牢獄の時間は、意味もなく流れていった。
朝が来て、夜が来る。その繰り返しが何日続いたのか、セレスティナはもう数えるのをやめていた。彼女はただ壁に寄りかかり、虚ろな目で一点を見つめて日々を過ごす。他の囚人たちも、もはやこの生ける屍のような元令嬢に興味を失い、関わろうとはしなかった。その日は、いつもと少し違っていた。
昼食の時間が過ぎても、牢内は異様な静けさに包まれていた。やがて、複数の足音が響き、セレスティナのいる牢の前で止まる。看守長らしき恰幅のいい男が、羊皮紙を手に威圧的な視線を投げかけた。 「囚人番号三百十二番、セレスティナ・アルトマイヤー。貴様に判決が下った」 男は芝居がかった口調で、高らかに告げる。 「本来であれば、国家反逆罪に連座し死罪は免れぬところ、ヴァインベルク宰相閣下の寛大なる御心により、一等の減刑が認められた。よって貴様を、王国で最も過酷な土地、北の辺境への永久追放とする」辺境。その言葉に、他の囚人たちが息を呑むのが分かった。そこは、先の戦争で最も大きな被害を受け、いまだ復興もままならない無法地帯。冬は極寒の雪に閉ざされ、夏は疫病が蔓延する。罪人や浮浪者が流れ着くその場所は、死ぬよりも辛い生き地獄だと噂されていた。
しかし、セレスティナの表情は変わらない。死も追放も、今の彼女にとっては同じことだった。どこで朽ち果てるかの違いでしかない。「おい、聞いているのか」
看守長が苛立ちを滲ませる。セレスティナはゆっくりと顔を上げ、ただ無言で彼を見返した。その瞳には何の感情も浮かんでいない。男は気味悪そうに顔を歪めると、部下たちに顎をしゃくった。 「連れて行け。護送の馬車はもう来ている」 二人の看守が牢に入り、セレスティナの両腕を掴む。彼女はされるがままに立ち上がり、引きずられるようにして牢を出た。連れていかれた先で、ぼろぼろの囚人服に着替えさせられ、手には冷たい鉄の手枷がはめられた。その重みが、自分が罪人であるという事実を改めて突きつけてくる。
地上へ続く階段を上り、眩しい日の光にセレスティナは思わず目を細めた。久しぶりに吸う外の空気は、しかし自由の香りなどしなかった。彼女が引き出されたのは、王城の広場だった。そこには、罪人を護送するための、窓に鉄格子がはめられた粗末な馬車が一台停まっている。そして、広場には大勢の民衆が集まっていた。
反逆者の娘が辺境へ送られる。その噂を聞きつけ、見物にやってきたのだ。 セレスティナが姿を現した瞬間、群衆から一斉に野次が飛んだ。 「あれがアルトマイヤーの娘だ!」 「国を裏切った売国奴め!」 かつて、この同じ広場で、民衆は彼女に喝采を送った。銀の髪をなびかせ、父の隣で微笑むその姿を「アルトマイヤーの白百合」「王都の姫君」と讃え、憧れの眼差しを向けていた。 その同じ口が、今は憎悪に満ちた言葉を吐き出している。彼女は俯くこともせず、ただまっすぐに前を見据えて馬車へ向かう。その無表情で気高いとさえ言える態度が、かえって群衆の神経を逆なでした。
最初に飛んできたのは、腐った野菜だった。それが彼女の肩に当たり、汚れた汁を飛び散らせる。それを皮切りに、次々と罵声と共に何かが投げつけられ始めた。 「お前の父親のせいで、俺の息子は戦争で死んだんだ!」 「贅沢三昧しやがって!」 泥の塊が頬を打ち、小さな石が額に当たって鈍い痛みが走った。血が流れ、囚人服を赤黒く染めていく。 だが、セレスティナは眉一つ動かさない。痛みさえ、もはや彼女の心には届かなかった。周囲の喧騒も、自分に向けられる憎悪も、まるで分厚いガラスを隔てて聞いているかのようだ。群衆の中に、かつてアルトマイヤー家から施しを受けた者がいなかっただろうか。父である公爵の善政によって、救われた者がいなかっただろうか。きっといたはずだ。だが、今は誰も彼女を庇おうとはしない。彼らは皆、正義という名の熱狂に浮かされ、石を投げる側に回っている。
人間とは、かくも愚かで、かくも残酷なものか。 セレスティナは、その光景をただ目に焼き付けていた。ようやく馬車に押し込まれ、扉が閉められる。それでも、しばらくは窓の鉄格子から石や泥が投げ込まれ、罵声が降り注いだ。
やがて、御者の鞭の音が響き、馬車がゆっくりと動き出す。王都の街並みが、遠ざかっていく。生まれ育ったこの美しい都を、彼女は二度と見ることはないだろう。 馬車が王都の門をくぐり、辺境へと続く荒れた街道に入った頃、ようやく喧騒は完全に途絶えた。ガタガタと絶え間なく揺れる馬車の中、セレスティナは壁に背を預けると、そっと目を閉じた。
もう、何も考えるのはよそう。 何も、感じるのはよそう。 彼女は意識を手放すように、深い眠りの中へと沈んでいった。まるで、死んだように。 かつて「白百合」と呼ばれた令嬢の輝きは、民衆の憎悪と泥の中で完全に失われた。今はただ、罪人という名の荷物として、最果ての地へと運ばれていくだけだった。辺境伯ライナスによる粛清の嵐が吹き荒れてから、数日が過ぎた。 町を覆っていた、息も詰まるような腐敗の臭いは薄れ、代わりに鉄と血の匂いを纏った、厳格な秩序がもたらされた。理不尽な暴力に怯えることはなくなり、配給されるスープには、わずかながらも温かみが戻った。人々は依然として新しい支配者に畏怖を抱きながらも、その顔には、これまで見られなかった安堵の色が浮かび始めていた。 だが、その変化は、セレスティナの心に平穏をもたらすものではなかった。 彼女の心は、ライナスという男の存在によって、静かな混乱の渦中にあった。あの冷徹な金色の瞳。罪人を容赦なく断罪する絶対的な力。そして、その同じ男が、夜更けに届けさせた温かい毛布。暴力と優しさ。恐怖と、説明のつかない温もり。その矛盾した記憶が、彼女の中で絶えずせめぎ合っていた。(あの男は、私をどうしたいのだろう) 日々の労働の合間、彼女は何度も自問した。答えは出ない。ただ、彼の存在が、彼女の運命を大きく揺さぶり始めていることだけは、確かだった。 「城へ来い」という命令は、吹雪を理由に、まだ果たされていなかった。鉄狼団の兵士は、それ以来何も言ってこない。セレスティナはそれに安堵しながらも、心のどこかで、その後の展開を待っている自分に気づき、戸惑いを覚える。狼の巣へ行くのは恐ろしい。だが、このまま何も変わらない灰色の日常が続くだけというのも、また別の絶望だった。 その日の労働は、町の西壁近くで行われた、崩れた監視塔の瓦礫撤去だった。冬の陽は短く、空が茜色に染まり始める頃には、作業終了の合図が告げられる。冷え切った体を引きずり、人々は配給の列に並んだ。 今日のスープは、いつもより少しだけ具が多かった。小さな干し肉の欠片が、人々のささやかな喜びと、新たな支配者への複雑な感情をかき立てる。セレスティナは、配給されたパンとスープを手にすると、他の者たちとは少し離れ、一人、自分の塒である廃屋へと向かった。 ライナスから与えられた毛布の温もりを思い出すと、一人で食事を摂る時間が、以前よりは苦痛ではなくなっていた。あの男について考えるのは混乱する。だが、あの温かさだけは、紛れもない事実だった。 町の主要な通りから、一本脇道に入
夜明けは、厚い毛布の温もりと共に訪れた。 それは、セレスティナがこの辺境の地に来てから、初めて経験する穏やかな目覚めだった。壁の隙間から吹き込む風は相変わらず肌を刺したが、ライナスから与えられた上質な毛布が、その冷気を確かに遮ってくれていた。自分の体温で温められたその空間は、まるで小さな巣のようだ。 彼女はゆっくりと身を起こした。体の節々の痛みは残っているが、昨夜の温かいスープと柔らかなパンのおかげか、昨日までの鉛のような疲労感は薄らいでいる。 彼女の視線は、足元に畳まれた毛布と、空になったスープの器に向けられた。 辺境伯、ライナス。 あの男が、これを。 なぜ。その問いが、再び彼女の心に浮かんでは消える。 断罪の場で見た、あの冷徹な金色の瞳。罪人を容赦なく裁き、「俺が法だ」と断言した、絶対的な支配者の姿。その姿と、この温かい毛布が、どうしても結びつかない。 彼は、自分をどうしたいのだろうか。 気まぐれな同情か。あるいは、これはより質の悪い、新たな支配の形なのかもしれない。飴と鞭。絶望を与えた後に、ささやかな温もりを与えることで、相手の心を完全に掌握する。父の書斎にあった書物の中に、そんな統治術について書かれたものがあったことを、彼女はふと思い出した。 そうだ、きっとそうなのだ。あの「狼」が、見返りもなく他人に情けをかけるはずがない。 セレスティナは、そう結論づけようとした。だが、心のどこかで、その結論に納得しきれない自分がいることにも気づいていた。兵士が残した「風邪など引くな」という、ぶっきらぼうな言葉。その響きには、計算された支配者のそれとは違う、不器用な何かが含まれていた気がしてならなかった。 混乱したまま、彼女は立ち上がり、廃屋の扉を押し開けた。 町の空気は、明らかに変わっていた。 空は相変わらず鉛色だったが、人々を支配していた重苦しい絶望の澱が、少しだけ晴れているように感じられた。道端に座り込む人々の数は減り、代わりに、三々五々集まってひそひそと何かを話し込む姿が見られる。その顔にはまだ、鉄狼団への恐怖の色は濃いが、昨日までの理不尽な搾取から解放されたことへの、確かな安堵が浮かんで
役人たちによる理不尽な略奪は、追放者たちの心に再び絶望の影を落とした。だが、その影は以前のものとは少し質が違っていた。かつてはただ無力感に打ちひしがれるだけだった彼らの心に、セレスティナという存在が灯した小さな灯火は、まだ完全には消えていなかったのだ。「諦めたら、それこそ彼らの思う壺です」 泥の中から薬草の欠片を拾いながら放たれた彼女の言葉は、人々の心に深く刻み込まれていた。それは、この灰色の町で初めて耳にした、希望を諦めないという意志の表明だった。 翌日から、彼らのささやかな抵抗が始まった。 それは、武器を取るような大仰なものではない。もっと静かで、知恵を使った、弱者のための戦術だった。 セレスティナの提案で、彼らは薬草や乏しい食料の隠し場所を分散させた。崩れた壁の隙間、瓦礫の山の奥深く、誰も近寄らない廃屋の床下。子供たちが見張りに立ち、役人や私兵の姿が見えれば、鳥の鳴き真似で仲間たちに知らせる。集めた薬草はすぐに乾燥させ、小さく砕いて布袋に入れ、いつでも持ち運べるようにした。 セレスティナは、その中心にいた。彼女はもはや、ただ看病をするだけの「聖女」ではなかった。その聡明な頭脳は、この極限状況を生き抜くための司令塔として機能し始めていた。どの場所に何を隠せば見つかりにくいか、誰に何を集めさせれば効率的か、病人の症状に応じて、どの薬草を優先的に確保すべきか。彼女は冷静に判断し、人々に的確な指示を与えた。 人々は、自然と彼女に従った。彼女のすみれ色の瞳には、この絶望的な状況を何とかしようとする、真摯な光が宿っていたからだ。かつて「人形令嬢」と囁いた者たちも、今では全幅の信頼を寄せていた。彼女の言葉は、この町の唯一の法であり、希望だった。 だが、その希望はあまりにも脆く、いつまた踏み潰されるか分からない、か細い光でしかなかった。彼らは常に、役人たちの気まぐれな暴力と、辺境伯という得体の知れない「狼」の影に怯えながら、息を潜めて生きていた。 その夜、辺境の町は深い闇と静寂に包まれていた。 冷たい風が、廃屋の隙間をひゅうと鳴らしながら吹き抜ける。人々はそれぞれの塒で、なけなしの布にくるまり、つかの間の休息を取っていた。セレスティナもまた、
辺境の冬は、容赦を知らない暴君だった。空から絶え間なく降り注ぐ雪は、世界の輪郭を白く塗りつぶし、人々のささやかな希望さえも凍らせていく。飢えと寒さは死の同義語であり、昨日まで言葉を交わした者が、翌朝には冷たい骸となって発見されることも珍しくなかった。 だが、そんな灰色の絶望が支配する町の一角で、ほんの小さな、しかし確かな変化が生まれていた。 セレスティナが寝床とする廃屋。その場所は、いつしか「診療所」のような役割を担うようになっていた。彼女の元には、体調を崩した者やその家族が、途切れることなく助けを求めにやってくる。「お嬢様、どうか私の息子を…! 熱が下がらなくて…」 ぼろ布をまとった母親が、ぐったりとした幼い息子を抱いて駆け込んできた。セレスティナは、その青白い顔を一瞥すると、冷静に、しかし迅速に行動を始める。「こちらへ。とにかく体を温めないと」 彼女は、廃屋の風が一番当たらない隅に、追放者たちが持ち寄ってくれたなけなしの藁を厚く敷き、そこに子供を寝かせた。彼女自身のぼろぼろになった囚人服の上着を脱ぎ、子供の体にかけてやる。「ありがとうございます、ありがとうございます…」 母親は涙ながらに感謝を繰り返す。セレスティナはそれに構わず、石で砕いた解熱作用のある植物の根を、ぬるま湯に溶かして子供の口に含ませた。それは薬と呼ぶにはあまりに粗末なものだったが、彼女の真摯な眼差しと優しい手つきは、それ以上の効果を持っているようだった。 セレスティナの周りには、いつしか数人の女性たちが集まり、彼女の手伝いを申し出るようになっていた。ある者は、雪の下から薬草を探し出すのを手伝い、ある者は、乏しい燃料を分け与えて、病人のための湯を沸かす。 かつては互いに無関心で、自分のことで精一杯だった人々が、セレスティナという存在を核にして、再び失われた絆を取り戻し始めていた。それは、この極寒の地で生き延びるための、小さな共同体の誕生だった。 セレスティナは、人々から「お嬢様」と呼ばれ、いつしかその呼び名は畏敬と親しみを込めたものに変わっていた。「人形令嬢」と囁かれていた頃の、気味悪げな視線を向ける者はもうい
生きる。 母との約束を胸に、セレスティナの中でその決意が確かな形を結んでから、彼女の世界を見る目は変わった。辺境の冬は依然として猛威を振るい、飢えと寒さが絶えず命を脅かす。だが、彼女はもはや、それをただ受け入れるだけの無力な人形ではなかった。その瞳には、かつて書物を読み解いていた時と同じ、鋭い観察力と分析の光が戻っていた。 彼女の視線は、この極限の環境下で生きる人々の、些細な知恵や工夫を拾い集める。どの家の壁が風を防ぎ、どの道の窪みに雪解け水が溜まるのか。誰が一番丈夫な体力を持ち、誰が咳をこじらせ始めているのか。すべてを記憶し、分析する。それは、この過酷な現実という名の書物を、必死に読み解く作業に他ならなかった。 そんなある日の午後、作業の合間のわずかな休息時間だった。 追放者たちは、雪に覆われた瓦礫の山に身を寄せ合い、冷たい風から少しでも身を守ろうとしていた。あちこちから、乾いた咳の音が聞こえてくる。それは、この冬を越せずに命を落としていく者たちの、不吉な前奏曲のようだった。 セレスティナの隣に座っていたのは、まだ若い娘だった。彼女は数日前からひどい咳に悩まされており、その顔色は青白く、呼吸も浅い。娘は、激しく咳き込んだ後、ぜいぜいと苦しげな息をつきながら、地面の雪を掴んで口に含んだ。「やめなさい」 不意に、隣から静かだが、凛とした声がした。 娘が驚いて顔を上げると、そこにいたのは「人形令嬢」と呼ばれていたセレスティナだった。彼女が言葉を発するのを、この町の誰もが初めて聞いた。 セレスティナは、娘の行動を制止しながら続けた。「体を冷やすだけです。それに、その雪には何が含まれているか分からない」 その声には、不思議な説得力があった。娘は、言われるがままに、口に含んだ雪を吐き出す。 セレスティナは、自分のなけなしの配給である、錆びた器に入った白湯を娘に差し出した。「これを少しずつ飲みなさい。気休めにしかなりませんが、雪よりはいい」「あ、あんた…」 娘は戸惑いながらも、その白湯を受け取った。温かいとは言えない液体が喉を通ると、少しだけ呼吸が楽になった気がした。
辺境の地に、冬が来た。 それは、じわじわと忍び寄る死のように、静かに、しかし確実に町を侵食していった。まず、空の色が変わった。これまで町を覆っていた鉛色の雲は、さらに重く、白く濁った色合いを帯び始める。太陽は日に日にその力を失い、昼間でも地上に届く光は弱々しく、何の暖かさももたらさなかった。 次に、風が変わった。乾いた砂埃を巻き上げていた風は、湿り気と、刃物のような鋭い冷たさを含むようになる。それは壁の隙間や屋根の穴から容赦なく吹き込み、人々の体温を根こそぎ奪っていった。 そしてある朝、セレスティナが目を覚ますと、世界は音を失っていた。 彼女が廃屋の扉を押し開けると、そこに広がっていたのは、一面の白だった。夜の間に降った雪が、町の汚れた地面も、崩れた瓦礫の山も、すべてを等しく覆い隠している。それは一見すると美しくさえあったが、この町に住む者にとって、雪は死刑執行を告げる白い布告書に他ならなかった。 その日から、追放者たちの労働は、地獄の様相を呈し始めた。 これまでの瓦礫撤去作業に加え、雪かきという新たな苦役が課せられたのだ。粗末な木の板を渡され、凍てつく風雪の中で、積もった雪を道脇へと押しやる。手袋などない。手枷の冷たい鉄が、かじかんだ手首の皮膚に食い込み、感覚を麻痺させていく。指先はすぐに紫に変色し、ひび割れて血が滲んだ。 セレスティナは、他の者たちと同じように、ただ黙々と作業を続けた。彼女の心は、あの鉄狼団の兵士の姿を見て以来、不可解な疑問と混乱のさなかにあった。だが、この圧倒的な自然の猛威と、肉体を苛む苦痛の前では、そんな思考さえも贅沢なものに思えた。今はただ、生きるか死ぬか。その単純な現実だけが、彼女のすべてを支配していた。 食事の配給は、さらに劣悪になった。 水で薄められたスープは、もはやお湯と変わらない。硬い黒パンは、凍てついてさらに硬度を増し、噛み砕くことさえ困難だった。人々はそれを、凍える手で必死に温めながら、少しずつ削るようにして食べた。 飢えと寒さは、着実に人々の体力を奪っていく。 最初に倒れたのは、足の悪い老人だった。彼は雪かき作業の最中、突然その場に崩れ落ち、二度と動くことはなかった。監督役の役人