LOGIN床一面に散らばった人形を目にし、星奈は思わず焦りの声を上げた。
「やめてください……!」
慌てて純生を止めようと手を伸ばす。
星奈の指先が彼の服にわずかに触れた瞬間、純生は大げさなほど激しく腕を振り払い、そのまま彼女を突き飛ばした。
まるで星奈に触れられること自体が、耐え難くおぞましいことだったかのように。
直後に吐き捨てられた言葉が、その嫌悪を何よりも雄弁に物語っていた。
「触るな! 汚ねえんだよ」
「汚い……?」
星奈は反射的に自分の手へ目を落とした。
何か汚れでもついているのかと確かめ、何も付いていないことを確認してから、ようやく純生が言っているのは、そういう意味ではないのだと気づく。
記憶を失って以来、星奈は誰かから悪意を向けられたことがなかった。
閉ざされた小さな町では、住民同士が互いをよく知っている。
そこへ怪我を負い、記憶まで失ったよそ者の娘が突然現れたというのに、人々は誰一人として冷たい態度を取らず、何かと星奈へ手を差し伸べてくれた。
星奈がこの数か月で知ったのは、人の優しさと温かさばかりだった。
目の前へ突きつけられた露骨な悪意は、あまりにも突然で、あまりにも激しかった。
どう受け止めればいいのかも分からず、星奈は呆然と立ち尽くす。
純生はそんな星奈を見ても苛立ちが収まらないのか、今度は別の陳列棚を勢いよく蹴りつけた。
作品や組み立て式の棚が激しい音を立てながら床へ崩れ落ち、その音が静かな店内へ立て続けに響き渡る。
耳をつんざくような物音に、星奈ははっと我に返った。
助けを求めるように純生から視線を外し、もう一人の男へおそるおそる目を向ける。
「あの……すみません。お連れの方を……」
自分へ声をかけられるとは思っていなかったのか、男はわずかに眉を上げた。
その表情はどこまでも淡々としている。
純生が店を好き勝手に壊していても、驚く様子はない。止めようとする気配さえ見せなかった。
男はゆっくりと店内へ入り、星奈との距離を静かに詰めてくる。
「柚木星奈。今度はそういう手で来たのか?」
「え……?」
「俺たちを知らないふりでもすれば、誤魔化せると?」
低く落ち着いた声は、本来なら耳に心地よく響くはずだった。
だが、その声色には凍てつくような冷たさが宿り、星奈を見据える眼差しには、隠しきれない憎悪が滲んでいる。
「私は……」
「あれだけ毎日『純希兄ちゃん』って俺の後をついて回ってたのに。今さら知らないふりか? それとも、その頃のことまで都合よく忘れたのか?」
「純希……兄ちゃん?」
戸惑いながらその呼び名を口にする星奈を見て、千堂純希は心の底から呆れた。
目の前の女は、どこまで芝居がうまいのだろう。
かつて自分へ愛を囁いていたときも。
今こうして、初対面のような顔で自分を見つめている今も。
「純生の言うとおりだ。お前が女優にならなかったのが惜しいくらいだな。ちょうど柚木家も潰れたことだ。この道で食っていくつもりなら、何人か監督を紹介してやろうか」
純希の口元に、冷え切った笑みがゆっくりと浮かぶ。
一拍置いて、嘲るように目を細めた。
「……もっとも、俺が紹介するまでもないか。お前なら、自分からほかの男のベッドに潜り込めるんだからな」
星奈を刺すような言葉が、抑えきれず口をついて出た。
傷ついた顔が見たかった。
ほんのわずかでもいい。自分の言葉がこの女の心を抉ったのだと、確かめたかった。
だが、今の星奈には、純希の言葉に込められた悪意を読み取る余裕などなかった。
彼女の視線は慌てたように純生へ向けられる。
店内はすでに見る影もなく、棚も作品も無残に散乱していた。
「純希兄ちゃん、あの人を止めてもらえませんか? お願いします」
何の罪悪感も見せず、昔と同じ呼び方で自分を呼び、平然と助けを求めてくる。
その厚かましさに、純希は怒りを通り越して笑ってしまった。
ポケットからブラックカードを一枚取り出すと、星奈へ向かって無造作に放る。
カードの硬い角が星奈の頬をかすめ、そのまま乾いた音を立てて床へ落ちた。
星奈は一瞬、何が起きたのか理解できずに立ち尽くす。
純希はそんな彼女を見下ろし、冷え切った声を落とした。
「こんな店、大した価値もないだろう。柚木家のお嬢様が、今じゃこんな店の番犬に成り下がるとは、哀れなものだな」
軽蔑を隠そうともせず、純希は荒れ果てた店内を見回した。
やがて足元に落ちたブラックカードへ視線を落とす。
「今日、純生が壊した分は全部弁償してやる。だから、純生が気の済むまで好きにさせろ。お前がどれだけ吹っかけようと、その程度の金くらい俺たちには痛くも痒くもない」
「それでも……!」
純希は星奈から視線を外すことなく、淡々と言葉を継いだ。
「……純生を傷つけた報いだ。黙って受け入れろ」
星奈には、かつて自分が使っていたという部屋の記憶がなかった。 そこでどのように過ごしていたのかも、純希がどんな思いでその部屋を用意してくれたのかも、何一つ覚えていない。当然、部屋に対する愛着もなければ、特別な感情が湧くこともなかった。 だからこそ、純生から今のお前にはあの部屋を使う資格などないとはっきり言われても、星奈はさほど傷つかなかった。 言い返すこともなく、ただ静かに俯いている。 ところが、その反応は純生の望んでいたものではなかったらしい。 昔の部屋を奪われたことに屈辱を覚え、悔しそうに顔を歪めたり、傷ついて涙を浮かべたりする姿を期待していたのだろう。 あまりにも反応の薄い星奈を見ているうちに、純生の顔には次第に不満の色が浮かび始めた。「やっぱり、使用人部屋だってこいつにはもったいないな」 純生はわざと星奈にも聞こえるように声を大きくし、遠田へ向き直った。「遠田さん、適当な物置を探して、そこに放り込んでおいてよ。それもなければ、犬小屋でいいだろ」「純生様……」 純生の口から飛び出す言葉は、次第に度を越したものになっていく。 遠田は明らかに困り果てた様子で眉を寄せ、何度も純希の顔色を窺った。純希が何か言ってくれることを期待しているのだろう。 けれど、純希は一向に口を挟まなかった。 主人の意向が分からない以上、遠田も純生の言葉を否定することも、承諾することもできない。どう返事をすればよいのか分からず、困惑したままその場に立ち尽くしていた。 純生は返事を急かすように、遠田へ問いかけた。「どうしたの、遠田さん。そんな部屋はない? だったら、この女は庭にでも置いておけばいいよ。それとも……」 そこで何かを思いついたらしく、純生の口元に意地の悪い笑みが浮かんだ。「裏庭のプール、まだ水は入ったままだよな?」 プールという言葉を耳にした瞬間、星奈の身体が反射的に強張った。 星奈はびくりと肩を震わせた。別荘のプールで味わった冷たさと苦しさが、一瞬にして蘇ったのだ。 水を吸って重くなった服も、冷たい水に浸かり続けて身体の感覚が失われていった恐怖も、意識を失う直前の苦しさも、まだ星奈の身体には生々しく残っている。 純生は、その小さな変化を見逃さなかった。 先ほどまで何を言っても平静だった星奈が、ようやく怯えた。求めていた反応を引き出
以来、遠田はまだ幼かった純希と、生まれたばかりの純生のすぐ傍に付き添い、二人が成長していく姿を見守ってきた。 当然、純希の婚約者だった星奈とも、数えきれないほど顔を合わせている。 柚木家と千堂家は隣り合って暮らし、家同士の付き合いも深かった。星奈は幼い頃から何度もこの屋敷を訪れ、純希や純生と一緒に過ごしていた。 遠田にとって星奈もまた、兄弟と同じように、幼い頃から成長を見守ってきた大切な子供の一人だった。 柚木家に起きたことは、もちろん遠田も聞かされている。 それでも純生の口から、星奈はもう令嬢ではないとはっきり告げられると、すぐには受け入れられないらしい。 昔とほとんど変わらない姿で目の前に立っている星奈を、これまでのように「お嬢様」と呼んではいけない。 頭では事情を理解していても、長年染みついたものをそう簡単に切り替えることはできず、遠田の顔には隠しきれない困惑が浮かんでいた。「こいつは今日から、千堂家の奴隷になるんだ」 純生は見せつけるように星奈の腕を引き寄せると、そのまま遠田の前へ突き出した。「間違っても主人みたいに扱わないでよ。面倒な仕事も汚い仕事も、これからは全部こいつにやらせればいいから」 突然前へ押し出された星奈は大きくよろめき、倒れないよう懸命に足を踏ん張った。 遠田は、そんな星奈を複雑そうな表情で見つめている。 かつてはこの屋敷を自由に出入りし、誰からも「お嬢様」と呼ばれていた少女が、今度は使用人としてここへ戻ってきた。 あれほど大切にされていた少女を、今さら使用人として扱えと言われても、遠田には簡単に割り切れることではなかった。 しばらく言葉を失っていた遠田だったが、やがて自分が千堂家へ仕える立場であることを思い出したように表情を整え、静かに頭を下げた。「……承知いたしました、純生様」 純生はその返事に満足したように口元を緩めた。 さらに何か言おうと口を開きかけたところで、二人より少し遅れて屋敷へ入ってきた純希の声が、背後から響いた。「もういい、純生。今日は戻ってきたばかりだ。仕事を割り振るのは、明日からでも遅くない」 純希は星奈へ目を向けることなく、淡々と続ける。「それに、まだ契約書へ署名もさせていない。遠田さん、父は最近こちらへ戻ったか?」 純希の姿を目にした遠田は、すぐに深く一礼した。先ほど
外から眺めただけでも、千堂家の屋敷がどれほど壮麗な造りをしているのかは、十分に伝わってきた。 けれど、純生に手首を掴まれたまま車から引きずり下ろされ、正門をくぐった星奈は、その内側に広がる光景を目にして、改めて言葉を失った。 門の先には、まるで外の街並みから切り離されたような別世界が広がっている。 前庭だけでも驚くほどの広さがあり、辺り一面に広がる芝生は隅々まで美しく刈り揃えられていた。 植えられた木々や草花も、すべて庭園全体の調和を考えて配置されているらしい。どこへ目を向けても上品に整えられ、一本の枝、一枚の葉に至るまで、丁寧に手入れされているように見えた。 正門から母屋へ続く長い道の途中には、ライトアップされた美しい噴水がいくつも設けられている。その周囲を飾るように、芸術品らしい彫像まで点々と並べられていた。 ただ、今の星奈には、その豪華な庭園をゆっくり眺めている余裕などなかった。「痛っ……」 純生に強く掴まれた手首が、ずきずきと痛んでいる。 それでも純生は、星奈の苦しそうな声など気にも留めず、足早に母屋へ向かっていた。 少しでも歩みを緩めれば、星奈が途中で逃げ出すとでも思っているのだろう。立ち止まる隙はおろか、周囲へゆっくり目を向ける時間さえ与えようとしない。 星奈は何度も足をもつれさせながら、引かれるまま必死に純生のあとをついていくしかなかった。 やがて二人がたどり着いた母屋は、夜だというのに眩しいほどの明かりに包まれていた。 純生が重厚な扉を勢いよく押し開け、そのまま星奈を連れて中へ入っていく。 広々とした玄関ホールの先には、天井の高い豪華な大広間が広がっていた。磨き上げられた床も、頭上から光を落とす大きな照明も、そこかしこに並べられた調度品も、どれを取っても、今の星奈には気軽に触れてよいものとは思えない。 これから自分が暮らすことになる場所だと聞かされていても、まるで他人の屋敷へ勝手に足を踏み入れてしまったような居心地の悪さしか感じられなかった。 先ほどまで人の姿は見当たらず、これほど広大な屋敷とは不釣り合いなほど、辺りは静まり返っていた。 ところが、純生が大きな音を立てて屋敷へ入ってきた途端、どこから現れたのか、きっちりとスーツを着こなした年配の男が二人の前へ歩み出た。「純生様、お帰りなさいませ」 深く頭を下げ
東京へ到着した頃には、すでに夜になっていた。 丸一日に及ぶ移動は、やはり身体に堪えたらしい。 道中のほとんどを眠って過ごしていた純生の顔にも、隠しきれない疲労の色が浮かんでいる。 予定を早めて病院を退院したばかりの星奈も同じで、身体の芯にまで重い倦怠感が残っていた。 一日中、会社の資料へ目を通していた純希だけは、普段とまるで変わらないように見える。いつもどおり冷たい表情を崩さず、疲れを表に出そうとしないせいかもしれない。 その横顔には、話しかけることすら拒むような近寄りがたい空気があり、星奈は怖くて何度もそちらを見ることができなかった。 千堂家の本邸へ到着する前、純希は車内で何度か電話をかけていた。 断片的に聞こえてくる会話の内容からすると、星奈をもう一度診察させるため、千堂家のかかりつけ医へ往診を頼んでいるらしい。 空港まで迎えに来た車へ乗り換えてからも、星奈の座る場所は変わらなかった。 後部座席の中央へ座らされ、左右を純希と純生に挟まれている。 星奈は行き場のない視線を正面へ向け、フロントガラスの先に広がる東京の景色を茫然と眺めていた。 繁華街には眩しいほどの明かりが溢れ、色鮮やかなネオンが夜の街を照らしている。道 路には絶え間なく車が行き交い、歩道も大勢の人で賑わっていた。 それほど華やかな景色の中を走っているというのに、車内では誰一人として口を開かない。 窓の外に広がる賑やかな東京の夜と、息苦しいほど静まり返った車内とでは、まるで別の世界にいるようだった。 やがて車は華やかな市街地を離れ、豊かな緑に囲まれた閑静な高級住宅街へ入っていった。 先ほどまでの喧騒は次第に遠ざかり、車窓の向こうに見えるのも、高い塀や生垣に囲まれた大きな邸宅ばかりになる。 幾つもの道を曲がり、静かな街並みのさらに奥へと進んでいく。 ひときわ豪華な邸宅の前へ差しかかったところで、それまで黙っていた純希が不意に口を開いた。「星奈、ここが以前のお前の家だ」 純希の言葉が終わるのとほぼ同時に、運転手も車の速度をゆっくりと落とした。 星奈がその邸宅の姿を少しでも長く、はっきりと見られるよう、わざと速度を落としているかのようだった。 車窓の向こうに建つ屋敷は、外から眺めるだけでも十分すぎるほど豪華だった。 重厚な門構えの向こうには広大な敷地が続き、夜
その後の道中、純生も純希もほとんど口を開かなかった。 車に酔ったせいなのか、純生が星奈をからかう余裕を見せていたのも、移動を始めてからしばらくの間だけだった。 途中で酔い止めの薬を飲むと、次第に瞼が重くなり、それ以降はほとんど昏々と眠り続けていた。 眠っているうちに身体が傾き、純生の上半身が星奈へ覆いかぶさるようにもたれかかってくる。 偶然なのか、それとも眠りながらもわざとしているのか、星奈には分からない。 半身近くを預けられた瞬間、星奈の身体は大きく震えた。 それでも純生を押し退ける勇気などなく、身を固くしたまま、ひたすら同じ姿勢に耐え続ける。 その間、純希も星奈へもたれかかる純生の姿を何度か目にしていた。 一度は何かをしようとするように手を持ち上げたものの、途中ですぐに下ろしてしまう。 星奈の代わりに純生を引き離そうと、反射的に身体が動きかけたのかもしれない。けれど、自分が何をしようとしているのか気づいた途端、その考えを捨てたようだった。 星奈が暮らしていた村は、あまりにも辺鄙な場所にあった。 東京行きの便が出ている最寄りの空港へ向かうだけでも、車で何時間もかかる。 長い間、純生の重みを受け止め続けていた星奈の肩は、次第に痺れるような痛みを訴え始めた。 どうしても耐えきれなくなり、ほんのわずかに身体を動かす。 その小さな動きだけで、純生はすぐに目を覚ました。 純生自身も、走り続ける車の中ではまともに眠れず、不快な浅い眠りを繰り返していたのだろう。 星奈が動いたことに気づくと、自分から逃れようとしているのだと反射的に思い込んだのか、目を閉じたまま両腕を伸ばし、その身体を強く抱き締めた。「……っ」 まるで逃がさないように拘束するかのような力で、星奈を自分の胸元へ引き寄せる。「動くな」 眠気の残る声でありながら、その口調には明らかな苛立ちと威圧が滲んでいた。 普段の純生なら、これほど親密さを感じさせる姿勢を自分から取るはずがない。眠気で意識が曖昧になっているからこその行動なのだろう。 純希は手元の報告書から目を離し、身体を密着させるように星奈を抱き込んでいる純生を見た。 眉間に、はっきりと皺が寄る。 その視線を感じ取ったのか、星奈が恐る恐る顔を上げた。 ちょうど純希と目が合う。 星奈の顔には、どうすればいいのか分
携帯電話を窓の外へ捨てられたことが、よほど大きな衝撃だったのだろう。 それから長い間、星奈は一言も発しなかった。深く俯いたまま、身じろぎ一つせず、同じ姿勢を保ち続けている。 最初のうち、純生の顔にはまだ人をからかうような笑みが浮かんでいた。 退屈そうに手を伸ばしては、肩に届く程度の長さしか残っていない星奈の髪へ、ときおり指先で触れる。 毛先を摘まんだり、軽く引っ張ったりと、わざとちょっかいを出して何らかの反応を引き出そうとしているらしい。 それでも、星奈はいつまで経っても動かなかった。 何をしても期待していた反応が返ってこないことに、純生は次第に苛立ち始めた。 とうとう星奈の腕を掴み、その身体を自分のほうへ乱暴に引き寄せる。「おい、お前……」 呼びかけられた星奈は、反射的に顔を上げて純生を見た。 そこで初めて、純生は星奈の顔が涙で濡れていることに気づいた。 俯いていたせいで分からなかっただけで、涙はとっくに頬を伝い、顎の先にまで溜まっていた。 まさか泣いているとは思っていなかったのか、純生は一瞬だけ驚いたように目を見開く。 けれど、すぐにいつもの表情へ戻ると、馬鹿にするように鼻を鳴らした。「携帯を一台捨てられたくらいで、そこまで泣くことかよ。今さら何を可哀想なふりしてるんだ?」 そう悪態をつきながら、純生は自分の携帯電話を取り出し、星奈の手元へ無造作に放った。 星奈が受け取ろうとしなかったため、携帯電話はその太腿へぶつかり、そのまま膝の上へ転がる。 それでも星奈は俯いたまま、手を伸ばそうとしなかった。 せっかく自分の携帯を貸してやろうとしているのに、その好意まで拒まれたように感じたのか、純生の眉間に不機嫌そうな皺が寄る。「持てよ。まさか、俺に何度も言わせるつもり?」 そのやり取りを横で聞いていた純希も、一度だけ星奈へ目を向けた。 涙の跡が残る顔を見たあと、今度はその膝の上に転がっている純生の携帯電話へ目を落とす。「純生、自分の携帯は自分で使え。星奈の分は、戻ってから俺が新しく用意する」 純生の携帯電話には、純希が星奈と連絡を取らせたくない相手の連絡先まで登録されているのだろう。「分かった」 純生は意外なほど素直に返事をすると、星奈の膝の上から自分の携帯電話を取り上げた。 けれど、俯いたまま涙を流し続ける星奈を見