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第398話

Author: 風待 栞
鎮痛剤を数錠サイドテーブルに置くと、医師は「人騒がせな……」とでも言いたげな顔でそそくさと帰って行った。

寝室に、気まずい沈黙が落ちた。

先ほどまでオロオロと半泣きになっていた七緒の目つきが、スッと細められ、底冷えのするようなジト目が鹿耶へと向けられた。

「……お前」

先ほど、彼女が嬉しそうに頬張っていたキンキンに冷えたシャインマスカットの光景が、七緒の脳裏に鮮明に蘇る。

「自分の体のことくらい、ちゃんと管理しろってんスよ……!」

呆れと、隠しきれない心配がないまぜになったような低い声。

生理中にあんな冷たいもんバクバク食うなんて、このバカは本当に……!

ベッドで縮こまる彼女を見下ろしながら、七緒は大きなため息を吐き出した。

「だ、だって……!」

鹿耶は涙目で唇を尖らせ、恨めしそうに七緒睨み返した。

「私、いっつも周期がバラバラなのよ。まさか今日来るなんて思わなかったし、数日後だと思ってたから……」

「……ってことは、お前、もうすぐ来るかもしれないって分かっててあんなに冷たいもんバクバク食ってたんスか?」

七緒の額に、ピキリと青筋が浮かんだ。

本気でこの女の
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  • 離婚後、捨てられた私は人生の頂点に立つ   第393話

    「雅、人にはそれぞれ愛情の表現というものがあってね……」佳乃が言い訳をしようとした瞬間、「違うわ!」雅は残された力を振り絞って母の言葉を遮った。「愛し方は変わっても、目だけは絶対に嘘をつかない!」荒い息を吐きながら、雅は再び枕に深く頭を沈めた。「お母様。私は絶対にあの女の身代わりにはならない。……もう、諦めてちょうだい」「あんたって子は……!本当に物分かりが悪いわね!」佳乃は顔を真っ赤にして激昂すると、高級バッグをひったくるように手に取り、怒り任せに病室を出て行った。遠ざかっていくヒールの音。雅は悲哀に満ちた目でその背中を見送ったが、母親が一度でも振り返ることはなかった。ひどく疲れた。生まれて初めて、彼女の心の中で一番恨むべき対象が水琴ではなくなった瞬間だった。そっと目を閉じる。胸の奥が氷のように冷たかった。お母様は変わってしまった。お兄様も変わってしまった。……「えっ?自殺?」重人からの報告を受けた水琴は、驚きのあまり目を丸くした。あの我が身を何より大切にする雅が、自ら命を絶とうとするなんて俄かには信じられなかったからだ。重人は淡々とした口調で言葉を続けた。「閉鎖病棟のスタッフに発見されて、すぐに救急搬送されたらしい。今頃、鷹司家の連中は全員病院に集まってるはずだ。――紗夜を除いてな」水琴は納得したように静かに頷いた。佳乃がどれほど「跡取り」に異常な執着を抱いているか、彼女自身が一番よく知っている。間違いなく、佳乃が雅に身代わりを強要し、絶望した彼女が死を選んだのだろう。「私たちも、急がないとね」水琴は表情を引き締めた。本来ならじっくり証拠を集める猶予があったが、雅の自殺未遂騒動が起きた今、臣や紗夜も危機感を抱き、先手を打って証拠隠滅に動く可能性が高い。残された時間は、確実に少なくなっていた。その日の午後。今後の対策を練っていた水琴の元に、差出人不明の小さな小包が届いた。不審に思いながら開けてみると、中には車のスマートキーと、短いメモが添えられていた。【白妙山に乗っていった車。鷹司家のガレージにある】送り主が誰なのか、考えるまでもなかった。つい先日、自殺未遂騒動を起こした雅だ。身内から冷酷に切り捨てられ絶望の淵を彷徨った彼女は、ついに腹を括ったのだろう。

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    水琴は足を止め、その差し出された手を見つめた。表情は凪いだまま、応じようとはしない。差し出された紗夜の手が、宙で居場所をなくし、彼女の顔から完璧な笑みがわずかに強張る。隣で、臣が割って入るように口を開いた。その声は低く、感情が読めない。「祖父が、俺たちのことを知った。今夜、話があるから屋敷に来いと。お前の携帯が繋がらなかったから、直接迎えに来た」「わかったわ」水琴は自分のスマートフォンに目を落とす。確かに、バッテリーが切れていた。「充電したら、すぐに向かいます」彼女はそう頷くと、付け加えた。「先に行っていて」その言葉は、あなたたちと行動を共にするつもりはない、という明確な拒絶だ

  • 離婚後、捨てられた私は人生の頂点に立つ   第3話

    そして、呆然と立ち尽くす雅を視界の端に留めながら、スーツケースのハンドルを握りしめると、一度も振り返ることなく、その家を後にした。鷹司家の重々しい門を抜けると、一台の真っ赤なオープンカーが目に飛び込んできた。運転席から、親友の鹿耶が身を乗り出し、サングラスを額に押し上げながら、芝居がかった投げキスをよこす。「お姫様、ご乗車を。鹿耶様が、最高の祝賀会に連れてってあげる」祝賀会とは言ったものの、離婚したばかりの水琴の心情を慮ってか、鹿耶が連れて行ってくれたのは、落ち着いたジャズが流れる隠れ家のようなミュージックバーだった。離婚の経緯を話すと、鹿耶は呆れ返ったようにグラスを置いた。「また

  • 離婚後、捨てられた私は人生の頂点に立つ   第2話

    書斎の外から漏れ聞こえてくる会話に、水琴は静かに目を伏せた。鷹司家に嫁いでからの日々が、脳裏をよぎる。姑である佳乃にも、義妹である雅にも、自分なりに心を尽くしてきたつもりだった。雅が事故に遭い手術を受けた時、何日も病院に泊まり込み、甲斐甲斐しく付き添ったのも自分だ。佳乃に対しては、常に敬意を払い、その言葉には注意深く耳を傾けてきた。けれど、どれだけ尽くしても、あの人たちの心を変えることはできなかったのだ。すべては、無意味だった。ふと、スマートフォンの着信が静寂を破る。小林鹿耶(こばやし かや)からだった。電話口から聞こえてくるのは、少し気だるげな親友の声。「ミコト、本当

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