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第114話

作者: 知念夕顔
白井さん、やっぱり有能だ!

「白井さん、南野さんへのアドバイスはすごく大事でしたわ。でもその言い方だと、南野さんはもう清香を疑ってるのですか?それとも全部話しちゃったのですか?」

「もちろん言うわけないでしょ。こんなことは私たちが知ってれば十分です。南野さんは部外者だし、話せばかえって勘ぐられるだけですよ」明日香は続けて言った。「監督に影響を与えたのはあなたの言葉です」

「私の言葉?」郁梨は首をかしげた。南野に何か言った覚えはなかった。

「インタビューの追加撮影で言ったじゃないですか。清香があなたを秘密の通路に連れて行ったことと言いました。南野さんは分析したけど、前に清香が積極的にあなたと同じチームになったことも合わせると、彼女があなたを陥れようとした疑いがかなり濃いことと言いました」

郁梨は眉を上げた。「南野さんは清香を怒らせるのも怖くないのですか?」

明日香は何気なく答えた。「平気でしょ。南城市テレビ局が後ろについてますから」

けれど明日香は言わなかった。南野がここまで強気でいられるのは、郁梨が折原グループの社長夫人だと信じているからで、清香よりも郁梨を怒らせる方を恐れていたのだ。

いずれにせよ南野の見方は間違っていない。だから明日香はその推測をあえて否定せず、放っておいた。

「南野さんが真相を明らかにしたら、清香の嘘を徹底的に粉砕してやります」

郁梨は微笑んだ。「白井さん、随分楽しみにしてるみたいですね?」

「もちろんですよ!今すぐ真相を清香の顔に叩きつけてやりたいですわ。ネットで中傷してる連中にも思い知ってもらいたくて、自分がどれだけ愚かかよね!」

「じゃあ南野さんからの良い知らせを待ちましょう」

「ええ、何かあればすぐ連絡します」

「わかりました。白井さん、いつお時間ありますか?」

「どうしたんですか?」

「文さんと登さんにお食事をご馳走したいんです。白井さんもご一緒に」

明日香はうなずいた。「この件が片づいてからにいたしましょう」

「はい」最近ずっと自分のために奔走してくれていることを思うと、郁梨は軽くため息をついた。「白井さん、私が稼げるようになったら、必ずたくさんボーナスを差し上げますね」

明日香は大笑いした。「それは嬉しいお言葉ですね、『お疲れ様』よりずっと効きますよ」

「では、これからはしょっちゅう申し上げ
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