LOGINその方向を見ると3人掛けくらいのソファに、人が横たわり、気怠そうにじっとこちらを見ている…。
透けるような青み掛かった白い肌に、黒く艶やかな長い髪。凛とした瞳に、妖艶な朱の唇が印象的だった。 薄い身体に、赤地に大きな花模様の美しい着物を着崩し、鎖骨から肩までが露《あらわ》になっていた。 息を飲む美しさだった。 「と、智也くん、いるっっ…」 ボクは智也くんの袖を引っ張った。 智也くんが声を出す前に、人形のように整った顔立ちの少年が先に口を開いた。 「いらっしゃい…。ふーん、二人とも、いい男ね…」 声はどこか冷たく、値踏みをするように視線をゆっくり上から下にした。 そして、まるで無重力のようにふんわりと動き出し、影山さんの肩に後ろから抱きついた。 その*** 帰りは来た道とは逆の本堂を横切り、表門へ歩いた。 夜のお寺はやっぱりちょっと怖く、気味悪く感じた。しかし、ついさっきまで本物の幽霊と会っていたと思うと何が怖くて、何が不気味なのかという気もしてくる…。 何より、自分自身が幽霊なのを棚に上げ過ぎているのだから、少し笑えてもくる。 「なんだか随分あてられちゃったね。それにしても、涼くん綺麗だったな。なのに、影山さんの前だと可愛くなっちゃって!」 「確かに可愛かったな。性格はなかなかだけどな。…オレもあんくらい可愛かったら良かったよな?」 チラッとボクを見た。 「今のままの智也くんがボクはいいけど。それに、ボクの腕の中では充分可愛いよ」 「…お、そっか、ならいいか」 「あ、照れちゃってカワイ♡」 「素で言われるとな」 智也くんはふふっと笑うと、真面目な顔になった。 「…なぁトラ、会って良かったよな」 「うん、会って良かったよ」 「トラがずっと気にしてる『曖昧な境界』ってヤツはさ、オレたちに当てはまるとも思えないぜ。あの子はさ、影山くんが早く死ぬことさえ望んでる。でもトラは違うだろ。たぶん、それぞれの形があるんじゃないのか」 「そうかもしれないね。…でも、影山さんも涼くんが消えないように守ると言っていたけれど、幽霊の方が存在が脆いのは確かだと思うよ。涼くんはきっと影山さんと魂としてただ一つになりたいのだと思う。でもね、ボクは、智也くんとずっと一緒にいたい。隣で笑っていたい」 「…トラ…。そうすればいい、オレたちは」
そうだ。ずっとボクは、その境界とやらを超えてしまったら、智也くんに何かあるんじゃないかと勝手に心配していた。 違う──。 存在が消えてしまう可能性が高いのは智也くんじゃなくてきっとボクだ…。 幽霊なんていう元々曖昧な存在なんだ。生きている人間なんかよりずっと脆い存在だ…。 でもボクは、智也くんの魂に溶けて混ざって消えてしまっても、悔いは無いかもしれない。 きっとボクは智也くんの心に残る。 それは智也くんの心の中で生き続けるということだ。 それって、死んだ人間にとっては最高なことなんじゃないだろうか──。 そう思うと、不思議と少しだけ心が晴れた。 「トラ、こんなの感覚だけの話だ。何が正しいかなんてわからない。だろ、トラ!」 「……ボクは、智也くんとならいいよ…」 「バカトラ!そこはアイツくらい執着しろ!」 スパンと頭を叩かれた。 「ふはっ!頭はたかれてる〜!…アタシはね、幽霊なら幽霊同士、魂なら魂同士、同じ者として交わりたい。今のこのすっかり幽霊になってしまったアタシが、生きた肉体を持った尚紀に抱かれても、昔々肉体のあった頃に抱かれた時に感じたのとは違う。きっと尚紀だって違うはず。アンタみたいに、まだ人間に近ければ、そんな虚しさが過《よ》ぎることはないのかもね…」 ボクはなんて言っていいかわからなかった。涼くんの長かった時間を考えたら、慰めの言葉なんてどれも陳腐だと思った。 「ねぇ、そんなこと話してたら、なーくん欲しくなっちゃったよん」 そう言って影山さんのシャツのボタンを上
「ここまでちゃんと、見えたり認識出来るとは思ってなかったよ」 「人間とお付き合いしてる幽霊がボクだけじゃないのも、少しほっとします」 「アタシはアンタたちなんてどうでもよかった。なーくんしか興味ないから。ね、なーくん、早くアタシと同じ世界に来て欲しいなぁ」 「それはいつも言ってるけれど、数十年待って欲しい」 影山さんは困ったように伝えた。 「あの、涼さん、影山さんに早く死んで欲しいんですか?」 ボクは堪らず聞いてみた。 「そりぁそう。こんな中途半端から解放される。いつでもずっと一緒よ?天国なら全て叶う。ただ魂を重ねて一つにだってなれる」 「そ、それは本当に影山さんのこと好きなんですか?ボクは智也くんが自然に一生を終えるのを待ちますよ」 「…フンッ。そんなの綺麗ごとだわ。アタシがどれだけ彼と出逢えることを待ち望んでいたかも知らないくせに…。殺したいくらい愛しているわ」 一瞬背筋がゾクッとした。 「涼、その気持ちは嬉しいよ。僕が死ぬまで、君が消えてしまわないように守るからね」 「それって『境界が曖昧になる』と関係あんのか?」 ボクが言おうとしたことを、先に智也くんが切り込んで聞いた。 「僕たちも全てを理解してる訳ではないです。でも、涼と僕の魂が一つになろうとしてしまう感覚があるんです。たぶん、それを全て受け入れてしまったら、幽霊である涼の存在は消えてしまう…。それだけはしないと、心の中で境界を意識しています」 「じゃぁ、本当にその境界があるかはわからないってことだよな?
「コソコソ話しても聞こえてるわよ!幽霊だって千差万別よ。それに、アンタはまだ幽霊としては若い方、まるで生きてるみたいに人間に近いのよ。アタシは幽霊歴三百年くらいはあるからね。そりゃ幽霊らしくもなるわ」 「だからそんな着物着てんのか。影山くん、君の彼氏色気あり過ぎだろ。色情霊っていうの?」 「涼は色情霊とも少し違うかな…。色気は生前から持ってたと思われます…」 影山さんは少し歯切れの悪い言い方だった。 「アタシのこと「色情霊」とか、そこの男らしい猫ちゃんは、デリカシーが無いのね。アタシ、生前はモテたのよ。蝶よ花よってね…」 憂いを帯びた表情で俯いた。濡れたように黒く長い睫毛だけでも、見蕩れてしまう妖艶な美しさがあった。 「おいおい猫ちゃんって初めましてでオレの何がわかるってんだよ」 「そんなの会った瞬間にわかるわよ。同属だわって。それに、そんな真面目そうないい男…ワンコ攻めと言った感じね」 「ボ、ボク、ワ、ワンコ攻め!?」 「普段は優しく従順なのに、きっと夜は別人みたいに激しく攻めるタイプね」 「え、えぇ〜っ!」 ボクは反論出来ず、驚くしかなかった。 そこに智也くんが割って入った。 「ちょっと君さ、さっきからやけに現代のこと知ってるよね?『デリカシー』とか『ワンコ攻め』なんて言葉さ。ホントに300年も前の人なんか?」 「幽霊にだって、知識を付けることくらい出来るのよ。『ワンコ攻め』はそこの本棚に沢山ある、男同士の恋愛漫画からね。ボーイスラブっていうやつ」 「あぁ、涼…。僕の趣味までバラすなんて…」 影山さんはショックを受けたように両手で顔を覆った。 「影山くん、この前はいきなり同性愛をカミングアウトしたと思ったら、今日は予期せぬ腐男子アウティング。同情するぜ、ワッハッハッ」 「智也くん、またデリカシーないって言われるよ!」 「わりぃ、わりぃ!でもな、幽霊彼氏持ちで集まってる時点で、そんなこと霞むだろ。オレもたまにBLマンガ読むしな。恥ずかしいうちになんて入らないよ」 「そ、そうですよね。…今日の主題としては、この珍しい者同士で集うことですしね」
「初めまして、影山尚紀《かげやまなおき》です。…いや、お会いしたのは3回目ですね」 「は、初めまして…。ボク庄司虎泰《しょうじとらやす》です。急にボクのこと見えるようになったんですね…」 「いや、ホントにそうだわ。オレはオレで、そこの儚げ美少年見えるぜ」 涼くんは「美少年」という言葉にフフンと口角を上げた。 「ここでは僕は、霊感のスイッチを入れてるんです。僕の力が西口さんの力を増幅させて、涼が見えるんだと思います」 「影山くんすげぇな。マンガみてぇだな。オレも影山くんのパワー浴びて、覚醒したりしてな!」 ボクと智也くんが影山さんに話しかける度に涼くんは不機嫌そうな顔をした。 「…う〜ん、なーくん!…なーくんの瞳に写していいのはアタシだけ」 「わかってるよ。不安なんだね。ここは涼だけの場所だよ」 2人が話している時、その場だけ薄暗さが増す、そんな感じがする。 「あの子、ずっとベッタリくっついてんな」 「本当だね…。ボクなんて比にならないかも…。あれこそ『憑いてる』って言うんじゃないかな…」 「だな。話す度に2人して目の色も声色も変わってる気がするぜ」 「誰も寄せ付けないそんなオーラを感じるよね…」 「幽霊らしさあるよな?基本浮いてるし。重力を感じないよな」 「うん、ボクが特殊な気がしてきた…」 二人の世界に閉じたような影山さんと涼くんを見ながら、ヒソヒソと智也くんと話していた。
その方向を見ると3人掛けくらいのソファに、人が横たわり、気怠そうにじっとこちらを見ている…。 透けるような青み掛かった白い肌に、黒く艶やかな長い髪。凛とした瞳に、妖艶な朱の唇が印象的だった。 薄い身体に、赤地に大きな花模様の美しい着物を着崩し、鎖骨から肩までが露《あらわ》になっていた。 息を飲む美しさだった。 「と、智也くん、いるっっ…」 ボクは智也くんの袖を引っ張った。 智也くんが声を出す前に、人形のように整った顔立ちの少年が先に口を開いた。 「いらっしゃい…。ふーん、二人とも、いい男ね…」 声はどこか冷たく、値踏みをするように視線をゆっくり上から下にした。 そして、まるで無重力のようにふんわりと動き出し、影山さんの肩に後ろから抱きついた。 その人は小柄で、180cm以上ある影山さんにぶら下がっている。 「なーくんお帰り…。アタシを一人にするなんて酷いよぉ…」 急に目をくるりと潤ませ、甘く可愛い声色になった。 「一人って、ほんの数分だろう、涼《すず》」 2人は影山さんの肩越しの至近距離で話している。 「嫌なものはイヤ」 影山さんの顔をぐいっと掴み、食べてしまうかのようなねっとりした口づけをした。 ボクも智也くんもその熱い口づけを呆気にとられたまま見入ってしまった。 「あぁ、こら涼《すず》。人前で…」 影山さんは注意しつつも、愛おしそうに"すず"の頬を撫でた。 「…なかなかの強者出てきた







