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裏切りの研究者

作者: 吟色
last update 最終更新日: 2025-09-10 07:18:48

地下施設でDr.シュタイナーの裏切りを知った翌日、クロは一人で校舎の屋上にいた。

風が強く、制服が激しくはためいている。

朝の授業は休んでしまったが、とても教室にいる気分ではなかった。

(信用できるのは、仲間だけか……)

政府も、学院も、研究者も。

みんな異常演算者を利用することしか考えていない。

「クロ!」

階段から、カイの声が聞こえた。

「こんなところにいたのか」

「カイ……」

「心配したんだぞ。朝から姿が見えないから」

カイが息を切らしながら近づいてくる。

その後から、サクラたちも現れた。

「みんなで探してたのよ」

ミナが呆れたように言う。

「勝手にいなくなったら心配するでしょ」

「ごめん……」

クロが素直に謝る。

「昨日のこと、気にしてるの?」

サクラが心配そうに聞く。

「Dr.シュタイナーのこと」

「……まあな」

クロが空を見上げる。

「俺たちを騙してたんだと思うと、腹が立って」

フィアが冷静に分析する。

「でも、仕方のない面もある」

「仕方ない?」

「政府からの命令なら、断れないでしょう」

フィアが続ける。

「研究者も、立場がある」

レインも頷く。

「全員が敵じゃない」

「でも……」

ジンが屋上の扉から現れた。

「それでも、用心は必要だ」

「ジン」

「僕も、君と同じことを考えていた」

ジンがクロの隣に立つ。

「信用できるのは、この仲間たちだけ」

「そうだな……」

7人が屋上に集まった時、学院の警報が鳴り響いた。

『緊急事態発生。全生徒は教室に避難してください』

「また……?」

カイが身構える。

しかし、今度は違った。

空から降りてきたのは、オブシディアン機関ではない。

政府の飛行艇だった。

「異常演算管理局……」

ジンが眉をひそめる。

「予定より早い来訪だな」

飛行艇からタラップが降り、ヴァイス局長代理が現れた。

その後ろには、見慣れない顔がある。

白衣を着た、若い女性研究者だった。

「あれは……」

フィアが目を細める。

「Dr.シュタイナーの代わり?」

飛行艇は学院の中庭に着陸し、ヴァイスたちが降りてきた。

屋上からでも、その冷たい雰囲気が伝わってくる。

「まずいな……」

クロが直感的に感じる。

「あいつら、ただの検査じゃない気がする」

《大量の魔術装置を確認。研究機材が搭載されている》

ゼロの分析も不穏だった。

「研究機材?」

《異常演算者の能力測
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