言われてやっと和彦は、自分の体調の悪さが疲労ではなく、病気からくるものだと知った。足元が覚束ないのは、熱が高いせいだ。 自分の額に手をやったが、体温はよくわからない。額だけでなく、てのひらまで熱くなっていた。急に体に力が入らなくなり、その場に座り込みそうになったが、寸前のところで千尋に支えられる。「先生、本宅に帰ろう」 顔を上げるのもつらくて、和彦はうつむいたまま頷いた。** 喉が痛くて小さく咳き込むと、それだけで頭を揺さぶられるような眩暈に襲われる。一度意識してしまうと、体がどんどん熱に侵食されていくようで、横になっていてもだるい。 和彦は客間の天井を見上げ、ゆっくりと瞬きを繰り返す。体はつらいが、精神的には奇妙なほど安らいでいた。 耳を澄ますと、廊下を歩く足音が聞こえてくる。それに、話し声も。人の気配を感じるおかげで、心細さとは無縁でいられる。それが安らぎに繋がるのだ。 長嶺の本宅に連れて来られた和彦は、そのまま客間に通された。事前に千尋が連絡を入れておいたため、部屋は暖められ、布団も敷かれていた。浴衣に着替えて和彦が横になる頃には、加湿器まで運び込まれたぐらいだ。 和彦にはもう、自分の症状が何からくるものかわかっている。疲労が溜まってきたところに風邪を引き、自分でも驚くような高熱が出たのだ。風邪を予期させる症状にいくつか心当たりがあるが、寝込んでしまった今となっては、遅いとしかいいようがない。 千尋には悪いことをしたと思う。時間を作ってもらったのに、結局何も楽しめないまま、本宅に戻ってきたのだ。和彦に付き添っていると言っていたが、自分に代わって組員が諭してくれ、なんとか客間を出ていってもらった。 苦労して寝返りをうった和彦は、タオルに包まれた氷枕に頬を押し当てる。全身が燃えそうに熱いくせに、ゾクゾクと寒気
車に乗り込むと、待ち合わせ場所を告げ、傍らに置いた袋に目を向ける。念のため、昨日デパートで買ったものはすべて持ち歩いていた。今日中にすべて渡せれば上出来だが、残念なことに、和彦と関係の深い男たちは皆忙しい。 これから会う千尋にしても、決して暇を持て余せる立場ではないのだ。もしかすると、和彦と夕食をともにするために時間を作ったのかもしれない。 夕食後、長嶺の本宅に少し顔を出そうなどと考えているうちに、車が車道脇に停まる。ちょうど、千尋との待ち合わせ場所であるビルの前で、和彦は車中から外を眺める。 すでに日が落ちかけた街中は、それでなくても人通りが多い。千尋はどこにいるのかと目を凝らしてみれば、待ち合わせらしい人がたむろしているスペースに、やけに人目を惹くスーツ姿の青年が立っていた。それが千尋だとわかり、和彦はそっと目を細める。 外見の若さだけなら、それこそやっとスーツが様になってきた新入社員のようでもあるが、物腰やまとっている雰囲気は、明らかに同年代の青年が持ち得ないものだ。覇気と鋭さ、危うい凶暴性のようなものを秘め、それでいて、強烈なほど魅力的だ。「――先生?」 運転席の組員に呼ばれ、我に返った和彦は袋を手に慌てて車を降りる。帰りは、千尋が乗ってきた車に同乗するか、タクシーで帰るつもりだ。 和彦が歩み寄ると、すぐに気づいた千尋がパッと表情を輝かせる。「それ、チョコ?」 開口一番の千尋の言葉を受け、和彦は袋の一つを手渡す。このとき、注意も忘れない。「往来で、大きな声で『チョコ』と言うな。お前はともかく、言われるぼくが恥ずかしい……」「ベッドの中じゃ大胆なのに、変なところで先生って初心だよね。顔まで赤くして」 和彦は遠慮なく、千尋のよく磨かれた革靴を踏みつける。何が楽しいのか、それでも千尋は楽しそうに笑っている。すこぶる機嫌がよさそうだ。 長嶺組の跡継ぎのくせに、チョコレート一つでこうも喜ばれると、和彦としては照れ臭い反面、嬉しい。「……安上がりだな、お前は」 ぼそりと和彦が呟くと、さらりと千尋に返された。「先生だって
そんなものでわかるはずがないと、いまさら言ったところで仕方がない。和彦は、こうして捕えられてしまった。 「お前は、こちらの命令に逆らえない。そのために、こうしてビデオに録画している。もし逆らうようなマネをしたら――わかるな?」 和彦が浅く頷くと、千尋の父親が男の一人に片手を差し出す。 「こいつの名前がわかるものはないか」 和彦がわずかに視線を動かすと、拉致されたときに落としたと思ったブリーフケースが男の手にあり、中から名刺入れを取り出していた。滅多に外で配ることはないが、そこには和彦の名刺が数枚収まっている。 そのうちの一枚を受け
** 連れて行かれたのは、先日のビルとは違う、普通のマンションだった。住人もいるらしく、ちらほらと部屋に電気がついている。やや拍子抜けして、駐車場からマンションを見上げる和彦に、あごに傷跡のある男が声をかけてきた。 「――先生、急いでくれ」 和彦はハッとして、男を見る。車中で素っ気なく自己紹介されたが、男は三田村といい、若頭補佐という肩書きが一応あるらしい。ただし組長である千尋の父親が、三田村を若頭から預かる形となっており、組長直属という形でさまざまな雑事を処理しているのだそうだ。 三田村の説明を聞いて、わけがわから
部屋の中央に置かれたベッドの上に男が一人横たわっていたが、様子が尋常ではなかった。苦しげに喘ぎ、ときおり呻き声を洩らしている。その理由は一目見てわかった。腰の辺りにタオルを当てているが、そのタオルが血に染まっている。ベッドの傍らには二人の男がいて、汗を拭ったり、声をかけてやっていた。それしかできないのだ。 締め切った部屋の中には、ムッとするような血と汗の匂いがこもっている。目の前の異常な光景も相まって、和彦は軽い眩暈に襲われていた。 「……何、してるんだ……」 誰に向けたものでもないが、和彦の呟きに応じたのは賢吾だった。 「うちの若衆
胸の突起を愛撫されながら和彦は、賢吾の熱くなったものを片手で握り、扱く。 「腰を上げろ」 さんざん指で内奥を掻き回されてから、賢吾に命じられる。言われるまま和彦は腰を浮かせ、柔らかくなった内奥の入り口と、自分が育てた賢吾の逞しい欲望の位置を手探りで合わせる。その間賢吾は、恥辱に満ちた姿勢を取って、繋がる準備をしている和彦の顔をじっと見つめているだけだ。 「お前は、悔しくてたまらないって顔をしてるときが、一番いいな。この顔が、どんどん蕩けていく様は、見ていてゾクゾクする。ただ痛めつけるのとは違う趣がある」 「……ぼくになんと答えてほしいんだ」







