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第210話

Author: 風羽
彼女は思わず目を潤ませた。

藤堂沢はハンドルを握っていたが、なかなかエンジンをかけなかった。

しばらくして、彼はようやく彼女の方を向き、低い声で言った。「最近、シェリーがお前のことを探している」

九条薫はぱっと顔をそむけた。「運転して」

藤堂沢は視線を戻し、静かに前方の道路を見つめた。5秒ほどしてから、エンジンをかけた。彼はゆっくりと車を走らせた。高級な黒のベントレーは、細かい雪の中をゆっくりと進み、彼らをまだ見たことのない景色へと連れて行った。

3年間の結婚生活で、彼らは多くのことを逃してきた。

今、こうして別れる時になって過去を振り返ってみても、甘い思い出はほとんど浮かんでこない......残っているのは、傷つけあった記憶と偽りだけだった。

20分の道のりを、藤堂沢は1時間もかけて走った。

どんなにゆっくり走っても、道には終わりがある。ついに車が彼女のマンションの前に停まると、藤堂沢は体を傾け、静かに言った。「着いた」

九条薫は頷き、ドアを開けて降りた。

藤堂沢はハンドルを握る指を軽く曲げたが、結局、彼女を止めなかった。彼は彼女が車から降り、エレベーターへ向かい、エレベーターホールに消えていくのを見つめていた。

フロントガラスの前で、ワイパーが左右に動いていた。

彼の視界がぼやけた。

しばらくして、彼はポケットから小さな箱を取り出し、開けた。中には、九条薫がしていた結婚指輪が入っていた......彼自身の指にはめた指輪の光と呼応していた。

そう、離婚したにもかかわらず、彼はまだ結婚指輪を外していなかった。

藤堂沢は長い間それを見ていた。

ダッシュボードの中の携帯電話が鳴った。田中秘書からだった。彼女は事務的な口調で言った。「社長、プロジェクト開始会議は30分後に始まります!」

藤堂沢は携帯電話を握り、静かに言った。「分かった」

......

藤堂グループの新プロジェクトは順調にスタートし、莫大な利益を上げた。多くの企業が羨望の眼差しを向けた。

藤堂沢は以前の状態に戻り、仕事人間のように毎晩10時頃まで残業していた......時間が経つにつれ、田中秘書はあの結婚生活は藤堂沢の人生から消え去り、取るに足らないものになったと思っていた。

社長は普通の男性とは違うのだと彼女はそう思った。

彼にとって感情とは、人生における彩りに
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