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第88話

Penulis: いくの夏花
「江里子、彼が誰を庇おうと、私には関係ないの」

遥香は江里子の手を引いて、首を横に振った。

丸井がその場で柚香を弟子から除名した時点で、遥香にとってはそれが十分なけじめだった。これ以上しつこく追及しても、自分の品位を下げるだけだ。

今日は自分はハレ・アンティークの代表として来ているのだ。節度を失ってはいけない。修矢なんか……

「ふん!」

江里子はまだ納得がいかない様子だったが、遥香の態度を見て、それ以上は何も言わなかった。

「遥香は師匠と同じで、心が広いね」

丸井は感謝のまなざしで遥香を見た。この娘が自分の立場を慮ってくれていることは、ちゃんと伝わっていた。芸術大会はまだ続くのだ。これ以上波風を立てるわけにはいかない。

遥香は微笑んだ。「大丈夫ですよ、丸井先生」

傍らにいた修矢は、遥香がまるで自分を意に介していない様子を見て、胸の奥に鈍い痛みが広がるのを感じた。それは静かに、そして確実に全身へと広がっていった。

「お姉ちゃん……」

柚香が口を開きかけた瞬間、江里子が露骨に目を剥いた。「よくやるよ、芝居上手」

柚香の顔がこわばる。その心の中では、江里子も恨んだ。まったく、遥香の忠犬みたいな女だ。よくもここまで噛みついてくれる。

「さあ、みなさん展示のほうへどうぞ」

丸井の一言で、係員が遥香の絵を下げて本人に返却した。

その場の空気を察し、見物人たちも自然とその場を離れ、空間が静かになった。

修矢は低い声で言った。「ありがとうございます、丸井さん」

丸井は首を振り、柚香を冷たく見つめた。「芸術大会が終わったら、出て行きなさい。二度と来なくていい」

たとえ修矢が彼女を庇っていたとしても、丸井の中で柚香の評価は地に落ちていた。彼にとっては恥でしかなかった。

こんな弟子、初めからいなかった。

修矢もそれには異議を唱えなかった。過ちを犯したのは柚香であり、その報いを受けるのは当然だった。

柚香はうつむきながら、小さな声で言った。「申し訳ございませんでした、先生。ご期待を裏切ってしまいました」

だが丸井は手を挙げてその言葉を遮り、芸術大会の関係者を引き連れて先に展示会場へと歩き出した。

この後も展示会は続く。

偶然にも、丸井は参加者リストの中に遥香の名前を見つけ、俄然興味が湧いた。

一方その頃、柚香は修矢に何か説明しようとしていた
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