LOGIN極北の冷気が研究塔の窓ガラスを白く凍りつかせる、深夜二時。 二重三重の防音結界と封鎖術式が巡らされた寝室は、外界の過酷な吹雪が嘘のように、甘く湿った熱気に包まれていた。 カーテンの隙間から差し込む青い月光が、ベッドの上で無防備に乱れる『白銀の魔女』の姿を淫らに照らし出している。「ん……っ、あ……。 あつ……い……な、なに、が……っ」 シルヴィアは、苦しげに眉を寄せながら、首を左右に振っていた。 軍服風のドレスはすでに床へ脱ぎ捨てられ、身につけているのは薄い絹の下着のみ。 その白銀の素肌の上を、何十本もの半透明な触手が、ぬめり気のある粘液を塗り広げながら蠢いていた。「…………」 ベッドの傍らに立つルミナは、無言のまま、うっとりと頬を紅潮させていた。 昨夜の『序』の段階を経て、シルヴィアの身体はすでにルミナの分泌液に深く馴染んでいる。 今夜、ルミナが霧状にして吸わせたのは、さらに濃度を高めた【神経接続・性感増幅液】。 ただ眠らせるだけではない。 意識は深い夢の底に沈めたまま、肉体の感覚神経だけを限界まで研ぎ澄まし、わずかな刺激でも脳へダイレクトに快感を送り込むための、怪物特有の調教薬だった。 じゅるり……。 ルミナの腕から伸びた触手が、器用に枝分かれしていく。 昨夜よりも格段に細く、しなやかさを増した数十本の先端が、シルヴィアの全身に点在する性感帯を、まるで精密な地図をなぞるように同時に捉えた。 二本の触手が、シルヴィアの耳の裏からうなじへ。 柔らかな突起が無数に生えた先端が、チロチロと細かく震えながら、薄い皮膚を執拗に舐め回す。 さらに別の触手が、両脇の窪みへと滑り込んだ。 ツンと刺激的な吸引を繰り返すたび、シルヴィアの背筋がビクンと跳ねる。「ひゃ……っ! ん、あぁ……っ!」 夢の中で、シ
極北の静寂に包まれた研究塔の最上階。 分厚い石壁の寝室には、規則正しく穏やかな、シルヴィアの寝息だけが満ちていた。 カーテンの隙間から差し込む蒼白い月光が、ベッドに横たわる白銀の魔女の横顔を照らしている。 軍服風のドレスを着崩すこともなく、ただ静かに目を閉じているその姿は、まるで氷の彫像のように冷たく、侵しがたい神聖さを漂わせていた。 カサリ……。 床にエプロンを落としたルミナは、気配を完全に消したまま、音もなくベッドの傍らへと歩み寄った。「…………」 言葉を発することのない唇が、わずかに微熱を帯びて開かれる。 ルミナの細く白い指先から、甘く芳醇な香りを孕んだ薄紅色の霧が、ふわりと立ち上った。 それは、ルミナが自らの体内生成器官で調合した特殊分泌液――【深層催眠・弛緩霧】。 シルヴィアが鼻腔からその香りを吸い込むたび、強固な精神防壁は自覚のないまま解きほぐされ、意識の深度は夢のさらに奥底、快楽の刺激だけに反応する無防備な領域へと沈められていく。「ん……ぅ……」 シルヴィアの眉間のシワが、ふっと消えた。 寝息が一段と深くなり、唇が小さく緩む。 ルミナの翡翠色の瞳が、暗闇の中で艶やかに細められた。 彼女は愛おしそうに手を伸ばすと、その指先をドロリと柔らかな半透明の触手へと変形させた。 スルスルと滑り込む、数本の細い触手。 触手の先端は、シルヴィアの軍服ドレスの銀ボタンを一つずつ、音も立てずに外していく。 硬質な襟元が割れ、白いシャツの隙間から、月光を反射する滑らかなデコルテが空気に晒された。 さらに、手袋を脱がせ、ブーツを脱がせ、カッチリとしたスラックスを滑り落とす。 普段は厳格な規律の鎧で全身を覆い隠している白銀の魔女の素肌が、今、無防備にベッドの上に投げ出されていた。 無駄な脂肪のない、鍛え上げら
吹き荒れる極夜の吹雪を眼下に見下ろす、北方の最果て。 永久凍土の上にそびえ立つ白亜の研究塔――『氷嶺の牙』の最上階で、私は羊皮紙に走らせていた羽ペンを止めた。「……ふむ。第十四術式の魔力変換効率、予定値より〇・三%の向上か。 理論の補正はこれで完了だな」 私――『白銀の魔女』シルヴィアは、眼鏡のブリッジを指先で押し上げ、冷たい青の瞳で実験結果を眺めた。 カッチリとした軍服風のドレスに、一切の乱れなく結い上げられた白銀の長髪。 無駄を極限まで削ぎ落とし、規律と論理のみで世界を構築する。 それが私の生き方であり、魔女としての誇りだった。「マスター。計算補助の検証ログ、並びに温かいハーブティーを用意いたしました」 背後から、一切の足音もなく現れた人影が、完璧な角度で一礼する。 私自身が錬金術と生体魔術の粋を集めて作り上げた、最高傑作の人造生命(ホムンクルス)――ルミナだ。 仕立ての良い黒白のメイド服に身を包み、透き通るような白い肌と、感情の起伏を感じさせない翡翠色の瞳。 無口で、無駄口を叩かず、私の思考を寸分の狂いもなく先回りして作業を完遂する。 まさに、私にとって理想の助手であり、完璧な被造物だった。「ご苦労、ルミナ。いつも通りの的確な仕事だ」 差し出されたティーカップを受け取り、口をつける。 温度は常に私の好む六十二度に保たれ、精神を鎮める北方の高山植物の香りが心地よく鼻腔を抜けた。「……そういえば、南方のノクス領から妙な噂が届いているな。 ヴェラやエヴリン、ステラたちが、揃いも揃って男や得体の知れない存在に骨抜きにされ、夜会で痴態を晒したとかいうくだらない風聞だ」 私はティーカップをソーサーに戻し、小さく鼻を鳴らした。「愚かしい。何百年も生きた魔女ともあろう者が、恋愛などという非効率極まりない情動のバグに惑わされるとは。
「おいおい、小僧。どきな。 俺はこの極上の魔女殿に、男というものを教えてやろうと――」 隣国の特使カルロスが、ギラギラとした下卑た笑みを浮かべ、私の肩へ分厚い手を伸ばそうとした。 その瞬間。 大広間の時が、完全に凍りついた。 王族も騎士団長も、誰もが泡を吹いて卒倒しかけ、自国の滅亡を確信して目を覆う。 だが、事態を最も迅速に、そして最も狂気じみた精度で認識したのは――三魔女を取り巻く『三者の捕食者たち』だった。(((……俺の(私どもの)聖域に、ゴミが触れようとしたな?))) アシュだけではない。 エヴリンの腰に張り付いていたイグニスが、少年の愛らしい仮面を完全に剥ぎ取り、縦に裂けた竜の瞳を冷徹に細めた。 ステラを抱きかかえていたベータとアルファの電子眼が、無音で超高度な演算光を明滅させる。 三つ巴の、無音の殺意競争。 誰が一番、愛する主(妻)の視界を汚さずに、この害虫をこの世から削り取れるか。「……おやおや。帝国の方でしたか」 先手を打ったのは、やはりアシュだった。 アシュは、菩薩のように美しい笑みを浮かべたまま、すっと滑らかな足取りでカルロスの正面に立った。 そして、カルロスが伸ばそうとした右肩に、ぽんと優しく、労うように手を置く。「長旅で、少々お酒が過ぎたようですね」「あ……? なんだ貴様、この俺の手を――」 カルロスが苛立たしげにアシュを睨みつけ、言い返そうとした、その刹那。 ドクンッ……。 カルロスの全身の血が、逆流した。 アシュの手のひらから注ぎ込まれたのは、空間魔法の極致――【全感覚遮断・並列精神崩壊結界】。 カルロスの脳内だけに、彼がこれから経験しうる『数億通りの残酷な死の幻影』が一秒の間に何億回もループ再
王都、王城の大広間。 普段ならば、着飾った貴族たちの華やかな笑い声と、楽団の奏でる優雅なワルツが響き渡るはずの社交界の最高峰――建国祭特別夜会。 しかし、今夜の会場を支配していたのは、まるで葬儀の場のような重苦しい沈黙と、張り詰めた極限の緊張感だった。「……ま、まだ来られないのか……?」 会場の最奥、玉座の手前で、第一王子がハンカチを握りしめながら小刻みに震えていた。 隣に控える王国騎士団長も、教会の最高位司祭も、一様に青ざめた顔で脂汗を滝のように流している。 貴族たちに至っては、グラスを持つ手がカタカタと音を立て、全員が胃痛で今にも倒れそうな形相で扉を見つめていた。 彼らは知っている。 今夜現れるのは、ただの辺境貴族ではない。 すでに王都の中枢を裏から完全に掌握し、機嫌を損ねれば国ごと塵に変えてしまう本物の魔王――アシュ。 そして、彼が異常なまでに狂信し、崇拝する大魔女ヴェラ。 さらには、ルシアン山脈を揺るがす神話級火竜と、古代兵器を引き連れた伝説の魔女たち。 これは夜会などではない。 国家の存亡を賭けた、地獄の接待サバイバルなのだ。 ――ギギィィ……。 大広間の重厚な両開きの大扉が、ゆっくりと開かれた。 近衛兵の震える声が、会場の静寂を切り裂く。「ノクス辺境伯爵夫妻……並びに、特別来賓の皆様の、ご入場です……っ!」 その瞬間、会場中の貴族たちが一斉に息を呑み、反射的に左右へと分かれて道を開けた。 まるで、海が割れるかのように。「まあ! アシュ、見て! みんな道を譲ってくれて、とっても礼儀正しいわね!」 先頭を歩くのは、純白のドレスを纏った私――ヴェラだ。 月の光を紡いだような清楚なドレスは、アシュの並々ならぬ気遣い(呪い)のおかげで、冷え性の私でもぽかぽかと温かい。
「まあ! エヴリンもステラも一緒に行けるなんて、最高じゃない!」 ノクス邸のリビングで、私は届けられた三通の豪奢な招待状をテーブルに並べ、嬉しそうに手を叩いた。 王家から届いた、建国祭特別夜会への招待状。 それは私とアシュだけでなく、ノクス領に滞在しているエヴリンとステラの分まで、丁寧な金文字で記されていたのだ。「あの王家も、なかなか粋な計らいをしてくれるじゃない。 伝説の魔女が三人同時に社交界へ降臨するだなんて、間違いなく王国史上初の歴史的イベントよ! ふふっ、みんなでおめかしして、パーッと華やかに楽しみましょう!」 私が無邪気に胸を躍らせている一方。 背後に立つアシュは、極上の微笑みを崩さぬまま、その赤い瞳の奥に絶対零度の冷気を宿していた。(……王家の羽虫どもめ。 ヴェラ様お一人を呼び出すだけでも万死に値するというのに、他の魔女とその厄介な同居人どもまで巻き込んで、俺たちの聖域を乱す気か……?) アシュにとっては、王家の「少しでもノクス領の化け物たちのご機嫌を取りたい」という必死の平伏など知ったことではない。 ただただ、愛しい妻との甘美な時間を邪魔されたことへの、ドス黒い苛立ちだけが渦巻いていた。 しかし、ヴェラ様がこれほど嬉しそうにしているのだ。 主の笑顔を曇らせるわけにはいかない。「ええ、ヴェラ様。素晴らしい機会ですね。 ……ですから、夜会に向けて最高のドレスをご用意いたしました」 アシュが優雅に指を鳴らすと、空間の歪みから一体のトルソーが現れた。 そこに飾られていたのは、息を呑むほどに美しい、清楚な純白のドレスだった。 月の光をそのまま紡いだような極上の絹地は、露出を極限まで抑えた長袖のハイネック仕立て。 肌を見せる面積は最小限であるにもかかわらず、ヴェラ様のたおやかな身体のラインを極限まで美しく際立たせる、神業のようなカッティングが施さ
朝。 さんさんと降り注ぐ陽光が、ダイニングルームを明るく照らしていた。 私は淹れたてのミルクティーを片手に、王都から取り寄せた新聞に目を通していた。 「……あら」 一面の大きな見出しを見て、私は思わず声を漏らした。 そこには、先日この屋敷にやってきて、私に不躾な態度をとった男の名前が踊っていた。 『バルバトス伯爵、深夜の屋敷で突如発狂! 当主の座を退き幽閉へ』 『不正蓄財と密輸の証拠も多数発見! バルバトス家、取り潰しの危機か』 記事には、伯爵が何かに酷く怯えた様子で「化け物が来る」「俺の目を潰しに来る」とうわ言を繰り返し、精神を病んでしまったと書かれてい
アシュを拾ってから、半年が過ぎた。泥と血にまみれていた路地裏の野良猫は、見違えるように美しい少年へと成長しつつあった。毎日の十分な食事と、温かいベッド。そして私という、絶対的な庇護者の存在。それらが、アシュの本来持っていたポテンシャルを急速に引き出していたのだ。くすんでいた灰色の髪は、今や月光を吸い込んだような美しい銀色に輝いている。痩せこけていた体にも適度な筋肉がつきはじめ、背もぐんと伸びた。まだ十二歳の少年だが、すでに末恐ろし
彼を拾ったのは、純粋な合理性からだった。完成された理想の男がいないなら、真っ白な子どもを一から育て上げればいい。三百年間生きてきて、なぜこんな簡単なことに気付かなかったのか不思議なくらいだ。「……っ、おい、どこに行くんだよ」路地裏から引きずり出された少年――アシュは、私の手を振り払おうと必死に抵抗していた。だが、ひ弱な少年の力で、魔力で身体強化をしている私から逃れられるはずもない。「どこって、私のお家よ」「はなせ! 俺をどうする気だ! 奴隷商人か!? それとも怪しげな儀式の生贄か!?」「嫌だわ。そんな野蛮なことしないわよ」私はふふっと笑いながら、彼の灰色の髪を撫でた。泥と
「愛」というものが、私にはよくわからない。三百年間生きてきても、その正体だけは一向に掴めなかった。ただ、目の前を歩く老夫婦を見ていると、胸の奥がわずかに疼くような気がする。シワだらけの手と手をしっかりと繋ぎ、同じ歩幅でゆっくりと石畳を歩いていく二人。合理的ではない。手を繋げば片手が塞がり、いざという時の防御行動が遅れる。歩幅を合わせるのも、身体能力の低い方に合わせるという非効率な行為だ。けれど。「……とても、暖かそうね」カフェのテラス席で紅茶を傾けながら、私はぽつりと呟いた。誰かと寄り添い、共に老い、最期まで隣にいる。そんな『普通の夫婦』というものに、私はずっと憧れてい