Share

親友だからこそ

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-20 09:00:00

フィールドに立つ二人の姿を見て、観客席は完全に静まり返っていた。

クロもカイも、もはや魔力をほとんど残していない。制服はボロボロに破れ、軽い傷を負い、立っているだけで精一杯の状態だった。

それでも、二人の目には諦めの色がなかった。

「……最後の一撃か」

クロが小さくつぶやく。左手のブレイサーは半分以上が砕け、雷の制御装置もほとんど機能していない。

「ああ。魔法なんて、もう使えねぇ」

カイも同じような状態だった。炎の制御装置は熱で歪み、魔力の流れが不安定になっている。

《両者魔力残量5%以下。装置の損傷により、演算補助機能停止。以降は生身での戦闘》

(生身、か……)

クロは苦笑いを浮かべる。

(結局、最後は拳と拳なんだな)

「なあ、クロ」

カイが口を開く。その声は疲れているが、どこか楽しそうだった。

「昔を思い出すよ。俺たち、魔法が使えない頃は、よく殴り合いの喧嘩してたよな」

その言葉に、クロの脳裏に懐かしい記憶が蘇る。

**入学から半年後、初秋の頃**

夕暮れの訓練場で、魔法の練習に失敗したクロが地面に拳を叩きつけていた。

「くそっ……なんで俺だけ……!」

その時、後ろからカイが現れた。

「よ、クロ。また失敗したのか?」

「……うるさい」

「そんなに落ち込むなよ。魔法なんて使えなくても、強いやつはいるぜ」

カイがそう言うと、クロは振り返って言い返した。

「お前にはわからないよ!お前は最初から上手かったじゃないか!」

「何だと?じゃあ、魔法なしで勝負してみろよ」

「上等だ!」

二人は魔法を一切使わず、素手で殴り合いを始めた。

傍から見れば、子供の喧嘩のようなものだった。しかし、二人は本気だった。

汗だくになり、鼻血を出しながらも、最後まで戦い抜いた。
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 魔道AI〈ゼロ〉と落第生   嵐の後で

    医務室で手当てを受けながら、クロは窓の外を眺めていた。破壊されたフィールド、避難する学生たち、そして慌ただしく動き回る教師陣。学院は騒然としていた。「痛っ……」「我慢しなさい」白衣の医務官が、クロの肩の傷に薬を塗る。「よくこれだけの傷で立ってられたわね」隣のベッドでは、ジンも同じように手当てを受けていた。しかし、彼はいつものように無表情だった。「……お前、全然痛がらないな」クロが呟くと、ジンがちらりと視線を向ける。「慣れているからな」「慣れてるって?」「こういう傷は、昔からよくある」ジンが淡々と答える。その言葉に、クロは何かを感じ取った。(こいつにも、何か過去があるのか……)「クロ!」扉が勢いよく開き、カイが飛び込んできた。「大丈夫か?怪我、ひどくないか?」「うるせぇよ。これくらい平気だ」「嘘つけ、顔真っ青じゃねぇか」カイの後から、サクラたちも入ってきた。「クロくん……」サクラが心配そうに近づく。「本当に大丈夫?」「ああ、心配すんな」ミナが腕を組みながら言う。「それより、あの黒ローブの連中、何だったのよ」「オブシディアン機関……」フィアが静かに答える。「聞いたことのない組織ね」レインも首を振る。「危険な匂いがした」その時、トウヤ先生が入ってきた。「よ、まだ生きてるか?」「先生……あの連中のこと、何か知ってるんですか?」クロの問いに、トウヤは複雑な表情を見せた。「……正直、よくわからん」「でも、何かは知ってるんでしょ?」「昔から、異常演算者を狙う組織がいるって噂はあった」トウヤが椅子に腰をかける。「でも、まさか本当に存在するとは思わなかった」「異常演算者を狙う……なんで?」「さあな。研究材料にするためか、それとも……」トウヤが言いかけて止まる。「それとも?」「……兵器にするためか」その言葉に、場の空気が重くなった。兵器。異常演算者を戦争の道具として使う。考えただけでも恐ろしい話だった。「でも、もう終わったんでしょ?」サクラが不安そうに聞く。「あの人たち、逃げてったし……」トウヤが首を振る。「甘いな。あいつらの目的が本当にデータ収集なら、まだ序の口だ」「序の口?」「異常演算者の力を解析して、人工的に再現する。それが奴らの最終目標だとしたら……」トウヤの

  • 魔道AI〈ゼロ〉と落第生   背中合わせの戦士

    黒いローブを纏った男たちが、破壊されたフィールドを取り囲んでいた。その数、約20名。全員が高度な魔術装備を身につけ、統制の取れた動きを見せている。「オブシディアン機関……」クロが歯を食いしばる。聞いたことのない組織だったが、その殺気と装備から、ただ者ではないことがわかった。「研究所って何だよ……俺たちを実験動物にするつもりか」「そう理解してもらって構わない」先頭の男――指揮官らしき人物が冷静に答える。「異常演算者は貴重なサンプルだ。特に君たち二人は、対照的なタイプで研究価値が高い」ジンが低く呟く。「……僕たちを観察していたというのは本当か」「もちろんだ。君たちの戦闘データは、すべて記録済み」男が不敵に笑う。「『完全制御型』と『感情直結型』……興味深い対比だったよ」その時、クロの脳内でゼロの声が響いた。《外部観測波を多数検出。長期間の監視を確認》(やっぱり見られてたのか……)《さらに問題がある。彼らの装備、異常演算抑制装置を確認》(抑制装置?)《異常演算を封じる技術。包囲されれば、君の力は使えなくなる》クロは冷や汗を流した。満身創痍の上に、異常演算まで封じられたら勝ち目はない。「さあ、大人しく――」男が手を上げかけた時、ジンが口を開いた。「待て」「何だ?」「一つ聞きたい。なぜ今なのか?」ジンの目が鋭くなる。「僕たちが消耗した今を狙ったということは、正面から戦う自信がないということか?」男の表情が一瞬、強張った。「……余計なことを」「やはりそうか」ジンが冷笑する。「異常演算者を研究したいなら、まず僕たちに勝ってからにしろ」「勝負を挑むというのか?満身創痍で?」「満身創痍だろうと、僕は僕だ」ジンが構えを取る。その姿に、クロは少し見直した。(やっぱり、こいつは強いな……プライドの部分で)クロも構えを取った。「俺も同感だ。研究されるくらいなら、戦って散る」「ほう……」男が面白そうに呟く。「では、君たちの実力とやらを確認させてもらおう」男が手を振ると、部下たちが一斉に魔術を発動した。「制圧術式・展開!」「拘束魔法・起動!」「演算封印・発動!」様々な魔術がクロとジンに向かって飛んでくる。「やるぞ、クロ」「ああ、ジン」二人が背中合わせに立った瞬間――「雷閃式・雷帝領域!」「

  • 魔道AI〈ゼロ〉と落第生   異常演算の真価

    両者が荒い息を吐きながら睨み合う中、会場の空気が変わり始めていた。クロとジンの周囲で、空間そのものが歪んでいる。「……何だあれ」「空気が震えてる……」観客席から困惑の声が上がる。特別席では、トウヤ先生が深刻な表情を浮かべていた。「まずいな……」「どういうことですか?」アルヴェン生徒会長の問いに、トウヤが答える。「あの二人、異常演算の領域に入り始めてる」「異常演算……?」「通常の魔術演算を超えた、規格外の力だ」セラ副会長も顔を青くしている。「このままでは、結界システムが……」その時、警告音が学院全体に響き渡った。『警告:演算異常値検出。結界システム負荷限界接近』『全観客は速やかに避難準備を』会場がざわめく中、フィールドではクロとジンが最後の力を振り絞ろうとしていた。「……やっとだな」ジンが呟く。「やっと何が?」「君が本当の異常演算に目覚める時だ」ジンの周囲に、これまでとは次元の違う雷が渦巻き始めた。それはもはや雷ではなく、純粋なエネルギーの塊だった。「これが僕の異常演算――『完全制御型』」空間が歪み、重力が変化する。ジンの足元から半径10メートルの範囲が、完全に彼の支配下に置かれた。「この領域内では、すべての物理法則が僕の意志に従う」クロは身震いした。これが、真の異常演算の力。常識を超越した、神の領域。《警告:相手の演算値、測定不能。これ以上は危険》「危険って言われてもな……」クロが苦笑いする。「ここで引くわけにはいかないだろ」観客席では、カイたちが心配そうに見守っていた。「大丈夫かよ、クロ……」「あの空間の歪み、ヤバすぎる……」カイが拳を握りしめる。「クロ!無理すんな!」しかし、クロはカイの声援に応えるように構えを取った。「みんな……見ててくれ」クロの左手に、これまでで最も強い雷が集まり始める。「俺の本当の力を」その瞬間、クロの周囲でも空間が歪み始めた。青白い雷と金色の雷が混じり合い、まるで生き物のように蠢いている。「君も……異常演算に目覚めるか」ジンが初めて、感嘆の表情を見せた。「君の異常演算は『感情直結型』……感情の高まりと共に無限に出力が上がる」クロの雷が、さらに強くなっていく。しかし、ジンのそれとは質が違った。ジンの異常演算が「支配」なら、クロのそれは「共

  • 魔道AI〈ゼロ〉と落第生   本気と本気

    フィールド中央で、クロとジンが向かい合っていた。先ほどまでの一方的な展開とは、明らかに空気が変わっている。クロの雷は安定し、ジンも初めて真剣な表情を見せていた。「……感情制御ができるようになったか」ジンが静かに呟く。「なら、僕も少し本気を出そう」ジンの周囲に、これまでとは比べ物にならない雷が渦巻き始めた。青白い光が空間を歪ませ、観客席にまで電流が走る。「うわあああ」「何だあの魔力……」「次元が違う……」観客席がざわめく中、クロは冷静にその雷を見つめていた。《出力レベル、従来比400%以上。これが本気の演算》「やっぱり、桁が違うな」クロが苦笑いを浮かべる。「でも――」クロも左手に雷を集中させた。安定した青白い光が、静かに輝く。「俺にも、見せるもんがある」その瞬間、二人が同時に動いた。「雷式・閃雷撃!」「雷閃式・迅雷斬!」二つの雷が空中で激突する。バチバチと火花が散り、衝撃波が観客席まで届いた。「互角……?」「クロの雷が、ジンと拮抗してる……」観客席から驚きの声が上がる。しかし、ジンは冷静だった。「一撃が通った程度で、勝った気になるな」次の瞬間、ジンの姿が消えた。「雷閃式・神速移動」高速移動でクロの周囲を駆け回るジン。残像が複数見える中、どれが本物かわからない。「どこだ……」クロが警戒している時、背後から声がした。「ここだ」振り返った瞬間、ジンの雷拳が迫っていた。「雷閃式・雷神拳」クロは咄嗟に雷で防御したが、衝撃で前方に押し出される。着地と同時に、今度は右側から攻撃が来た。「雷閃式・連続雷撃」ジンが高速移動しながら、連続で雷撃を放ってくる。クロは必死に回避と防御を繰り返すが、徐々に追い詰められていく。「くそっ……速すぎる」《相手の移動パターン、解析困難。不規則性が高い》(パターンがないってことか……)その時、観客席からカイの声が響いた。「クロ!慌てるな!相手をよく見ろ!」カイの声に、クロは少し冷静になった。(そうだ……慌てちゃダメだ)クロは目を閉じ、全身の感覚を研ぎ澄ませた。風の流れ、魔力の残響、わずかな気配の変化。(……見えた)クロが突然動いた。ジンの攻撃が来る直前に、最小限の動きで回避する。「なっ……」ジンが初めて、驚いた表情を見せた。「予測したのか?

  • 魔道AI〈ゼロ〉と落第生   宿命の対決

    準決勝当日。学院講堂には、これまでで最も多くの観客が詰めかけていた。廊下にまで人があふれ、立ち見席も満席。教師陣も全員が特別席に集まっている。「ついに来たな……」「ジン vs クロ……」「学年最強と落第生の戦い」ざわめきが会場全体を包む中、フィールド中央には一人の男が立っていた。ジン・カグラ。完璧に整えられた制服、乱れ一つない髪、そして氷のように冷たい瞳。その佇まいだけで、会場の空気が変わった。静寂。まるで、王が降臨したかのような圧倒的な存在感。観客席の誰もが息を詰め、その姿を見つめていた。そして、対戦相手の入場を待つ。「……クロ、大丈夫?」控室で、カイが心配そうに声をかけた。クロは椅子に座ったまま、じっと手を見つめている。「大丈夫だ」「でも、顔色悪いぞ」「……緊張してるんだよ。当たり前だろ」クロが苦笑いを浮かべる。確かに、緊張していた。ジンとの戦い。学年最強との宿命の対決。これまでで最も大きな壁が、目の前に立ちはだかっている。「クロくん」サクラが静かに近づいてきた。「私たち、みんなクロくんを応援してるよ」「ああ」「だから……自分らしく戦って」その言葉に、クロは少し表情を緩めた。「ありがとう、サクラ」「絶対勝てよ、クロ」ミナが拳を握りしめる。「あんたなら、やれる」「クロ・アーカディア選手、入場準備をお願いします」スタッフの声が控室に響いた。クロは立ち上がり、深く息を吸う。「行ってくる」「おう!」「頑張って!」仲間たちの声援を背に、クロは控室を出た。廊下を歩きながら、ゼロの声が響く。《心拍数上昇。緊張状態》「当たり前だ」《相手は格上。勝率は……》「数字はいらない」クロが歩みを止めずに答える。「今日は、数字じゃ測れない戦いになる」《理解不能》「わからなくていい。俺にもわからないから」入場ゲートが目の前に見えてきた。向こう側からは、観客席のざわめきが聞こえる。(行くぞ……)クロは最後に深呼吸をして、ゲートを潜った。「そして、対戦相手――クロ・アーカディア選手!」アナウンサーの声が響くと同時に、会場が一気に沸いた。「クロ!」「頑張れ!」「落第生の意地を見せろ!」声援と同時に、野次も飛んでくる。「ジンに勝てるわけない」「格が違いすぎる」「瞬殺だろ」ク

  • 魔道AI〈ゼロ〉と落第生   静寂の前の嵐

    準々決勝から三日が経った。学院の医務室で、クロは包帯を巻いた左腕を動かしながら、窓の外を眺めていた。「まだ少し痛みますか?」白衣を着た医務官の女性が、クロの腕の状態を確認する。「いえ、もう大丈夫です」クロは軽く腕を回してみせる。カイとの戦いで負った傷は軽いものだったが、念のため経過観察をしていたのだ。「それでは、明日からの練習も問題ないでしょう。ただし、無理は禁物ですよ」「ありがとうございました」医務室を出ると、廊下でカイが待っていた。右手に包帯を巻き、頬にも小さな絆創膏を貼っている。「よ、クロ。調子はどうだ?」「お前こそ、その手は大丈夫か?」「これくらい、かすり傷だよ」カイが笑いながら手を振る。その表情は、三日前と何も変わらない、いつものカイだった。「準決勝、頑張れよ」「ああ。お前も、観に来てくれるんだろ?」「当たり前だ。一番前の席で応援してやる」二人は並んで廊下を歩く。窓の外では、他の生徒たちが訓練に励んでいるのが見えた。「なあ、クロ」「何だ?」「あの戦い、後悔してないか?」カイが突然、真剣な表情になる。「後悔って?」「俺と本気で戦ったこと。もしかしたら、怪我がもっとひどくて、準決勝に出られなくなってたかもしれないだろ?」その言葉に、クロは立ち止まった。「……後悔なんて、あるわけないだろ」クロは振り返って、カイをまっすぐ見つめる。「あの戦いがあったから、俺は本当の意味で強くなれた。技術じゃない、心の部分で」「心の部分……か」「ああ。お前が俺を認めてくれて、俺もお前を認められた。それが一番大切なことだったんだ」カイの表情が、ほっとしたように緩む。「そっか。なら良かった」「それに」クロが小さく笑う。「お前が怪我させた分は、ジンにお返しするつもりだからな」「はは、それは楽しみだ。でも、無茶するなよ」「わかってる」二人は再び歩き始めた。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――食堂では、いつものメンバーが昼食を取っていた。「クロくん、腕の調子はどう?」サクラが心配そうに尋ねる。「もう全然平気だよ。ありがとう」クロが席に着くと、ミナが呆れたような顔をする。「本当に、男って馬鹿よね。あんなボロボロになるまで戦って」「でも、すごかったです

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status