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1日目(下)

Autor: まじかり
last update Fecha de publicación: 2026-06-30 17:16:54

 カナタが居るとは思っていたが、タカシとフレシアまで一緒に居るとは思っていなかったアルス。それはマリナも同じだった。

 どうして一緒に勉強しているのかわからないが、タカシがカナタに頼んだのだと推測できる。フレシアはタカシに付いてきたということもだ。

「邪魔してごめん。珍しい組み合わせだね」

「タカシの勉強を見る話の流れでな……少し席を外す。ふたりはそのまま続けててくれ」

「おう、わかった」

「はぁ〜い♪」

 席を立つカナタをふたりが引き止めることはない。テーブルに置いてある本の数や、ノートをみてもふたりが真面目に勉強していることが、アルスたちにもわかる。

 目線で図書室の外へと促すカナタに続き、アルスとマリナは一度図書室を出た。

「……さて、二人揃って何のようだ?」

「あ、うん……例の噂の件なんだけど。本格的に調べようと思って。マリナにも協力を頼んだんだ」

「なるほど……そういう理由か」

 意味深にマリナを見るカナタの眼差しに、アルスは他に理由があるのだろうかと首を傾げる。

 アルスとマリナが両片思いなのを知る彼は、ふたりが遂に付き合い始めたのかとも思ったのだが、マリナの睨むような眼差しに軽く手を横に振り、余計な事は言わないとアピールだけしておいた。

「わかった。今日は無理だが明日から手伝おう。アルスに噂を話したのも俺だからな。今日はタカシたちと勉強する方が先約だ」

「ありがとう、カナタ。明日から頼むよ」

 カナタの協力を得たアルスが喜ぶ横で、マリナは怪訝な眼差しを彼に向ける。

「なんでフレシアさんまで? タカシだけ教えるならわかるけど……」

「俺もそのつもりだったんだが、どうしてもと言うからな。不真面目な態度を取るなら容赦なく叩き出してやろうと思って引き受けた。今日で3回目だが、ずっと真剣に教わっている。見た目と反してな」

「フレシアさんはAクラスにあがったところだし、Bクラスに落ちないように必死なのかもしれないね」

 優等生であるアルスたちにとって、真面目な態度は好感を持てる。同じ学園生、同じAクラスとして切磋琢磨できる相手が増えるのは歓迎すべきことだ。

「フレシアさんはタカシのついでだ。俺がタカシの勉強をみようと思ったのも噂の件があったからだしな」

 カナタはタカシに自覚がないだけで、噂の影響を受けている可能性を疑っている。タカシと関わる時間を増やせば万一のとき、直ぐに対応できると監視の意味も込めて彼の勉強を見ることにきめたのである。

 その意図はアルスにも伝わり、彼はカナタにタカシを任せることに決める。

「わかった。ならタカシの事は任せたよ。噂の調査に協力してくれるのは勉強会が無い時によろしくね」

「あぁ。何かあれば直ぐに知らせる」

 精と共に魔力を搾られるのはもっぱら日が暮れてからであり、日中はフレシアの言いつけを守り、タカシはこれまで通りの日常を送っている。

 故にカナタがタカシの異変を感じ取る事が出来る可能性は極めて低いと言える。既にタカシが篭絡済みだと思ってもいないアルスとカナタでは、気が付かないのも仕方のないことだろう。

「マリナ、行こうか」

「えぇ。カナタ、またね」

「あぁ、ふたりともまた明日」

 何処で聞き込みをするか相談しながら歩くアルスとマリナの背をカナタは見送ると図書室にもどった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 その日、日が暮れるまで学園内に残っている生徒にアルスとマリナは噂の聞き込みを行う。噂の出処はわからないままだが、聞き込みの成果はあった。

「……思った以上に噂を知っている生徒は多いな」

「そうね。それに男子より女子の方が聞いた事があるって人が多かったわ」

 アルスとマリナは学園の敷地内にある学生寮への帰り道を並んで歩く。

 アルスたちが話を聞いた生徒たちは、噂について聞かれると、揃って噂は知っているが誰から聞いたからわからない、と答えている。嘘をついているようにも見えず、不可解だった。

「仮に噂通り魔力を奪う方法があったとして、噂が広まるのは良くないはずだ」

「えぇ。バレるリスクは減らしたいはずよ。なのに噂話はかなり広まっている。どうしてかしら」

 その問いに対する答えがアルスは思い浮かばない。夕暮れの中を歩くふたりの間に沈黙がおとずれてしまう。

「……わからない。だけど理由はあるはずだ」

「そうね……。アルスの直感じゃないんだけど、私もこの噂の裏に何かあるんじゃないかって思えてきたわ」

「また明日も聞き込みを続けよう。俺は聞き込み以外の調べる方法も考えてみるよ」

「私も考えてみる……」

 どこか重苦しい空気になってしまい、アルスはその雰囲気を変えようと話題を変えることにした。

「マリナ、夕食の後なんだけど……良かったら寮の共用スペースで勉強しないか?」

「えっ? も、勿論いいわよ……」

 男子寮と女子寮を繋ぐ共用棟があり、学園生の食堂はそこにある。共用棟は夕食のあと夜の8時まで解放されており、勉強スペースもあった。見張りの先生も居る為、日が暮れた後も共用棟なら学園生同士で話すことができるのである。

「ほ、ほら。調査で時間を使っているし! ふたりで勉強すれば捗るかなって! 他意はないよ!」

「わかっているわよ、もう……」

 慌てて弁明するアルスがどうにもおかしくてマリナはつい笑ってしまう。重苦しさも無くなり、それだけで満足して安堵してしまうアルスを見て。

「……アルスのへたれ」

 マリナはアルスに聞こえないほどの小声で呟きながら、寮へと帰る道を歩くのであった。

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